● 全国から相撲ロボットの精鋭が集結!
12月17日、東京の両国国技館において、「第18回全日本ロボット相撲大会」が開催された。このイベントはロボットづくりを通じて「ものづくり」の楽しさを知ってもらうために、富士ソフトが'90年より開催している由緒あるロボット競技会だ。1,500機を超えるロボットの中から全国9ブロックの予選で勝ちあがった代表たちが、リアルな相撲の聖地・国技館に集結し、第18代ロボット横綱を目指して熱い戦いを繰り広げた【写真1】【写真2】。
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【写真1】相撲の聖地・両国国技館に、全国から勝ちあがってきた代表128機が集結。熱い戦いを繰り広げた
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【写真2】全国代表の入場行進の様子。全国9ブロックの代表がきらびやかな照明や映像に包まれて登場した
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取り組み前のオープニングセレモニーは「機械(ハイテク)じかけのガチンコ勝負」をテーマに、きらびやかな照明や映像に加え、和太鼓による迫力ある演出が披露された【写真3】。これから始まる激闘を暗示するかのようであった。続いて本大会の委員長である野澤宏氏(富士ソフト代表取締役会長兼社長)や、文部科学省初等中等教育局参事官の嶋貫和男氏が挨拶。「若者のもの作り離れが進んでいる。工業立国である日本を支える皆さんに、ぜひとも頑張ってもらいたい」(嶋貫氏)と激励した【写真4】【写真5】。
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【写真3】オープニングセレモニーの和太鼓による演出は大迫力。力強い太鼓の響きは、これから始まる激闘を予感させるものだった
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【写真4】全日本ロボット相撲大会の委員長である野澤宏氏(富士ソフト代表取締役会長兼社長)。富士ソフトは主催者として。ロボット相撲の普及に尽力してきた
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【写真5】文部科学省初等中等教育局参事官の嶋貫和男氏。本大会を文部科学省もバックアップしている
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大会の競技には、プロポ(コントローラ)によってロボットを遠隔操作する「ラジコン型」【写真6】と、CPUやセンサを搭載し、プログラムで自動的に動く「自律型」【写真7】の2種目が用意されている。各種目とも全国から地区予選を勝ち抜いた精鋭たち64人が出場し、トーナメント方式で優勝を争った。
土俵エリアは直径154cmで、大相撲の土俵の3分の1ほどのサイズになっている。土俵は合計4つあり、同時進行でラジコン型と自律型の試合が行なわれた【写真8】。ロボット本体の一部が相手より先に土俵外の地面に着いたら負けになるルールだ(ただし土俵上で倒れてもOK)【写真9】。
3分間で2本を先取したほうが勝ちで、時間切れの場合は1本取ったほうが勝者となる。引き分けの場合は、公認の第一審判員が判定、もしくは延長戦で勝敗を決定する【写真10】。ロボットのサイズは、ラジコン・自律型ともに、幅と奥行きが20cm以内、高さは自由だ。また3kg級のため、重量はその範囲内におさめる必要がある。
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【写真6】プロポ(コントローラ)よって遠隔操作する「ラジコン型」のロボット。ロボットをマニュアルで操作するため、普段からの練習量がものをいう
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【写真7】CPUやセンサを搭載し、プログラムで動く「自律型」のロボット。市販パーツだけでなく、パフォーマンスを発揮させるために、いちから製作したものが多い
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【写真8】土俵は合計4つあり、ラジコン型と自律型の試合が2試合ずつ同時進行で行なわれる
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【写真9】見事な投げを放つロボット。こういった迫力あるぶつかり合いも相撲ロボットならではのものだろう
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【写真10】互角の力を持つロボットでは、なかなか結果が出ないこともある。その場合は、審判がロボットの動きのよさなどを見て、総合的な判定を下す
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ラジコン型はロボットをマニュアルで人間が操作するため、普段からの練習量がものをいう。そういう意味では、社会人よりも時間を取れる学生のほうが熟練度が高く有利といえるだろう。自律型は、外界の状況をセンサで判断してロボット自身が戦うため、ハードウェアはもちろんのこと、ソフトウェアの開発も重要なポイントとなる。マイコンにはルネサステクノロジ(日立製作所)の「H8シリーズ」のような組み込みタイプが用いられているという。
本大会は今回で18回目となるが、何年も続けて代表として勝ち上がってくる古豪も多い。たとえば田村科学研究所は、ここ4年間常にベスト4に入っている強豪チームとして知られている【写真11】。昨年も田村チームは圧倒的な強さを見せつけ優勝を果たしている。「今年は駆動系のパワーをアップし、ギアも自分で一から作り直した」という。
また、三重県の四日市中央工業高校や香川県の三豊工業高校のように、毎年多数のロボットを送り込んでくる若い世代の活躍も目立つ。自律型で初めて小学生の女子が進出を果たしたり、女性のエントリーもいくつかあった【写真12】【動画1】。
このように若い世代が奮闘する一方で、年配者も頑張っている。「年金生活1号」というユニークな名称のロボットは、今年で9年目の出場になるという【写真13】【動画2】。製作者は「いつの間にかそういう歳になってしまった」と笑う。
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【写真11】田村科学研究所は、ここ4年間常にベスト4に入っている強豪チームだ。打倒田村を目指して出場するチームも多いという
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【写真12】近年は女性の進出も目立つようになってきたという。自律型で最年少の出場を果たした梶原瑠奈さん。三重大学教育学部付属小学校の3年生だ
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【動画1】梶原さんのロボット「ルナピョン」。両方の長い腕を広げて、相手のロボットを腕で囲いこみながらひっくり返すしくみは秀逸だ
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【写真13】こちらも女性のエントリー。強豪、田村科学技術研究所チームのTMR-GO。日の丸の旗を掲げる相手は「年金生活1号」というユニークな名称のロボット
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【動画2】「年金生活1号」の動き。相手のロボットと比べて、動作はゆっくりしているものの、トルク重視でパワーが強く、安定感がある
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改良を加えられたロボットは、年を追うごとに性能がアップしており、技術も成熟してきている。モータを変更してパワーアップを図り、いわゆる「押し出し」に徹したものや、ブレード部を変更できるように改造したもの、羽を伸ばして相手のロボットの動きをかく乱させるもの(センサが羽に反応したしまう)など、さまざまな創意工夫が凝らされていた【写真14】【動画3】。
今年の大きな特徴は、ロボットの駆動系の制御方法がトルク型と速度型に大きく分かれたことだ。トルク型は動作が遅いがパワーがあるため、粘り腰!? のガチンコ勝負ができる。こちらは自律型ロボットに多く採用されていたようだ【動画4】。一方、速度型のほうは力があまり出ないが、そのぶん機動性に優れており、素早い動作で勝負を挑める。こちらの方式は主にラジコン型で多く採用されていたようだ【動画5】。
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【写真14】ロボットの動きをかく乱させるロボット。羽の先端には白い旗が付いている。これが相手のセンサを反応させるしくみだ
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【動画3】相撲ロボットは力技だけではなく、さまざまな創意工夫が凝らされていた。羽を伸ばして相手をかく乱させながら、予想以上に素早い動きで勝負をかける
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【動画4】トルク型ロボットの粘り腰で、じりじりと相手を土俵際まで追い詰める。自律型ロボットに多く見られるタフネスタイプだ
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【動画5】ラジコン型は素早い動作で勝負するため、操作の習熟度が大きなポイントになる。うまくコントロールできないと、土俵に落ちて自滅してしまうこともあるので注意が必要
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● まさにガチンコ勝負! 煙を噴くロボットと土俵の傷あとが激闘を物語る
優勝までの道のりは長い。たとえ全国代表に選ばれたとしても、トーナメント方式で6回戦まで勝ち上がらなければならない。激しいぶつかり合いもあるので、その間にメカやCPUボードなどが損傷したりすることもある。上位に進めば進むほど、いかに信頼性の高いロボットづくりができたかという点が利いてくるのだ。
また、土俵の状態も回を追うごとに荒れてくる。土俵周りには削られた土俵の一部が散乱し、いかに激しい戦いが繰り広げられてきたのかよく分かる。審判員が取り組みの後に、これらの土俵の傷を黒いマジックで修正していた【写真15】。ロボットの光センサが誤動作を起こす可能性があるからだ。
ここからは激しいバトルから抜け出した準決勝以上の試合の模様について報告する。自律型の試合では、当初の評判どおり田村科学技術研究所チームが今年も圧倒的な強さを見せ付け、準決勝に3チームが入る結果となった。準決勝戦では、残りの1チームである前橋工業高校が「打倒! 田村チーム」を合言葉に大いに奮闘した。
しかし、取り組み中にロボットが煙を噴くというハプニングが起こり、一時会場が騒然となった【写真16】。噴煙の原因はリチウムポリマー電池が原因だったらしい。がぶりよつの一進一退の攻防によって、オーバーロード状態になって過電流が流れたらしい。これにより前橋工業はロボットが壊れてしまい、残念ながら敗退の憂き目に。前橋工業は3位決定戦でも同じように煙を噴いてしまった。次回の大会に期待したい【写真17】。
自律型の決勝戦は、田村科学技術研究所チーム同士の戦いになった【写真18】。同じチームのためか、ロボットの力が拮抗しており、なかなか勝負がつかず、最終的に判定によるポイントを得た「TMR-T9」が優勝した【写真19】【写真20】【動画06】。
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【写真15】傷跡だらけの土俵。激しい戦いの跡がわかる。ロボットの光センサが誤動作を起こさないように、審判員がこれらの傷を黒いマジックで修正していた
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【写真16】大変だ! 会場が騒然とした。激しいバトルの末に、白い煙を噴き上げる前橋工業高校のロボット。相撲ロボットがレスキューされるロボットになった瞬間でもある
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【写真17】残念な結果になった前橋工業高校のロボット。噴煙の原因はリチウムポリマー電池が原因だったらしい。次回に期待したい
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【写真18】自律型の決勝戦。田村科学技術研究所チーム同士の戦いになった。手前が「田村裕士7号」、奥が「TMR-T9」だ
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【写真19】同じチームのためか、パフォーマンスが拮抗しており、なかなか勝負がつかない田村チームのロボットたち
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【動画6】まさに力勝負。土俵際で体をかわしながら、くるくると回転して危機をのりきる
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【写真20】優勝の喜びを語るTMR-T9製作者の田村友幸氏。TMR-Tシリーズは過去に3回優勝を果しており、圧倒的な強さを誇る
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一方、ラジコン型の部では工業高校同士の一騎打ちとなった。準決勝戦では宿命のライバルである三豊工業高校 vs 四日市中央工業高校という構図に加え、今年からラジコン部門にも参加した田村科学技術研究所のロボットが食い込むかたちとなった【動画07】。
しかし、ラジコン操作の扱いは高校生のほうが慣れていたようで、田村科学は惜しくも敗退。決勝戦では三豊工業と四中工が一歩も譲らず、それぞれ1対1のポイントを取る良勝負になった【写真21】。最終的に三豊工業の「風雲再起」が見事に逆転勝利をおさめた。これらの白熱した戦いに対して、来場者から惜しみない拍手喝さいがおくられた【写真22】【写真23】。
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【動画7】今年初めてラジコン型にも進出した田村科学技術研究所の「TMR-Ha」。この勝負では、相手の三豊工業高校が自爆してしまった
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【写真21】ラジコン型の決勝戦。三豊工業高校vs四日市中央工業高校。優勝を懸けた宿命の対決を前に、ピリピリと緊張ムードが走る
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【写真22】ラジコン型の決勝戦が開始された。1対1のポイントを取る良勝負の末、三豊工業高校の「風雲再起」が見事に栄冠を勝ち取った
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【写真23】ラジコン型の優勝会見。三豊工業高校の風雲再起を製した会田裕一氏。三豊工業は昨年は2位だったため、今回は借りを返したかたちになった
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以下に入賞ロボットとチーム名を記す。
【ラジコン型の部】
・優勝 三豊工業高等学校(風雲再起)
・準優勝 四日市中央工業高等学校(銀狼)
・第3位 三豊工業高等学校(連翹)
・第4位 田村科学技術研究所(TMR-Ha)
【自律型の部】
・優勝 田村科学技術研究所(TMR-T9)
・準優勝 田村科学技術研究所(田村裕士7号)
・第3位 田村科学技術研究所(TMR-GO)
・第4位 前橋工業高等学校(MRS06)
優勝者(横綱)には文部科学大臣杯、文部科学大臣章として賞金100万円が、準優勝(大関)には賞金50万円、第3位(関脇)には30万円がそれぞれ授与された【写真24】。
最後に大会委員長の野澤氏が今回の激戦を振り返った【写真25】。「スピードとパワーのあるロボットが毎年登場してきており、技術の進歩が著しくなっていることを肌で感じた。田村科学技術研究所は今年も強いロボットを持ってきた。さらに技術を磨いて他を圧倒するものを作って欲しい。また切磋琢磨が科学技術やものづくりに必要な基本となる。その他の皆さんも田村を追い越すようなロボットを出して、ぜひ我々を喜ばせて欲しい」と試合全体の講評を述べた。来年は強豪の田村チームを打ち破る新しいロボットがどこから登場するのか、いまからとても楽しみである。
なお、本大会の一角には、主催者の富士ソフトによって「組み立て式紙飛行機の教室」や、新システム搭載のラジコンカーやロボットを体験できるコーナーが併設され、大会を見学に来た親子連れが休憩時間の合間を縫って楽しんでいた【写真26】【写真27】【写真28】。
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【写真24】ロボット相撲大会の表彰式。総勢で1500名以上という参加者の中から頂点を極めて、喜びもひとしおだ
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【写真25】本大会委員長・野澤氏の全体講評。「来場者が見て楽しめるようなロボットをつくるとよい」とアドバイス
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【写真26】相撲大会と併設されていた「ものづくり教室」。組み立て式の紙飛行機をつくる小学生。彼らも将来、相撲大会に参加してくれるだろうか
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【写真27】新しいラジコンシステム搭載のロボットやラジコンカーを体験できるコーナー。試合見学の合間に遊ぶ人も多かった
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【写真28】ラジコンカーのゾーン。応答性の良い動きをみせる。国技館の赤いちょうちんがお祭りムードを誘う
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■URL
全日本ロボット相撲大会
http://www.fsi.co.jp/sumo/
( 井上猛雄 )
2006/12/19 01:45
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