最強ロケット「H-IIB」がもうすぐ打上げ

~種子島より最新情報をレポート


第2射点に立ったH-IIBロケット試験機

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月11日に、日本初のクラスタロケットとなる「H-IIB」を打上げる。宇宙ステーション補給機「HTV」を打上げるために開発された新型ロケットで、打上げは今回が初めて。初号機(試験機)には、HTV技術実証機を搭載する。

初のクラスタエンジン

 H-IIBロケットの最大の特徴は、第1段のエンジン「LE-7A」をクラスタ化し、2基搭載したことだ。直径はH-IIAロケットの4mから5.2mに大型化し、推進剤も1.7倍搭載する。こういった強化により、過去最大の搭載物となるHTVの打上げに対応した。打上げ能力は、HTVと同じ16.5トン(HTV軌道時)。種子島宇宙センターの第2射点(LP2)より打上げられる(これまでのH-IIAでは全て第1射点が使われていた)。

HTVのために3m長くなったフェアリング。これは新規開発第2段はほぼ変更なし。その下の第1段は太くなっているちょっと見えにくいが、ここにクラスタエンジンがある

 主エンジンのクラスタ化は、米国のスペースシャトルやロシアのソユーズなど、海外ロケットでは古くから使われている技術であるが、日本では初めてとなる。強力な新型エンジンを開発するよりも、低コスト・短期間での推力向上が可能とされ、JAXAと三菱重工業(MHI)は270億円でH-IIBロケットを開発した(試験機の製造には、これとは別に147億円のコストがかかっている)。

 H-IIBロケットとHTVに関しては、これまでも何度か弊誌で取り上げているので、詳細についてはそれぞれの過去記事も参照して欲しい。

なぜに2時01分46秒?

 打上げ時刻についてだが、最終的には9月11日午前2時01分46秒に決定された。以前の発表では「2時04分頃」となっていたので、ライブ中継を見る予定の人は注意して欲しい。HTVは国際宇宙ステーション(ISS)に向かうため、ISSの位置を考えて打上げる必要があるのだが、ISSはデブリとの衝突回避などで高度を変えることがあり、事前に時刻を正確に決定するのは難しいのだ。

 この打上げ時刻については、もう少し補足したい。秒数まで細かく設定されているのは、ISSの軌道面が種子島を通過するときに打上げるためだ。ここでポイントは、重要なのはISSの軌道面であって、位置ではないこと。一般的には、ISSがちょうど上空に来たときに打上げるイメージがあると思うが、実際には軌道面さえあっていれば、ISSは地球の反対側にあっても構わない。

同一の軌道面に入っていれば、位置(位相)をあわせるのには、じつはそれほどの推進剤は必要ない。物理的に、低い高度では角速度が速くなるので、ISSには「勝手に」追いついていく。HTVはこの原理で、低い高度でISSに追いつきながら、徐々に高度を上げていく。逆に、後方には戻らないので、極端な話、すぐ後ろにISSが来ていても、一周して追いつくことになる。

ISSの軌道面にあわせて打上げる低い軌道では角速度が速い

 一方、軌道面を変更するような噴射では、かなりの推進剤を使うことになる。HTVの場合、打上げが10分ほど前後するだけで、搭載したほとんどの推進剤を消費してしまうほどだという。なので、ジャストオンタイムで打上げる必要があるのだ。

 ISSの軌道面が通過する時刻は、毎日24分程度早くなっていく。HTVの打上げが延期されれば、それだけ打上げ時刻も早まっていくことになる。

プロマネの意気込み

 9日に開催されたY-1ブリーフィングには、中村富久・H-IIBプロジェクトマネージャと虎野吉彦・HTVプロジェクトマネージャが出席。打上げを前に、それぞれ意気込みを語った。

 「初めての打上げで緊張しているが、H-IIBロケットには、H-IIAロケットと同じエンジンが使われるなど、我々がいままで開発してきた技術を全て取り込んできた。これまでの技術開発が正しかったと、打上げを成功させて実証したい」(中村プロマネ)

 「HTVには新しい技術を投入したが、難しいランデブー技術などは、地上試験をイヤというほどやってきており、自信はある。シミュレーション結果や訓練成果を信用して、平常心で臨みたい。」(虎野プロマネ)

左がHTVの虎野プロマネ、中央がH-IIBの中村プロマネ当日のカウントダウン作業。すでに進行中打上げの制約条件は、H-IIAとほぼ同じだという

 ちなみに、JAXAの衛星は打上げ後に愛称が発表されることが多いが、HTV技術実証機にはその予定はないという。同じ補給機では、ESAのATV初号機に“Jules Verne”という愛称があったりするが、HTVに愛称がないことについて、虎野プロマネは個人的見解としつつも、「HTVは輸送システムであり、つまりはロケットと同じだからではないか」と述べていた。

直径5.2mの迫力

 10日の昼頃、ついにH-IIBロケットがその姿を現した。これまで、実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)や地上総合試験(GTV)で射点に出たことはあったが、フェアリングも付いた完全な形では、これが初披露となる。直径が1.2m太く、フェアリングが3m長くなった「だけ」のはずなのだが、実際に見てみると、これがとにかくでかい。「大きい」ではなくて、あえて「でかい」と書きたい。プレスだけでなくて、スタッフなどからも感嘆の声が出ていたほど。

機体移動開始。VABから出てきたが、高さがギリギリな感じ射点にフライトナンバーが出ていないと思ったら、こちらにあった第2射点に向かうために、このあたりで進行方向を右に曲げた

 今回は初号機ということもあってか、プレスには、機体移動のあと、大型ロケット組立棟(VAB)の横から撮影する機会が与えられた。射点までの距離はおよそ350m。以下に掲載するので、ご覧いただきたい。

VABは撮影点の右側にある。滅多に見られない風景まだ作業員が近くにいる。ロケットの巨大さが分かるVAB側から見たH-IIBロケット試験機


(大塚 実)

2009/9/10 19:56