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「第3回 WRO Japan」(World Robot Olympiad)の決勝大会。全国から選ばれた精鋭たちが、国際大会の切符をかけて熱い戦いを繰り広げた
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10月1日、東京・北の丸公園の科学技術館において、「第3回 WRO Japan」(World Robot Olympiad)の決勝大会が開催された。WRO Japanは、全国の生徒たちが市販ロボットキットで自律型ライントレースロボットを自作し、部門別に技を競い合うロボットの祭典。この7月から国内8カ所で始まった公認予選大会(約750名参加)を勝ち抜いた精鋭たちが、最終決戦の場で白熱の戦いを繰り広げた。優勝および上位チームは、11月半ばに中国・南寧コンベンションセンターで開かれる国際大会に進むことになっている。
本大会の競技は、小・中・高校生によって「サッカーゴール」、「ロボットアドベンチャー(障害物競走)」、「シティーエンバイロメント(都市環境)」の3部門にわかれており、それぞれ競技の難易度も異なっている。小学生部門では、ラインをトレースしてシュートを決めるロボットが用いられる。90秒の間にボール(ピンポン玉)をサッカーゴールにどれだけ入れられるかを競う。
また、中学生部門では、同様にラインをトレースして、山や川などの障害物を乗り越えながら、ゴールにたどり着くまでの時間を競いあう。高校生部門は、格子上のラインに貼られた信号機シールに沿った形で進み、ブレークゾーンに置かれた空き缶をつかんで戻ってくるまでの時間を競うというもの。
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小学生対象の競技「サッカーゴール」。ラインをトレースして、シュート位置からゴールを決める。90秒の間にピンポン玉をいかに効率よく入れられるかが問題だ
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中学生対象の競技「ロボットアドベンチャー(障害物競走)」。ラインをトレースして、障害物を乗り越えながら、ゴールにたどり着くまでの時間を競う。写真は川の通り抜けをしているところ
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高校生対象の競技「シティーエンバイロメント(都市環境)」。写真はブレイクゾーンになる空き缶をつかむ瞬間
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競技前には試走が行なわれ、センサの感度調整やプログラムの変更、車体の変更など、本番に向けての準備が進められた
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いずれものロボットも、搭載コンピュータ×1台、センサ(光・タッチ・角度)×3個以内、モータ×3個以内で自作すれば、どのような市販ロボットキットを利用してもよいが、部品の改造は認められていない。国際大会では「LEGO MINDSTORMS」が使用されるため、事実上、国内大会でもLEGOが用いられているようだ。
競技会でLEGOを利用するメリットは、自在にメカを組み替えられる柔軟性やわかりやすいプログラミングツールにある。本大会では、試走と競技が計2回ずつ(午前・午後)行なわれ、どちらか得点のよいほうが記録として採用された。では、各部門の結果と入賞ロボットについて紹介しよう。
● 【サッカーゴール】(小学生部門)
サッカーゴール競技では、サッカーゴールに多くのボールを入れたロボットが勝利を獲得できる。そのため、ソフトウェアよりもハードウェアを工夫したロボットが多く、見た目もバラエティに富んでいて面白かった。
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サッカーゴール競技のフィールド。スタート地点から直進・左右ラインのいずれかに沿ってシュートゾーンまで進む。そこからシュートを決める。左右からのアプローチのほうが高得点を狙える
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ボールをロボットに収納する仕組みにはさまざまな工夫が凝らされていた。写真のように収納スペースを1カ所に大きくとってボールをたくさん入れる機構も多く見られた
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得点の高いシュートエリアの曲線コースを選択してから、中央に戻ってゴールを決める工夫も見られた
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ロボットからは、ボールを1個ずつ打ち出す規定になっているが、一度にボールをたくさんロボットに格納できるようにしておけば、ボールの積み直しの時間が省ける。またゴールにロボットを入れる際にも、落下式(傾斜を利用する)のものから、モータの回転力でボールを打ち出すものまで、機構部にさまざまなアイディアが凝らされていた。
得点の高いシュートエリアのコース(左右の曲線コース)を選択してから、中央に戻ってゴールを決めるプログラムを組んでいるチームもあり、シュートの数だけでなく、高得点に結びつくようなプロセスに重点を置く工夫も見られた。
小学生部門の国内予選大会では99組(157人)が出場、この決勝戦では12組(24人)によって入賞が争そわれた。試合結果は以下のとおり。
●試合結果
・第1位(国際大会進出決定):サンダーバード23号(富山)
・第2位(国際大会進出決定):ウォーターゲート(千葉)
・第3位(国際大会進出決定):銀杏ゲンボウ(東京・玉川学園小学部)
・デザイン賞:ベジタブル(東京・玉川学園小学部)
・審査員特別賞:機械騎士 (富山)
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小学生部門の優勝チーム。サンダーバード23号(富山)。ループのように繰り出す滑らかなシュートで確実に高得点をゲット
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小学生部門第3位の銀杏ゲンボウ(東京・玉川学園小学部)。中央下部から安定したボールを矢継ぎ早に打ち出していく
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【動画】審査員特別賞を受賞した機械騎士(富山)。2つのレールから交互に繰り出す機構部のアイディアが面白い
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● 【ロボットアドベンチャー(障害物競走)】(中学生部門)
ロボットアドベンチャー競技では、障害物をいかに乗り越えて、すばやくゴールに着くけるかがポイントとなる。障害物にGrass(草地を模した平面)、山(斜面)、川(段差12mm)のほか、ゴール地点に気球(風船)があり、この気球を割ればゴールとなる。各障害物をクリアすると得点が与えられ、制限時間120秒間に最後の障害物までクリアできた場合には、差分の秒数が得点として加算されるルールだ。
この競技では「ソフトウェアとハードウェアの設計のバランスが重要になる。ソフトが良くてもハードの設計に難があると、それを最後まで吸収できない」(審査委員長 山本利一 氏)という。まずハードウェアの設計をしっかり考えてからソフトウェアを開発しないと、競技をクリアできないことが多いようだ。
たとえば、斜面のある山や段差のある川をクリアするためには、ホイールベースの大きさを変えたりするなど、機構部の安定性を工夫する必要がある。山の下り斜面では勢いが付きすぎてコースを外れてしまったり、川の段差に足(車輪)を取られて時間切れになってしまうロボットもあった。
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ロボットアドベンチャーの競技フィールド。制限時間120秒内に、草原、山、川、風船割りの順にクリアしていく。草原では行き先を見失ったり、山や川ではコースを外れたりと難所が続く
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山を登るライントレースロボット。山を一気に駆け上る十分なパワーが必要。ただし下りで勢いがつき過ぎてしまうと、コースから飛び出すこともある。ホイールの工夫も必要だ
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また、センサにもひと工夫が必要だ。ライントレースロボットでは、ラインをトレースするために光センサが用いられている。芝生の部分は緑色平面のため、センサの受光感度が悪くなる。そのため、芝生のエリアを抜け出る際に方向を見失わないように、センサの取り付け位置や間隔に注意しなければならないからだ。
中学生部門の国内予選大会では115組(199人)が出場。本決勝では19組(38人)によって入賞が争そわれた。この難関を排して、ゴール地点にある気球を割ることができた奈良教育大学附属中学校と横浜市立東永谷中学校の両チームが優勝・準優勝の栄誉に輝いた。
●試合結果
・第1位(国際大会進出決定):奈良教育大学附属中学校(大阪・同校)
・第2位(国際大会進出決定):ロボットS.K.U(神奈川・横浜市立東永谷中学校)
・第3位:横浜市立洋光台第二中学校(神奈川・同校)
・デザイン賞:The end(神奈川・横浜市立東永谷中学校)
・審査員特別賞:軽井沢中学校選抜チーム(神奈川・横浜市立軽井沢中学校)
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【動画】奈良教育大学附属中学校チームの競技の模様。大会初のボール割り成功で会場は大歓声。ボールはギア同士のかみ合わせで割る仕組みになっている
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【動画】2回目の競技でボール割りに成功したロボットS.K.U(神奈川・横浜市立東永谷中学校)の模様。1回目と機体の構造を変えたことが成功につながったという
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● 【シティーエンバイロメント(都市環境)】(高校生部門)
シティーエンバイロメント競技は、高校生向けに用意されたもので、最も難易度は高い。格子状のラインに沿って、ブレークゾーンにある3つの空き缶をつかんで、3分以内(最大4分間まで競技が可能だが減点の対象となる)に戻ってくるまでの時間を競うため、どちらかというとハードウェアよりもソフトウェアの開発に重点が置かれているようだ。
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高校生対象のシティーエンバイロメント競技フィールド。
格子上のラインに貼られた信号機シールの指示に従うようなアルゴリズムと、ブレークゾーンに置かれた空き缶のつかみ方がポイント
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たとえば、スタート地点は3カ所あるが、大会開始直前までどこがスタート地点になるかアナウンスされない。縦横にラインが交差する部分には、信号機の青いマークが貼られており、そこを通過する際には左右・直進というように指示に従って進行方向を変える必要がある。この信号機マークの配置も大会当日発表される。そのため、たとえスタート地点や信号機マークの位置が変わったとしても、センサで的確に判断して進めるようなアルゴリズムをつくることが求められる。
ハードウェアに関しては、缶の持ち方にいくつか違いが見られた。左右アームの手でグリップして運ぶタイプや、囲いをつくって缶を覆いかぶせてから引っ張りながら運ぶタイプに大別されていた。得点は交差点を信号機の指示通りに通過できたかどうか、空き缶をつかんで外に運び出せたか、最終地点まで空き缶を運べたかで判定される。
高学生部門の国内予選大会では116組(398人)が出場し、決勝では13組(30人)の参加チームによって入賞が争そわれた。試合結果は以下のとおり。入賞者はいずれも完走を果たしたチームが選出されたが、特に優勝した神奈川・磯子工業高校の「リッキー磯工」は第一・第二試技ともに完走を果たし、その技術の高さは目を見張るものがあった。
●試合結果
・第1位(国際大会進出決定):リッキー磯工(神奈川・磯子工業高校)
・第2位(国際大会進出決定):ΑΩ(神奈川・向の丘工業高校)
・第3位(国際大会進出決定):新人磯工(神奈川・磯子工業高校)
・デザイン賞:prosystem.s (栃木・宇都宮工業高校)
・審査員特別賞: BLACK★STAR(栃木・宇都宮工業高校)
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いかに缶をつかむか、ロボットによって機構部の工夫がなされている。写真は、上から缶を囲い込むようにして、引きずりながら運ぶ構造を採用
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2本のアームのグリップで缶をつかんで引き上げながら運ぶ構造。囲い込む方法の場合、缶を引きずる際にそれが倒れる恐れがある。アーム方式の場合も、運んでいる途中で缶を落とすことがあるので、どちらが有利かはケースバイケースだろう
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【動画】2回のトライアルともゴールに到達し、圧倒的な強さを見せ付けて優勝したリッキー磯工チーム(神奈川・磯子工業高校)。第一トライアルは27秒。第二トライアルは20.3秒。「速い、速い」と思わず司会者も大興奮
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● ●試合環境に合わせて、いかにプログラムを修正できるかが重要
最後に入賞チームの表彰式と、大会審査委員長の山本利一氏(埼玉大学教育学部教授)による講評が行なわれた。また入賞チームにはLEGOセットなどの豪華賞品も贈られた。
山本氏は「ロボットを持ってくるときは、移動中に壊れないようにケースなどで保護するように注意して欲しいと思う。大会では試走時にいかにプログラムを修正できるかが勝敗のポイントになった。プログラムも確実に動くプログラムや、一か八かで速く動くプログラムなどケースバイケースで用いて、試合の環境に対応できるようにしておくとよい。もしうまく動かない場合でも、すぐに元に戻せるような工夫も必要」と、国際大会へ進むチームや次大会を狙うチームに対してアドバイスを加えた。
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左から、大会審査委員長の山本利一氏(埼玉大学教育学部教授)、特別審査員の飯野賢治氏(クリエイター)、山田英徳氏(日本科学技術振興財団 参事/科学技術館副館長)
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大会審査委員長の山本利一氏の講評。「子供たちが能力を伸ばすための環境も大事」と、教育者や父兄にもアドバイス
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入賞者にはLEGOの最新キット「MINDSTORMS education nxt」や拡張セットなどが贈られた。トロフィーもREGOでつくられている凝り様
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小学生部門の優勝チーム、サンダーバード23号(富山)の表彰。nxtをゲットして喜びの声も。国際大会の進出も決定
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第2回までは国内の独自ルールに基づくものだったが、今回の大会から国際大会に則ったルールが採用された。ただし、照明環境は蛍光灯であり、ライントレースする際のセンサ感度の調整なども微妙に影響が出たようだ。
準備期間中はうまく競技をクリアできても、本番の試合では残念ながら本来の実力を発揮できないケースも多かった。しかし逆に、このような予測がつかない勝負が、ロボット競技の醍醐味のひとつでもあるようだ。今回、国際大会に駒を進めた日本代表チームには、ぜひ頑張ってもらって優勝できるように皆で応援したい。
・取材協力:科学技術館(日本科学技術振興財団)
■URL
WRO Japan 2006
http://www.wroj.org/2006/index.html
( 井上猛雄 )
2006/10/05 01:17
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