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つくば-秋葉原で「二足歩行ロボット出前授業」が実施

~ネットワークを使いロボットを遠隔操作

【写真1】ロボット出前授業の会場となった「つくばリサーチセンタ-」。超高速・高機能ネットワーク「JGN II」などを研究している
 2月21日、つくばリサーチセンタ-において、二足歩行ロボットを利用した出前授業が実施された【写真1】。主催はつくば市、独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)、茨城県立つくば工科高校。本企画は、TX開業イベントの一環として行なわれたもので、科学に対する興味を抱いてもらうことを目的としている。

 つくばリサーチセンターと秋葉原ダイビル間を超高速ネットワーク「JGN II」で接続し、秋葉原会場の児童に対して、遠隔授業が行なわれた。講師は、つくば工科高等学校の学生たちが担当し、千代田区児童クラブ「いずみこどもプラザ」の小学生たちが授業を受けた【写真2】。

 今回の出前授業は、一般に広く用いられているテレビ会議の中継システムではない点が大きなポイントだ。この授業では「ミラーインターフェイス」と呼ばれる新技術が利用されている。これは、つくば市とNICTが共同で研究を進めている次世代遠隔対話システム。遠隔地からのロボット操作や、遠くにいる人同士が、あたかもその場に居合わせているかのような感覚を実感できるようになっている【写真3】【動画1】。


【写真2】筑波会場の模様。準備OK、カメラの前に立つ、つくば工科高校 情報技術研究部の学生たち。現在15名ほどの部員が在籍しており、ロボットのほか、マイコンカーなども研究しているそうだ 【写真3】ミラーインターフェイスによる映像表示。つくば会場の学生と、秋葉原会場の児童たちの映像が融合したかたちで表示されている 【動画1】ミラーインターフェイスによる学生のプレゼンテーション。地図や会議資料などを映し出して、双方で指差しできたり、画面上のアイコンで遠隔操作が行える

 通常のネット会議システムでは、ビクチャ・イン・ピクチャ機能によって、映像が小さなサブウィンドウとして表示される。一方、ミラーインターフェイスを利用した場合は、双方の映像が融合されて、一体化して表示できる。相手側の映像と自分の映像を半透明にして合成することで、新しい共有空間を作り出せるのだ。従来の映像では相手や対象物を指差すことはできなかったが、このインターフェイスを利用すれば、同じひとつのシームレスな共有空間の中で、「これ」、「それ」、「あれ」、「どれ」といった「こそあど言葉」によって指示できるようになる。

 また、映っている自分の手で画面上のアイコンにタッチすることで、さまざまなイベントを発生させ、機器を操作することが可能だ。たとえば、ロボット系システムなどにロボットのアクションコマンドを渡すことで、遠隔地からロボットを操作できるようになる。

 画面から離れてアイコンをタッチする手法は、あらかじめ登録しておいた色を追跡して、それをマウス代わりに利用することで実現している。操作位置を画像認識技術によって認識するため、ユーザーは任意の色の付いたマーカを持つ必要があるが、現在マーカレス化の手法も検討中だという。

 ミラーインターフェイスでは、映像データをJEPG形式で送る。画像を25fpsほどでネットワーク経由で転送し、映像にするかたちだ。MPEG形式のほうがキレイで圧縮率も高いが、JEPG形式を利用しているのには理由がある。前述のように、フレーム単位で色を認識する必要があるため、時間的な差分デ-タから映像をつくるMPEGでリアルタイムに処理しようとすると、逆に大変な作業になってしまうからだという。

 いまのところ、このミラーインターフェイスは双方向版のシステムで実験が行なわれているが、「今後は多地点化のための技術も検討していく。ミラーインターフェイスは任意の背景で実物を使った共有空間で作業できるため、いろいろなアプリケーションでの応用が利く。あと1年ぐらい実証実験を行なって、実用化へのめどをつけたい」(NICT研究員)と説明する。


ロボットを利用した楽しいデモとゲームで、児童も大喜び

【写真4】つくば工科高校の学生が製作した二足歩行ロボット。近藤科学のKHRシリーズなどをべースにしているが、サーボモータを高トルク仕様に変更したり、頭部にLEDを取り付けて光らせたり工夫を凝らしていた
 さて、今回の授業についてだが、つくば工科高校の学生が製作した二足歩行ロボットが教材として用いられた。利用したロボットは、近藤科学のヒューマノイドロボット「KHRシリーズ」などをべースにしているが、サーボモータを高トルク仕様に変更したり、頭部にLEDを取り付けて光らせたりと、さまざまな工夫を凝らしていた【写真4】。

 ロボットの実演はもちろん、秋葉原会場からの遠隔操作によって、サッカーPK合戦や旗振りゲーム、玉入れゲームなどの楽しい催しも行なわれた。

 サッカーPK合戦では、児童たちが映像上にあるアイコンに色の付いたマーカーを持って行きタッチすると、ネットワークを介してコマンドが送信され、つくば会場のロボットがアクションを起こすようになっていた【写真5】【写真6】【動画2】。児童はこの手の操作がとても上手で、機敏にボールを阻止していた。「とても簡単に操作できた」、「楽しいかった」という感想も寄せられた。


【写真5】サッカーPK合戦の始まり。写真はつくば会場のリアルなロボットたち。これを秋葉原会場の児童が遠隔で操作する 【写真6】ミラーインターフェイスを利用すると、写真のように学生と子供たちがまるで一緒の空間にいるように見える。秋葉原会場にいる児童たちがミラーインターフェイスのアイコン(画面左右にあるアイコン)にタッチすると、ロボットがアクションを起こす 【動画2】サッカーPK合戦の模様。ゴールに向かってキックしたボールを見事にキャッチしている。子供たちはこの手の操作がとてもうまい!

 次に行なわれたのは、二足歩行ロボットによる旗振りゲーム。つくば会場の学生がロボットを操作し、秋葉原会場の児童と対決【写真7】【動画3】。こちらのゲームでも、やはり児童が勝利をつかんでいた。

 また、ロボットハンドによる玉入れゲームも行なわれた。つくば会場の学生がロボット自体の動きを制御し、秋葉原会場の小学生がハンド部の開閉をさせる共同参加のゲームだ【写真8】【写真9】【動画4】【動画5】。


【写真7】二足歩行ロボットによる旗振りゲーム。映像に移っている児童と、つくば会場にあるロボットの対決 【動画3】旗振りゲームの模様。こちらのゲームも児童のほうが勝ってしまった。やはり子供の俊敏さにはロボット(高校生)も勝てない?

【写真8】玉入れゲーム。つくば会場の写真。自作のロボットハンドでボールを取って玉を入れる。2台のロボットハンドがあるが、後方のロボットアームを動かすと、前方のロボットが同期して動く。つくば側の学生がこれを操作。ハンド部の開閉は秋葉原側の児童が行なう 【写真9】ミラーインターフェイスによる映像。2人の児童がペアになってロボットハンドの開閉操作を行っていた

【動画4】玉入れゲームの模様。意外に面白そうなゲーム。UFOキャッチャーのネットワーク版といった感じ!? 【動画5】二足歩行ロボットによる徒競走の模様。正確には1台は側転しているので、徒競走ではないが、楽しいデモンストレーションだ

 このゲームでは2台のロボットハンドが用意されており、1台のロボットアームを動かすと、もう一方のアームが同期して動くようになっている。ロボットの関節部に可変ボリュームをつけ、アームの位置を電圧の変化として検出する。その信号を、もう一方のロボットのコントロールボードに送ることによってサーボモータを動かして同期を取る仕組みだ。

 学生は、片側のロボットアームを動かして、ボールを取るほうのロボットアームを操作する。子供たちはミラーインターフェース越しにロボットハンドを遠隔操作して開閉する。画面上のアイコンにタッチするとイベントが発生し、ネットワーク経由でコマンドが送られる点はサッカーPK合戦ゲームと同様だ。ただし、このコマンドデータは、つくば会場の赤外線リモコンを経由して、ロボットハンドのコントロールボード側に送られる。コントロールボードは赤外線受信回路を装備しており、コマンドを受信すると、リレー回路のオンオフでハンド部を開閉する仕組みになっている。

 このロボットハンドは、つくば工科高等学校の学生たちが自作したもの。コントロールボードはH8/300シリーズ搭載の市販品を利用している。これは秋葉原の秋月通商で購入したものだという。また、ソフトウェア開発にはベストテクノロジーのフリーソフト「GCC DEVELOPERS LITE」(略してGDL)を使用し、C言語でプログラムを組んでいるそうだ。


【写真10】自作のロボットハンドのハンド部。サーボモータは近藤科学の製品を利用している 【写真11】ロボットハンドの関節部に付いている可変抵抗器(ボリューム)。角度が変わると抵抗値も変化する。この際の電圧を検出し、もう一方のロボットハンドのコントロールボードに送る 【写真12】ロボットハンド用のコントロールボード。H8が搭載されている。秋葉原の秋月通商で購入したものだという

【写真13】もう一方のロボットハンドのコントロールボード。赤外線受信回路を装備しており、コマンドを受信すると、リレー回路のオンオフでハンド部を開閉する 【写真14】市販の赤外線リモコン。秋葉原側から送られてきたコマンドデータを赤外線リモコンからコントロールボード側に伝える役割り

【写真15】茨城県立つくば工科高等学校の正影裕昭氏。情報系の授業を担当。情報技術研究部を指導する
 今回の出張授業で司会進行を務めた鈴木君は、「とてもやりがいがあった。いままでもロボットの出前講座を何回かやっていたが、このような形で授業をしたのは初めて。教える側も新鮮な気持ちだった。まるで間近に子供たちがいるような感覚で、秋葉原までの60kmという距離をまったく感じなかった」と、授業の感想について語った。

 また、このクラブを指導する同校の正影裕昭教諭は、出張授業の成果について次のように語る。「以前から生徒たちは、インターネットを利用した遠隔ロボットの実験をやりたがっていたので、実現できて大変うれしい。人前で話すロボット出張授業は、とても生徒の勉強になると考えている。競技会以外の場で自作ロボットを披露すると、子供たちがすごく喜んでくれるので、生徒たちも自信がつき、さらに良いロボットをつくりたいという意欲につながっているようだ」。

 物心ついたときからデジタル技術に触れているデジタルネイティブな世代が、さらに若い子供たちにロボット技術を教える意味はとても大きいように感じられる。現在のロボット技術者が鉄腕アトムなどのアニメで育ってきたように、あと十数年後にはリアルな「ロボティクスネイティブ世代」が普通に登場しているのかもしれない。


URL
  つくば工科高等学校 情報技術研究部
  http://www.tsukubakoka-h.ed.jp/seitokai/bukatu/jyouhougijyutsu/index.htm
  独立行政法人情報通信研究機構(NICT)
  http://www.nict.go.jp/
  ミラーインターフェイス
  http://www.ntt-tec.jp/technology/A615.html


( 井上猛雄 )
2007/02/22 18:07

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