映画「ターミネーター4」レビュー

~身体はターミネーターでも心と魂は人間のマーカス・ライトに注目!!


 全国ロードショーまであと1週間を切った「ターミネーター4」(T4)。ジャパンプレミアや3日連続の先行上映会など、一般向けのイベントも行なわれ、盛り上がってきている真っ最中。そんな中、プレス向けの試写会も行なわれ、記者も拝見してきたので、そのレビューを述べたいと思う。

国内版ポスター。クリスチャン・ベイル(右)に加え、サム・ワーシントンも準主役として配されているちなみにこちらはアメリカ版のティザーポスター。ベイルとワーシントンを前面に出したポスターもある【動画】アメリカ版ポスターがベースのモーションポスター。ロサンゼルスの街が2009年からスタートし……

特に見てほしいのはハイブリッド・ターミネーターのマーカス・ライト

 最も印象に残ったのは、やはり人間とターミネーターとのハイブリッドとして、つらい「第2の生」を送ることになりながらも、それに屈せずに戦うマーカス・ライト(サム・ワーシントン)の存在だろう。今回は、人類側の味方のターミネーターのポジションがマーカスなので、いうまでもなくアクションシーンは彼が占める割合が多い。しかも、これまでのT-800型やT-850型(スカイネット側のT-800、T-1000、T-Xはいうまでもなく)とは異なり、心と魂は人のものなので、表情もとても豊かなのだ。

 もちろん、ジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)も、発展途上の救世主(今回は、まだ抵抗軍の前戦指揮官という中間管理職の立場)としての悩める一面や、それでも生き残った人類に希望の火を灯そうと努力する姿、圧倒的に不利な戦いに単身挑む男らしさを披露するなど、見所はいくつもあるのだが、個人的にはマーカスの方に目が奪われてしまった。マーカスはこれまでのシリーズには存在しなかったサイボーグであるという点が、Robot Watch的に見て興味深いのもある。そして前述したように、マーカスの存在そのもの、その表情や立ち居振る舞いがまた、一段とすばらしかったのである。

新人のサム・ワーシントンが演じるマーカス・ライトマーカスは、脳と心臓以外は機械化されてしまっている。この画像でも腕などに機械が見えるクリスチャン・ベイル演じるジョン・コナー

 マーカスの魅力の1つは、とにかく前向きなところだろう。普通、自分が処刑で死んだはずなのに、気がついたらどこなのかわからない場所に全裸で立っていたとしたら、不安で仕方がないはずだ。しかも、処刑後の遺体は献体するとサインしたのに、傷1つないままの蘇生となれば、ますます混乱に拍車がかかる。もちろん現在がいつなのかもわからないし、周囲には破壊された建造物と死体があるだけとなればなおさらだ。こんな状態にいきなり放り込まれたら、誰だって不安で不安でたまらなくて、押しつぶされてしまうことだろう。記者だったら、「これは夢に違いない」といって目を閉じるか、「自分はきっと幽霊になってしまったんだ」と思い込むはず(笑)。開き直って探検するかも知れないけど。しかし、マーカスはそれらを冷静に受け止めると、事態を打開すべく、人のいる街を目指して旅に出る。これだけでも凄い。そして、やっとの思いでロサンゼルスにたどり着くのだが、そこで待っていたのが、これまた驚愕の光景。全面的に崩壊した街並みだったのだ。ここでも、マーカスは衝撃を受けていないわけではないが、決して取り乱したりはせず、じっと受け止める。そして、廃墟の中へと人の姿を求めて歩き出すのだ。

 マーカスはこうして、ロスの街でカイル・リース(アントン・イェルチン)と口のきけない少女スター(ジェイダグレイス・ベリー)と出会うことになるのだが、そこで聞かされたこともまたまた驚愕の事実。今は西暦2018年で、世界は核戦争で崩壊してしまったという。なおかつ、スカイネット率いる機械軍が人類を滅ぼそうとしているという話である。こんなことを聞かされたら、普通は信じられない。しかし、ロサンゼルスの街そのものが実際に壊滅しているわけだし、カイルたちに出会う直前にT-600に襲われたことも現実。すべてを事実と認めるしかないわけだが、認めたら認めたで、絶望的である。普通なら、よくても引きこもりそうだし、最悪の場合は自殺を選択する人だっているのではないだろうか。しかし、マーカスはすべてをタフに受け止め、生き延びる道を選ぶ。あまつさえ、カイルにサバイバーとしての脇の甘さを教え込むなど、ある意味、鍛え上げてやるほどだ。さらに、ラジオやクルマなども直すエンジニアぶりも見せるなど、まさに頼れる兄貴分である。そして、人狩りを目的とするターミネーター部隊との死闘では、強烈な戦いぶりを演じても見せ、生まれながらの戦士でもあったりする。

アントン・イェルチンが演じる、若き日のカイル・リーススター。ターミネーターたちの接近を感知できる特殊能力を有し、また機転の利く頭の回転の速い子廃墟と化した街の様子がわかるコンセプトアート。その中を、ハンターキラーが哨戒している
こちらも廃墟を扱ったコンセプトアート。やはりハンターキラーが哨戒中都市の風景ではないが、まるでアメリカ国内とは思えないがれきの山の中を進む抵抗軍の兵士ちなみに、同じ冒頭の戦闘シーンのメイキングカット
冒頭の戦闘の後、戦場から1人帰還するジョン。この後、夜になってこの付近でマーカスが復活する

 しかし、マーカスの最大のポイントは、その微妙な表情だろう。いくつもの驚愕の事実を、決して平然と受け流しているわけではなく、実際のところはかみしめているのだが(そう見える)、そうした奥行きのある表情が素晴らしい。もともと「なるようになる」というタフな精神の持ち主のようだが、いくらなんでもひどすぎる状況ばかりである。きっと萎えそうになる心を叱咤していることだってあるに違いない。彼の表情からは、そんな風にうかがえる。もし自分が今後つらい状況に実際にぶつかったとしても、これからは「マーカスみたいにタフに生きてやる」なんて思わせてくれる、奥の深い表情なのである。それは、幾度となく助けてあげたA-10サンダーボルトIIの女性パイロットのブレア・ウィリアムズとの交流でもそう。ブレアが好意を寄せてきても、アメリカ流儀の安易で熱烈なラブシーンとは行かず、そっと優しく受け止めてやるという具合だったりするのだ。ターミネーター化されたせいで異性を求めるような欲求が生じない、というわけでもないらしいので、やはり彼の心意気なのだろう。

ブレア・ウィリアムズ。対地攻撃機A-10サンダーボルトIIのパイロットブレアの全身立ち姿。愛用のハンドガンは大型のデザート・イーグル
マーカスとブレアは、こんなに顔の接近する関係にデザート・イーグルをぶっ放すブレア。誰に向かって、何のために撃つのかはぜひ映画館で

 さらに物語の中盤、抵抗軍の拠点でマーカスの身体は機械であることが判明し、新型ターミネーターと誤解されてジョンたち抵抗軍に捕縛されてしまったあとも見所だ。自分の身体が機械でできているということを知り、怒りや苦しみ、悲しみなど、実にさまざまな感情が入り交じった魂の雄叫びを上げるシーンはもちろん、ここからの表情がまた格段といいのである。強くもあるようなまた弱々しくもあるような、さまざまな感情が複雑に混ざった表情を見せてくれる。知らぬ間に身体を機械に換えられてしまえば、誰だってショックを受けるし、それを行なった存在に対する怒りだって覚えるだろう。そして、自分は人間であるといくら主張しても、ジョンたち抵抗軍の人間は信じてくれない。ターミネーターは敵なのに、人類からも受け入れてもらえないという、どちらの陣営からも迎え入れてもらえない状況がマーカスをとらえる。どんなシチュエーションにおいても、狭間に位置する者はつらい目に遭うというわけなのだ。

身体は機械でも心は人間らしく、実にさまざまな表情を見せてくれるマーカスコンセプトアートの1つ。マーカスはここでターミネーター化された?
コンセプトアートをもとに製作された実験室でのメイキングカット【動画】映画の複数のシーンを収めたビデオクリップ。捕らわれたマーカスをジョンが尋問するシーンの一部も

 なかなか信じてはもらえないマーカスだったが、自分が人間であることを証明すべく、スカイネットとの孤独な闘いに挑む。自分を改造した存在への復讐と、そして自分が何者なのかを知るために潜入するのだが、それと同時に自分が人間の味方であることを示すため、ジョンをスカイネットへ潜入させるための手引きをする。そしてマーカスはスカイネットの中枢へとたどり着き、自分が何者であるか、何のために甦ったのかを聞かされる。彼は、やはりスカイネットの回し者だったのか? それとも、ただ身体を強制的に改造されてしまっただけの人類の味方なのか? そこへ最強の敵が出現し、壮絶な死闘が始まる。そして、物語はまさかの切なすぎるラストへ。「え!? そんなバカな、誰が主人公なの?」と驚愕させられる切り返しと、余韻の残るラストをぜひその目で確かめてほしい。

ハイブリッド・ターミネーターならではのマーカスのアクション

 それから、マーカスのアクションについても、改めて触れておきたい。人間と機械のハイブリッド・ターミネーターのマーカスにしかできない戦い方で、マーカスは魅せてくれる。ターミネーター化された頑丈なボディを持ちながら、ターミネーターにはない熱い感情を持っているため、人間くさいと同時にスーパーヒーロー的な激しいアクションを披露してくれるのだ。戦闘中ももちろん表情豊かで、その点は、同じ人間型であっても無表情なT-800以降のターミネーターにはない点である。さらに、機械が求める効率や成功率などは優先せずに、感情の赴くままに突っ走るところも、ターミネーターがやらないところだろう。「人の心を持ったターミネーター」が、マーカスなのである。戦闘シーンについて必見なのは、カイルとスターの2人と行動をともにするようになった後の、ターミネーターの人間狩り部隊との激突の場面。ハーヴェスターの襲撃に始まり、モトターミネーターとのチェイス、空から襲い来るハンターキラーとの対決など、目が追いつかないほどのシーンが展開する。思わず手に力が入るノンストップアクションを見逃さないようにしたい。

 それから、もう1つ加えるならば、普通の人間なら確実に死んでいるだろうという、豪快なやられっぷりもしばしば見せてくれるところもポイント。ある意味、受け身も凄いのである。それが重たい雰囲気が全編的に支配する映画の中で、数少ない笑うこともできる場面だったりもする。劇中のマーカス本人は必死なので、万人が笑えるとは限らないが、少なくとも記者はその豪快さにニヤリとしてしまった(本当は拍手して笑いたかったのだが、つまみ出されかねないのでガマンした)。

 なお、今回は先ほどのビデオクリップ1本に加え、テレビCMの動画を3本と、以前に収録した予告トレーラー映像2本も合わせて収録した。ぜひ、映画館に行く前にテンションを上げるのに利用してほしい。それから、余談ではあるが、プレス向け試写会は有楽町マリオンの映画館、丸の内ピカデリー1で行なわれたのだが、ここは音響設備が非常に整っており、重低音が猛烈に響く点が魅力。ミュージシャンのライブなどに行かれる方は、スピーカーの近くにいると、服の金属部分などがビリビリと震えることがあるかと思うが、そのレベルではない。ズボンそのものが震えるほどで、音の迫力もまた実に強烈であった。今の映画館の多くはみな音響施設が整っているとは思うが、できるだけいいところにいくといいだろう。どれだけホームシアターがすごくても、やっぱり映画館には敵わないので、「1年後にDVDをレンタル」などとはいわないようにしていただきたい(映画を観てからなら、DVDの購入やレンタルはありだとは思うけど)。

【動画】テレビCM15秒バージョンその1「ドラマ編」【動画】テレビCM15秒バージョンその2「アクション編」【動画】テレビCM30秒バージョン「誕生編」
【動画】以前も紹介したが、トレーラー映像を再収録。記者はすり切れるぐらい(笑)何度も観たオススメ映像【動画】こちらも以前に紹介した最初のトレーラー映像

当初のアナウンスよりいくつか変更されていた世界観について

 それから、世界観に関していくつか変更があったようなので、そこら辺を少しフォローしておきたい。まずジャッジメント・デイが前倒しとなった。当初は、映画の舞台となる西暦2018年が、ジャッジメント・デイから10年後とアナウンスされており、2008年に核戦争が起きる設定だったのだが、2004年となった。マーカスは西暦2003年に死刑に処されているので、ジャッジメント・デイを知らないというわけだ。どうやらジャッジメント・デイが前倒しになったのは、当初パラレルワールドとして、メインのタイムラインから外されることになっていた「ターミネーター3」(T3)が、同じ世界のストーリーという扱いになったからと思われる。T3は2004年が舞台で、ジャッジメント・デイがその年に起きてしまうからだ。

 タイムラインとしては、当初、「ターミネーター」(T1)→「ターミネーター2」(T2)→テレビドラマシリーズ「ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ」(T:SCC)→T4という流れだったのだが、T1→T2→T3→T:SCC→T4となるらしい(T:SCCの第1話は1999年で、タイムスリップして第2話からは2007年となるので、T3を挟むような形が正確な表現)。ただし、T3がパラレルワールドではないということになると、2032年にジョンが、T-850に殺害されてしまうという事実も実現してしまう可能性がある。2032年の時点ではT-Xが開発されており、T-800/850は旧式と化しているのだが、あえてそれを利用してスカイネットは抵抗軍に送り込み、ジョンは懐かしさのあまりに油断が生じさせてしまい、殺害されてしまうという。ただし、T3で実際にジョンに手をかけた後、ジョンの奥方にして抵抗軍副司令官のケイト・コナーに再プログラミングされて過去に送り込まれたT-850がジョンにそれを伝えるので、未来は変わるかも知れない(最終的に、抵抗軍が勝つという未来は変わらないのだろう)。ここら辺は、少なくとも次回作のT5、もしかしたらまだ正式には製作が決定していないT6辺りで描かれるのではないだろうか。

 また、T:SCCは、シーズン1の第1話の最後に1999年から2007年にタイムスリップし、ジャッジメント・デイも2011年としているなど、T4とはつじつまが合わなくなっている(T4に従うなら、2007年はジャッジメント・デイ後の壊滅した世界になる)。おそらくは最終的に、T3より以前の時間に再度タイムスリップするのではないだろうか。もしかしたら、マーカス誕生に関して、T4を観ただけでは解決できなかった部分もあるので、そこら辺に何か関係するのかも知れない(もしくは、T5やT6への伏線かも知れない)。また、T:SCCにはカイルの実兄デレクや、コナー親子を守る美少女型ターミネーターのTOK715なども登場しており、最終的にそこら辺をどうまとめてくるのかが気になるところ。今月10日にシーズン2の第1~3話を収録したDVD Vol.1が、4~13話を収録したDVD5枚組のコレクターズ・ボックス1は今月24日に発売予定。こちらも可能なら、改めてレポートしたい。

 以上、T4のレビュー、いかがだっただろうか。とにかくサム・ワーシントンの演技がすばらしく、クリスチャン・ベイルを食いかねない存在感だった。何度書いたかわからないが、マーカス・ライトが心に染みいるキャラクターであったことを、とにかくアピールしておきたい。そんな彼やジョン・コナーの活躍、さらに10体のターミネーターたちのアクションは、やはり映画館の音響設備の整った大スクリーンで観るのが一番であり、ぜひ足を運んで鑑賞することをオススメする。T3は放映時間1時間50分と1エピソード物足りない感があったり、ジョン役のニック・スタールが意見の分かれるところだったりと、見終わって微妙なところがあったが、今回はOK。T1やT2の焼き直しを期待して観てしまうと、全然違うので納得いかなくなるかもしれないが、新しいターミネーターとして見てもらえれば、非常に楽しめるはず。そして、余韻も。見終わってから、あれこれと想像できるし、一緒に観た人といろいろと話せることは間違いないので、ぜひ映画館に足を運んでみてほしい。

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(デイビー日高)

2009/6/8 14:18