プロダクトデザインの専門雑誌『AXIS』が、六本木のアクシスギャラリーにて「21世紀のID展 ~インダストリアルデザインからインタラクションデザインへ」を開催している。同誌創刊25周年記念号(9月1日発売号)の特集記事との連動企画で、NECやNTTドコモ、日本IBM、日立製作所、富士通、ヤマハなど各企業のほか、慶應義塾大学や東京大学、九州大学など各関係研究室による、合計24個のインタラクションデザインのプロトタイプが展示されている。
一部展示は実際に触って体験することも可能だ。9月29日(金)~10月8日(日)までの11:00~19:00(最終日は17:00まで)に開催されており、入場は無料。各展示物を簡単に紹介する。
慶應義塾大学 稲陰研究室からは3点出展されている。『ポコムジィー(POCOMZ)』はインスタントメッセンジャーと連動する機能を持ったインテリア。特定のユーザーと照明を連動させたり、相手が聞いている音楽をBGMとして共有させることができる。お互いの存在を身の回りの空間の変化として捉えることを目指したという。
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ポコムジィー
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照明を通じてお互いの存在感を感じさせるインテリア
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同じく稲陰研究室からの出展『キディ』、『タビィ』は生き物のように動く照明器具プロジェクト「クリーチャーズ」の一環だという。『キディ(仔猫)』は音に反応して転がるフロアーランプで、『タビィ(雌猫)』は中に内蔵されたファンで膨らんだりしぼんだりするランプだ。特にタビィはそのまま居酒屋に置いてあっても違和感なさそうだ。
生き物のように動くプロダクトとなるとロボットが連想されるが、デザイナーの植木淳朗氏によれば、ロボットほど絶対的な「他者」としてあるものではなく、少し自分とは違ったリズムを持った存在、環境としてデザインされたものだという。インテリアに動きを持たせることで、単なるモノ以上の愛着感を抱かせる、あるいは存在感を醸し出すことを狙っている。
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『タビィ』と『キディ』
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『キディ』。声に反応してゴロゴロとホイールで転がるフロアーランプ
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【動画】『タビィ』。さわると柔らかく、より輝く
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照明系の展示は比較的多い。東京大学先端科学技術研究センター「木漏れ日のディスプレイ」を出展。自然光を光源にした照明で、高速にオン/オフできる液晶フィルムをフィルターとして使うことで木漏れ日のような効果を出している。
ユニオンは「シャワー・オブ・ライト」を出展。水栓金具のようなハンドルを回すことで明るさを調整するフロアスタンド。光を水のシャワーのように浴びるという感覚を持ってもらうためのデザイン。
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「木漏れ日のディスプレイ」
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「シャワー・オブ・ライト」
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NECからは『言花(ことはな)』と『アクシーズ(AXES)』という2つのプロトタイプを展示。『言花』は花をモチーフにした情報端末で、人間の音声を解析して感情に応じて色を変化させて相手にフィーリングを伝える。
『アクシーズ』は検索結果提示インターフェイス提案の1つで、よりアナログな感覚で検索結果を徐々に絞り込んでいけるようなデバイスとしてデザインされているという。片手で握って周囲のスイッチを操りつつ、もう片方の手でディスプレイをタッチするようにして操作する、といったシーンが想定されているようだ。
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「言花」
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「アクシーズ」。動作イメージのビデオとモックアップ
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富士通は『ユビキタスショップ・プロジェクト・タコマ』からモックアップを出展。ウェアラブル・パーソナル・ショッピング・デバイス「ブラウザー」と、顧客にアドバイスとしたり在庫検索を素早く行なう「リスト・デジタル・アシスタント」の2つのモックアップで、RFIDが普及した近未来のショップでのインターフェイスデザインを提案している。
日立製作所はコンテンツ視聴システム「IKESU」を出展。魚を泳ぐ生け簀に見立てたインターフェイスで、生け簀のなかを流れている曲のアイコンを掴んで中央の円にドラッグアンドドロップするとその音楽が再生される。またランダムに円のなかに曲が入ってくることもあり、プレイリストのマンネリ化を防ぐ。生け簀の入り口と出口の大きさは任意に変更できる。
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ユビキタスショップ・プロジェクト・タコマ
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関連のモックアップ
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「ブラウザー」。顧客が店のなかでカタログを閲覧したり検索するためのデバイス
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「リスト・デジタル・アシスタント」
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コンテンツ視聴システム「IKESU」
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【動画】動作の様子
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リコーは創造支援型ミーティングツール「インタラクティブステーション」のデモモデルを展示している。複数人がドキュメントを共有しながらミーティングするときに使うためのテーブル。
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ミーティングツール「インタラクティブステーション」
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インタラクティブステーションの画面
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【動画】動作イメージ
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「ojama(おじゃま)」
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エレコムは別のユーザーがPCに対して「お邪魔する」というコンセプトのマウス「ojama(おじゃま)」を出展している。これも複数人が作業するためのアプローチの1つだ。上下2枚のプレートから構成されていて、すり合わせて使用する。
NTTドコモからは『Yubi-Wa(指話)』が出展されている。骨電動で会話したり、指をポンポンと合わせたときの振動を検知して家電の電源をオン/オフできるデバイスだ。最近はテレビコマーシャルも流されているのでご覧になった方も多いはず。
またユビキタスネットワーク研究所は「新トロンキーボード」を出展している。以前のものに比べてモバイルでの利用を想定しているという。
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『Yubi-Wa(指話)』
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開発者の福本雅朗氏がスタッフを相手にデモンストレーション中
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新トロンキーボード
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ソニーは「スケール」と「シンセサイザー」を出展している。「スケール」は物理的なオブジェクトと仮想のオブジェクトの関係性を感じさせるためのツール。小さな物体をデジタルスケールの上に置くと自動的にデジカメで撮影して「スケール」のなかに取り込む。左側のディスプレイでは取り込んだ物体を、質量に応じて沈み込みや滑り方の違いで表現。また関係のあるものをバネで繋ぐこともできる。
「シンセサイザー」はAV機器の機能を階層化せずに操作するためのインターフェイスの提案を、モーショングラフィックス操作をテーマに示した一例。ビジュアルの大きさや速度などを直感的に操作できる。ビデオジョッキー向けか。
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「スケール」
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【動画】動作の様子
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「シンセサイザー」
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九州大学・富松研究室「フレクトリック・ドラムス」は人の手や肌をさわることで音を奏でることができる楽器。演奏者たちはドラムになるか演奏する側になるかを選んだら、手にそれぞれ指輪型のリングをはめる。あとは手、あるいは体のどこかを接触させると音が出る。音色は変化させることもできる。
原理は単純で、体脂肪計やウソ発見器同様、皮膚の電気抵抗の変化を計測する仕組みだ。もともとは演奏者と聴衆を互いにスキンシップさせることを狙ったものだという。
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「フレクトリック・ドラムス」
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演奏の様子
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ヤマハは「EZ-JAZZ Piano」を出展している。EZトランペットそのほか、一連のEZシリーズの1つのプロトタイプ。簡単なコードを弾くだけでセッションが楽しめる、というが、やはり経験がないと難しい。表面には静電容量スイッチを採用している。
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「EZ-JAZZ Piano」
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足元にも青いライトが光る
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慶應義塾大学 奥出研究室は「パラビー」を出展している。右側にインストラクター、左側に自分自身の映像が実物大で投影され、それを見ながらダンスをするというもの。「初心者から上級者まで、気軽にダンスを楽しめるエンターテイメントメディア」とされているのだが、これもEZ-Jazz Piano同様で、ダンス経験者でないとまず無理。ダンス教室などでは使えるかもしれない? なお小型ビューワーを使うと、より客観的に自分自身の動きを見つめられるようになるという。
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パラビー
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パラビーのインターフェイス画面
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東京大学+NTTコミュニケーション科学基礎研究所は「テーブルスケープ・プラス」を出展している。東大・苗村研究室との共同研究で、パネルをテーブルの上におくと、テーブル下のカメラでパネルのID情報などを取得してプロジェクターが映像を提示する。ゲーム、教育、シミュレーション、アートなどの応用を考えているという。
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「テーブルスケープ・プラス」
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【動画】動作の様子
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日本アイ・ビー・エムは「デジタルリビング」と「感性携帯」を出展。デジタルリビングは音や映像、照明でリラックスを促す。個々の操作を意識しないで自動的に変化させることを目指しているという。感性携帯は送信者の感情を光の色で提示する携帯電話の提案。
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IBMのデジタルリビング
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感性携帯
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三洋電機はニッケル水素電池「エネループ」を中心とした「エネループ・ユニバース・プロジェクト」を展示している。鼻の発光状態で残量を知らせる犬型の電池チェッカーと、USB経由で携帯電話に充電できる太陽電池だ。
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犬型の電池チェッカー
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USB経由で携帯電話に充電できる太陽電池
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デンソーは車のメーターの提案「ハイブリッドクリーン」と「スウィート・エイティーズ・スプラッシュ」を出展している。機能だけではなく官能面での価値向上を目指した提案だという。「ハイブリッドクリーン」はハイブリッド車のためのメーター。モーターとエンジンの出力配分がモビールのように揺れ動く。「スウィート・エイティーズ・スプラッシュ」は速度の数値を2進法で表現した速度計。
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「スウィート・エイティーズ・スプラッシュ」
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「ハイブリッドクリーン」
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アクシスでは展示にあたって、できるだけ楽しそうなプロダクトを選んだという。残念ながら全てのプロダクトを触って体験できるわけではないが、確かに楽しそうなものが多い。入場は無料なので気軽に来場するといいだろう。デザイナー本人が来場していることもある。
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会場には『AXIS』誌閲覧コーナーもある
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「21世紀のID」特集
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■URL
アクシス
http://www.axisinc.co.jp/
「21世紀のID展 ~インダストリアルデザインからインタラクションデザインへ」
http://www.axisinc.co.jp/25th/index.html
( 森山和道 )
2006/10/03 17:48
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