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新産業文化創出研究所 総合ビジネスプロデューサー 内田研一氏
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11月8日、秋葉原クロスフィールドUDX「先端ナレッジフィールド」にて「@マークプロジェクト・ロボットと3D著作権~ロボットパーツデザインコンテスト」という講演が行なわれた。主催は株式会社新産業文化創出研究所。
「先端ナレッジフィールド」は秋葉原再開発事業ITクラスター構想における「クロスフィールド」の中核事業。さまざまな知が融合する「イノベーション産業の実証実験機関」とされている。株式会社新産業文化創出研究所が実証プロジェクトとして「@マークプロジェクト」と名づけたイベントやトークサロン事業などを開催している。今回の「ロボットと3D著作権」もその1つ。
新産業文化創出研究所 総合ビジネスプロデューサーの内田研一氏は「寸法定義されている3Dデータがあるのならば、映像系とものづくりを繋ぐことができる。日本の2大産業である映像コンテンツと、ものづくりをつなげていきたい」と述べた。
同研究所が主催している「第一回オリジナルロボットパーツ3Dデザインコンテスト」もその一環だという。これはオートデスク株式会社からスポンサードを受けて開催しているもので、近藤科学の「KHR-2HV」用に頭部パーツ、あるいは全身パーツをデザインするもの。対象者は3D CADソフト「Autodesuk Inventor」を扱えることが条件で、応募もInventorのデータで行なう。最優秀賞と優秀賞を獲得したら、実際にそのオリジナルパーツを製作してもらえる。
このような背景には、手軽に樹脂を積層することで作ることができる、いわゆる「ラピッド・プロトタイピング」が本格的に普及してきたことがあるという。
実際に2次元の技術と3次元の技術の融合が進んでいるのだが、では著作権はどうなっているのか。たとえば、今回のロボットパーツデザインコンテストで、ものすごく格好はいいが、「ガンダム」の頭に似たパーツが出てきたらどうするか。内田氏は「問題意識は多くの人にあるが、実際にどのように捉えればいいのかまじめに取り組んでいる人は少ない」とし、これが今回の講演会を主催した理由だと述べた。
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3D CGで作成されたロボットアニメの素材をそのまま出力することも技術的には可能に
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3Dデータから実際にラピッド・プロトタイピングで出力したパーツ
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● 著作物とは?
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株式会社サンライズ 井上幸一氏
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まず最初に、アニメーション製作会社・株式会社サンライズの井上幸一氏が講演した。井上氏はもともとおもちゃメーカーにいたが、いまは著作権ホルダーであるサンライズにいる。氏はまず、文化庁の著作権に関するウェブサイトの文章を使って著作物について説明した。
著作物は、思想や感情が入ったものであるとされている。単なるデータでは著作物にならない。そのため、以前はプログラムは著作物ではないとされていたこともあったが、現状ではプログラムの組み合わせに思想が入っている、という形式で、著作物とみなされているものもあるそうだ。
また、著作物は「表現されたもの」でなければならない。単に頭に浮かんだものでは著作物にならない。ただし、著作物は表現した段階で著作物になるのだが、「表現とは何か」ということは、明記されていない。たとえばノートの端に書いたのは単なるアイデアなのか表現なのか。あいまいになっている。
また文学や絵画は著作物だが、たとえば玩具の中には工業製品という扱で、著作物ではないものもある。オリジナルの玩具に後で物語がくっついた場合であっても著作物にならない場合がある。
つまり、玩具メーカーが取り扱うものには、著作物と、そういでないものがある。まず著作物として売るのかどうかを判断し、著作物として売るのであれば、著作物としての作業を先行して進めなければならない。著作物にすれば著作権で保護されるが、工業製品だと15年で保護の期限が切れるからだ。
なお映画の著作権が70年に延長されたことは周知のとおりである。ガンダムはあと40年程度は保護されている。著作権はどんどん変わっていく。
「著作者人格権」の中には、制作物に付随して製作者の名前を掲載してもらうための権利もある。そのほかには「同一性保持の権利」がある。一言で言えば「似てないとだめ」ということだ。ガンダムの場合、商品化の許諾は株式会社創通エージェンシー、出版と映像の許諾窓口はサンライズが担当している。あまりに似てないと、いったん出した商品化の許諾を拒絶することができる。
なお著作権法は、基本的に、著作者の権利を守るための法律である。そのことを理解しなければ、著作権者の許諾はまずおりない。
では具体的にサンライズはどのレベルまで認可しているのか。
「ガンダム」という名前は一般化したので、名称そのものがさまざまな分野で掲載されることも多くなっている。絵を使う場合は許諾が必要だ。ただし、絵を使わなければ何をしてもいいというわけではない。たとえば「機動戦士ガンダム」をタイトルに使った本を勝手に出すことはできない。
では上映会はどうか。イベント、あるいはプラモデルを売っているお店でDVDをかけてしまうのはどうか。これも著作権に触れる。DVD販売時にはオフィシャルのデモ用ビデオが頒布される場合もあり、それをかけることは可能だ。個人で買ったソフトウェアを勝手に「上映」してしまうと問題になる。
問題はこの「上映」という部分で、たとえば、店長が趣味で買ったビデオを店番しながらなんとなく見ている、という程度であれば許容される場合もあるが、店の前に「上映中」とうたってはいけない。
コピー商品などはどうか。たとえば正規の認可を受けた商品のコピー商品があったとする。このとき、正規の販売者ではなく、著作権元が抗議するかたちとなる。つまり、許諾を受けている正規の販売者の権利を著作権元が守ることになる。そのため、著作権ホルダーは、海賊版の撲滅に必死になるのだ。
なおこれらの対応は、権利者が知らない限り訴えられることはない。たとえば、チラシにちょっとキャラクターが印刷されていたとしても、権利者がなかなか知ることはできないが、一般ユーザーが権利者にそれを通告すると、権利者は動かざるをえない、という。そのあたりは会社によっても対応が違う。
ときどき誤解している人がいるが、金をとらなければ何をしてもいいというわけではない。例えば同人誌をつくって配布したり、プラモデルを買ってきて改造し、写真に撮ってウェブに掲載したとする。そうすると複製権、頒布権に引っかかる。工業製品なら掲載しても許されることはあるが、著作物は許されない。ストーリーがついたものは著作物になるのである。井上氏によれば、基本的に著作権に関して「大学生が質問してくるものはたいていアウトです(笑)」だという。
なお著作権は登録することもできる。通常発生する著作権は著作権保持者が持っているものだが、登録した場合その範囲を超える。しかし、国内の著作者で登録している人はほとんどいない。だが、オリジナルをつくっていると考えている人は登録したほうがいいそうだ。
著作権とは離れるが商標はどうなっているのか。実は著作権は商法の範囲ではあまり効果がない。商標は同じものをつくられた場合は即、差し止めできる。いっぽう著作権だけでは裁判にも時間がかかるので、やり逃げができてしまう。ただし商標は判断しているのが人間なので、対応が混乱する場合がある。根拠があいまいなことがあるのだ。例えば、過去サンライズが同時期に申請した2つの作品で、一方が通り、一方が拒絶されたことがある。有名作品であっても審査官が知らなければ通ってしまうこともあるのだ。
動物の名前はあらゆるものが取られているのが現実だという。ただし商標登録は期限がくれば切れてしまう。また登録する範囲を限定すればコストもあまりかからないので、最初から必要であれば取っておくことを進めるという。サンライズも、企画の段階で没になったものであっても、響きのよい名前であったらロボット名として候補リスト化しているそうだ。
また、「宣伝への協力」とか「ボランティア」、「善意の協力」という言い方をして著作権を無視している人もいるが、これももちろんダメだ。たとえばガレージキットのように、平面で書かれたもの(アニメや漫画)を立体に起こすことも、複製権に引っかかる。この問題についてサンライズは、さまざまなケースを想定して、対応しているそうだ。
お祭りのときに子供がつくる、キャラクター神輿の類もダメだ。しかし日本ではそれが誉められ、報道されてしまうこともある。そのような行為が、勘違いをどんどん増幅させていくのが現状だという。
一時ネットでも話題になった「1/1ボトムズ」は、話が大きくなる前に、公式にサンライズに申請があったので、つくることを公式に認めた。もし本当に何かをやりたい場合は、「こういうことをやりたいと申請してほしい」と語った。
なお二足歩行ロボットの格闘大会「ROBO-ONE」では、サンライズのロボットは出場できることになっている。ROBO-ONEの範囲であれば使用が許諾されているからだ。
サンライズの著作物については、唯一サンライズだけが訴える権利を持っている。また、訴えないと逆にサンライズ自体が訴えられてしまうケースもある。たとえばガンダムは非常に多くの企業が関係しており、複雑な構造になっている。井上氏は「サンライズは権利者であると同時に、ライセンシーの権利を守っている会社でもある。その点はご理解いただきたい」と述べた。
なお、冒頭で紹介した3Dデザインコンテストでは、どこらへんまで似ていると「ガンダム」と判断されるのか。社内でもガンダムに見えないロボットを作ることには苦労しているそうだ。白いボディで、胸まわりに青く濃く塗るとたいていのものはガンダムに見えてしまう。
ガンダムの頭はもともと侍のチョンマゲ頭をモチーフにしたものであることはよく知られている。だがそのあとのシリーズではヘルメット的なモチーフになっているので、ヘルメットから先細りのアンテナが出て、目が二つあり、なんとなくマスクめいた口があるとガンダムに似てしまう。デザインの上では、そのあたりを避けてもらえると嬉しいという。
● どこから著作物?
質問コーナーでは、かなり現実的な質問が出た。
たとえば、ROBO-ONEのロボット製作者のなかには、ロボットに対して思い入れを持ってつくっている人がいる。背景設定などを思い描きながら作っている人もいる。では、どこの時点で著作権が発生するのか。
この件に対して、井上氏は「有名な人形製品には著作権が無いものもあり、工業製品扱いになっているケースがある」という例を挙げた。たとえばそのなかに、年齢設定や家族構成があっても、著作物として認められていないものもある。つまり、最初から物語や四コママンガを描いておき、それを現実化するのでなければ著作物としてはなかなか認められないということだ。どこまでやれば著作物として認められるか、ここらへんの判断が難しい。
また、美術の創作物のなかには彫刻がある。ロボットには、たとえば「動く彫刻」としての著作権は存在しないのか。これもなかなか認められないのではないかという。たとえば「芸術的な図面」という表現はあっても「芸術」としての図面は存在しない。図面通りに作っていけばできるものは工業製品であって著作物ではない。
また、この点は図面なしで作っていても同じで、たとえば、たんすや民芸品には著作権はない。
● パネルディスカッション
このあとは、サンライズ井上氏に加え、千葉工業大学fuRo室長の先川原正浩氏、三次元CAD-CAMソフトを販売している株式会社リアルファクトリー代表取締役 相馬達也氏を交えてパネルディスカッションが行なわれた。
先川原氏は、ロボットは基本的に工業製品で、特許では守られているが、著作権のことまで考えて作っている人は少ないと述べた。千葉工業大関連では山中俊治氏が工業デザイナーとして関わっており「デザイナーと研究者が二人三脚でやらないといいものは作れない」という。
井上氏は、工業デザイナーとロボットとの関わりとして、「ターンAガンダム」に関わったシド・ミード氏の例を挙げた。ミード氏は、デザインを依頼されても、イラスト作品として納品しており、デザイン画は、その派生物として納品するのだそうだ。イラストに出てくるさまざまな小道具を考えて描くことで創作物になる。その結果、著作物として保護されるのだという。
相馬氏は工業製品に携わっている立場から、自動車メーカーや家電メーカーは著作権保護はあきらめていて、よりよい性能をより安く絶えずコピー製品と闘いながら競っていると述べた。ただ、最近では工業デザインにも著作権を認めようという判例も出始めているそうだが、基本的には工業設計デザインの世界では、出したものは真似されると割り切って仕事をしているという。
この後、話は、二次元制作物と三次元制作物の情報量の違い、2次著作物と1次著作物の違い、マスプロダクトと、最近可能になってきた個人のもの作り(パーソナル・ファブリケーション)など、さまざまなところに展開した。
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千葉工業大学fuRo室長 先川原正浩氏
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株式会社リアルファクトリー 代表取締役 相馬達也氏
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最後に内田氏は3人のパネリストに対して「基本的にクリエイティブを是としようという立場は共通」とし、まとめコメントを求めた。
先川原氏は、もともと出版社にいて著作権関係トラブルを処理してきた立場から、「学校の先生たちは非常に著作権に疎い。教育という形なら、なんでも受け入れられると思っている。学会内部から啓蒙していきたい」と述べた。
相馬氏は「いまはエンジニアリングが必要な機械が減っている。機構があるものがほとんどない。たとえばAV機器にはほとんど機構がない。ロボットは最後の事業部。車はなかなか個人ではおもちゃにできないがロボットはできる。エンジニアリングの立場から遊べる場所として期待を持っている」と語った。
井上氏は「現在のアニメのデザイナーは、おもちゃメーカーにスポンサーされている場合もあって、立体にすることを意識してデザインしている。最近、サンライズでも追いかけているのは機能美。優れているものは美しい。『リアル風ロボット』ではなく機能美を追いかけたい。また、本当にエンターテイメントのロボットはまだ出ていないと思う。最初のガンダムはエンターテイメントを追いかけていたロボットの時代に、一息ついたところで出てきたもの。ロボットをデザインする道はまだ何本もある。ガンダムは所詮は1カテゴリーだ」と述べた。
( 森山和道 )
2006/11/09 13:29
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