「電通大杯 ヒト型レスキューロボットコンテスト2009」レポート
~12体のロボットが救助活動にチャレンジ!
電通大杯 ヒト型レスキューロボットコンテスト2009 |
11月1日(日)に、大阪電気通信大学 寝屋川キャンパスにおいて「電通大杯 ヒト型レスキューロボットコンテスト2009」が開催された。主催はヒト型レスキューロボットコンテスト実行委員。
初の試みに12体のヒト型ロボットが集まった。ロボット達は障害物を乗り越え、ガレキを除去して要救助者役の人形を救出するタイムと優しさを競った。優勝したのは、関西を中心にバトル競技会でも活躍しているYOGOROZAだった。オペレータの當田秀稔氏には、電通大杯と賞金が授与された。
学園祭・テクノフェアと同時開催で、多くの観客が訪れた | 電通大杯「第1回ヒト型レスキューロボットコンテスト」参加者 | 開会式風景 |
会場となった大阪電気通信大学 実験センター | 升谷保博氏(コンテスト実行委員長・大阪電気通信大学教授) | 都倉信樹氏(大阪電気通信大学 学長) |
●ヒト型レスキューロボットコンテストとは
ヒト型レスキューロボットコンテストは、1999年から毎年神戸で開催されている「レスキューロボットコンテスト(以下、レスコン)」の新たな展開を目的に企画された。レスコンは、ロボット競技を通じ、ものづくりの楽しさを伝えるとともに、防災や減災の重要さと難しさを考える機会として実施されている。最近、ヒト型ロボットに興味を持つレスコン参加者が増えているがルール上不利になるため、実際はヒト型ロボットでの参加は難しい。またレスコンには、3人以上でのチーム参加と限定されている。そこで、個人で参加できるレスコン競技としてヒト型レスコンが企画された。
「現時点では、実際のレスキュー活動に即したものとはなっていないが、ヒト型だから可能なことはあるはずなので、競技の中でそれを模索していきたいという」と、実行委員長の升谷氏は語った。。
競技は、幅1.75m×長2.1mのフィールドで1体ずつ行なわれる。フィールド上には、トンネルと段差が配置され、オペレータがロボットを遠隔操縦して、トンネルをくぐり段差を乗り越えて、要救助者の元へ進む。救助者の周囲にあるガレキを除去し、救助者をゴールまで搬送すればミッションが終了する。持ち時間は5分で、3回リトライすると失格。また、主審から3枚目のイエローカードが出た場合も失格となる。
トンネルと段差は同じ形状をしている。320mm×550mm×5mm のアクリル樹脂板の四隅に円柱形の脚を取り付けたものだ。脚の長さは4パターンあり、オペレータが使用するサイズを予め申請してある。
要救助者役は、身長320mm、質量220gのデッサン人形だ。人形は、オペレーターが救助しやすいポーズにして、配置することができる。その後、審判がガレキを救助者の周りに設置する。ガレキは、発泡スチロール製の直方体でサイズは約200×100×50mm、重量は約30gだ。
競技者は、フィールドにレスキュー用の道具を3個まで設置しておくことができる。段差を乗り越えるための踏み台や、要救助者を搬送するための台車などだ。道具は車輪があってもよいが、電池やバネ、空気タンクなどのエネルギーを蓄える機構は禁止されている。
ミッションを終了した時点の残り時時間がポイントとなる。他に、3人の審査員が、障害物クリアや、要救助者人形の扱いなど全体のパフォーマンスを各自100点満点で評価する。単に早くゴールするのではなく、従来のレスコン同様「安全性」や「要救助者に対する優しさ」などのフィジカル面が重視されているのが特徴だ。
今回は、ロボットのレギュレーションに細かな規定はなかった。基本的には二足歩行ロボットを対象としているが、多足型の脚式ロボットも事前に相談すれば出場が可能であったし、ロボットの車輪移動は禁止だが競技中に使わなければ搭載されていてもOKとされていた。
ロボットは、トンネルをくぐり | 段差を乗り越え | フィールドサイズは、幅1.75m×長2.1m |
控え室で最終調整をする参加者達 | フィールドで試走する間にも、子ども達が集まってきていた |
●12体のヒト型ロボットがレスキューにチャレンジ「ファーストミッション」
18体のエントリーがあったが、棄権もあって12体が競技に出場した。ちなみに同じロボットであっても、オペレータが違えば別エントリとして競技に出場できる。参加者のファーストミッションの成績は以下の通り。
ロボット名 | オペレータ/所属 | 残時間点 | 審査員点 | 総評価点 |
---|---|---|---|---|
大電通駒鳥 | (中島 誠氏/大阪電気通信大学 自由工房) | 128 | 276 | 404 |
ケルビム | (岩気 裕司氏/ロボットフォース) | 83 | 237 | 320 |
WEASEL | (川上 靖次氏/株式会社アールティ) | 80 | 232 | 312 |
大電通駒鳥 | (高橋 裕一朗氏/大阪電気通信大学 自由工房) | 39 | 253 | 292 |
YOGOROZA | (當田 秀稔氏) | 20 | 238 | 258 |
JO-ZERO type-UF | (中村 素弘氏/有限会社姫路ソフトワークス) | 0 | 203 | 203 |
太助 Golden Arms | (山本 章史氏/産業技術短期大学) | 0 | 121 | 121 |
プロトタイプ | (中谷 幸一氏/OIT.OB) | 0 | 52 | 52 |
太助 Silver Arms | (酒井 遼氏/産業技術短期大学) | 0 | 48 | 48 |
工助 | (西山 隆氏/産業技術短期大学) | 0 | 30 | 30 |
まのれす | (平田 智矢氏/福山大学 電子・ロボット工学科) | 0 | 19 | 19 |
Cyclops_x | (釜田 博氏) | - | - | - |
実際の競技は、現時点では「レスキュー活動」というよりも「障害物競走」といった雰囲気だった。もちろん、トンネルくぐりや段差乗り越えは、将来のレスキュー活動における不整地での移動を念頭においてあるのは言うまでもない。動画を交えて、各タスクを参加者がどのようにクリアしていたのか紹介しよう。
トンネルくぐりは、普通に考えれば匍匐前進でクリアすることになる。当然、そのパターンが一番多かった。しかし、狭いトンネル内でロボットがまっすぐに匍匐前進をするのは、難しい。微妙に軌道修正をしながら進むわけだが、太助 Silver Armsのようにトンネルの脚にぶつかって身動きが取れなくなるロボットもあった。ほんの少し後退ができれば、なんとかなるのだがそこまでモーションを作り込んでいないようだった。
ロボットならではの攻略として、Cyclops_xは仰向けになって移動した。これは人間には難しいだろう。無線化が間に合わずエキシビション参加となったサントス(改)(川野 健太氏/岡山県立大学 ロボット研究サークル メヒャニカ)は、台車に仰向けに乗りトンネルをくぐった。
段差乗り越えは、ユニークなモーションも多かった。JO-ZERO type-UFは、段上で逆立ちしたまま腕で方向転換しながら移動し、体の向きをかえて安全に降りるように努力していた。
WEASELは、道具として踏み台を用意していた。試走で何度も練習を行なっていたが、踏み台から段差に移動する時に蹴り脚の勢いで踏み台がズレてしまって、ロボットが転げ落ちていた。本番では、踏み台に重しを乗せて固定することで解決した。
跳び箱の前方倒立回転跳びの要領で、段上に手を突き逆立ちで一気に乗り越えるダイナミックなロボットも多かった。しかし、これだと着地の衝撃が大きい。勢い余ってフィールドから落下しそうになり審判に支えてもらうロボットや、モーターの破損トラブルを起こすロボットもいた。
要救助者だけでなく、ロボット自身の安全性も考える必要があるだろう。大電通駒鳥やYOGOROZAのように、床にしっかり足をつけて段差を降りるロボットには、観客から拍手が送られた。
ガレキは発泡スチロール製のため、従来のレスコンと比較すれば格段に軽い。カンタンに動かせるので手で払ったり、キックしたりして横にのけているロボットもいた。しかし、要救助者の近くにあるガレキを蹴るのは、傍目にも乱暴な行為に映る。間近で競技を見ている子ども達からは、「蹴ったぁ!」と批難の声が上がっていた。
それとは対照的に、ちゃんとガレキを持ち上げて取り除くロボットには、大きな歓声があがった。
最後の難関は、要救助者役の人形を助けるタスクだ。事前に、オペレータが救助しやすい姿勢を取らせているものの、ガレキを除く時に人形が動いてしまうこともある。そもそも、ヒト型ロボットは人間のように細かく歩幅を調整しながら歩けないので、救助しやすいポイントにぴったりと移動することじたいが難しい。ケルビムはしゃがんでにじり寄るなど、各オペレーターは位置取りに苦心していた。
人形の救助は、両手で抱きかかえたり、片腕で持ち上げたりとさまざまだった。WEASEL(川上 靖次氏/株式会社アールティ)が、床に座っている人形をロボットがそのまま押してゴールまで運ぶと子ども達から「イエローカードじゃないの?」という声も上がった。また、人形の頭を下にしたまま運んでいる時に、実況中継から「みんなだったら、こんな風に扱われたらどう思うかなぁ?」と観客に意見を求める場面も見られた。
●6体のロボットが「ファイナルミッション」へ進出
このような形で競技を行い、ファーストミッションのポイントの上位6体が、ファイナルミッションへと進んだ。既述した表のとおり1位と4位に大阪電気通信大学 自由工房の大電通駒鳥が入っている。あとの4体は二足歩行競技大会で活躍している社会人だった。
第1回目の競技会なので、フィールド状況など参加者にとって重要な情報が行き渡ってない点があったようだ。二足歩行ロボットはセンシティブなので、たとえ水平がでていても床面の材質で歩行が不安定になるなど影響が大きい。その点で言えば、大電通駒鳥を操縦するオペレータ2人は、実際のフィールドで練習を繰り返せたのが有利だったのだろう。大電通駒鳥は、各タスクをクリアするためのモーションもしっかりと作り込まれていて、事前準備に時間を掛けていることが競技内容から伝わってきた。この競技会のために、1カ月前から二足歩行ロボットを始めたとは思えないほどいい動きだった。
優勝した當田秀稔氏をはじめ、ファイナルに進出した社会人は、全員が他の競技会にも積極的に参加している。自分のロボットの特性や、モーション作りのコツ、リトライの可能性まで考えたタスク攻略方法など、いくつものポイントを押さえていることが競技を見ていて感じられた。
ファイナルミッションで、人形を救助してゴールできたのは、當田秀稔氏のYOGOROZAだけだった。人形の周囲にあるガレキの数が増えた以外は、タスクに変化がないので上位ロボットの活躍を動画で紹介する。
ロボット名 | オペレータ/所属 | 残時間点 | 審査員点 | 総評価点 |
---|---|---|---|---|
YOGOROZA | (當田 秀稔氏) | 87 | 248 | 335 |
ケルビム | (岩気 裕司氏/ロボットフォース) | 0 | 209 | 209 |
大電通駒鳥 | (高橋 裕一朗氏/大阪電気通信大学 自由工房) | 0 | 202 | 202 |
JO-ZERO type-UF | (中村 素弘氏/有限会社姫路ソフトワークス) | 0 | 176 | 176 |
大電通駒鳥 | (中島 誠氏/大阪電気通信大学 自由工房) | 失格 | ||
WEASEL | (川上 靖次氏/株式会社アールティ) | 失格 |
ファーストミッションの合間に、ゲストとして、ヴイストン株式会社の今川拓郎氏が二足歩行ロボット型パソコン「Robovie-PC」でエキシビションを行なった。Robovie-PCは、トンネルくぐりと段差越えを同じ匍匐前進モーションでクリアした。競技に出場した全てのロボットが、2種類のモーションを用意していたのと対照的だ。
今川氏は、最初に一番難しいと思った段差越えモーションを作成したそうだ。作ってみたら、そのままトンネルくぐりにも使えることが分かったため流用。この競技会用にモーション作成に費やした時間は1日半くらいだったという。少ない工数で効率よく確実にタスクをクリアする手際の良さは、さすがロボカップで5連覇を成し遂げたTeam Oosakaのチーフプログラマだ。
今川氏から、大電通駒鳥のプログラムを担当した中島 誠氏(大阪電気通信大学 自由工房)に、ヴイストン賞が贈られた。
【動画】二足歩行ロボット型パソコン「Robovie-PC」のエキシビション。段差を降りるときに、ロボットにダメージがない | 【動画】段差超えと同じモーションでトンネルくぐりもクリア。動きに無駄がない | 【動画】人形を抱きかかえて歩行するようすも安心して見ていられる |
●観客にも分かりやすく、より楽しめるレスキューロボットコンテスト
審査結果が出るまでの間、大阪電気通信大学 自由工房のメンバーが、今夏に神戸で開催された「第9回レスキューロボットコンテスト」で総合2位入賞した「救命ゴリラ!」のデモンストレーションを行なった。
【動画】ロボットの特徴を説明しながら、人形を救助 | 【動画】扇形ハンドで要救助者にガレキがぶつからないようにカバーしながら救助する | ロボットに搭載されたカメラの映像はPCに送信される。本来は、この画面をみて遠隔操縦で救助活動を行なう |
競技の合間に子ども達にロボットの紹介タイムも設けられていた |
従来のレスコンロボットの救助を見ている時と、ヒト型レスコンを見ている時の観客の反応は、明らかに違っていた。要救助者を「早く安全に助ける」という目的は同じでも、ロボットがヒト型をしている方が、観客は感情移入がしやすいようだ。
通常のロボコンでは、観客はロボットに感情移入して見ているものだが、レスコンの場合、大半の子どもが救助される人形側に同調している点が面白い。正確にいうと、段差を乗り越えるまではロボットの応援をしているが、人形を救助するタスクでは視点が切り替わる。ロボットが人形の上に倒れたり、人形を落としたりすると、「痛い!」「骨が折れたよぉ」などと声が上がるほどだった。
応援している子ども達を見ていると、単に速くゴールすればいいわけではなく、「素早く安全に。より優しく」というレスコンの理念が的確に理解されていることを感じた。子どもたちは競技を楽しみながら、自然にレスキューについて、また人の役に立つロボットやロボットと人間の関係性について考えるよいきっかけになったようだ。
2009/11/10 22:16