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フランスの「プロジェクト・ロミオ」責任者インタビュー

〜産学官共同で高齢者・視覚障害者向けの支援ロボットを開発


アルデバラン社のジェラン氏と同社の二足歩行ロボット「Nao」

 2011年末を目処に、高齢者や視覚障害者の支援ができる身長1.2〜1.5mの二足歩行型ロボットを開発しようという産学官共同の「プロジェクト Romeo(ロミオ)」がフランスで進行中だ。小型の二足歩行ロボット「Nao」を開発・販売するアルデバラン・ロボティクス社が中心となって進めているもので、3年間で1,000万ユーロ(約13億円)をかけ、安全で実用的なロボットのプロトタイプの開発を目指している。

 このプロジェクトの責任者である同社のロドルフ・ジェラン(Rodolphe Gelin)氏に電話インタビューした。

――プロジェクト・ロミオの概要について教えてください。

【ジェラン氏】プロジェクト・ロミオのアイデアは2008年3月に生まれ、実際にプロジェクトが始動したのは2009年1月だ。プロジェクトのゴールは、機能的なヒューマノイド型のパーソナル・アシスタント・ロボットのプロトタイプを2011年末までに開発することだ。ロボットは軽度認知障害を持つなど、在宅高齢者の役に立つことを目指している。また視覚障害の研究に取り組む「Institute de la Vision」とその患者たちと共同で、ロミオが視覚障害者の生活支援にも使えるようにしたい。ロミオは自宅で、別の部屋にある物を取ってきたり、人間が椅子から立ち上がったり家の中を歩き回るときに手助けするといった形で役立つようにする。

 プロジェクトは、産業競争力強化のために設立された、パリとその周辺のIle-de-France地域の産業クラスターである「French Cap Digital」が率いる。プロジェクト・ロミオに参加する13のパートナーは、民間企業が5社と研究所が7つ、そしてInstitut de la Visionだ。

 プロジェクトは総額1,000万ユーロ(約13億円)で、このうちの約半分はIle-de-France地域とパリ市、(日本の経済産業省に相当する)DGISが受け持つ。残りは参加企業と研究所が投資、または人的資源の供給という形で提供する。

 2010年末までには最初のプロトタイプを完成させる予定だ。現在は私とアルデバランのエンジニア4人、各パートナーから1人ずつのグループでロボットのスペックを決めている段階だ。

――このプロジェクトが生まれたきっかけは。

【動画】Naoの動くところ

【ジェラン氏】もともとはアルデバランの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるブルーノ・メゾニエ(Bruno Maisonnier)が、フランスがロボットの分野で国際的なリーダーになれると考えたのがきっかけだ。それを証明するために人間サイズのロボットを作りたいと考え、実現するにはさまざまな組織のロボットの専門家が協力することが重要だと思った。そこで彼がCap Digitalと組んでプロジェクトを立ち上げ、公的機関から資金援助をもらうことにこぎ着けた。

 我々は、アルデバランがNaoの開発で蓄積した経験と技術、そしてパートナーのそれぞれの専門領域を合わせることで、ゴールを達成することができると信じている。

 ところで、プロジェクト名「Romeo」についてだが、特に意味はない。ロボットに人の名前をつけることで接しやすくしたかった。またフランスでは最近、「-eo」で終わる名前は人気がある。なんとなく新しくてハイテクのイメージがあるのだ。

――あなたがプロジェクトに関わるようになった背景は。

【ジェラン氏】少し私のバックグラウンドについてお話すると、パリ第6大学で人工知能の修士号を取得した後、フランスにおける原子力分野の大きな研究所であるCEAに入った。そこで原子力業界向けの、放射線環境下で働くロボットの開発に努めた。

 次に、CEAの中で、身体障害者向けのロボットの開発に取り組むようになった。CEAは、原子力向けに開発した技術を他の分野に応用することも重要な任務としているからだ。重度の障害を持つ人を支援するロボットと、放射線環境で働くロボットでは、どちらも直接、人間が物体を取り扱うことができないという点で共通している。そこで、私は障害者向けロボットの開発に15年間携わった。その後は管理職に移行し、1年前にCEAを離れる時点ではロボットとバーチャル・リアリティー、認識関連ソフトの研究開発に取り組む約100人のグループの長を務めていた。

 CEAで働きながら、私は技術の商業化について徐々に関心を持つようになった。近年、ロボットの分野における最大の課題はプロトタイプから商品へ持って行く過程であるからだ。こうしたなか、私は3〜4年前にブルーノ(アルデバランの創業者)に会った。いずれは産業界に転出したいと彼に話してあったので、プロジェクト・ロミオが始まった時に彼が声を掛けてくれた。私がアルデバランに入社したのは2008年12月だ。現在、アルデバランの社員数は70人弱で、ほとんどがエンジニアだ。

――各パートナーの役割は。

【ジェラン氏】参加企業は5社で、アルデバランがプロジェクトのリーダーだ。我々は他のパートナー企業の協力を得ながらロミオに必要な機械・電子部品の開発に取り組んでいる。また、ロボットのミドルウェアと自己位置同定、ナビゲーションのソフトの開発を担当する。

 Voxlerは音響処理を専門とし、音楽を使った人間とロボットのインタラクションの技術を開発する。同社の主要事業はニンテンドーDS向けのゲーム開発だが、人間がロボットに向かって歌を歌うと、ロボットが歌で答えたり、人の歌に楽器音を付け加えることができる技術を持っている。人とロボットがコミュニケーションをはかるのに音楽は良い方法だと思う。というのは、ロボットと音声でやり取りするのはまだ技術的に難しく、ロボットに限られた会話力しかないと、人間はすぐに飽きてがっかりしてしまうからだ。もちろん、我々も会話の部分の研究開発に取り組むわけだが、それだけに依存すると、ユーザーは失望してしまう。

 我々はロミオが単に家庭で役立つ物体としてだけでなく、インタラクションを通じてよい関係を維持できるようなパートナー・ロボットにもなってもらいたいと願っている。それを実現するために、音楽を用いたインタラクションは役立つと考える。

 これら2社のほかに、音声変換ソフトと音声認識技術を開発するAcapela Group、ロボットの意思決定を担うAIエンジンを担当するSpirOps、対話技術の専門家であるAs An Angelがプロジェクトに加わっている。一方、研究所のパートナーについてはそれぞれの担当分野は以下の通りだ。

LPPA:知覚・行動の生理学、人間生理学の基礎研究
CEA LIST:物体認識、触覚センサー、機械設計
LAAS:二足歩行の経路計画とモーション制御
INRIA:二足歩行のダイナミック制御
LISV:機械設計、設計の最適化
LIMSI:音声からの感情の検出
Telecom ParisTech:音声信号制御
・Institut de la Vision:ロミオの潜在ユーザーのニーズ提供と評価試験

ZMPを使わない新しい歩行アルゴリズムを開発へ

――非常に野心的なプロジェクトだと思うが、成功するための最大の技術的課題は何だと思うか。

【ジェラン氏】確かに野心的だと私も思う。そして、技術的課題は大きく3つあるだろう。

 1つはメカトロニクスだ。人間環境で役立つくらいに大きいが、人間にとって危険ではないロボットのデザインをいかに実現するかという点だ。バッテリ、ワイヤを流れる電流は何もかもが大きくて、このためにロボットが危険にもなりえる。ロボットの力制御は非常に重要になる。

 またロボットは軽くなければならない。我々の目標はロミオを30kgにすることだ。もし30個のモーターを使うならば、それだけで30kgになってしまう。これは重大な問題で、我々は自分たちで新しいモーターを開発しなければならない可能性がある。2つ目のプロトタイプまでには独自のモーターが開発できているかもしれない。

 第2に、日常の生活環境の中でロボットがダイナミックかつスムーズに動き回れるようにすることだ。二足歩行の部分は極めて重要であり、ロボットのための新しい歩行アルゴリズムの開発に取り組んでいる。これまでのヒューマノイドはZMPのアルゴリズムを使うのが一般的だったが、我々はZMPを使わずに、もっとダイナミックに、そしてもっと自然にロボットが速く歩けるアルゴリズムの開発を目指している。

 アルデバランは、Naoの開発を通じて二足歩行に関するノウハウを蓄積してきた。もちろんロミオは背が高くて重いので歩かせるのがより難しいが、ロミオはNaoのように価格を抑える必要がないので、より高性能の部品を使うことができる。

 そして3番目の技術的課題は、人間とロボットのインターフェイスの部分だ。音声とジェスチャーを使っていかに直感的なコミュニケーションを実現するか。音楽を使ったインタラクションについてはすでに述べたが、我々はロボットに人間のジェスチャーも認識してもらいたいと考えている。現在は、手を使って「ストップ」「〜するな」「こっちへ来い」、物を指すことで「あれを取ってくれ」など合計6つのジェスチャーをロボットがしっかりと効率的に認識できるような技術を開発中だ。さらに、この機能を音声ともつなげる必要がある。

――プロジェクト・ロミオの公式サイトによると、ロボットは「人が転んで起き上がる際に支援できるようになる」と書いてある。実際にはどのように起き上がり支援するのか。

【ジェラン氏】ロボットが成し遂げるタスクのなかで、ひょっとするとこれが最大のチャレンジかもしれない。我々のアイデアは、ロボットをリコンフィギュラブルで自律移動できる家具のようなものにしようということだ。高齢者の自宅を見てみると、どこもかしこも家具だらけだ。これは長年にわたって物がたまっただけでなく、家具をあちこちに配置することで、歩くときの補助や、万が一転んだときでも起き上がりに使えるように置いてあるのだ。ロミオにはこのような家具の役目を果たしてもらいたい。もし転倒すれば、ロミオが近付いてきて、ひざや腕、背中を差し出すことで人間が起き上がるのを手伝うことができる。

 日本で最近発表になった介護支援ロボット「RIBA」のように人間を抱きかかえるようなことは考えていない。RIBAはたいへんすばらしいが、合理的ではない。ロボットが60kgのものを抱えるためにはパワーが必要で、このために危険にもなりえる。あのようなロボットはまだ家庭には迎え入れられないと思う。

プロジェクト終了後3〜4年で商品化

――ロミオは既存のヒューマノイドと比較してどうか。

【ジェラン氏】世界のヒューマノイド・ロボットの多くは技術のプラットフォームだ。我々はロミオを実際に高齢者にとって役立つサービス・ロボットにすることを目指している。プロジェクト・ロミオは、すでにヒューマノイド・ロボットを300体以上販売した実績を持つアルデバランが中心だ。ロミオはNaoというすでに商品化されているロボットの「弟」という意味だ。我々はリアルな顧客のフィードバックも得ている。プロジェクト終了後、3〜4年でロミオを商品化できると考えている。

――このような支援ロボットがヒューマノイドでなければならないと考える理由はなぜか。

【ジェラン氏】ロボットは第一にユーザーに受け入れられ、人間のパートナーにならなければならない。我々の環境のなかで役立つためには人間の形をしているほうが効率的だろう。車輪のほうが二本足よりも制御がずっと簡単だが、家屋は車輪で動き回るようには設計されていない。車椅子を使う人々に聞いてみればよく分かる。

――フランス国外の企業がプロジェクトに貢献することはできるか。

【ジェラン氏】我々はプロジェクトの参加メンバーがそれぞれ持つ技術を活用する。しかし、モーターやセンサーなど有効なサブシステムを見つければ、フランス国外のものを利用するかもしれない。

――アルデバランがロミオをベースにしたロボットを商品化したあかつきには、消費者はどれくらいの価格で購入すると思うか。

【ジェラン氏】難しい質問だ。ユーザーは自分たちの金だけでは買わないだろう。高齢者が自宅でより長く生活できるように、保険会社が資金面を受け持つことが考えられる。


(影木准子)

2009/9/16 00:00

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