2月21日、九州大学、金沢工業大学、金沢星稜大学、北九州市立大学、新コスモス電機株式会社、株式会社テムザック、北九州消防局は共同で、火災を初期段階で発見できる高感度匂いセンサ搭載警備ロボットの公開実証実験を行なった。
公開実験は九州大学箱崎キャンパスで行なわれた。このロボットならびにセンサーは、消防防災科学技術の振興を目的とした消防庁防災科学技術研究推進制度に公募した「分子認識による超高感度火災検知センサの開発」(平成16~18年度)によって研究開発が進められたもの。煙や炎が上がる前に異臭とガスをキャッチして火災の予兆を捉えることを目的としている。
プロジェクト最終年度である今年は、開発した高感度センサーと診断プログラムを巡回警備ロボットに搭載することで、火災を未然に防ぐセキュリティシステムの有効性実験を行なっていく予定だという。
センサーを搭載したロボットは、ロボットベンチャー会社として知られるテムザックの開発した屋内用車輪型移動ロボット「T2-4」。高さ112cm、幅58cm、奥行き74cm。重量60kg。無線LANでモニタリングできる。自律移動のほか遠隔操縦も可能。運用速度は時速およそ1.6km以下、最大速度は時速およそ3km。リチウムイオン電池を内蔵し、最大約8時間動くことができる。
「T2-4」は、テムザックがこれまで受付案内用の標準機として開発してきたロボットだ。今回はそれに匂いセンサー、放射温度センサー、炎センサーなどを搭載し、火災検知用巡回警備ロボットとした。
頭部に搭載された、パン・チルト可能な監視カメラの両脇に、人間で言えば鼻となる匂い源を吸収・排出する吸引ファンと匂いセンサー、胴体中央に炎センサー(紫外線センサー)と温度センサーを持つ。吸引ファンは人間が鼻をくんくんして嗅ぐときのように空気を吸い込み、同時に、センサー部分を元の状態に戻すために、匂いを飛ばす役割を果たす。匂いセンサーが2つある理由は、将来的には匂い源の方向を検知することを目指したいからだという。背面には赤い「異常お知らせランプ」が設置されている。
公開されたデモでは“にんにく”、“香水”、“タバコ”、“無臭”と4つの匂いが設定された部屋を「T2-4」が自律移動しながらチェック。センサーが匂いを検知して動作するところを見せた。
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高感度匂いセンサ搭載巡回警備ロボット「T2-4」。横に立つのは九州大学・都甲教授
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ロボットの概要
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ロボットに取り付けられている匂いセンサー
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匂いセンサーと吸引ファンは頭部の両脇に2つ付けられている
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胴体には炎センサー、温度センサーなどを装備
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背中の異常お知らせランプ
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ロボットの遠隔操縦装置
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【動画】4つの部屋をチェックしながら廊下を進む「T2-4」
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それぞれの部屋にはニンニクや香水など匂いを発生するものが置かれている
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【動画】遠隔モニターの様子。匂いをキャッチするとセンサーに反応が出てアラートがなる
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【動画】タバコの消し忘れのある部屋に入ってアラートを鳴らす
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【動画】ロボットからのアラートで警備員が駆けつける
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九州大学大学院システム情報科学研究院システム生命科学府教授 都甲潔氏
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プロジェクト遂行と総括、ならびに高感度焦げ臭センサの開発は、九州大学大学院システム情報科学研究院システム生命科学府教授の都甲潔氏らが務めた。火災検知ガスセンサシステムならびに匂い源探知ロボット開発は金沢工業大学教授の南戸秀仁氏。金沢星陵大学の大藪多可志氏らは匂いの伝播測定、室内環境モニタリング、北九州市立大学の李丞祐 氏らは高機能センサ表面、半導体火災ガスセンサーの開発は新コスモス電機、北九州消防局はセンサによる火災モニタリングに関する調査をそれぞれ担当した。
九州大学は味覚センサと超高感度匂いセンサーを世界に先駆けて開発している。また、新コスモス電機はガスセンサで有数の実用化・販売実績を持っており、今回のロボットは、新コスモス電機が既に開発していたセンサーを4種類取り付けて、にんにくの匂いや香水の匂い、タバコのにおいなどを嗅ぎ分ける物となっている。
プロジェクトリーダーを務める都甲教授は「バイオ、ナノテク、ICT、それを感性で繋ぐ『いいとこどり』の研究を行なっている」と自身の研究内容を紹介した。都甲教授が開発した味覚センサーはベンチャー会社から販売もされている。「オンリーワンのセンサー技術を使い、始めての研究メンバーですばらしい研究ができたと思っている」と述べた。
都甲教授は、これまでにない技術を生み出すことを目指したという。研究の方向は大きく分けて2つ。1つは世界に誇れるガスセンサーを作ることを目指す基礎研究。もう1つは実用に近いロボットの開発だ。「現時点で世界一のガスセンサーを使って、現時点の最高峰の技術を集めた。一年以内にもっとよいセンサーを作る。それをテムザックのロボットにつけることで、人間が匂いに気づかない段階でも警告できるようなロボットを生み出したい」という。
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匂いセンサ+ロボットのシステム概要
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研究実施体制
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都甲教授らが開発した味認識装置
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株式会社テムザック代表取締役・高本陽一氏
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テムザックの高本社長は、「これまでの火災報知器は燃えている段階の検知。それ以前の『焦げ臭い』段階で検知することを目指した」と述べた。現在のロボットは、それぞれ感度の違う4種類のセンサーを組み合わせることで、さまざまな匂いのなかから火災の匂いを検知しようとしている。また、物が燃焼すると、それぞれ違う匂いが発生する。その匂いをそれぞれ嗅ぎ分けることで、将来的には何が燃えているか判別できるようにもしていきたいという。
全体の開発費用は3年間で6,000万円。今後、匂いセンサのチャンネルを増やし、感度を上げる。金沢工業大学工学部機械系ロボティクス学科教授の南戸秀仁氏によれば、どの程度のチャンネル数が必要になるかは用途次第だが、進歩すれば嗅ぎ間違いは生じないようになるという。発生するガスのなかには軽いために上昇するようなものもある。それについては固定式のセンサーを壁や天井に組み込んでロボットと協調させることで対応するシステムを想定しているという。
■URL
九州大学 都甲・林研究室
http://ultrabio.ed.kyushu-u.ac.jp/
テムザック
http://www.tmsuk.co.jp/
金沢工業大学・ロボティクス学科
http://www.kitnet.jp/subject/robo.shtml
新コスモス電機株式会社
http://www.new-cosmos.co.jp/
( 森山和道 )
2007/02/22 00:01
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