パナソニック、「ロボティックベッド」を「国際福祉機器展」に出展

~「寝室空間を丸ごとロボット化」し、ユーザーの「意欲をサポート」する


パナソニック「ロボティックベッド」

 第36回国際福祉機器展が東京国際展示場(ビッグサイト)にて9月29日(火)~10月1日(木)の日程で開催されている。本誌では主にロボット関連の機器展示をレポートするが、特に注目されるパナソニック株式会社が9月18日にニュースリリースした「ロボティックベッド」(参考出品)を紹介したい。ベッドから室内用車椅子、車椅子からベッドへと全自動で分離・変形することで、移乗の手間をなくしたベッド型のロボットである。これによって介護を必要とする方が屋内でより容易に移動したり、ベッドへと戻ることができるという。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「生活支援ロボット実用化プロジェクト」に参画して開発されたものだ。

 車椅子にはレーザーレンジファインダーが1基ついており、ベッドへの合体は自動で行なわれる。また障害物回避機能も持っている。大きな天蓋には移動可能なタッチパネルディスプレイが装備されており、情報インターフェイス「ロボティックキャノピー」と呼ばれている。このタッチパネル画面を使ってテレビを見たり電話に出たりドアホンからの呼び出しに答えたり、ネット家電のコントロールを行なうことが可能だ。

 表面のベッドパッドはパナソニックが別に開発していた、床ずれ防止マットレス「ラクマットエアー」が使われており、ベルクロで簡単に脱着可能だ。洗浄・乾燥も非常に容易だという。実際にはその上にブロックシーツをつけて使うことになる。パナソニック・ブースでのデモの様子をお伝えする。

【動画】音声認識でベッドの背もたれを上げる【動画】タッチパネルでモニター操作可能【動画】ベッドから車椅子へ変形し、食卓へ移動。操作は右手のコントローラーで行なう
【動画】車椅子からベッドへ。ドッキング可能な位置に着くと左手のインジケーターが点滅してユーザーに知らせる天蓋は情報インターフェイス「ロボティックキャノピー」。RT+IT=IRTであることの象徴ベッド部分。車椅子部分と合体するところに見えているのはレーザーレンジファインダーのマーカ
マットレスは「ラクマットエアー」。ベルクロで簡易に脱着可能主な機能
パナソニック株式会社生産革新本部 ロボット事業推進センター 所長 本田幸夫氏

 同社では「ロボティックベッド」を2015年ごろに100万円程度で販売したいという目標を掲げている。現在の電動介護ベッドがおおよそ50万円、電動車椅子がおおよそ50万円、足して100万円程度という計算で目標とされた価格帯だ。実際には、部屋全体をセンサーやネットワークでロボット化し、そのなかにこのロボットベッドがあるという想定だとパナソニック株式会社生産革新本部 ロボット事業推進センター 所長の本田幸夫氏は語る。最近は病院でもホテルのようにスタイリッシュで快適な空間になっているところがあるが、それと同じように、介護用の寝室空間であっても、快適でかっこいいものにしたかったという。

 ロボット技術やデモとしての派手さを先行させるのではなく商品化を念頭に「ユーザー視点」でのロボット開発を目指したと本田氏は語る。本田氏はもともとモーターの専門家だが、開発にあたってハンディキャップを持っている方の話を聞くと、自分でできることは自分でしたい、という高い意欲を持っている人が大勢いることが実感でき、彼らの「意欲をサポートしたい」と考えたのだという。人に近い場所で動くサービスロボット実用化にあたっては安全基準がまだないなど課題も多い。だが自分たちの意思でできることは自分でやりたいという人の意を汲むことで実用化を早めることが重要ではないかと考えたのだという。

 そこで同グループでは「寝室空間を丸ごとロボット化する」というコンセプトから、さまざまな企画案を練った。これまでに開発していた双腕アームによる「トランスファーアシストロボット(移乗作業支援ロボット)」なども含めて色々な議論があったが、早く実用化することを考えて、今回のこのベッド型を選んだのだそうだ。ベッドであれば、今後、付加価値を付けていくことも可能だ。たとえばパッドのなかにバイタルデータを取得するセンサーを内蔵することで健康チェックをすることも比較的容易だろう。また、できれば夜間のトイレ介助等もお願いできないかと考えるユーザーもいるだろう。実際に会場でも多くの要望が係員の人たちには寄せられていたようだ。どれだけの機能を設定価格帯の中で盛り込めるかは今後の検討と技術発展次第ということになる。

 いずれにしても、みんなが楽しく使えるロボットでないとダメだと考えたのだと本田氏は語る。「さきほど、このベッドを見て『わー、ステキ!』と言って下さった女性がいらっしゃいました。そういうことだと思うんです。素敵だと言われるようなものでないと使われないと思うんですね」。素敵だと言われるようなロボットで「意欲をサポート」し、もっとリハビリに励んでもらうような形が一つの理想だという。

 また、ロボットは鉄腕アトムではないので、1台だけで何でもこなすことはできない。空間のITインフラや他のヘルスケア・ロボットと協調することでさまざまな仕事をこなしていくことが求められる。同社では今後、東京大学IRT研究機構や国立リハビリテーションセンターなど国内の研究機関のほか、シンガポールやUCアーバイン校など海外とも共同研究開発を行なって、実用化を目指していく。

 なおこのベッドは構想から10カ月程度で一気に作られたそうで、そのため車椅子の台車部分は少々大きく、横幅も車椅子の基準である65cm以内に収まっていない。だが記者個人が見たところそれ以外の完成度や安定度はかなり高く、また何よりも一般利用者からの期待が非常に大きかった。デモンストレーション終了後には見ていた来場者たちから大きな拍手が起こった。単に力だけではなく、人の意欲をサポートできるロボット技術の今後に、大いに期待する。

パナソニックブース「IRT」を掲げる「ロボットテクノロジーステージ」人を中心に人の暮らしをアシストすることを目指す


(森山和道)

2009/9/30 22:35