ZMP、早稲田高西研の人間計測センサーシステムを事業化

~センサーとSDKのセットで20万円、Windows 7の「Sensor & Location Platform」に対応


左から株式会社ゼットエムピー谷口恒氏、早稲田大学教授 高西淳夫氏、マイクロソフト株式会社最高技術責任者 加治佐俊一氏

 学校法人早稲田大学理工学学術院高西淳夫研究室(高西研)と株式会社ゼットエムピー(ZMP)は11月19日、高西研究室が開発した人間計測センサーシステム「WB-3(Waseda Bioinstrumentation sysytem No.3)」を事業化することに合意したと発表し、記者会見を行なった。第一弾として姿勢センサーを製品化し、開発用SDKおよび教材として販売する。価格はワイヤレスモーションセンサーとSDKのセット「e-nuvo IMU-Z」が20万円、ワイヤレスモーションセンサ単品が8万円。19日から受注開始し、2010年2月から出荷開始する。目標出荷台数は500台。

 2cm四方のセンサーボードに3軸角速度センサー、3軸地磁気センサー、3軸加速センサーを搭載。これにより絶対位置が分かるため動的な状態でも絶対角の計測が可能。またダイナミックレンジを変更することで激しい動きやゆっくりした動き、どちらの動きも計測できる。製品ではバッテリやBluetoothなどを付けてユニット化し3cm角くらいのサイズになる予定だ。CPUはSTM32。

 SDKは Windows 7からOSに標準搭載されたセンサーAPI「Sensor & Location Platform」に対応。記者会見にはマイクロソフト株式会社最高技術責任者の加治佐俊一氏も出席し、デモンストレーションを行なった。ZMPは2年前の「国際ロボット展」でマイクロソフトと共同記者会見を行なった。そのときに大きな反響があったこともあり、Windows上での開発環境を選んだ。

高西研究室が開発したWB-3。WB-3のスペックZMPから販売される製品の仕様
ZMP社 代表取締役 谷口恒氏

 ZMPの谷口社長はこれまで同社が開発してきた「miuro」や「ロボットカー」を取り上げて、ZMPはロボット技術(RT)を家電など他の機器に応用していると自社技術を紹介した。次は人間に製品を応用しようということで事業化を狙ったのが今回のセンサーだという。

 特徴は3つ。早稲田大学高西研究室の30年の研究成果であるロボット姿勢制御技術を使っていること、MEMS技術を使っているため小型で身体の各部に付けられること。3つ目がWindowsのAPI「Sensor & Location Platform」に対応していること。これによって開発効率が上がり、さまざまなアプリケーションが開発され、流通することを期待していると語り、世界中の開発者がロボットに限らずさまざまなアプリケーションを開発することを期待していると述べた。たとえばコンピュータや家電入力インターフェイス、エンターテイメント、フィットネスや身体姿勢の矯正、介護支援などヘルスケア関連アプリケーションなどが考えられるという。

 製品詳細はZMPの西村明浩氏が解説した。高西研の人間計測システムには他にも心電、呼吸、発汗などがあるが、今回は第一弾として姿勢センサーを事業化した。製品ではユニット化されたセンサー本体とデバイスドライバ、サンプルアプリケーションとそのためのライブラリが提供される。サンプルアプリとしては人間の姿勢データを画像化するソフトウェアが検討されている。センサーはBluetoothによって28台まで接続可能。今後は、脈波センサーの事業化を検討している。またZMPは教材開発も行なっているので、センサー入力、信号処理、逆運動学などを学べるテキスト教材も充実させていく予定だ。

センサーとSDK、Windows 7の「Sensor & Location Platform」の関係製品の特徴
高西淳夫教授

 高西研は世界で初めて人型ロボットの研究開発をはじめた研究室である。高西教授は、人型ロボット研究の歴史を振り返り、研究開発と企業との連携という視点から講演を行なった。高西研ではロコモーションだけではなく、外部刺激に対する情動の表出の研究も行なっている。そうなると、ロボットが感情めいた動きを出したときに、人間がどういう反応を示すかも調べなければならない。アンケートではなく定量的に計測するためにはセンサーでバイタルをとることが有効だ。そのために開発されたのが今回事業化に繋がった人間計測センサーシステムだという。

 このほか高西研ではあごをマッサージするロボットなど医療用のロボットや、頸部の血流を計測するロボット、トレーニング用の患者ロボットの研究開発なども行なっている。高西教授はロボット技術の医療現場への適用について、その可能性の大きさを記者たちに熱く語った。研究室でのデモ公開では手術練習アプリケーションとして器具にセンサーを付けて動きを記録する例などが公開された。単に器具の動きを記録するだけではなく、将来は、システム側からユーザーに対して動かし方を提案することも可能になるという。

【動画】早稲田大学高西研究室による姿勢検出デモ【動画】センサーを手術練習アプリケーションに適用した例【動画】こちらは脳の手術のトレーニングに使う研究
今回のセンサーは人間計測システムの一部を事業化したもの高西研ではそのほかにもRTを活用したさまざまな訓練機器を研究開発中
Sensor & Location Platform

 マイクロソフト株式会社の加治佐俊一氏は自ら、評価ボードに加速度センサーを付けた「パワーグローブ」を着用し、同社のエンベデッドエバンジェリスト太田寛氏と共に、手や指の向きや移動を検出したり、空中で指を動かしてピアノを演奏するアプリケーションを実演した。マイクロソフトのWindows 7にはセンサーAPI「Sensor & Location Platform」が標準で搭載されている。これによってWindows 7ではセンサーの生データをOS側からアプリケーションソフトウェアに提供できるようになった。

 たとえば角速度センサー搭載のタブレットPCを使って本体を傾ければそれを検知して画面が傾いたり、振動を検知してアプリケーションを起動するといったことが可能になる。またデータはシステム側から提供されるので、複数のアプリケーションが同時にセンサーデータを利用する事も可能だ。デモを行なった加治佐氏は、「センサーが多数繋がり、クラウドに上がり、より自然なインターフェイスを実現することで、これまでになかったことが起こりそうだと感じてもらえたと思う」と語った。

【動画】マイクロソフト加治佐俊一氏と太田寛氏によるデモ【動画】ピアノアプリケーションのデモ。Microsoft Visual Studioで開発されたもの【動画】複数アプリケーションで同時にセンサーデータを利用出来る

 Windows 7にこのセンサーAPIが搭載されているということは、まだアプリケーションは登場していないものの、これからさまざまなセンサー搭載ハードウェアが身近に普及することを見越してWindows 7が最初から実世界指向インターフェイスを志向していること、パソコンがさまざまなセンサーと繋がり始めていることを意味する。ロボットとも親和性が非常に高そうだ。面白いアプリケーションが登場し始めるのではないだろうか。



(森山和道)

2009/11/20 00:00