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会場内には所狭しと大量のブースが並んでいる
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国内最大規模の産学マッチングイベント「イノベーション・ジャパン2006―大学見本市」が東京・有楽町にある東京国際フォーラムで開催されている。日程は9月13日~15日。主催は独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。
「持続的なイノベーション創出が実現される社会」を目指し、各大学ならびに大学発ベンチャーによる、ものづくり、IT、ナノテク・材料、バイオ・アグリ、医療など、技術移転を望む各種研究成果が展示され、関心のある企業とのマッチングが行なわれている。出展団体数は366で、過去最大規模だという。
いくつかロボット技術を活用した展示もいくつか行なわれていたのでレポートする。
● 医療・健康分野
まず目立ったのが、医療・健康分野へのロボット技術応用だ。次世代電動車椅子、自立支援、介護支援のほか、診断技術への応用などもあった。
東京工業大学大学院 総合理工学研究科 メカノマイクロ工学専攻 助教授の小俣透氏らは「医療福祉に役立つロボットハンド技術」として低侵襲手術用体腔内ハンドを展示。モーターなどは使わず、通常の鉗子とロボットハンドを組み合わせたもので、モーターなどのアクチュエータは使わずあくまで手術者の手の延長として用いる。
また同研究室ではこのほか「把持力増大機構を有する電動義手」、100Nを超える把持力を86gの機構で実現した「大把持力を得る直動機構」のパネル展示とデモを行なっている。「リンク式負荷感応型無段変速機」と名づけられた機構を使った俊敏かつ力強い指のための研究だが、アプリケーションを模索中だという。
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東京工業大学大学院 総合理工学研究科 メカノマイクロ工学専攻 助教授の小俣透氏らによる「医療福祉に役立つロボットハンド技術」
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同、電動義手
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同、大把持力を得る直動機構
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早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 生命医療工学研究所 助教授 岩田浩康氏らは、「脳麻痺患者のためのウェアラブル歩行リバビリ支援装置」として、脳卒中などで半身麻痺になった患者の早期リハビリ用機器を出展。麻痺した患者は片側の情報を得ることができないのでどうしても姿勢が崩れる。
そこで、足底に力センサをつけてやり、接地情報を麻痺してない半身のほうに返してやることで歩行リハビリの支援をしようというものだ。このほか、力センサを市販の杖につけた、同じく歩行補助リハビリ支援を行なう杖を出展していた。
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早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 生命医療工学研究所 助教授 岩田浩康氏らによる「脳麻痺患者のためのウェアラブル歩行リバビリ支援装置」
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使用イメージ
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杖あり歩行訓練補助装具「力センサ杖」
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埼玉工業大学 工学部 機械工学科 助教授の和田正義氏らは、「段差に強く、操作性の良い全方向電動車椅子の研究開発」として、全方向移動システムをデモ展示している。3つのアクチュエータを使った4WD機構で、車椅子本体の向きはそのままで、下部の車輪部分だけをすーっと直感的に動かすことができる。4WDにしたことで、従来型の3倍くらいの踏破能力があるという。
なお同大学ではヒューマン・ロボット学科誕生に合わせて、来月10月8日(日曜)に公開シンポジウム「ロボットエキスポ2006 ~人間とロボット~」を実施する予定だ。同大のロボット研究展示はもちろん、そのほかロボコン博士と知られる森政弘氏の講演、榊原機械の「LAND WALKER」のデモ展示が行なわれるという。大学祭2日目にあたるとのことなので、かなり賑わいそうだ。
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【動画】埼玉工業大学 工学部 機械工学科 助教授の和田正義氏による3輪全方向移動ロボットのデモ。「能動キャスタ機構」を持ち操作性に優れる
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【動画】車椅子ように小型化したシステムのデモ。上の部分の向きは変わらないまま下の駆動部分が全方向移動する
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目標は、踏破性能・操作性が高い4WD全方向移動車椅子
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東京農工大学大学院共生科学技術研究院 先端生物システム学部門 助教授の桝田晃司氏らは、「延命率向上のための移動体内での遠隔超音波診断システム」をデモ展示している。遠隔操縦できる超音波診断ロボットで、パラレル型の構造。救急車内で医師が遠隔診断できれば延命率向上が期待できるという。ロボットの制御技術だけではなく、画像処理によって断層画像を自動認識する技術も組み込まれているそうだ。
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救急車や遠隔地に置かれる超音波診断ロボット(スレーブ側)。モータは9個
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マスター側。ワイヤー駆動型操作インターフェイスで中心のハンドルを握って操作
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断層像取得からロボット制御への流れ
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【動画】デモの様子。画面は遅延を可視化し予測制御するための画像
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同志社大学工学部 エネルギー機械工学科教授の横川隆一氏らは「屋内通信ネットワークを用いた分散協調型自立支援ロボットシステム」をデモ展示。このシステムを使えば、単独ロボットの機能はシンプルにして複数台が協調して動作するロボットシステムを構築できるという。用途は介護や見守りを考えている。
また、同研究室では、「ネオカデン」と呼ぶ、ロボットと家電技術とネットワーク技術を組み合わせたような、ロボット端末アーキテクチャ技術を研究している。
同志社大学工学部 機械システム工学科 教授の辻内伸好氏らは「空気圧駆動能動義手とハプティックインターフェイス」を出展。従来のマッキベン型と呼ばれる空気圧アクチュエータよりも柔軟性や応答性が高く制御もしやすい点が特徴だという。たとえばラボのなかでのドラフト内作業用アームとしても使えるのではないかと考えているそうだ。
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【動画】「屋内通信ネットワークを用いた分散協調型自立支援ロボットシステム」。これは3台の歩行支援ロボットを組み合わせて使っている例
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【動画】空気圧駆動能動義手
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広島大学大学院 保健学研究科保健学専攻 心身機能生活制御科学講座 教授の浦辺幸夫氏らは「足関節自動運動装置の開発」をデモ展示している。歩行を維持するためには足首の柔軟性を維持することが重要だ。そのために、電動で足関節を受動的に動かして動的ストレッチングを行ない、リハビリや健康維持をはかろうとする器具だ。これからのニーズが期待される。少し工夫すれば、ダイエットなど他の用途にも応用ができそうに思えた。
高知工科大学工学部総合研究所教授の横川明氏らは「起立・着座・旋回移動支援機」を出展。肘をつけて起立しやすくした平行棒付きの自動旋回円盤が特徴で、平行棒を握って立てる人であれば、介助無しで自力で移動して用便できるという。
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足関節自動運動装置「らっくんウォークR-1」
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起立・着座・旋回移動支援機
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● そのほか
イノベーションジャパンには、大学発ベンチャー会社も出展している。そのほか目に付いたものと一緒に紹介する。
うなずきロボットの研究で知られる渡辺富夫・岡山県立大学情報工学部教授の研究をベースに立ち上げられたインタロボット株式会社はロボットあるいはエージェントをインターフェイスとした対話型インターフェイス、コミュニケーションの研究を行なっている。
同社の技術「iRT」は音声のオンオフと振幅のみからキャラクタの動作を自動生成できる。現在は受託研究開発の業務が多いという。
電通大ベンチャーの株式会社アプライド・マイクロシステムズは圧電素子で駆動する小型ロボットを出展している。従来のものは圧電素子と電磁石を組み合わせた磁気駆動だったが、電子顕微鏡内の真空チャンバなどでも活躍できるように慣性駆動のみのタイプも新規開発した。
現在は0.1~数100ピコリットル程度の微小液滴塗布システムをターゲットとしているという。用途はタンパク質やDNAの分注、接着剤・半田ペーストの塗布、液晶パネルの断線修理。
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インタロボットの対話システムを組み込んだ案内端末の例
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アプライド・マイクロシステムズの超小型ロボットシステム
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パルスデトネーションロケット。筑波大学のほかJAXA、IHIエアロスペースエンジニアリングとの共同開発
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筑波大学大学院システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻 笠原研究室では、パルスデトネーションロケット「とどろき」を出展。パルスデトネーションとは、デトネーション波を間歇的に発生させて水力を得るエンジンで、次世代航空宇宙用推進器として注目されているという。構造を単純にできることと熱効率が高くできることが特徴だそうだ。
基本的に理工系の展示ばかりのなかでかなり異色だったのが筑波大学芸術専門学群デザイン専攻の4年生・富田美智子氏による「てるてるコーン」だ。工事現場に置かれているコーンに、ゆらゆら揺れる頭をかぶせたもの。
中にはバネが入っているだけで能動的なアクチュエータが組み込まれているわけではない。ゆらゆらと揺れるだけだが、なんとも愛嬌のある動きだ。なお、雨が降ると内部に雨水がたまって重みで下にうつむくそうだ。
現在は筑波大学やつくば市から出る廃棄プラスチックを再利用してこのコーンに蘇らせる循環システム実現に向けて活動中だという。
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てるてるコーン
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てるてるコーンの内部
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【動画】てるてるコーンの動き
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バーチャルサッカーロボットキット「OZED」
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日本知能情報ファジィ学会のブースでは電気通信大学システム工学科助手の西野順二氏によって開発されたバーチャルサッカーロボットキット「OZED」がデモされている。多次元ファジィ技術を応用したソフトウェアで、気軽に中学生でもロボカップのシミュレーションリーグのようなことができることを目標として開発されたものだという。
西野氏が開発した多次元ファジィ集合の計算を容易にする「このへんファジィ」エンジンによって、フローチャート型のプログラム構造を考えなくても、直感的に各プレイヤーの動きを決めることができる。フィールドのどのあたりにいたらボールに対してどういうアクションをとるか、といったことを、適当にクリックして指定していくだけで組むことができるのだ。
従来のファジィでは一次元軸上の三角型集合を組み合わせてモデルを表現していたのだが、それでは柔軟な表現はできず煩雑になってしまっていた。それをシンプルに一つのファジィ集合で表現する「多次元ファジィ」へと拡張することで、直感的に操作できるようになったという。なお西野氏は経産省とIPAによる未踏プロジェクトが認定した「天才プログラマー」の一人。
この手法は基本的には多次元の問題に対しては何にでも応用が可能なので、たとえばロボットアームの動きを「だいたいこんな感じ」と抽象的な形で与えるといった用途や、ユーザインターフェイスや情報検索技術にも応用可能だという。大変面白い技術だ。
このほかにも多数の技術が出展されている。また、パネルディスカッションやセミナーも多数開催されている。
■URL
イノベーション・ジャパン2006
http://expo.nikkeibp.co.jp/innovation/
( 森山和道 )
2006/09/14 18:29
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