JAXA、H-IIBロケットの地上総合試験(GTV)について説明

~打上げ予定日も9月11日に決定、いきなりの夜間打上げに


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月9日、開発中のH-IIBロケットおよび宇宙ステーション補給機(HTV)について、プレス向けの説明会を開催した。8日には、H-IIB/HTVの打上げ予定日が9月11日であることも発表されており、そちらの最新状況についてもお伝えしたい。

H-IIBロケットの開発状況

 H-IIBロケットについては、中村富久プロジェクトマネージャより説明があった。

 H-IIBロケットは、第1段のメインエンジン「LE-7A」をクラスタ化(2基)することで、打上げ能力を強化したもの(概要については、以前の記事等を参考にしていただきたい)。種子島宇宙センターにて、4月に二度の「第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」を実施しており、今月11日には最後の仕上げといえる「地上総合試験(GTV)」が行なわれる予定だ。

「第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」の結果「地上総合試験(GTV)」の計画。エンジンの燃焼はないGTVの警戒区域は半径2,100m。CFTのときより300m広い

 CFTは、H-IIBロケット試験機(初号機)の実機を用いて行なわれたエンジン燃焼試験である。クラスタ化されたエンジンの試験自体は、それ以前に三菱重工業(MHI)田代試験場にて「第1段厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT)」というものが実施されているが、CFTでは本物のロケットにエンジンを取り付け、打上げ本番と同様の状態で性能や安全性などを評価する。

 エンジンの立ち上がり・停止については、結果は良好。しかし試験の結果、以下の一部項目については「処置要」とされた。液体酸素タンクの加圧特性では、予測よりも圧力が低かった。フライト自体には「問題なし」とされたが、予測から外れたことについて、解析を深めて現象を理解する必要がある。またアビオ機器とバルブの振動が大きかった点については、現在振動試験を実施しているところだ。

 ちなみに、CFTの実施回数が当初予定の1回から2回に増えたことで、H-IIBロケットの開発費は8億円増えたとのこと。以前の記事ではMHI側の投資とあわせ、262億円とお伝えしていたが、現時点では270億円ということになる。8億円の増加には、CFTの追加のほか、エンジンの油圧アクチュエータの設計変更も含まれているとのことだ。

 GTVでは、エンジンの燃焼は行なわないものの、エンジンはフライト品に交換されており、固体ロケットブースタ(SRB-A)も本物が取り付けられている。試験の目的は、機体と射点設備を組み合わせた状態での作業手順やインターフェイスの確認。いわば打上げに向けたリハーサルのようなものといえる。ただし本番と違い、フェアリングとHTV技術実証機は搭載しない。機体はすでに射場に出ているので、ライブカメラでも姿を確認できる。

 GTVは2回実施する予定で、1回目は午前2時頃。これは実際の打上げが9月11日の午前2時4分頃に予定されていることから、同じ時間帯に設定された。本番と同様のスケジュールで作業が進められることになる。2回目は3時半頃の予定。HTVの打上げチャンスは1日に1回しかなく(しかもウィンドウ(打上げ予定時間帯)はない)、実際には1時間半後に打上げが再設定されることはないのだが、この2回目については、静止衛星の打上げ等を考慮したものだという。

フェアリングの開発状況

 H-IIBロケットでは、クラスタ化された第1段のほか、HTVを格納するためのフェアリング「5S-H」型も新規開発されている。この従来よりも3m長くなった新型フェアリングについては、強度試験において、分離機構が破損する不具合が発生しており、開発が遅れていたが、破損部や周辺部の補強を施し、再度の試験で妥当性が確認できたという。今後、分離放擲試験を実施したのち、フライト品を搬入する予定。

 このフェアリングの補強については“応急処置”のようにも見えるが、そういった指摘に対して、中村プロマネは「要求仕様を十分満たすだけの強度余裕がある」と反論。ただし、運用機(2号機以降)については、「さらに信頼性を上げることも考えている」とし、設計の見直しについても含みを持たせた。

打上げは夜間

 H-IIBロケット試験機の打上げについては、少し補足しておきたい。まず打上げ時刻が2時4分という深夜に設定されているのは、搭載するHTVの向かう先が国際宇宙ステーション(ISS)であり、その軌道によって決定されるためだ。

 ISSの軌道については、JAXAのWEBサイトで調べることができる。ISSはデブリとの衝突を避けるために高度を変えることがあり、軌道の予測は未来になるほど誤差が大きくなるが、現時点での、打上げ時刻(9月11日2時4分)におけるISSの位置は以下の通り。軌道面が種子島付近を通っていることが分かるだろうか。

打上げ時刻(9月11日2時4分)のISSの予測位置

 このときのISSは、日本上空を北西から南東に抜けている。同じ日には、南西から北東に抜けるパスもあるが、種子島でロケットを北東に向けて打ち上げることはできないため、打上げのチャンスは1日に1回しかないのだ。

 通常の衛星の打上げではウィンドウが設定されるが、HTVの場合はそれがない。時間ちょうどに打上げる必要がある。H-IIBロケット試験機の打上げ予定日は9月11日で、翌12日から30日までが予備期間とされるが、この打上げ時刻は1日延期になるごとに20分程度早まっていくという。打上げが12日になった場合、時刻は1時40分頃になるそうだ。

 いずれにしても、種子島では初の夜間打上げということになる(内之浦からは、火星探査機「のぞみ」が3時12分に打上げられたなどの実績があるが、種子島では初だ)。どのような打上げになるのか、今から待ち遠しいところだ。


(大塚 実)

2009/7/10 18:56