10月27日、「ロボットビジネスシンポジウム ~今後のビジネス潮流を読む~」がパシフィコ横浜にて行なわれた。ロボット技術の道筋の確認と情報発信が目的である「ロボットウィーク2006」の一環として開催されたもの。会期中にはシンポジウムのほか、ロボットを集めたオープンスペース「ロボコレ」、「ロボLDK ~ロボットのいるくらしコンテスト~」ほかが行なわれる。
● かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会
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神奈川県知事 松沢成文氏
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まず最初に、神奈川県知事の松沢成文氏が「神奈川県はロボットビジネスを推進していく」と開会挨拶を行なった。
神奈川県は「かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会」を設立した。今後、ロボットの作り手と使い手が出会う場として支援事業を行なっていくという。なお11月2日にはキックオフセミナーが14時から川崎市産業振興会館で行なわれる予定になっている。
● 「市場創出に向けた新しいロボット政策の展開」
続けて経済産業省製造産業局産業機械課長・ロボット産業室長の高橋泰三氏が「市場創出に向けた新しいロボット政策の展開」と題して政策報告を行なった。
経済産業省は「ロボットビジネス協議会」を26日づけで設立している。ロボット政策研究会の提言をうけて設立されたもので、会長には富士重工業株式会社 取締役相談役の竹中恭二氏が就任した。副会長はトヨタ自動車株式会社 専務取締役の井川正治氏、株式会社日立製作所 執行役専務、研究開発本部長の川上潤三氏、株式会社安川電機 取締役会長の中山眞氏の3名。
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経済産業省製造産業局産業機械課長 ロボット産業室長 高橋泰三氏
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ロボットビジネス協議会会長に就任した富士重工業株式会社 取締役相談役の竹中恭二氏
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日本が直面する課題として人口減少と少子高齢化に伴う労働者人口減少、老人が老人を介護する老老介護、経済成長などを上げ、ロボット技術に期待していると述べた。経済産業省は政策ターゲットとして、センサー、知能・制御、駆動系を持つ機械システムのことをロボットと呼んでいる。ロボットは幅広い技術の統合なので産業としての広がりの可能性も幅広い。
ではなぜロボットなのか。ロボットはこれまで産業用ロボット業界で貢献してきたが、産業の世界でもより知能化することで、多品種変量生産への対応、ライン変更への対応、複合作業のロボット化などが狙われている。またこれまで使われていなかったサービス分野においてロボット活用が期待されているのはいうまでもない。具体例として高橋氏は清掃と警備を上げ、細かく見ていくとまだまだロボットが入る余地があると述べた。
サービスロボットは愛知万博でも使われたが、これから大事なのはビジネスである。技術を見せるところから、これから実際に使えるロボットというところに政策もシフトしていこうと考えているという。ただ、ビジネスにおいてはメーカーがロボットを作るだけではなく、実際にエンドユーザーにサービスを提供するソリューション提供者との連携も重要になる。人間とロボットの役割分担も重要だ。安全性確保、運用管理、社会的ルールづくりも課題であり、整備が必要だ。
以上のことからユーザーにも着目したサービス実現などの方向で政策を行なっていくという。そして最後にロボットビジネス推進協議会設立、今年のロボット大賞について触れた。およそ150件のロボットの応募があったという。
研究開発においては具体的なミッションを設定したロボットの開発のほか、次世代ロボットが高度な作業を行なううえで必要な知能化を進める研究プロジェクトをはじめる予定だと述べた。また安全技術開発も、実際に現場にロボットを投入し、安全性確保のために必要な技術開発も行う。
最後に、ロボットが日本の活力維持発展に役立ってほしい、そして具体的なロボットビジネスの成功事例が出てきてほしい、とまとめた。
【お詫びと訂正】初出時、「かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会」と、経済産業省による「ロボットビジネス協議会」を混同して記載しておりました。お詫びして訂正致します。
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ロボットは「できる」レベルから「使える」レベルへ
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今後の技術開発。野心的なプロジェクトが並んでいる
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● 基調講演「ロボット共存社会と21世紀」
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作家 瀬名秀明氏
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続けて作家の瀬名秀明氏から「ロボット共存社会と21世紀」と題して基調講演が行なわれた。瀬名氏はロボットに関するノンフィクションもいろいろ執筆している。氏は、ロボットに関するこれまでの著作を挙げ、編集から「ロボットの本は売れない」と以前は言われていたが、今年に入ってから少し流れが変わってきたという。いまは鉄腕アトムの時代を過ぎて、少しロボットが「近く」なってきたのではないかというのが瀬名氏の考え方だ。さまざまなロボット像がリアルなものとして感じられ始めているという。いっぽう、ドラえもんを例としてあげて未来はそれほど遠くないとも考えられるとも語った。
続けて瀬名氏は、未来を考えるヒントを2つあげた。
まず一つ目は科学者のフリーマン・ダイソンが『科学の未来』のなかで飛行機と飛行船の違いについて書いていることについて。飛行船は国家の威信をかけてつくっていたものであり、イデオロギーで開発するものはだめだという。
またパームの開発者でもあるジェフ・ホーキンスが『考える脳考えるコンピュータ』のなかで、長期と短期の2つのスパンで未来予測するといいと書いていることについてもふれた。ホーキンスは、短期的には未来は考えていたよりも時間がかかるが、長期的には予想よりも早く訪れると述べているいう。
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瀬名氏のロボット本
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「われはロボット」の新しい意義について触れた
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このほか、「脳神経倫理学(Neuroethics)」が重要視されるようになっていることについても触れたあと、アシモフが1950年に書いた「われはロボット」のなかでつくられたロボット3原則をあげ、これも新しい読み方ができると語った。
1985年にアシモフは「ロボットと帝国」のなかで、ロボットが自ら3原則について考えはじめ、第0条「ロボットは人類に危害を加えてはならない」という条項を自分たち(ロボットたち)自身で付け加えるエピソードを書いている。つまりロボットはヒューマニティの大切さを自ら獲得していくのだ。
瀬名氏はロボットとつきあうようになると、人間らしさというものを否が応でも考えさせられるようになると述べ、「これからのキラーコンテンツのひとつはヒューマニティではないか」と語った。
宇宙開発フロンティアを舞台にした技術者コンビのエピソードについても触れて、ロボットがフロンティアで活躍するようになるこれからの時代はロボットと技術者コンビとのエピソードが参照されるのではないかと述べた。
産業用ロボットの「かっこよさ」や、宇宙ロボットである惑星探査機「はやぶさ」に対するネット上の一般の人の熱狂ぶりも例に出した。最善を尽くして設計されたロボットが、未知の環境で予想どおりに働かないが懸命に努力する様子は感情移入を呼ぶという。「ROBO-ONE」などについてもふれて、これからパーソナル・ファブリケーションの時代が来ると語った。
瀬名氏は以前、「ロボット学は未来を作る学問だ」とかつて著書で述べていたが、いまは、「現在」と「未来」のデザインが必要だと考えるようになっているという。未来を必要としない現場もたくさんあるので、未来感をなくす需要も大事かもしれないと考えているそうだ。
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「早稲田大学WABOT-HOUSE研究所」を取材し、絵本を執筆中
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最近、早稲田大学の「WABOT-HOUSE研究所」を訪問したという。故・加藤教授の伝記絵本を執筆中だそうで、イラストレーターとのコラボレーションの様子を実際のラフを見せながら説明した。もともとのオリジナルのラフはロボットと人間の絵になっていたが、ロボットがいるシチュエーションでの人間と人間の関係を描くほうがいいと考えて訂正したそうだ。
また、安全という言葉には「安心」と「信頼」が含まれているが、両者は異なると述べた。社会学者の山岸俊男は日本は信頼社会ではなく、むしろ安心社会だったと述べているという。相手が悪人ではないとおもっているのではなく、もし悪さをしても懲罰を与えられるので手が出せない、だから安心社会だったと。
人間はさまざまなシステムを信頼して、自分の判断や行動を自動化して日常を送っている。交通システムや目覚まし時計がよい例だ。ではロボットやVRに対して期待していたのは違和感解消だといわれていたが、おや、と感じる違和感は大切にしていたほうがよくて、むしろ違和感を維持したままで信頼関係安心関係を結べるような方向にデザインしていったほうがいいと語った。
大事なことは「視点」と「感情」だという。視点の位置を変えると見えるものは違ってくる。だが視点の切り替えは容易ではない。すぐに役立つロボットがほしいという一般の人と、数年数十年のスパンで見る研究者の視点は違う。訓練すれば視点の移動は可能だが難しい。研究者であっても視点を変えるのは難しいのだ。そこを助けるようなロボット技術、VR技術があるといいという。
例としてレスキューロボットの操縦を挙げた。小さい画面を見てロボットを操縦するのは難しい。だがゲームをやる人なら誰でも知っていることだが、自分自身のキャラクターが画面上にあると人間は急に操作が容易になる。つまりVR技術ロボット技術で視点は操作できるのだ。
また感情のデザインもやってほしいという。ロボットデザインにおいても感情移入できるロボットが重要だと言われることがあるが「共感(sympathy)」と「感情移入(empathy)」は違うものだ。共感とは相手と同じような感覚を同時に抱く状態のことだ。いっぽう、感情移入とは自己と他者の違いを認めた上で相手の気持ちを忖度するものだ。ロボットデザインにおいても、相手と自分の気づきを重視することが重要だという。
最後にナレッジマネジメントの考え方を例に出した。成果物を作り出すためのパワー、プロセス、そして結実したプロダクトの「3つのP」が重要だと北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科の梅本勝博氏が述べているという。
この考え方をロボットによる社会への適応過程へと応用することが可能だとし、いまのロボットは「プロセス」を商品にしていると捉えられると述べた。どういうことかというと、ロボットを使うことで自分も社会も変化していくことが、お金を出すきっかけになっているのではないかというのだ。
また、ロボットがダイナミックであることは当たり前なので、むしろこれからはロボットが動的な社会に入っていくのだとしたほうがいいと語った。動く社会に動くロボットを投入するのは大変だが、そのためにはむしろロボットを少しおさえるくらいのほうがいいかもしれないという。
最後にパーキンソン病を発症した俳優マイケル・J・フォックスの『ラッキーマン』を挙げ、これからのロボットビジネスは「勇気」をサポートするものであってほしいとまとめた。
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「適応するロボット」の新しいイメージを提案
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最後に「ラッキーマン」を挙げた
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■URL
ロボットビジネスシンポジウム
http://robotweek.jp/
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