「つくばチャレンジ2009本走行」レポート
~34台中5台が1kmの課題を達成
つくばチャレンジは、自律型ロボットが実際に人が生活する街の中で「安全かつ確実に動くこと」を目指す技術チャレンジだ。つくばチャレンジは、トライアル走行と本走行に分かれて実施されているが、トライアル走行についてはすでにレポートしたので、ここでは11月21日(土)に行なわれた本走行の様子をレポートしたい。
本走行は、前日のトライアル走行をクリアしたロボットのみに出場権が与えられる。今回は65台のロボットがトライアル走行にチャレンジし、半数を超える34台がクリア。本走行は、34台のロボットで行なわれることになった。
●スタート地点に観衆が詰めかけ、ロボットにとっては過酷な状況に
本走行は、前日のトライアル走行のタイムが短かった順にスタートする。スタート間隔は5分ごとである。昨年のつくばチャレンジ2008の本走行は、平日の金曜日に開催されたが、今年は土曜日に開催されたため、コース上に人通りが多かった。特に午前中はスタート地点に多くの観衆が詰めかけ、自律走行を行なうロボットにとっては過酷な状況になっていた。
最初に出走した筑波大学知能ロボット研究室TsukuRoboチームの「山彦メロス」は、トライアル走行では安定した走行を見せていたのだが、スタート地点の人混みで自己位置とコースの認識がずれてしまったのか、わずか40mで植え込みの角にぶつかり、リタイヤしてしまった。2番目に出走した防衛大学校情報工学科ロボット工学研究室チームの「Smart Dump 3」も、スタート後わずか25mでリタイヤしてしまった。3番目に出走した筑波大学知能ロボット研究室屋外組2009チームの「ひとつぼ」は、スタート後の混雑を上手く抜けて順調に走行を続けていたのだが、コース後半の620m地点で路面から右にそれて段差にスタックしてしまい、動けなくなってしまった。そのためモーターに大きな負荷がかかり、過電流で配線の被覆から煙が出てしまい、やむなくリタイヤとなった。
●LRFの配置を工夫したロボットが増える
今回のつくばチャレンジ2009で、最初に本走行を達成したのは、4番目に出走した日立製作所機械研究所自律移動技術研究会チームの「QUVIC」である。タイムは27分22秒で、今回本走行をクリアした5台のロボットの中で、最も早かった。QUVICは、LRFを3つとGPSを搭載したオーソドックスな設計のロボットだが、上部のLRFを傾けて設置していることが特徴だ。LRFはレーザーを回転走査させて検出を行なうため、検出範囲が平面状(2次元断面)となる。LRFを傾けて配置することで、検出エリアが垂直方向にも広がり、障害物を検出しやすくなるわけだ。
続いて、5番目に出走した富士ソフト/筑波大学MRIMプロジェクトチームの「TUFS2009」が、タイム28分7秒で見事に本走行をクリアした。TUFS2009も、3基のLRFを微妙に傾けて搭載している。
3台目の完走ロボットとなったのは、8番目に出走した東北大学田所研チームの「anemone」である。anemoneは、セグウェイベースのロボットで、途中で車椅子利用者を避けて進むなど、安定した走行と高い回避能力を実現していた。さらに、10番目に出走した千葉工業大学fuRoアウトドア部チームの「B2.2」も、タイム32分44秒で本走行を達成。B2.2は、LRFをぐるぐると首振りさせていることが特徴で、首振りによってLRFから得られる情報を増やしている。anemoneも、前方のLRFを上下に首振りさせていたが、こうした工夫も去年まではあまり見られなかった。
その後は、途中でリタイヤするロボットがしばらく続いたが、19番目に出走した宇都宮大学尾崎研究室Bチームの「ERIE」が、最後の完走ロボットとなった。タイムは51分7秒である。多くのロボットが自己位置推定にGPSを利用しているのに対し、ERIEはGPSを使わず地磁気センサーとジオメトリを活用していることが特徴だ。地磁気センサーは、場所によって地中に埋まっている金属や地上の構造物の鉄筋などによって地磁気に微妙な乱れがあるため、あらかじめ正しいコースの地磁気データをマッピングしておき、そのコースに沿うように、いわば磁気によるライントレースを行なっているのだという。なかなかユニークな方法であり、審査委員の評価も高かった。
惜しかったのは、法政大学自律ロボット実験室(ARL)チームの「Amigo2009」だ。655m地点でコーンの直前で止まってしまったのだが、ロボットに付き添っていた審査委員が手でそのコーンをどけたところ、再び進み始め、ゴール地点まで自律で到達した。しかし、直接ロボットに手を触れなくても、障害物を排除するといった、周りの環境に手を加えることは許されていないため、記録は655m止まりとなった。
●外装に凝ったロボットも
つくばチャレンジ2009は、人々が生活する実世界で共存して働くロボットを実現するための技術チャレンジであり、安全性はもちろん、人に恐怖心を抱かせないような外観も重要だ。昨年も、たこ焼き器などユニークな外装のロボットが登場していたが、今年も外装に凝ったロボットが登場し、注目を集めていた。金沢工業高等専門学校チームの「ねずみん」は、その名の通り、ねずみを模した外装を装着しており、子どもにも人気があった。また、芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室チームの「PAR-NE09」は、完成度の高い獅子舞の外装を装着していた。両ロボットとも、残念ながら完走はならなかったものの、実世界との親和性を高めるには、こうしたデザイン的な取り組みも重要であろう。
●来年はより駅に近く人通りの多い場所での開催を検討中
つくばチャレンジ2009の本走行の最終結果は、34台中5台完走というなかなかの好成績となった。昨年は、わずか1台しか完走できなかったことを考えると、参加ロボットの技術が全体的にレベルアップしたといえるだろう。ただし、試走会で何度かゴールに到達していたのに、本走行ではうまく走れなかったというロボットもあった。試走会では観客や関係者の数が少ないが、本走行(特に最初のほうのスタート)では、ロボットが多くの人に取り囲まれてしまうという事態がたびたび起こっていた。そうした事態をどこまで想定していたかが、課題を達成できたかどうかの明暗を分けたのであろう。つくばチャレンジ大会委員長の油田教授によると、今回のつくばチャレンジ2009の難しさは、去年よりもバラエティに富んだ路面状況やコースの複雑さにおいて、ちゃんと動くものをどこまで作れるかということにあったという。そうした難しさを認識した上で、時間をかけてしっかりとロボットを作ったチームが増えており、それが5台完走という好成績に繋がったとコメントしていた。また、来年度の課題はまだ正式に決まったわけではないが、去年、今年と続いたつくば中央公園ではなく、つくば駅により近い人通りの多い場所での開催を検討中とのことだ。
本走行の最終結果。34台中5台が完走した。昨年は21台中わずか1台しか完走しなかったことを考えると、大きな進歩だ | 各ロボットがどこまで進んだかをマグネットで示すコースマップ。黄色のマグネットは、途中でコーンをどけてしまったAmigo2009のもの |
最後につくばチャレンジ大会委員長の油田教授が総評を述べられた | 油田教授は、来年はもっとつくば駅の近くで人が多い場所をコースにしたいと考えているようだ |
2009/12/15 17:43