「第3回姫路ロボ・チャレンジ ミニ」レポート
~ROBO-ONE決勝出場権はシンプルファイターが獲得
7月19日(日)、姫路市民会館において「第3回姫路ロボ・チャレンジ ミニ」が実施された。姫路市を中心に19体のロボットが集まった。主催は、姫路ロボ・チャレンジ実行委員会。
姫路ロボ・チャレンジミニは、ロボットビルダーの交流と技術向上を目的としたイベント。年間を通じて獲得したポイントで、チャンピオンを決定する。9月に開催される第16回ROBO-ONEでは認定大会枠が用意されないため、今大会は来春開催される第17回ROBO-ONE大会本戦出場認定大会となった。
参加者は11:00に集合して、和気あいあいとした雰囲気の中でユーザー交流とロボットの調整。午後から競技会をスタートした。今回も、競技は歩行タイムを競う“ロボカーナ”と、自律の“さがしてポン”、“ロボットバトルゲーム”の3種目。ROBO-ONE認定権を掛けて、いつになく熱い戦いが繰り広げられた。
5m走「ロボカーナ」 | 自律競技「さがしてポン」 | ロボットバトルゲーム |
お互いのロボットを見せ合いながら、調整をする参加者達 | 姫路ロボ・チャレンジ実行委員長 中村素弘氏(姫路ソフトワークス) | 姫路市市民会館 |
●応援にも力がはいる「ロボカーナ」
ロボカーナはカーペットに描かれたクランクやカーブ、直線で構成された5mのコースをロボットが走るタイムを競う。足裏が完全にコースからでた場合は、元の位置に戻らなくてはならない。なお側転や前転での移動は禁止されている。今回はスケジュールに余裕があったため、「ロボカーナ」は2回計測し、速いタイムを記録とした。
本来、エキスパートクラスの競技になるが、エントリーしたロボットが全員チャレンジ。制限時間3分間以内にゴールできたのは、17体中8体だった。常連参加者達は、前回よりも安定して長距離を歩けるようになり、コース取りも上達していた。
高校時代から姫路ロボ・チャレンジに出場している北村祐太君の「xevo」は初ゴールして、参加者から拍手を受けていた。ガッツポーズで喜ぶ北村君は、「ロボットはバージョンアップしていないので、操縦が巧くなったんだと思う」と語った。
また、AKANEさんの「きゃろらいん」には、応援団が結成され、コース取りのアドバイスが飛んだ。タイムアウトのカウントが始まる中、ゴール直前4.8mの地点で転んでしまったのは残念だった。
歩行は二足歩行ロボットの基本モーションで、一番難しい部分でもある。タイムトライアル競技は、出場するたびに自分の記録を縮めてレベルアップを実感できるため、参加者も楽しそうだ。
今回、断トツに速かったのが、RB2000をベースにしたzeno氏の「シンプルファイター」だった。足回りをリンク式に改造し、安定した歩行でゴールまで駆け抜けてなんと18秒を記録した。
AKANEさんのチャレンジにギャラリーが声援とアドバイスを送った | 北村君が見事に初ゴール | 段違いのスピードでゴールしたシンプルファイター(zeno氏) |
ロボット名 | 製作者 | 記録 | 1回目 | 2回目 | ポイント |
シンプルファイター | zeno | 0:18 | 0:18 | 0:20 | 3 |
エーテル | はっし~ | 0:22 | 0:44 | 0:22 | 2 |
エクセリオン | はっし~ | 0:29 | 0:30:00 | 0:30 | 1 |
XO3 | Ryuya | 0:35 | 0:35 | 0:43 | - |
シャボザック | シャボルト | 0:44 | 0:44 | 0:48 | - |
JO | いいんちょ | 1:06 | 3.5m | 1:06 | - |
カレント | まりん | 1:34 | 1:34 | 3.3m | - |
xevo | 北村祐太 | 1:42 | 4.2m | 1:42 | - |
きゃろらいん | AKANE | 4.8m | 3.85m | 4.8m | - |
ハロッポ | うじ | 3.5m | 3.5m | 2.45m | - |
龍北 | 龍野北高等学校電気研究部 | 3.4m | 3.4m | 2.8m | - |
Gogicオイゼー | おいちゃん | 2m | 0m | 2m | - |
J | K | 2m | 0.35m | 2m | - |
ニャンタ | かんちゃん | 1.6m | 1.4m | 1.6m | - |
ダンガン | 飾工-2 | 1.5m | 1.5m | 0.9m | - |
雛 | mujaki | 1.4m | 1.4m | 棄権 | - |
プロト | 飾工-1 | 0.3m | 0m | 0.3m | - |
●認定権の行方を左右する自律競技「さがしてポン」
自律競技の「さがしてポン」には、5体のロボットが出場した。この競技は、大中小3つのボールをロボットが完全自律で発見し、リングから落とすタイムを競う。得点配分が大きく設定されているため、姫路ロボ・チャレンジで総合優勝を狙うためには重要な種目となっている。今回ははっし~氏の新作ロボット「エーテル」とzeno氏のシンプルファイターがクリアした。
先にチャレンジしたのは、エーテル。左右に広げた両掌の手首を振って周囲をセンシングし、横移動しながらボールに近づいた。移動時に腕を伸ばし、リング際を検知し危険を感じたら方向転換していた。小ボールは運良く落としたといった感じだったが、大・中はしっかり検知して2分12秒でクリア。2回目は、小ボールを見つけられずに終わった。
続いてシンプルファイターが登場。zeno氏は、第5回姫路ロボ・チャレンジで「さがしてポン」に出場し惜しいところでクリアを逃している。今回はしっかり準備をしてきたのだが、プログラムを忘れてきたというのだ。このあたりのウッカリ加減が、関西を代表するいじられキャラのzeno氏らしいところだ。会場にきて気付いたzeno氏は、すぐさまヴイストンが運営するサイト「Let'sロボット」にアクセスし、自律バトルのサンプルソースをダウンロードした。RB2000のモーション作成に使う専用ソフトウェア「RobovieMaker2」は、巧く使いこなせばソースの再利用が容易なので、これを利用して待ち時間に急場を凌ぐプログラムを作成したのだ。
なんとか間に合わせたプログラムで1回目の競技にチャレンジ。シンプルファイターは、自律動作中「よん」「に」などと言葉を発して自分がどういう状況にあるのかをzeno氏に伝えながら、リング内を歩き回った。何かを見つけると「あうっ!」と叫んでボールを落とすモーションで、会場の笑いを誘った。しかし、大ボールを落とした後にリング端に近づき、「ロク」と言ったまま無限ループに入ってしまった。「ロク」は何も見つからないという合図で、その後の回避行動をプログラムした筈なのだが、慌てていて分岐指定を忘れたらしい。ここでリタイヤ。
中村委員長から救済措置として、メンテナンス時間が3分与えられた。プログラムを直すzeno氏の隣で、はっし~氏が競技中に外れたネジを止めていた。認定権を狙うライバル同士が助け合ういいシーンだ。ちなみにシンプルファイターは「に」で少し前進、「さん」は遠くに向かって前進する。「よん」で右にターゲットを発見して旋回、「ご」は左に発見して旋回するそうだ。
2回目のチャレンジで、zeno氏がパーフェクトクリアを予感し興奮しながら自主解説している間、全く空気を読まずに「あうっ」と空振りしているシンプルファイターが可愛かった。1分53秒で念願のパーフェクトクリアを達成し、zeno氏は飛び上がって喜びを爆発させた。
この後、はっし~はもう1体のエクセリオンでチャレンジしたが、無限ループにはまってしまい、残念ながらクリアできなかった。今回は、Gogic Fiveの「ダンガン」も競技に初チャレンジ。ボールを落とすことはできなかったが、一歩ごとに足元を確認しながら歩き、リング際を検知しちゃんと旋回して拍手を貰っていた。
ロボット名 | 製作者名 | 1回目 | 2回目 | ポイント |
シンプルファイター | zeno | 大 | 1:53 | 9 |
エーテル | はっし~ | 2:12 | 大・中 | 8 |
エクセリオン | はっし~ | 小 | 大・小 | 5 |
シャボザック | シャボルト | 大 | 小・大 | 4 |
ダンガン | 飾工-2 | - | 小 | 3 |
プログラム修正するzeno氏と、サポートでネジ止めするはっし~氏 | Robovie-Maker ver2は、複雑な自律プログラムもシンプルに表記できる | 【動画】シンプルファイター(zeno氏)の2回目のチャレンジ |
【動画】エーテル(はっし~氏)のチャレンジ | 【動画】Gogic5もセンサを搭載して自律競技ができる! ダンカン(飾工-2)のチャレンジ |
●ROBO-ONE認定権を掛けた「ロボットバトルゲーム」
ROBO-ONE認定権は、「さがしてポン」で1位になったシンプルファイターがほぼ手中にしたと思われた。しかし、ポイントを計算すると、エーテルがシンプルファイターをバトルで破り優勝すれば逆転が可能と判明。最終種目のロボットバトルゲームは、俄然盛り上がった。
姫路ロボ・チャレンジはエキスパートクラスもエントリークラス混戦でバトルをするため、横移動禁止が基本ルールとなっている。しかし対戦前に両者の合意があれば、横移動もOKとなる。
シンプルファイターとエーテルの対戦時には、はっし~氏の横移動申込にzeno氏は、最初は気軽に応じた。そこに中村委員長が「本当にいいの? すっごい威力あるよ?」と確認すると、「や、やめようかな……」と弱気に転じた。ためらうzeno氏へギャラリーから「行けっ!」と声が掛かり、正々堂々のフルコンタクトルールが採用となった。
ここまでの写真や動画でおわかりいただけるように、エーテルの方が一回り大きい。威力あるパンチを放つエーテルに、シンプルファイターがフットワークを活かしてどう戦うかが見所となった。エーテルのパンチにフラフラとしながらも、バランスを保つシンプルファイターに観客がどよめいた。シンプルファイターも一度はバックからパンチを当てて、ダウンを奪ったが明らかに攻撃技が少ない。試合中にzeno氏が、「しまったぁ~。横攻撃なしにずればよかった!」と叫んだが後の祭り。エーテルが3ダウンKOで勝利した。
準決勝第二試合、総合優勝に向けて意気込むはっし~氏の前にRyuya氏の操る「XO3」が登場した。Ryuya氏は前回の姫路ロボ・チャレンジ ミニの決勝で、はっし~氏に惜しくも敗れている。「今回はバトルで優勝する!」と宣言していたのだ。
大きな歩幅と長いリーチで、一気に間合いに踏み込んでくるX03。それに対して、勝利を意識して固くなったはっし~氏は、あきらかに手数が減っていた。じりじりとX03に追い詰められダウンを奪われた後、スリップを重ねて3ダウンKOされてしまった。ちなみに動画の中で、“おっさん”と呼ばれているのはRyuya氏だ。高校生離れした容姿からついた愛称である。
Ryuya氏のX03は、決勝戦でシャボザック(シャボルト氏)と対戦。シャボザックが背中に取り付けていた起き上がり補助パーツが試合中に外れ、10カウントKO。Ryuya氏が宣言通りトーナメント戦を制した。
●次回は「第8回姫路ロボ・チャレンジ 夏の陣」エントリークラス
ROBO-ONE認定権を掛けて、いつになく熱い戦いとなった姫路ロボ・チャレンジ ミニだった。結果は、zeno氏とはっし~が12ポイントで同点。大会ルールにより、ロボカーナの記録が優先となって、総合優勝はzeno氏に決定した。
姫路ロボ・チャレンジでは、「ロボットがバトルだけじゃつまらない」という中村委員長の考えで、全国に先駆けて自律競技を取り入れた。一番、難易度の高い競技だからこそ高配点となっている。バトル結果よりも、ロボカーナのタイムが優先されるのも「歩行はロボットの基本だから」という考えに基づいている。
交流会を重ねて、各ロボットとオペレータの技術力がアップしていることが見て取れた。龍野北高等学校電気研究部のメンバーも、「ロボットの機体は変更ないが、操縦練習をかなりやったのでロボカーナの記録が伸びた」と嬉しそうだった。現在、3年生が新機体を作成しているので、8月の姫路ロボ・チャレンジにはそれで参加するそうだ。
北村君は「次回は無線化して、動きをよくしたい」、中学1年生のおいちゃんも「機体はこのままだけど、もっとプログラムを工夫します」と次回に向けて張り切っていた。
次回は8月30日(日)に、姫路科学館において「第8回大会 2009年夏の陣」が開催される。初心者大歓迎のエントリークラスによる大会。現在、Webサイトにて参戦受付中。
総合優勝&ROBO-ONE認定権獲得のzeno氏 | 宣言通りバトル優勝して満面の笑みのRyuya氏 | イベント終了後に恒例の陣取り合戦 |
なお、姫路科学館は現在改装中。子どもから大人まで楽しめる実験体験重視の展示アイテムを約100点導入し、8月1日(土)午後1時からリニューアルオープンする。夏休みの1日を科学に触れて親子で楽しんではいかがだろうか。
2009/7/27 14:54