アルデバランロボティクスの研究プラットホーム「NAO」、大阪大学でデモ
~発売1年で450台を販売
12月2日(水)、フランスのアルデバランロボティクス(Aldebaran Robotics)が、大阪大学において、ヒューマノイドロボット「NAO」のデモンストレーションを行なった。
NAOは、身長58cm、体重4.3kg、全身に25の自由度(頭部2、腕5×2、脚6×2、腰×1)を持つヒューマノイド型ロボットだ。カメラ、マイクロフォン、スピーカーを備え、C++、Urbiなど各種ソフトウェアインターフェイスを備えているため、RoboCup以外にもさまざまな研究・教育用途に適しているという。
今回のデモンストレーションは、「間近でゆっくり見たい、研究室の学生に見せたい、スタッフから話を聞いてみたい」という要望に応えて、事前に希望者を公募し大阪大学を含め計4大学を訪問したもの。本稿では、日本ではまだあまりなじみのないNAOと、アルデバランロボティクスの取り組みを紹介する。
アルデバランロボティクスの「NAO」。身長58cm、体重4.3kg | 全身に約100個のセンサーを搭載した、研究用2足歩行ロボットプラットホーム「NAO」 | QingYi Le Lay氏(アルデバランロボティクス社 アジアセールスマネージャー) |
●世界各国で、1年間に450台の発売実績。ヨーロッパ・アメリカで複数のプロジェクトの核となる
NAOは、2008年よりRoboCupのスタンダードプラットホームリーグの公式ロボットに採用された。今年7月に開催された「ロボカップ2009世界大会 オーストリア」では、18カ国から24チームが参加し、NAOで3対3のサッカーを行なった。
アルデバランロボティクスは、簡単にプログラムできる自律型ヒューマノイドロボットの普及を目指している。一般には2008年9月にNAOの発売を開始し、1年間で450台を販売。教育用や研究用途として、ハーバード大学に20台、日本でも京都大学、慶應義塾大学などに採用実績がある。ソフトとハードのトータル面で研究要素が詰まっている点と、日本円で約200万円という価格が評価され、各国の研究機関で採用されているそうだ。現在、研究用のプラットホームヒューマノイドロボットとしては、世界でもっとも数が出ているという。日本では主に人工知能の研究に使われているが、海外では教育用の採用が多いそうだ。
これまでの販売数は、韓国、中国、日本、シンガポールをはじめとするアジアが多い。というのも、アジア地域は、世界で一番テクノロジーが進んでいるので、ロボットやITの開発にかける予算が欧米諸国より多いからだそうだ。「アジア以外では、アメリカとドイツの販売数が多い」とQing Yi Le Lay氏は説明した。
アルデバランロボティクスのミッション | ロボカップ2009 オーストリアでは、18カ国24チームがスタンダードプラットホームに出場した | ハーバード大学を始め、世界各国の有名大学で採用されている |
ヨーロッパでは、ヒューマノイドロボットに馴染みがないため、一般にロボットが理解されているとは言い難い。そのため、NAOで初めてヒューマノイドロボットを知った人たちは、かなりのインパクトを受けたそうだ。
現在ヨーロッパでは、新しい環境や環境の変化に適応できるロボットの開発研究「Feelix Growing」、高齢者や視覚障害者の支援をする二足歩行型ロボットを一般販売する「ROMEO」など、ヒューマノイドロボットをテーマとした大きなプロジェクトが走っている。その中心になっているのが、アルデバランロボティクスだ。
同社は、昨年までは社員数が約20人だったが、今は研究のために博士号を持ったスキルの高いスタッフが増え、85名となったそうだ。政府から強力なバックアップを得ており資金的にもいい状態にある。また、世界中の研究者とのネットワークがあり、技術的なバックアップ体制ができているという。
NAOの公式オンラインコミュニティでは、技術情報の交換が盛んで、オープンな環境の中で世界中の研究者と一緒に開発が進めている。「ヨーロッパでは、これから大きな動きが出てくるだろう」と、Qing Yi Le Lay氏は語った。
アルデバランロボティクスの資本金、研究資金等の企業情報 | ヨーロッパで進行中のプロジェクト。Feelix Growingは4カ国共同で研究開発をしている | 公式のオンラインコミュニティで技術情報の交換が盛ん |
●全身に約100のセンサ類を搭載した自律ヒューマノイドロボット「NAO」
自律ロボットのサッカー競技会「ロボカップ」が、ソニーのAIBOに代わるスタンダードプラットホームリーグ用のロボットを公募したのは、2006年だった。正式にリーグがスタートするまでに、足や腰回りのモーターを変えたという。また、コミュニケーションを重視し、親しみやすさを考慮して人間の目にあたる部分に赤外線センサを配置するなど、よりヒューマノイド型に近づけた。今年の5月にはバッテリを変更し、専用リチウムポリマーを採用。2~3時間の充電で、従来の2倍以上の90分稼働するようになったという。
デモンストレーションでは、起き上がりや歩行の他、サイコロに描かれたマーカーをを識別したり、太極拳のゆったりした動きで全身の協調動作、音声合成でメールの読み上げ、モーションの作り方などを披露した。NAOが立っている机の片側をQing Yi Le Lay氏が持ち上げた時には、バランスを保ったまま立っているNAOに見学者一同が驚いた。
NAOのデザイン変遷。2005年に開発がスタートした | NAOの全身モーター配置図 | 新型専用リチウムポリマーバッテリ。満充電で90分稼動する |
【動画】NAOの自己紹介 | サイドから | 充電中の後ろ姿 |
【動画】太極拳で全身のバランスをとったゆったりした動きをデモンストレーション | 【動画】机を傾けてもNAOはしっかりとバランスを取っている | 【動画】インターネットに接続し、音声合成でメールの読み上げた |
NAOの頭部に搭載されたCPUは、ARM9 Geode(500MHz)。画像認識や音声認識など、ボディを特に必要としない研究には、頭部を外してPCに接続して開発できるようになっている。後頭部には、インターネット用のLANコネクタがあり、有線でも、無線でもLAN接続できる。また、必要に応じて北陽電機株式会社のURG-04LXを組み込んだタイプの頭部に換装することも可能だ。
NAOは全身で約100個のセンサーが入っているという。まず、頭部にはコミュニケーションをとるためのセンサーが集まっている。額にメインカメラ、口にあたる部分は足元を見るためのサブカメラだ。どちらもCMOS VGAで、1分間で15~30枚の撮影ができる。額、両耳、後頭部の4カ所に集音マイクがあり、音源同定が可能。頭頂部は、楕円のライン内に3つの接触センサーが入っている。
手はデフォルトでは1自由度で3本指だが、5本指のタイプもある。胸のロゴが起動スイッチ。ボディには2軸ジャイロと3軸加速度センサーが入っており、NAOの傾きを1度単位の精度で検知できる。また、足裏には左右4カ所ずつ力覚センサーを搭載。抵抗値を読んで、NAOがどのような姿勢をしているのかを検知する。爪先は、バンパーセンサーだ。
全身25個のマクソンのコアレスモーターは、エンコーダーで0.1度単位で角度検出が可能。ラジコンサーボよりも精密な位置指定ができ、自由なポーズを取る。
デモンストレーションでは、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、中国語での会話をおこなった。23カ国語の辞書が搭載でき、各言語で音声認識、音声合成を行なう。これにより、インターネットなどからダウンロードしたテキスト読み上げや、ユーザーとの会話が可能。
NAOは、専用モーションエディタを用い、タイルを並べて線で繋ぐだけで直感的にプログラム作成ができる。NAOにポーズを取らせて記録し、ポーズとポーズの間を自動補間してモーションを作成する教示機能ももっている。また、複雑なモーション作成には、C++、Urbi Pythonによるプログラミングも可能。複数のAPIが搭載されており、NAOと会話をするためには、NAOの台詞をテキストで書くだけで音声合成で発話ができるようになる。
対応するソフトウェア一覧 | 教示機能を使ったモーション作成 | プログラム画面。教示で複数のポーズつくり、ポーズ間を自動生成する |
タイルを並べ線でつないでモーション作成 | 豊富なテンプレートが用意されている | サンプルモーションはオープンループの歩行になっている |
●コミュニケーションロボットの基礎研究に適した「NAO」
中川友紀子氏(株式会社アールティ代表取締役) |
前述のように国内では、株式会社アールティが独占権を持った国内総代理店となっている。代表取締役の中川友紀子氏に、アルデバランロボティクスと提携した経緯について、話しを伺った。
「世界のロボット研究の情勢は、ハードの開発競争は既に終わっていて、ソフトの方にシフトしつつある」と中川氏はいう。それは、ロボットが20年前のコンピュータと同じように産業化が図れると気がつき、やればできると判っているハードの開発よりも、アプリケーション等のソフトにビジネスチャンスがあると注目しているからだという。キラーアプリや、どのようなコミュニティで使用されるかといったソフトの充実が、ロボットビジネスの非常に大きな可能性になっている。アルデバランロボティクスは、いち早くそこに着手し席巻した。日本国内とは、違うビジネスシーンをアルデバランロボティクスは見据え、NAOでロボットの世界標準化を目指している。
それは新しい視点ではなく、日本でも以前から指摘されていたことだ。しかし日本国内では、それを実際にやった企業はなかった。ヨーロッパは、ロボット研究において後発であるがゆえに、どこのマーケットで勝てるかを見定めて動き出していると、中川氏は指摘した。
今、ヨーロッパで求められているのは、ソフトが作りやすく、インタラクションしやすいロボットだという。人とロボットのコミュニケーションを研究することで、初めて人と一緒に生活できるロボットができていくからだ。日本のロボットがあるにも関わらずフランス生まれのロボットNAOの代理店になった理由を「NAOは、コンパニオンロボットにとって重要なソフト面における基礎研究に適している。残念ながら、日本にはこういうコンセプトのロボットがない」と、中川氏は率直に語った。アールティは、7月に代理店になって以来、既に国内の研究機関に約10台のNAOを販売しているという。
中川氏は、「ロボット研究者だけではなく、コンピュータサイエンスなど情報系の先生方にもNAOを使って欲しい。例えば、インタラクションのプログラムに親しんだ人たちのプラットホーム、ゲームクリエイターの方に関心を持ってもらい、ロボットの新しいコンテンツを生み出してほしい」と語った。
2009/12/10 20:11