2006年6月24日~25日、宮城県仙台市 仙台市科学館にて、「知能ロボットコンテスト・フェスティバル2006」が行なわれた。知能ロボットコンテスト・フェスティバルは、中学生以上が主に参加する「第18回知能ロボットコンテスト」と、小学校の中学年以上を主な対象とした「ロボコンジュニア2006」の2つの競技からなり、小学生から社会人まで、幅広い年齢層の参加者が集まる大会である。
大会のメインは、今年で第18回目となる知能ロボットコンテスト。本コンテストの競技内容は競技台上に配置されたボールや空き缶などのオブジェクトを対応するゴールに入れるというシンプルなものであるが、ロボットの動作はマイコン等で完全に自動で行なわなければならない。そのため、ロボットをいかにプログラミングするかというのが参加者の腕の見せ所の1つであり、知能ロボットコンテストの『知能』たるゆえんである。
競技は、オブジェクトとして3色各5個のスポンジボールを用いるチャレンジコースと、テニスボールと空き缶、せっけん箱を用いるテクニカルコースの2つのコースからなる。どちらのコースも一次予選においては競技点のみで順位が決定するが、二次予選と決勝ではロボットのパフォーマンス性や技術性などを評価する審査員点が加算される。そのため、知能ロボコンでは他のロボコンではあまり見られないような、デザインや動きの面白さに(無駄に)こだわったり、あえて(マニアックに)困難なテーマに挑戦したりするロボットが多い。本レポートでは、そんな才色兼備のロボットたちの活躍をお届けする。
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チャレンジコースでは3色のスポンジボール各5個ずつが競技台上にランダムに配置。色に対応したゴールにボールを入れると3点、違う色のゴールに入れると1点。その他に競技台上の任意の位置に置くことが可能な自由ボールが1つあり、これをゴールすると5点。競技点50点、審査員点50点の計100点満点で争われる
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テクニカルコースではオブジェクトとしてテニスボールと空き缶、せっけん箱が配置される。空き缶と箱は対応したゴールに入れると6点、ボールは4点。ゴールを間違えた場合でも1点が加算される。自由ボールはボールに対応したゴールに入れることで4点になる。競技点80点、審査点20点で争われる
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ロボコンジュニアではプラモデルのように簡単に製作が可能なロボット『梵天丸』を用いる。プログラムもひらがなで書くことができ、小学生でも簡単にプログラミングが可能
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女の子がお母さんと一緒にロボットを組み立てる姿も。ロボット製作の経験がなくても、「メカトロで遊ぶ会」のメンバーがその場で講習を行ない、随時指導をしてくれるため、すぐにロボコンジュニアの競技に参加することができる
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● チャレンジコースは一進一退の激戦!
今年のチャレンジコースは過去最高である84ものチームがエントリーし、競技の方も一次予選、二次予選、決勝と次々に順位が入れ替わる、まさに一進一退の激戦区となった。
一次予選を1位通過したのは、東京農工大学ロボット研究会R.U.R.チーム「R.U.R-K」のロボット「低気圧Girl」。まさに「低気圧」の名に相応しい轟音を会場内に響かせながら、ロボット内部に取り付けられたファンを回転させ、競技台上のボールを見る見るうちに吸い取っていく。このように内部にすべてのボールを取り込むタイプの機体は、内部にボールを詰まらせてしまうというトラブルがよく起こるのだが、「低気圧Girl」ではボールの排出口にボールが来ない場合には、ファンを回したり、底板を動かしたりしてボールのつまりを回避する細やかな工夫がなされていて、その巨体と迫力からは意外なほど繊細に、1つずつ確実に色の判別とゴールを繰り返した。
その「低気圧Girl」とは対照的なサイズと機構で、二次予選を1位通過したのは、昨年度のテクニカルコースにおいて準優勝を果たしたロボット「村田ビル」の血を引く、東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「モノアイ研究課」のロボット「カレー大+チキンカツ」。両手に載るほどのサイズの機体には、「昨年の賞品です」というステッピングモータが足回りに使われ、高い機動性が実現されている。また、内部にはPCのチップファンにカセットコンロ用のガスボンベのキャップを取り付けた、ボールの射出機構が。そのような身近なパーツを用いた機構ながら、安定した見事なシュートを次々披露、競技台上のボールが次々ゴールに吸い込まれていく。
しかしながら、決勝の舞台で栄冠を勝ち取ったのは、一次予選、二次予選ともにじっと息を潜めていた東北大学工学部自主ゼミナール協議会、村松尚氏のロボット「BRONTES」。このロボットに搭載されているセンサは、上部に取り付けられたWebカメラ一台のみ。そのカメラを上下左右に動かして得られた画像情報をもとに、競技台のライントレースからボールの認識、ボールの色の判別までのすべて行なった技術力が高く評価された。また、ロボット本体の制御にマイコンではなく、ゲームボーイアドバンスSPを用いている点も、このロボットのユニークな点。画像処理を外部のノートPCで行ない、その結果をゲームボーイアドバンスSPに送ることによって、ロボットを駆動している。
予選の競技時間は5分間だが、決勝の競技時間は10分。この点も「BRONTES」には幸を奏した。「BRONTES」は10分間の競技時間をほぼ使い切って、黙々とボールをゴールへ運び、すべてのボールを正しいゴールに入れるパーフェクトを達成した。実は「低気圧Girl」も決勝戦でパーフェクトを達成、しかも競技時間を6分以上残した状態でのパーフェクトだったのだが、「BRONTES」のWebカメラ一台のみでのチャレンジが審査員の高い評価を得て、僅差ながらチャレンジコース優勝の栄冠を勝ち取った。
このように、多数のロボットが接戦を繰り広げたチャレンジコースに対し、今年のテクニカルコースはエントリー数が13と少なく、また決勝においてすら80点満点の競技点での最高得点が、田中(真)研究室のロボット「JIMMY」による24点と伸び悩んだ。そのため、今年はテクニカルコースの優勝、及び本大会でもっとも名誉ある賞である最優秀技術賞は「該当なし」という、競技者のみならず審査員においても、寂しい結果となってしまった。
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【動画】見る見るうちにボールを吸い込み、一次予選を1位で通過した東京農工大学ロボット研究会R.U.R.チーム「R.U.R-K」のロボット「低気圧Girl」。一気に取り込んだ後には、排出口に取り付けられたカップに1つずつボールを入れ、色判別を行なう
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上部に取り付けられたファンを回すことによってロボット内部を低気圧にし、ボールを吸い込むところから『低気圧Girl』の名が。実はこの上半分は、空を飛ぶロボットとして作られたもので、その名残りを見ることができる
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【動画】二次予選1位通過の、東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「モノアイ研究課」のロボット「カレー大+チキンカツ」。ロボット前面に取り付けられたPSDセンサでボールを発見し、ハンド内部にある緑と白のLEDと反射光の強さを測るCDSを用いてボールの色を判別
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【動画】チャレンジコース優勝の東北大学工学部自主ゼミナール協議会、村松尚氏のロボット「BRONTES」。ボールを前方に抱えてカメラを上下左右に動かしながら移動していく姿は、どことなく生物らしさを感じさせる
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ロボットの上部に見えるのは、なんとゲームボーイアドバンスSP。画像処理は外部のノートPCで行ない、その情報をGBA SPに送信、マイコンの代わりにGBA SPがロボットの制御を行なっている
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● 可愛くなければロボットじゃない?!
先にも述べたようにこの知能ロボットコンテストでは、競技による得点だけではなく、技術性やパフォーマンス性、芸術性などをもとに審査員が採点する審査員点が存在する。また、二次予選には競技で高得点を出したロボットだけではなく、実行委員会によって選出される推薦枠のロボットも進出する。そのため、ロボットの機能だけではなく、見た目にもこだわったロボットも多数出場し、会場の目を楽しませていた。
例えば東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「のんた」のロボット「真夏のサンタクロース」。ロボット内の回転部分にサンタクロースの人形が取り付けられており、その部分が回転するとともにボールを巻き込み、サンタクロースがボールを抱える、という女性チームならではの可愛い演出が施されている。しかしながら真夏ではサンタクロースも力を出せなかったのか、残念ながら二次予選にその姿を披露することは叶わなかった。
名古屋工大ロボコン工房のロボット「クロコ」と「エコノミークラス」は、どちらも細部まで丁寧に作り込まれたワニとクワガタの外装がそれぞれ印象的。ロボット内部の機構は「クロコ」も「エコノミークラス」もオーソドックスなものだが、外装の効果もあってか、他のロボットよりもどことなくユーモラスで生物的な動きのようなイメージを受ける。「エコノミークラス」は二次予選にも進出し、身体を揺らしながらハサミでボールをはさんで運ぶ姿は、観客の子供達の注目を集めていた。
一次予選後の敗者復活戦を突破し、さらに二次予選も突破して決勝に進出するという、見た目の可愛らしさのみならず勝負強さをも見せたのが田中(真)研究室、チーム「UMA探検隊」のロボット「ネス」。ネッシーを模した(?)恐竜型の青い機体が、床面をついばむようにしてボールをかぷっとひと呑みにし、お尻から発射! というシュールな動作ながら、二次予選では精度の高いシュートを見事決め、上位ロボットに迫る高得点をマークした。
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東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「のんた」のロボット「真夏のサンタクロース」。ちなみに自主ゼミナール協議会のロボットに貼られている「T-semi公認・非公認」シールの区別は、直前までに自由ボールを得点できるか否かで決まるそうだ
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同じく初日で姿を消してしまったが、ワニがボールをくわえて吐き出す姿が子供達の歓声を誘った名古屋工大ロボコン工房のロボット「クロコ」。車輪のホイールも緑色で統一するという芸の細かさ
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【動画】「クロコ」と同じく名古屋工大ロボコン工房、「チームエコ」のロボット「エコノミークラス」。内部のメカはよく見るタイプのものだが、クワガタの外装が、ロボットの動きをなんだか生物っぽく見せている
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【動画】東北大田中(真)研究室のチーム「UMA探検隊」のロボット「ネス」。首の上げ下ろしと口の開け閉めはリンク機構を用いることで1つのモータで駆動。また、ボールの射出機構はミニ四駆のシャーシをそのまま利用して作られている
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● これぞロボットのロマン!
今回取材していて一番印象深かったのが、「どうしてこの構造にしたんですか?」と質問したときに競技者の方が答えてくれた一言、「だって面白いじゃないですか」。そんな競技者の夢とロマンがつぎ込まれたロボット達は、ときに観客のみならず、同じ競技者や実行委員会のスタッフまでもが大歓声を上げるパフォーマンスを見せてくれた。
「徹底して『走る』ということだけを考えて、試合に勝つということを目的としていないロボット」と言い切ったのは、東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「TTT」のロボット「Lupinus」。ロボットの4つの脚にはそれぞれ、4足歩行時に用いられる足裏の他に、DCモータによって駆動される車輪が取り付けられている。この2つを切り替えることで、車輪による高速移動と脚による段差の踏破を行ない、高い機動性の実現を狙っているのである。残念ながら競技ではその変形を見せることはなかったが、決勝戦後のデモンストレーションでは、その機構の解説と歩行の実演を披露した。
同じく東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「DON SIMON」のロボット「Spawn」は、2台の子機を備えた親子型ロボット。ボールの配置場所周辺まで進んだところで、親機の中から2台の子機が姿を現し、メジャーを引っ張って競技台上のボールを親機の前方に来るように寄せる。寄せられたボールを親機が回収すると、子機は回転してメジャーを離し、メジャーは自然に親機の内部へ巻き取られるという寸法だ。回収されたボールは、親機がまとめて1つのゴールへと得点する。色の判別をしない分、高得点は狙えないが、確実に競技点を取る作戦と言える。
テクニカルコースの競技に出場して会場の度肝を抜いたのが、東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「Gomer Pyles」のロボット「Bushyansta」。「機動性を完全に捨て去り、アームの長さに特化した」というこのロボット、競技開始直後に競技台中央に陣取って折り畳んであったアームをゆっくり広げると、ゲームセンターのクレーンゲームを髣髴とさせる動きでアーム先端からワイヤでぶら下げられたハンドを降ろし、オブジェクトをつかみにかかる。アームがたわむのを防ぐためにハンドとは反対の端にはカウンターウェイトを取り付け、ハンド先端に搭載したカメラでアームの長さに応じて大きくなるバックラッシュなどの影響による誤差を補正するなど、競技台よりも長い2mを越す長さのアームを搭載するために苦心した跡が随所に見られる。
「回ったら楽しいじゃないですか。遊園地の遊具みたいで」との言葉通り、華やかで夢のある機体と演出で会場を沸かせてくれたのが、「もやねのアトリエ」のロボット「ぐるりんぱ」。カラフルなアクリルとイルミネーションで彩られた機体が競技台の中央に移動すると、ブランコのような3つのアームがくるくると回転しながら競技台上へ下降し、ボールを1つずつすくい取っていく。決勝では惜しくもその真価を見せることができなかったが、二次予選では最後に「蛍の光」を演奏するという演出で会場と審査員に「ぐるりんぱ」の世界をアピールした。
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脚と車輪のハイブリッド移動に挑戦した東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「TTT」のロボット「Lupinus」。東工大広瀬研のロボット「Roller-Walker」と構造は似ているが、意識して作ったわけではないそうだ
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同じく東北大学工学部自主ゼミナール協議会、チーム「DON SIMON」のロボット「Spawn」。このチームのメンバーは3人とも東北大の留学生で編成された国際チーム、今回が初めてのロボコン挑戦とか
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【動画】テクニカルコースに出場した同じ東北大学工学部自主ゼミナール、チーム「Gomer Pyles」のロボット「Bushyansta」。初披露となった一次予選では、その変形っぷりに会場がどよめきに包まれた
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【動画】会場を大いに沸かせた「もやねのアトリエ」のロボット「ぐるりんぱ」。アームのリンクももともとは金属で作っていたものを「綺麗だから」との理由でわざわざ強度の低い透明アクリルに変更したというこだわりが
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● 実行委員会、競技者、観客が一体となって創る、まさに「フェスティバル」
ここまで競技やロボットについてずっと紹介してきたが、この知能ロボットコンテストの一番の特徴は実行委員会と競技者、そして観客との距離が非常に近いこと。会場の大きなフロアには競技台と観客席、そしてロボットの調整スペースが同居して、競技者同士はもちろん、観客までもが気になるロボットの調整スペースに赴き、製作者から説明を聞き、間近でロボットを見ることができる。競技者同士の交流が来年のロボット製作への刺激となり、また、観客の中から来年の競技者が生まれるきっかけを作っている。
さらにそこへアットホームな雰囲気を作り出しているのは、この知能ロボットコンテスト実行委員会の遊び心。二次予選突破の最後の一枠をかけて、実行委員長である東北学院大の熊谷助教授と競技者が一斉にジャンケンを行なったり、また二次予選の審査員を一般から募集したりと、競技者にも観客にも楽しんでもらおうとさまざまな趣向を凝らしていた。実行委員会の仕事はすべてボランティア、それでも少数精鋭でこれだけの規模の大会をハンドリングしている様子には、知能ロボットコンテストへの強い情熱が感じられる。
その実行委員会を後押しするのが、先に紹介した「ぐるりんぱ」など毎年手塩にかけたロボットを持ち寄る、知能ロボコン「常連」と呼ばれる競技者の存在である。競技そのもののみならず、「どれだけ観客を楽しませるか」、「どれだけ拍手をもらうか」という、知能ロボコンならではの醍醐味に魅せられた彼らは、個人で長い歳月と手間(と資金)をかけてロボットを組み上げ、晴れの舞台へと連れてくるのである。競技者の中には自分のWeb上でロボットの製作過程を公開している人もおり、そこでの交流がまた新たなロボット開発を後押ししている。
競技者同士の交流によって新たなアイディアのロボットが生み出され、観客との交流によって次の世代の競技者が生み出される。今年で18回を数える知能ロボットコンテストの、決して古くならず常に進化し続けるそのパワーを見せつけられた、2日間の取材であった。
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審査員の1人である千葉工大未来ロボティクス研究科の中野榮二教授も、調整スペースを回って気になるロボットを見つけては熱心に意見交換
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二次予選出場の最後の一枠をかけて、実行委員長である東北学院大の熊谷正朗助教授と競技者がジャンケンを行なう、という一幕も
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競技の合間を縫っては、傷ついた競技台を実行委員会が総出で修理。競技に影響が出ないようにと、必死の修理が行なわれる
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決勝戦後のデモンストレーションでは、競技者のみならず、マイロボット持参で「ぜひ自分のロボットを見てもらいたい!」と飛び入り参加する観客も。マスタースレーブ方式の脚型? ロボットをアピール
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■URL
知能ロボットコンテスト
http://www.inrof.org/irc/
( baby touch )
2006/06/30 18:53
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