6月14日、社団法人日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)は、「ロボットを通じて見る未来~次世代ロボット産業はソフトウェア次第~」と題した講演会を、ホテルオークラにて行なった。
同協会の第21回通常総会に合わせ「JPSA設立20周年記念特別講演」として実施されたもの。
講演者は、千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター(fuRo)室長の先川原正浩氏と、三菱重工業株式会社 神戸造船所 先端機械・宇宙部 先端機械設計課 主任で「wakamaru」プロジェクトリーダーの日浦亮太氏。
日浦氏の講演中には、三菱重工業のコミュニケーションロボット「wakamaru」の実演も行なわれた。その模様をレポートする。
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千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター(fuRo)室長 先川原正浩氏
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まず、「次世代ロボット概論~次世代ロボット産業はソフトウェア次第~」と題して、先川原正浩氏が講演を行なった。
先川原氏はオーム社にてロボット専門雑誌『ロボコンマガジン』編集長を務めたあと、2003年5月に退社。同年6月にfuRo設立と同時に室長として就任した。小型二足歩行ロボットの格闘技大会「ROBO-ONE」委員会副代表のほか、かわさきロボット競技大会やマイクロマウス競技大会などの実行委員等のほか、日本ロボット学会事業計画委員会委員を務めている。
先川原氏は、ロボットとは人間型に限らず「知的な機械」の総称であり、車やエアコン、家、デジカメなどもロボットだと言えると講演を始め、まず「ロボコンマガジン」誌や、ROBO-ONEのビデオを見せて、ホビーストによるロボットのレベルを来場者に紹介した。来場者の多くはROBO-ONEを見たことがないようで、会場からはどよめきが漏れていた。
続けて産業用ロボットの現状事例や、2025年で6兆、8兆と言われている次世代ロボット市場の展望を示し、今後は今の自動車産業と同じ様な産業構造があり得ると語った。
また、産総研が推進しているロボット・テクノロジー・ミドルウェア「OpenRTM」の取り組みに見られるような、RFIDの活用やさまざまなデバイスをシームレスに繋ぐユビキタス技術が進展すれば、ロボットはより知的に振る舞うことができる。たとえばドアノブにRFIDが仕込まれていれば、ロボットは視覚などを用いなくてもドアノブの位置を把握できる。
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知的な機械の総称がロボットであり、それを支えるのがロボティクス
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将来のロボット市場規模予想。現状、既に予想からズレ始めている
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OpenRTM-aist
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ICタグ技術とロボットをミドルウェアで結合
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その後先川原氏は、morph3やWINDシステム、小柳副所長のレスキューロボットなど、fuRoの活動と目的を紹介した。fuRoのロボットはセンサーやアクチュエータなどのテストベッドだという。
また、ソニーのエンターテイメントロボット事業や、その他のロボットトイ、ロボットビジネスの現状を振り返り、現時点での成功例はiRobotのルンバだけだと述べた。そして愛知万博のロボットや、海外の注目ロボットとしてボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)のロボット「RiSE」、「RHex」、「Big Dog」ほかを紹介した。
ロボット技術を進展させる方法の一つとして、ロボットを使った迷路探索競技「マイクロマウス」や、パワーのあるロボットで土俵のなかで押し合う「相撲ロボット」をはじめとしたさまざまなロボコンを紹介し「みなさんも是非参加してもらいたい」と語り、最後に2010年に開催を目指している「ROBO-ONE宇宙大会」の宣伝を行なって講演を締めた。
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morph3
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fuRoの活動目的
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ロボットトイ「ファービー」の売上高推測
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掃除機ロボット「ルンバ」の売上高推測
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三菱重工業株式会社 神戸造船所 先端機械・宇宙部 先端機械設計課 主任 日浦亮太氏。「wakamaru」プロジェクトリーダー
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次に三菱重工業の日浦亮太氏が「コミュニケーションロボットwakamaruのコンセプトと技術~パーソナルコンピュータの新しいカタチへ~」と題して、wakamaruの実演を交えて講演した。
日浦氏は'95年に大阪大学大学院基礎工学研究科物理系システム工学分野博士前期課程を修了後、同年三菱重工業に入社。高砂研究所を経て、2001年10月より同社神戸造船所にて生活支援型ロボットの製品開発に従事してきた。wakamaruはその成果物。wakamaruの詳細については以前の記事をご覧頂きたい。
日浦氏は、生産設備としてのロボットは全体として頭打ちになりつつあると現状を分析したあと、人間の話し相手、コミュニケーション相手としてのwakamaruのコンセプトについて講演した。人間と共存するというコンセプトを持った「wakamaru」開発に至った理由は、ATR研究所が開発したロボット「Robovie(ロボビー)」を借りて、高齢者施設でヒアリングなどを行なったことが最初だという。
wakamaruは音声対話を中心に、情報面での支援を主に行なうことを現状のタスクとしている。物理的な支援は現状では難しく、「まずは相手の気持ちをくみとれることが重要」だと考えたためだ。大きさは、机越しに顔が見えるものでないとコミュニケーション相手には成り得ないのではないかと考え、大きくした。
人間はロボットに慣れてくると、ロボットが話し終わる前に次の言葉を話しかけることが多い。そのためwakamaruは自分が発話中に人間に話しかけられても認識できる「アコースティックキャンセラー」機能を持っている。
また、大きなポイントは、wakamaru自身が生活のリズムを持ち、ある程度勝手に家のなかで生活すること。現状では、教育や健康、食事についての情報など、継続性のある仕事がロボット向きなのではないかという。
講演では、wakamaruのハードウェア構成、ソフトウェア構成なども紹介された。
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wakamaruのデモの様子
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【動画】伝言を再生するデモの様子
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【動画】wakamaru体操
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wakamaruはアイコンタクトできることを重視している
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頭部の近赤外リングと室内に事前に設置した回帰反射性マーカを使って自己位置標定を行なう
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ロボット自体を手押しすることでルートを簡単に教示できる。そこから最短ルートを検索することも可能
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wakamaruの内部
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wakamaru内部におさめられた各種基板
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同じくwakamaru内部の基板
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ハードウェア構成
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搭載されているCPU一覧
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ロボットの動き(コンテンツ)は、「ブラウザー」と同社が呼ぶ環境上でスクリプトを書くことで、簡単に構築できるようになっている。スクリプトからC言語へのコンパイルはロボット自身のなかで行なう。これは、ロボットの動きを書いたスクリプトをネット経由でダウンロードすれば簡単にロボットの動きが多様にでき、新たな仕事をやらせることができる、といった使われ方を想定したもの。参入障壁を下げることで、ロボットを使ったビジネスが広がっていけばいいと考えていたのだという。
ところがwakamaruは「思ったほどは売れなかった」(日浦氏)。まだまだ、ロボットに対する認識そのものを上げていくことが重要だという。
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ソフトウェア構成。ブラウザ上でコンテンツは作れる
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「ブラウザ」とはコンテンツを読み込んでロボットを制御するプログラム
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コンテンツの例
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wakamaruが提供する天気予報そのほかのサービスはセンターサーバからネット経由で提供される
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いっぽうで、wakamaru自体は家庭用として開発されたものだが、役所そのほか公的な場所に置いてくれ、という要望がかなりあったそうだ。今後は、愛知万博で案内ロボットとして活躍したのと同様、家庭用と同時に、公的な場所での運用も視野に入れて開発を進めていくという。
そのためには、たとえばタッチパネルとの連携なども必要になるし、それをうまく使ったロボットサービスもありえる。同社らは「ロボット・サービス・イニシアチブ(RSi)」という団体で、さまざまなロボットが利用できる共通サービス基盤を作ろうとしている。
ただし現状では、ロボット内部のプログラムを統一化するのは困難なため、まずはロボットが使えるコンテンツ配信の共通規格化から進めているという。そのための実証実験も行なっている。
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RSiはロボットのソフトウェアの充実をねらっている
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そのためにはサービスを送るための共通規格化が必要だと訴えた
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RSiによる共通規格化イメージ
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最後に日浦氏は、「ロボットの発展はソフトウェア次第。いまはようやくロボットが動くようになった段階。いろんな業界向けの特定アプリケーションもできつつある」と語り、いろいろなサービスプロバイダーの参入への期待をのぞかせた。
■URL
日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)
http://www.jpsa.or.jp/
fuRo
http://www.furo.org/
三菱重工業
http://www.mhi.co.jp/
wakamaru
http://www.mhi.co.jp/kobe/wakamaru/
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