「CEATEC JAPAN 2009」基調講演レポート

~パナソニック・大坪社長がロボット事業についても言及


パナソニック代表取締役社長の大坪文雄氏

 6日から幕張メッセでスタートした、最先端のITとエレクトロニクスの総合点「CEATEC JAPAN 2009」。パナソニック代表取締役社長の大坪文雄氏が、「新しい時代の『くらし価値創造』を目指して」と題した基調講演を初日に実施した。幕張メッセ内のコンベンションホールAとBの両方を使う大規模なキーノートスピーチだったが、多数のメディアと聴講者でほぼ満席となった。今回のスピーチの最後で、同社が手がけるロボットに関しても言及され、各種ロボットも紹介された。

パナソニックの今後の取り組み

 今回の講演では、新興国の台頭、資源や環境の問題、さらには先進国の高齢化、デジタルネットワークの進化などにも触れられ、大きな変化が訪れていることを強調。人々の価値観も、「エコ発想」「地域最適・自分最適」「スマート消費」「安心・安全の希求」など新しい時代のものに変遷してきたとする。パナソニックの「モノづくりで社会の発展・豊かなくらしに貢献する」という経営理念を、今後は新しい時代の価値観にあった商品・サービス、モノづくりを具現化し、心豊かで持続可能なくらしに貢献していくとした。そのため、パナソニックの活動の基軸に「エコ」を置き、商品・サービスを通じたエコライフの提案(エナジー事業、省エネ・節水・省資源などの徹底追求)、そして環境負荷を極小化したビジネススタイルの実践を進めていくとする。製造業としての理想の姿、ゼロ・コスト、ゼロ・タイム、ゼロ・インベントリー、ゼロ・エミッションを求めるという。また、今後は、商品を単品で販売していくのではなく、「家・ビルまるごと」のトータル・ソリューションで価値提案も行なっていくとしている。そしてパナソニックの提案として、3つの「くらし」をアピール。「エコなくらし」「つながるくらし」「安心・安全なくらし」である。

こうした新しい時代の価値観が出てきて、これまでの考え方ではビジネスが立ちゆかなくなるとする新時代に即したパナソニックの経営理念の実践で、心豊かで持続可能なくらしに貢献していくという今後は、全事業活動の基軸に「エコ」を置くとする
商品を単品で販売していく現在のスタイルではなく、家やビルまるごとのソリューションとして提供していくパナソニックが提案する、エコなくらし、つながるくらし、安心・安全なくらしの3本柱

 エコなくらしでは、「家まるごとエコ」として、太陽光発電などでエネルギーを生み出す「創エネ」、それをバッテリに蓄えておく蓄電システムによる「蓄エネ」、そして消費電力の少ない家電製品をラインナップしていく「省エネ」という、3つのエネルギーマネジメントで、家全体のCO2排出量を減らし、CO2±0のくらしを提案していくとした。

 将来的には、創エネ・蓄エネ機器、AV・白物家電、住宅設備など家の中の機器すべてにセンサーを搭載し、配電網・情報配線網を利用して電力的および情報的にネットワークし、すべてを最適制御するという。居間に入ると、居間の明かりが自動的について、寒かったり暑かったりすればエアコンが自動的について、テレビをつければ自動的に見やすいように周囲の明るさが調整される。台所に移動すれば、居間の明かりやテレビ、エアコンなどは自動的に電源がオフになり、今度は台所の明かりがつき、エアコンが作動するというわけだ。まさに、SF映画「ブレードランナー」の主人公デッカードの自宅のようになるのである。いってみれば、家のロボット化というわけだ。

 また、直流・交流の変換ロスをなくすため、創エネ機器で発電した直流を、本来は直流で動作している機器にはそのまま送れるような、「AC/DCハイブリッド配線システム」も研究中で、変換ロスを削減できるとした。また、そうしたエネルギーマネジメント技術は、エコカーにも貢献できるとも発言している。さらにCO2を減らすための光触媒技術を太陽光パネルに実装するという研究開発中の技術も紹介。水から「水素生成デバイス」を通して水素を生成して燃料電池での電力・給湯機器に供給したり、CO2を「光化学還元ユニット」を通してメタノール(CH3OH)を生成してバイオ燃料車の燃料にしたりする仕組みだ。特に、光化学還元ユニットは現在問題になっている余剰なCO2を減らしていける技術なので、1日でも早く実用化してもらいたいところである。

家まるごとエコ。創エネ、蓄エネ、省エネで家全体のCO2排出量を±0にするというコンセプトだ創エネ・蓄エネ機器、AV・白物家電、住宅設備を電力的および情報的にネットワークさせるという家中の機器がセンサーを搭載し、ネットワーク化された結果、家自体がインテリジェント化=ロボット化する
AC/DCハイブリッド配線システム。交流を配電のために間に挟むことで生じるロスを無くす仕組みだ創エネ・蓄エネ・省エネのエネルギーマネジメント技術は、そのままエコカーに利用できるとした光触媒技術を使ったシステム。特に光化学還元ユニットは、「余剰CO2削減システム」という内容だ

 つながるくらしでは、同社の液晶テレビ「ビエラ」を中心に、携帯電話、デジカメ、ドアホン、ビデオカメラ、ブルーレイディスクプレーヤーなど同社のさまざまな家電製品、AV製品をリンクさせ、外出先、キッチン、寝室、お風呂などさまざまな場所で好きなコンテンツを好きな場所で楽しめるようにしたという。YouTubeなどのインターネットのコンテンツも楽しめるそうである。

 今後は、臨場感コミュニケーション技術を発展させ、HD映像を離れた場所にいる人とリアルタイムで共有できるシステムの開発を進めていくという。実験の様子を撮影した映像からは、大きなガラス板の向こうにコミュニケーション相手がいるかのような、非常に臨場感のあるシステムなのが見て取れた。また、実際に今年のCEATEC全体の展示技術の目玉として、各種メディアでも取り上げられているが、「フルHD 3D」テレビや、フルHDの4倍の3,840(4K)×2,160(2K)というより広視野の「4K2K」テレビなども紹介された。3D映像のための、二眼カメラといった撮影機材も開発しているそうだ。さらにもっと未来の技術の提案として、「ライフウォール」という、部屋の壁そのものがモニターとなるようなアイディアも紹介している。

液晶テレビ「ビエラ」を中心に、パナソニック製品がリンクしている図「臨場感コミュニケーション」システム「フル HD 3D」テレビや「4K2K」テレビが、ポスト地上波デジタルテレビということらしい
ライフウォールのイメージ。実現すれば、もうSFの世界となってしまう

 最後の「安心・安全なくらし」では、まず家族の安心を見守る技術として、現在のパナソニック製品による各種センサーとテレビ、ドアホン、携帯電話、さらにはブルーレイディスクレコーダーをリンクさせ、家中のどこででも、さらには外出先からでも家の様子や訪問者などをチェックできる仕組みをアピールした。

 それを発展させた開発中のシステムとして、「マルチビュー 監視カメラシステム」も紹介。複数のカメラで死角がないように家の周囲を撮影し、視点変換と自動合成技術でもって自宅の真上からの映像を表示するという技術だ。この技術に関しては、将来的には、「街の見守り」にも展開できるとした。街の見守り技術に関しては、世界最高レベルの人物検知、行動分析技術を有した「Advanced Video Motion Detector」(AVMD)を披露。複数の街中のカメラを利用して、異常な動きを自動で検知した上で追跡するというシステムだ。これにより、侵入者検出・人物追跡、置き去り・持ち去り検出、混雑検出、人流・逆行検出などを行なえ、事故・犯罪の即時対応、未然防止へとつながるとしている。

 そして未来の「健康見守り」技術として、「ボディエリアネットワーク技術」が紹介された。超小型の貼り付け型(貼り付いているのがわからないほど)の生体センサーを利用し、振動などで発電する「環境発電デバイス」なので電池交換不要で24時間計測を行なう。無線でリンクした携帯電話などを経由して健康管理センターに、体温、血圧、脳波、脈拍などの各種情報を送信し、健康データの蓄積やモニタリング、医師からの健康アドバイスなどを実現するというわけだ。

現在のパナソニックのセキュリティシステム開発中の「マルチビュー監視カメラシステム」。家を真上から見下ろしたような映像が表示される
「Advanced Video Motion Detector」(AVMD)。街の見守り用技術だ未来の「健康見守り」技術として、「ボディエリアネットワーク技術」が紹介された

安心・安全なくらしの最後に「ライフアシストロボット」と題してロボットを紹介

 講演の最後に、安心・安全なくらしを実現する今後の技術として、「ライフアシストロボット」が紹介された。「主役は人であり、ロボットはくらしを支える道具」というのが、パナソニックの考えるロボットということである。

 これまでパナソニックは実験用だけでなく、既に発売しているロボットもいくつかある。まず紹介されたのが、医療用途の「注射薬払出しロボットシステム」。FAロボットの技術を応用し、必要な注射薬を多量にある薬品の中から素早く選んで用意してくれるというロボットである。注射薬の選別は、作業自体は単純なのだが、数が多い中から選ぶ必要があるため、薬剤師に非常に負担のかかっている部分。同ロボットにより、作業の効率化と事故の防止を実現するというわけである。FA以外にも、カメラやディスプレイに関する技術も活かされているという。

パナソニックの考えるロボットとは、主役である人のくらしを支える道具=ライフアシストロボットだ既に発売中の「注射薬払出しロボットシステム」

 開発中のロボットも、複数が紹介された。電動アシスト自転車の技術を応用して開発が進められているのが、パワーアシストロボットだ。重量物を安全に容易に運搬できる「アシストカート」や、その人が搭乗できるバージョンの「電動カート」などがある。

「アシストカート」なら重かったり静かに運びたかったりする荷物でも楽に運べる電動カート。セニアカートの一種という感じか

 続いて紹介されたのが、9月末に開催された福祉機器展で初お披露目となったばかりの介護支援用の最新作「ロボティックベッド」。3年前に披露された、患者を両腕で運び、ベッドと車いす間などの移乗をサポートする「トランスファ アシストロボット」のコンセプトの進化型であり、電動車いすとベッドが一体化しており、音声認識で操作できるなどインテリジェントな機能を有する。研究中にわかってきた、「車いすなどの利用者の自立した生活をアシストすることが大事」という認識を形にしたものだ。

「トランスファ アシスト ロボット」が患者を抱っこしている様子「ロボティックベッド」。車いす部分が分離したところ福祉機器展でのロボティックベッド。車いす部分が分離した状態
福祉機器展でのデモの様子。パッと見た感じではベッドにしか見えない自分でベッドから出られるので、車いすの利用者でも家族団らんに気軽に参加できる

 そのほか、さまざまな形状の物体を柔らかく安定して持つことのできる「ロボットハンド」も開発中。詳細は触れられなかったが、そのロボットハンドを応用したと思われる「洗髪ロボット」も写真が披露された。

ロボットハンド。台所を模した実験スペースに設置されている食器も割ったりしないよう、そして滑って落としたりしないよう柔らかくかつしっかり持っている洗髪ロボットも紹介された。画面が小さかったので、拡大してある

 こうした人と直接触れ合うロボットは、安全基準が非常に大事になってくるため、パナソニックとしては、家電として人々のくらしに密着してきた強みを活かして、そうした課題にも取り組んでいくとする。業界の先頭に立って、ロボットの研究開発を進めていくという。また、新しいロボット商品の提案を通じ、安心・安全で快適な高齢化社会の実現に貢献していきたいとした。「パナソニックは、これからもくらしに役立つアイディアを生み出し、社会の発展に貢献できる企業であり続けたいと思っています」として講演は締めくくられた。

安全法規制定が2011年といわれているので、生活分野への本格普及はもうしばらく先になりそうロボット技術でもって、高齢化社会における快適で豊かなくらしの実現に貢献していくとしたCEATECでのパナソニックブース


(デイビー日高)

2009/10/8 14:50