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レイメイコンピュータ製作の小型ロボット
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11月24日、沖縄県那覇市にて「ロボット研究会 発足記念講演会」が開催された。
「ロボット研究会」は、産官学連携による産業振興を目的とした「OKINAWA型産業振興プロジェクト推進ネットワーク」によって今年の10月6日に発足したばかりの組織。沖縄の技術を持った会社同士のネットワークを緊密にして、ロボット産業を沖縄で立ち上げることをねらっている。
記念講演会では、ホビーロボットによる二足歩行ロボット格闘競技大会「ROBO-ONE」委員会代表の西村輝一氏の講演と、「ロボット研究会」の中核企業・株式会社レイメイコンピュータによる小型ロボットのデモが行なわれた。
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内閣府 沖縄総合事務局 経済産業部 地域経済課長 安里啓子氏
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はじめに、内閣府 沖縄総合事務局 経済産業部 地域経済課長の安里啓子氏が「理科離れと言われているが子供たちはロボットには興味を持っている。興味を持っている素材を使えばいい」とまず教育効果について語った。また「ロボット研究会を機会に企業間ネットワークが強化され、近い将来、ロボットのビジネスが沖縄で花開くことを期待している」と開会挨拶を行なった。
● POSレジとロボットは同じ? ~レイメイコンピュータ
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株式会社レイメイコンピュータ代表取締役 比嘉徹氏
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続けて、レイメイコンピュータによるロボットのデモが行なわれた。
レイメイコンピュータはパソコンPOS(販売時点情報管理)のシステム開発を行なっているソフトウェア開発会社だ。同社ではWindowsベースで顧客に合わせてカスタマイズできるセミオーダーメイドの汎用POSシステムを開発しており、特に電子マネー「Edy」のシステムなどを手がけている。
沖縄の観光地ではおおむねEdyが使えるが、それには同社も貢献しているという。沖縄県が同県経済の振興に貢献している企業に贈る「ビジネスオンリーワン賞」などを受賞している。
同社代表取締役の比嘉徹氏によれば、同社が開発しているPOSレジの中身はパソコンであり、実質的に「パソコンを使って周辺機器を制御している機器」だと見ることができるという。同社では多様な顧客のニーズに合わせてさまざまなソフトウェア、ハードウェアをパソコンPOSに組み合わせて制御するという開発経験を積んできた。ロボットも同様の機械だと捉えることができ、であるならば、ソフトウェア開発、特にパソコンによる機器制御を得意とする同社の参入は十分可能、というのが比嘉氏の考えだ。
もともと比嘉氏は、他の都道府県でロボット開発が進んでいることに対して危機感を覚えていたという。誰かが沖縄でロボットをやりはじめなければならないと考えていた。そのようななかで、同社ニューテクノロジー開発室の又吉邦彦氏が社長に「ロボット開発をやりたい」と言い出したことでロボット開発が始まった。
実際の研究開発をはじめたのは昨年1月から。とりあえず近藤科学の「KHR-1」やスピーシーズ株式会社の「スピーシーズ」などを購入して検討を行なった後、今年9月にはオリジナルのロボットを完成させた。
もともとは、山形県長井市で開催された第10回ROBO-ONE大会出場を目指して開発されていたもの。しかし、直前にサーボを破損してしまい断念。だが今年10月には「第30回沖縄産業まつり」にも出展し、空手演舞モーションなどを披露したときは「沖縄県内初の取組み」としてメディアにも取り上げられたという。
又吉氏によれば、ROBO-ONEで活躍するロボットのなかでも、どちらかというと韓国のチームが作成している5kg以上クラスのロボット開発をとりあえず目指しているという。
いっぽう比嘉氏は、ロボット事業に参入する上で、想定市場をもともとの得意分野である流通小売業とし、用途は販売促進、最終形態をヒューマノイド、商品化の時期を2008年6月と設定した。これまでの流通分野での事業経験から、制御ソフトウェアの開発、RFID活用、インターフェイス活用技術の蓄積があったためだ。
今後も、流通小売業界で培った技術と業界ノウハウを応用し、小売業の要素である接客、説明、案内、広告、誘客機能を備えたヒューマノイド型ロボットの「商品化」に取組んでいくという。
たとえば、商品に付けたICタグをロボットに近づけると、商品のトレーサビリティ情報やレシピ情報などを説明。あるいは顧客が求める商品情報のキーワードから、商品の置いてある場所へ案内するといった用途を考えているそうだ。
また、ロボット事業の副産物として、主力事業である流通分野での技術活用も狙っている。たとえば音声認識技術は、音声によるオーダーエントリーPOSシステムへ、タグ情報の音声変換システムは、ほかのトレーサビリティシステムにも応用できる。
現在、ロボット開発を一年続けてきたことで、だんだんさまざまな応用が見え始め「先端技術の開発をやるというのはこういうことか」と実感しつつあるそうだ。ロボット開発も事業へ結びつけ「レイメイだからできた」と言われるようにしていきたいという。
ただ、ロボットは総合技術であり、ソフトウェアだけではできない。そこで、沖縄県内に他にどんな技術を持っている企業があるか探るために、沖縄型産業振興プロジェクトに働きかけ、「ロボット研究会」が立ち上がった。
「ロボット研究会」のとりまとめを行なっている内閣府 沖縄総合事務局 経済産業部 地域経済課 新規事業係長の池村幸介氏によれば、現在までにソフトウェア企業が2社、金属加工会社が2社、そして琉球大学工学部、沖縄県工業技術センター、社団法人沖縄県工業連合会などの人々が集い始めているところだという。
そのなかで、たとえばサトウキビを利用した剛性の高いボディ素材なども検討されはじめているそうだ。サトウキビのセルロースを使えば非常に硬くて軽い材質が作れるのだという。ロボットをその素材のテストベッドとして使えないかというわけだ。
現時点ではまだ同社の開発したロボットは初歩的なレベルにある。比嘉氏は「今後も皆さんの力を借りて沖縄からロボット産業を発信していきたい」と語った。
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経緯を述べるレイメイコンピュータの比嘉氏。ロボットを操作しているのは同社ニューテクノロジー開発室 ロボットクリエイターの又吉邦彦氏
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内閣府 沖縄総合事務局 経済産業部 地域経済課 新規事業係長 池村幸介氏。「ロボット研究会」のとりまとめを行なっている
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なお、本誌ではレイメイコンピュータ・比嘉氏へのインタビューを行なった。後ほど、より詳しい経緯をご紹介する予定だ。
● ROBO-ONE委員会代表・西村輝一氏の講演
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「ROBO-ONE」委員会代表 西村輝一氏
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続けて、ROBO-ONE委員会代表の西村輝一氏が、ROBO-ONEを中心にロボット技術の現状とビジネスの可能性について語った。西村氏は、ロボットの基礎技術はもうすでにできているので、どのように活用するか、あるいはどの部分を発展させるかは経営者の判断である、という見方を示した。
ロボットはマイコンの進化ほどは進化していない、という。もっと進化させるためにはどうすればいいのか。そう考えてロボットをはじめたという。
西村氏は、ROBO-ONEだけではなくさまざまなロボコンに趣味としてかかわっているが、本業では、株式会社いすゞ中央研究所エンジン研究第一部部長という肩書きの職を務めている。
今回の講演ではまず、ディーゼルエンジンの専門家として、今後30年、これからガソリンエンジンが減っていき、だんだんディーゼル、バイオディーゼル、さらにクリーンな次世代バイオディーゼルの時代になると述べた。ロボットビジネスを読むのであれば、同様に「時代の流れ」を読まなければならないという。たとえばバイオマス燃料が普及するかどうかは政治的な要因も大きい。長期的にビジネスを見るか、短期的に見るかで、どこに視点を持つかも変わってくる。
いっぽう最近の車はアクティブセーフティ、パッシブセーフティなど、車にコントローラーが搭載され、ブレーキに機械が手を出す技術が搭載されはじめている。ある意味で、車は徐々にロボット化しつつあると見ることもできる。
もともと「ROBO-ONE」は、迷路を走り抜けるマイクロマウスや、相撲ロボットを趣味としてやってきた西村氏が、アメリカで開かれている「Battlebots(バトルボット)」大会出場経験を踏まえて、その面白さを日本で何か似たようなかたちでできないかと考えて、発案したものだ。
製作者、参加者、運営者、みんなが楽しむことを目的としている「ROBO-ONE」だが、やりつづけているうちに、そのほかの面白いことも出てきたという。たとえば、ロボットは技術者教育としても最適だし、性能の低いロボットとのつきあいかたを考えるパートナーイメージ育成においても適している。
また、ROBO-ONEからロボット関連製品が生まれているが、それらは製作者や企業がお互いに情報をやりとりするなかで製品が発展していっている。その発展の仕方も面白いという。
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自動車業界の今後30年のパワーソース予測。ロボット開発においてもこのくらいの視野が必要
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ROBO-ONEは米国の「バトルボット」に西村氏が参加したときの経験がもとになっている
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ROBO-ONEは参加者、観戦者、企業みんなが幸せになるイベントを目指している
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なぜヒューマノイドかという点については、西村氏は「ロボットであるなら機能を重視すればいい。だから別に車輪型でも四足でもいい。しかし、人間と接するパートナーロボット、サービスロボットとなると最終的には人型に行き着くし、子供たちの教育面から考えても人型、足つきが有効だ」と述べた。そもそも「そんなに難しいわけではない。やればできる」という。
ただし、「何をやらせればいいかはまだ誰もわからない。だからとりあえず一番難しいことをやっておけばいい。そのうち誰かがうまい使い道を考えてくれる」というのが西村氏らのスタンスだ。
ではどのような形で技術を発展させていくのか。ROBO-ONEにおいては「上」が伸びないと下も広がらないという考えのもと、より難しいことを要求している。
なお、次回の第11回ROBO-ONEの規定演技は「縄跳び」となっている。これは、手首の軸数が必要になるからだ、というのが規定演技として設定された理由だという。「手首が使えるようになれば、バトルのなかで背負い投げができるようになる」(西村氏)。
もうひとつの規定演技は「役に立つこと」だが、こちらは、柔軟な発想をみんなが寄せることで、開発費用を安くあげてロボット実用化をねらいたいとするものだそうだ。
ROBO-ONEのロボットは基本的に趣味で参加者が開発している。仮にROBO-ONEで何か面白いロボットが登場して、企業がその開発者にアプローチして製品開発を行なおうとした場合、いわゆる研究開発のステップをスキップできるというわけだ。ロボットキットなどにおいては、このモデルは機能している。
西村氏は「どういうふうに進化させたいかという思いがROBO-ONEにはある」という。しかしながら、ロボットがジャンプをしても企業のビジネスには役に立たない。だから、「企業がロボット・ビジネスをやるのであれば、ロボットをどのように進化させたいかということを考えておかなければならない」と語った。
ただし、ROBO-ONEも、まったくビジネスになってないわけではない。ロボット用サーボ、二足歩行ロボットキット、開発ツールの活用促進、そしてROBO-ONEを素材にした漫画やゲームソフトも登場しているし、ROBO-ONE上位陣による興行バトル「ROBO-ONE GP」はイベントとして成立している。また、ものづくり教育、人づくり教育関係には貢献している。
いっぽう、ROBO-ONEを5年間やってきていて、そろそろホビー用途だけでは限界も感じ始めているそうだ。ROBO-ONEの世界でも、サーボモーターは徐々にパワーが増し続けており、よりインテリジェントになりつつある。センサー類も出始めているし、CPUもよくなってきた。しかしながら、通信面などでは課題も抱えている。それなりに進化してきたROBO-ONEのロボットたちだが、まだ実用的なことができるようになったわけではないし、「この程度か」という見方もできる。
さらなる進化のためには、アクチュエーター、センサー、バッテリ、そのほかの開発が必要だ。そこで構想したのが「ROBO-ONE宇宙大会」である。宇宙にロボットを出すためには信頼性、安全性が必要だし、シミュレーション技術も必要だ。また、分散型サーボの通信プロトコルの規格化なども必要になる。
重要な鍵は、開発環境だという。西村氏は、「ものづくりはそんなに簡単ではない。ものづくりができる人間はそんなに簡単には育てられない」と強調した。そのためにROBO-ONE委員会が力を入れているのが「ROBO-ONE on PC」だとう。「シミュレーションをやれば、どんなスペックの部品が必要かわかる。それを繰り返すことで、ものづくりのレベルをあげていくことが目的」だという。
将来のロボットにおいては、2017年ごろには介護ロボット技術が必要とされると考えているという。またROBO-ONEから学んだこととして、コストを下げるためには軽量化と分散化が必須、また安全性を考えるなら柔軟性も重要だし、人間と付き合うならば見た目もやはり非常に大事であると述べた。なお、介護するロボットならばコストは200万円程度が妥当なところだろうと考えているという。
ロボット活用シーンとしては、たとえばショッピングセンターでの課題を例題として示した。どこに買いたいものがあるか分からない、かごが重い、清算をまたされるといった問題がショッピングにはある。これをいきなりロボットで解決することは無駄だ。IT化を検討したうえで、なおかつできないことがあったならば、ロボットの開発となるのが妥当である。
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人間に近い形のほうが人間に受け入れられやすいという
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西村氏によるロボットの国内市場の推移予想
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ROBO-ONEで学んだことは軽量化、目的の明確化だという
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ロボット活用のポイント
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ただ、現状ではロボットは客よせパンダにしかならない。しかし、それで子供が集まってきて賑わうなら問題ないかもしれない。そこは経営者の判断次第だと語った。
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「ロボット研究会」講演の様子
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現状では、ロボットは、人間がやってほしいと考えることと、ロボットができることのギャップがあまりに大きい。ロボットの未来像は、携帯電話、家電、自動車、それぞれの進化系として考えられていることが多いが、どれが生き残るかはまったく分からない。
最後にまとめとして「ロボットを作るのも人、ロボットとつきあうのも人。安全面も含めて、サービスロボットは人の心を掴むことが重要だ」と述べた。
なお、西村氏は来年行われる予定の第12回ROBO-ONEを沖縄で行ないたいと考えていることも明らかにしたが、まだ決定事項ではないようだ。
■URL
OKINAWA型産業振興プロジェクト推進ネットワーク
http://www.okinawa-cluster.jp/
株式会社レイメイコンピュータ
http://www.reimei.co.jp/
ROBO-ONE
http://www.robo-one.com/
( 森山和道 )
2006/11/27 20:21
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