「つくばチャレンジ2009トライアル走行」レポート

~65台中34台が140mのトライアル走行に成功


 つくばチャレンジは、自律型ロボットが実際に人が生活する街の中で「安全かつ確実に動く」ことを目指す技術チャレンジだ。つくばチャレンジは、今年で3回目の開催となり、11月20日(金)に140mのトライアル走行が、11月21日(土)にトライアル走行をクリアしたチームのみが挑戦できる本走行が行なわれた。そこでまず、トライアル走行の様子をレポートしたい。

トライアルは2回挑戦でき、制限時間は17分

 つくばチャレンジ2009では、大学や研究機関、企業、有志、個人など、合計72チームがエントリーしたが、いくつかのチームが棄権し、11月20日のトライアル走行に実際に挑戦したのは65チームであった。つくばチャレンジ2009のコースと課題については、試走会レポートを参照していただきたいが、今回は前回よりもコースがさらに複雑になり、路面状況も変化に富んでいる。トライアル走行では、コースの約140m地点にゴールテープとゲートが設けられて、そこを通過したチームがトライアル達成となる。トライアルには2回挑戦でき、1回目に達成したチームは、2回目のトライアルを行なう必要はない。

 つくばチャレンジは、あくまで技術チャレンジであり、スピードを競う競技会ではないが、大会運営上制限時間は設けられており、トライアルの場合は17分以内に140mを走破する必要がある。トライアルは3分間隔でスタートが行なわれるので、速いロボットが先行した遅いロボットに追いついて、追い越す可能性もある。

1回目のトライアルで27台が完走

 トライアルは本走行の1/7の距離とはいえ、スタート直後に右に直角に曲がり、その後しばらく進んでから、進路を左に変える必要がある。そのため、GPSやオドメトリ情報、レーザーレンジファインダー(LRF)、地磁気センサーなど、各種センサーを利用して、自己位置を推定し、街路樹などの障害物を避けながら、目標経路に沿うように進路を制御する必要があり、決して簡単な課題ではない。

 しかし、つくばチャレンジも今年で3回目となり、一昨年や昨年も参加していたチームが増え、以前の経験を活かしてハードウェア、ソフトウェアとも改良を行なってきたようで、参加ロボットの技術や完成度は、昨年に比べても大きく向上していた。つくばチャレンジでは、終了後にシンポジウムや計測自動制御学会でのオーガナイズドセッションなどが開かれ、課題達成チームによる講演が行なわれるが、そうした講演も参加ロボットの技術向上に貢献しているのであろう。

 1回目のトライアルで65台中、27台ものロボットが140m完走に成功した。昼食休憩後、1回目で完走できなかったチームが2回目のトライアルを行ない、7台のロボットが完走。合計34台ものロボットがトライアルの課題を達成した。ちなみに、一昨年行なわれた第1回では、トライアルに成功したのが27台中11台、昨年は47台中22台であり、トライアル完走率はそれぞれ約41%、約47%となる。今回のトライアル完走率は約52%であり、完走率も年々向上している。

 タイムはあくまで参考だが、最速タイムを記録したのは、筑波大学知能ロボット研究室TsukuRoboチームの「山彦メロス」の3分4秒、2位は防衛大学校情報工学科ロボット工学研究室チームの「Smart Dump 3」の3分16秒であった。

 以下に、完走に成功したロボットやユニークな設計のロボットを中心に、出場ロボットの写真や動画を載せるので、屋外で働く自律ロボットに興味がある人は是非見ていただきたい。車体の駆動方法一つとっても、オーソドックスな4輪タイプからセグウェイなどの倒立振子タイプ、クローラータイプ、多輪タイプなど、ロボットによってさまざまな方式が使われており、バリエーションに富んでいる。

最初に大会委員長の油田教授が挨拶を行なったスタートから約140m地点にトライアルのゴールテープとゲートが設けられたトライアル走行の口火を切ったのは千葉大学知能機械システム研究室チームの「CIMS☆09」。電車を模した外装がかわいい。1回目の走行では3mでリタイヤだったが、2回目のトライアルで見事完走した
2番目に走行を開始した東北大学田所研チームの「anemone」。ベース車体にセグウェイを採用しており、走破性や信頼性が高い【動画】anemoneの走行の様子。トライアルゴール前のカーブもスムーズに通過している【動画】anemoneのトライアル達成の様子。タイムは4分25秒となかなか速い
中国能開大ロボット研究会チームの「たまやん2」。1回目のトライアルでは、52m地点で街路樹に近づきすぎ、身動きがとれなくなってしまいリタイヤしたが、2回目のトライアルで完走を果たしたcremoロボ研チームの「PONCOⅡ」。1回目のトライアルは6m地点でリタイヤ、2回目も58m地点でリタイヤしてしまい、完走はできなかったスキャパレリ・プロジェクトチームの「ぽけろぼ」。かなり小型のロボットだが、残念ながら1回目37m地点、2回目66m地点でリタイヤしてしまった
本命視されていた電通大・産総研サービスロボットチームの「HUEST3」。セニアカーをベース車体に利用した大型ロボットだ【動画】HUEST3のトライアル達成の様子。本当はもっと速く走行できるのだが、トライアルではあえて速度を落としているとのこと。タイムは8分51秒とかなり遅めだScuderia Frola AISTチームの「Marcus」。電動車椅子ベースのロボットである
【動画】Marcusのトライアル達成の様子。1回目で見事クリアし、タイムは5分47秒福岡大学フューチャービジョンチームの「マッパーマッパー」。船舶用の大型高性能GPSを搭載している【動画】マッパーマッパーの走行の様子。街路樹の横をギリギリで通過した
マッパーマッパーは、その先の街路樹にもぶつかりそうになる【動画】しかし、その状態から再び見事に街路樹をかわして進んでいく【動画】マッパーマッパーのトライアル達成の様子。ゲートの右側のほうに行ってしまったが、140m地点までは到達しており、完走と認定された。タイムは4分50秒
宇都宮大学尾崎研究室Aチームの「arim」。1回目は115m地点でリタイヤしてしまったが、2回目にトライアルを達成。タイムは8分58秒筑波大学知能ロボット研究室屋外組2009チームの「ひとつぼ」【動画】ひとつぼのトライアル達成の様子。見事1回目でクリアし、タイムは3分22秒
宇都宮プロジェクトの「アロマックス2」。つくばチャレンジの常連チームだ【動画】アロマックス2のトライアル達成の様子。見事1回目でクリアし、タイムは4分2秒千葉工業大学fuRoアウトドア部チームの「B2.2」。LRFを首振り運動させることで、広い範囲の情報を検出している
【動画】B2.2のトライアル達成の様子。1回目のトライアルでクリアし、タイムは4分55秒金沢工業高等専門学校チームの「ねずみん」。その名の通り、ねずみを模した外装だ。1回目のトライアルで見事クリアし、タイムは7分19秒【動画】宇都宮大学尾崎研究室Bチームの「ERIE」のトライアル達成の様子。1回目でクリアし、タイムは6分36秒
金沢工業大学demura.netチームの「けんせいちゃん2号機」。大きな人形を載せた車椅子タイプのロボットだ【動画】けんせいちゃん2号機のトライアル達成の様子。1回目でクリアし、タイムは4分16秒広島市立大学ロボティクス研究室&JSDチームの「どらえもん1号」。倒立振子型ロボットで、内部が透けて見えるので真空管のようにも見える
【動画】どらえもん1号のスタート直後の様子。植え込みをギリギリで通過【動画】どらえもん1号は、1回目53mリタイヤ、2回目105mリタイヤで、惜しくもトライアル達成はならなかった。停止時は、前後の脚付き車輪を下げて接地させることで、倒れないようになっており、移動時には前後の脚を持ち上げて倒立振子となる防衛大学校情報工学科ロボット工学研究室チームの「Smart Dump 3」。こちらも船舶用の大型高性能GPSを搭載している
九州工業大学石井研究室ロボプラスチームの「EXIA」。平たい円盤みたいなユニークな形状だ【動画】EXIAの走行の様子。見事1回目の走行で、トライアルを達成。タイムは6分37秒【動画】株式会社アイビスチームの「アイビ02」。比較的小型のロボットだ。1回目のトライアルでは80m地点でリタイヤ、2回目のトライアルでは10m地点でリタイヤしてしまい、残念ながら完走できなかった
【動画】最速タイムを記録した筑波大学知能ロボット研究室TsukuRoboチームの「山彦メロス」が、先行したアイビ02を追い抜く様子生研センターロボット友の会チームの「農機研1号」。目と耳が目立つ、ユニークなデザインだ【動画】農機研1号の走行の様子。スタート直後、ゲートを出たところにある鉄柱にぶつかってしまいリタイヤ
関東相撲ロボット研究会チームの「越GO-YOITER・v2.1」。1回目28mリタイヤ、2回目26mリタイヤで、残念ながら完走できなかった電気自動車ロボット研究室チームの「クリコアビークル2009」。スフィンクスのような像を載せているのがユニークトライアルの最終結果。合計34台が完走した

池に落ちそうになったロボットや大破したロボットの復活劇も

 スタート地点のゲートを通過すると、その前方には池があるので、直角に右折する必要があるのだが、曲がれずにそのまま直進して池に落ちそうになり、強制停止ボタンを押されてしまうロボットも何台かあった。本来右折するはずの場所を通過したところで、強制停止させられることが多いが、UT Unitedチームの「トッシトシ」は、池の手前の階段ギリギリまで粘り、何度かコースに戻る気配を見せて、観客を沸かせた(最終的にはリタイヤしてしまったが)。

 また、北海道工業大学ロボット製作部チームの「きゃたぴらーHIT」は、クローラータイプのロボットだが、1回目のスタート直後の植え込みの壁をこすって乗り上げてしまい、機体が大破してしまうというアクシデントに見舞われた。機体がバラバラになってしまい、2回目のトライアルは無理かと思われたが、機体の修理を行ない、2回目のトライアルに再度挑戦した。残念ながら完走はならなかったが、短時間で修理を完了させたのは立派だ。

UT Unitedチームの「トッシトシ」【動画】トッシトシは、スタート地点の前方の池に向かって直進してしまい、階段から落ちそうになってリタイヤした北海道工業大学ロボット製作部チームの「きゃたぴらーHIT」。クローラータイプのロボットだ
【動画】きゃたぴらーHITは、1回目のスタート直後の植え込みの壁をこすって乗り上げ、大破してしまうきゃたぴらーHITが大破した様子。外装がバラバラになってしまい、中身が見えている【動画】きゃたぴらーHITの2回目のトライアルの様子。残念ながら51m地点でリタイヤしてしまったが、あれだけ大破していたロボットを短時間で再び走らせられる状態まで修理したのは立派だ

インターネットでのオンライン生中継も行なわれる

 昨年に引き続き、今回もオンライン生中継が行なわれていた。つくばチャレンジのオンライン生中継は、筑波大学学園祭中継プロジェクトなどの協力によって昨年から行なわれており、今年は昨年のノウハウを活かして、より安定した中継を行なっていた。さらに、今年はTwitterでの実況も行なわれていた。また、各チームのロボットの位置を示すボードも用意されており、スタート地点からでも他チームの状況がわかるようになっていた。

 トライアル走行をクリアした34台は、翌日の本走行の1kmに挑戦したが、その結果、全部で5台のロボットが本走行をクリアした。1台しか完走できなかった昨年に比べて、参加ロボットの技術は大きく進化したといえるだろう。なお、本走行のレポートも、近日中に掲載する予定だ。

昨年に引き続き、有志によるインターネットでのオンライン生中継が行なわれており、ゴール付近に固定カメラと移動カメラが配置されていたスタート地点のテント内にオンライン生中継の様子が表示されるディスプレイが設置された。奥には各チームの状況を示すボードが用意されており、今年はTwitterでの実況も行なわれていた


(石井英男)

2009/12/11 17:43