「テクノトランスファー in かわさき 2009」レポート
~大学・公的研究機関系のロボット&要素技術が出展
1階は産学連携部門で、大学や公的研究機関がブースを並べていた |
「第22回先端技術見本市 テクノトランスファー in かわさき 2009」が、7月8日(水)から10日(金)まで、かながわサイエンスパークで開催された。川崎市の各種ものづくり系企業を中心に、川崎市と産学連携している全国の大学や公的研究機関なども参加して、工業製品やソフトウェアなどを展示・実演するほか、セミナーなども多数行なわれる展示会である。
●レスキューロボット用の耐衝撃センサノードなどを展示した東京電機大学
今回、最も面白かったのが、川崎市産学連携部門でブースを構えていた東京電機大学。工学部情報通信工学科ネットワークロボティクス研究室のロボットセンサネットワーク研究班によって開発された「耐衝撃センサノード」だ。
これは、レスキューロボット(ブースでは、同研究室と協力関係にあるfuRoの「Kenaf」の頭部カメラを外したものが動いていた)が被災地のがれきの中を移動していく際に、有線方式だとケーブルが絡まってしまう恐れがあるため、無線方式の研究も進められているのだが、それはそれで弱点がある。電波が減衰するという弱点を解消しようとして開発された補助装置が、耐衝撃センサノードというわけだ。
地下街や倒壊した大型施設の奥へと進めば、無線も届きにくくなるため、感度が悪くなる度にセンサノード(中継器)を設置していくという方式が同研究室では考えられている。ただし通常の機器だと、余震などでひっくり返ったり、崩れてきたがれきで壊れてしまったりする可能性が高い。そこで考え出されたのが、アクチュエータなどを用いずに重力によってセンサーの姿勢を一定方向に保持可能な受動的倒立機構を搭載した「二重倒立機構搭載センサノード」。それをさらに、ビーチボールの中に閉じこめるような形にして緩衝材で保護して耐衝撃性を持たせたのが、耐衝撃センサノードというわけだ。
耐衝撃センサノードの打たれ強さは、まさに衝撃的で、目の前で150cm以上の高さから落としてもなんともないし、今回いただくことができたムービーでは、もっとすごい耐衝撃実験が行なわれている。確かに、かつてNASAの火星探査機のひとつが、エアバッグで囲んだ状態にしてはずみながら軟着陸する仕組みを採用していたので、例がないというわけではないが、目の前で実際に機器を入れたまま落とされると、そんなに衝撃を与えて、本当に中のCPUなどが壊れたりしないのか心配してしまう。また周囲の緩衝材がない、二重倒立機構搭載センサノードそのものも用意されており、これまたボウリングのように転がしても、中の機構が常に垂直に保たれているのがわかり、面白かった。
【動画】耐衝撃センサノードを150cm以上の高さから落とした瞬間 | 【動画】二重倒立機構搭載センサノードを転がしてみたところ | 【動画】同研究室からいただいた動画。そこまで勢いよく投げなくても、という強烈なシーンも |
なお、これらのセンサノードを搭載するロボット側に投射機能を持たせ、ロボットですら入っていけない狭い場所や、負傷者が横たわっているためにロボットが先に進めないような場合にも、その先へと送り込む機構も研究中だ(同研究室よりいただいた動画の中で見られる)。またその際は、非常用のネットワークの確立以外に、情報収集に活用することも考えているそうだ。
●車輪型階段昇降ロボットや小型振動ロボットを展示した日本大学
産学連携部門の日本大学産官学連携知財センターブースで展示されていたのが、同大学理工学部精密機械工学科准教授の入江寿弘氏の知能化ロボット研究室の「車輪型階段昇降ロボット」と「小型振動ロボットVibot」だ。
車輪型階段昇降ロボットは、道路のちょっとした段差など、公共施設以外ではお年寄りにとってまだまだバリアフリーの問題が多く、その介助として考えられている移動システムだ。段差を踏破するための移動機構としては二足歩行や四足歩行などの脚、クローラ(キャタピラ)などがあるが、脚の場合は機構が複雑であること、クローラはある程度実用化されているが平地での走行では車輪型に劣るなど、それぞれ問題がある。そこで入江氏が考えたのが、平地走行時は車輪の走行性能を持ち、段差を乗り越える際に車輪を変形させて対応するという仕組みだ。車輪が変形するため、機構としては若干複雑にはなるが、脚ほどではなく、また平地走行時は車輪として機能できるためにクローラの移動能力を上回れるなど、十分実用的なシステムとして入江氏は考えているようである。
車輪型階段昇降ロボット。残念ながら動作デモはなし | 前輪部分のアップ。片輪がこれだけ上がっても対応できる仕組みになっている | 車輪型階段昇降ロボットの解説パネル |
段差を乗り越える機構は、車輪の一部が分割して口を開けるように外側に開き、それを段差に引っかけて乗り越えていくという計画。現在は、試作している段階だそうである。今後は、階段を乗り上げる場合の最適な制御方法を、運動解析を行なって検討していくとしている。
また、ロボットの機構としては、前後の車軸の中心(クルマのドライブシャフトがTの字状に車軸と接するデフの部分)を中心にヨー軸方向に回転する(地面からの垂直軸に対する円運動)形になっていることがひとつ。クルマの場合は、(フロント)タイヤの中心を軸として向きを変えるので、車軸は車体に対して垂直なまま動かないが、車輪型階段昇降ロボットは段差の向きに合わせられ、ほぼ正面から踏破していけるというわけだ(また、4WSのように旋回性能も高い)。また、同じくデフ部分を中心にしてロール軸(進行方向軸に対しての円運動)にも動くので、片側だけが段差に乗り上げた時も問題なく対応できる仕組みだ。このふたつの一般的なクルマにはない仕組みにより、凹凸の激しい地面でも4輪が地面に極力接する形で走行することが可能となっている。
その他の仕組みとしては、まずフロントの車軸上に左右それぞれに1個ずつモータが備えられており、フロントエンジン・フロントドライブならぬフロントモータ・フロントドライブになっている部分がある。前後輪の車軸に対しては、傘歯車を使って伝達するようになっており、操舵角は前後輪で正反対になる設定(車体の中心線上に旋回軸を維持するようになっている)。車体板の下に荷物をつり下げて搬送し、太陽電池パネルを装備しているので太陽光発電が可能な場合はバッテリに充電しながら走行するようにもなっている。
一方のVibotは、卓上で実験できる単純な研究・教育用プラットフォーム、もしくは玩具としても利用可能なサイズとして3~5cm程度を目標に開発されているロボットだ。
床面を後方の斜め下方向に対して本体の振動を使って力を加えることで、作用反作用の法則で自分が前に送り出されていくという仕組みで移動する。いわゆる、紙相撲の指でトントン叩くところをロボット自身がやっているような感じといえばいいだろうか。
超小型モータの先端に重りが偏った形で取り付けられており(左右で重りの取り付け位置が180度逆)、それが回転することで振動が起き、ブルブルと小刻みに振動しながら移動していく。LR44ボタン電池2個で最大80分の走行が可能で、実験ではライントレースも安定的に行なえることが確認されたそうだ。ただし、ちょうど取材時は電池が消耗気味だったようで、動作が不安定に。ライントレースしているのはなんとなくわかるが、残念ながらきれいにはたどれていなかった。また機会があったら、フルチャージ状態の時に見てみたい。
小型振動ロボットVibot。なんとなくすでに顔っぽく、キャラが立っている感あり | 【動画】おしくもきれいには動作しなかったが、トレースはしているようである |
また、初日には入江氏による「脚・車輪・飛行ロボットの可能性」と題した技術シーズ提供セミナーも行なわれ、前述した2タイプのロボット以外にも、脚機構ロボット、飛行ロボットも紹介された。
脚機構ロボットの開発には、生物の筋肉のような柔軟な動作が必要として、バネのような衝撃吸収の仕組みを持ち、小型で高出力を出せることからエアシリンダを採用して研究中だ。
飛行ロボットに関しては、環境や施設の監視・探査や、災害時の調査・探索などにおいて、上空から得られる情報収集量は地上からに対して非常に大きく、障害物のない上空は移動も迅速かつ容易ということから研究が進められている。
現在は、GPSやカメラ、慣性計測装置などの複合センサーを、ラジコン飛行機に搭載可能なシステムとして開発中で、フライトシミュレータ(日本大学船橋校舎バージョン)を用いた自律制御機構の研究も行なっている。今回は実機の展示がなかったために撮影はできなかったが、入江氏の知能化ロボット研究室のサイトで画像付き紹介されているので、興味のある人はチェックしてみよう。
●パワーアシスト型機能的電気刺激装置内蔵スリーブ
イクシスリサーチといえば、川崎に拠点を構えるロボットベンチャー企業。そのイクシスリサーチと日本医科大学医学部リハビリテーション科教授の原行弘氏が共同開発したのが、上肢(腕)用「パワーアシスト型機能的電気刺激装置内蔵スリーブ」だ。
脳卒中を起こして脳に部分的な障害が残り、腕の一部が動かなくなる片麻痺のリバビリ装置である。リバビリ型ロボットというと、サーボを動かして腕の動作を支援するというタイプが多いが、こちらは電気刺激を行なうタイプだ。
パワーアシスト型機能的電気刺激装置は、麻痺した筋肉のわずかな筋収縮の筋電信号を感知すると、筋電信号の活動性に比例して増幅した電気刺激を行なうというもの。それを小型化して患者が自分だけで装着できるよう工夫されているのが、今回展示されたパワーアシスト型機能的電気刺激装置内蔵スリーブというわけだ。
片腕でも問題なく患者自身で装着できるように工夫されており、なおかつそのスリーブを装着するだけで、電気刺激用のパッチが麻痺部に自動的にセットされるように作られている。従来の電気刺激装置は、このパッチを貼り付けるのが非常に面倒だったのだが、今回は労力を必要とせずに患者自身で正しい位置に容易にパッチを装着できることから、わざわざ病院に頻繁に通う必要もなく、日常生活の中でリハビリを続けられるというわけだ。
サーボを搭載しているわけではないので、動作型の医療ロボットではないのだが、センサーを搭載しロボット要素技術を活かしていることから、ウェアラブル医療ロボットという感じだろうか。生活習慣病のひとつといわれている脳卒中だが、こうした医療支援機器が増えてくれば、万が一という時も安心できるので、ぜひ早期に製品化していただきたいところである。
ちなみに、イクシスリサーチも別フロアで出展しており、今回は、昨年Robot Watchでも紹介した小型イーサネット接続4chモータコントローラ「iMCs06」を出展していた。
また、代表取締役の山崎文敬氏に、昨年6月3日に川崎市の知的財産戦略推進プログラム「知的財産交流会」の成果として発表された、富士通の開放特許を用いた「カーナビロボット」のその後の話についても伺ったところ、まだ社名は公表できないが、名だたる自動車メーカー数社と話をしており、興味を持っているところもあるという。
近年、ドライバーのアシストに利用するべく、かわいいロボットを搭載したコンセプトカーを発表しているメーカーもあるが、メーカーオプションやディーラーオプションとして、カーナビロボがカタログに掲載される日が来るのもそう遠くはないのかも知れない。車種としては、たぶん、女性ユーザーの、中でも子育て中のママさんターゲットの小型車などから、搭載されるのではないだろうか。子供も喜ぶだろうから、いいのではないかと思う。
パワーアシスト型機能的電気刺激装置内蔵スリーブ。長いから、ウェアラブル医療ロボットなどがいいのでは? | 中はこうなっており、スリーブを身につけるだけで、目的のヵ所にパッチがくるような仕組みになっている | イクシスリサーチが出展していたのは、小型イーサネット接続4chモータコントローラのiMCs06 |
●「かわさきロボット競技大会」応援のロボットが2体で奮闘
夏休みも終盤の8月21日(金)から23日(日)までの3日間に渡り、川崎市産業振興会館で開催される「第16回かわさきロボット競技大会」。主催の財団法人川崎市産業振興財団のブースでは、それを応援すべく、参加者からプレゼントされたという、2体のかぶり物系パンダキャラクターロボットががんばっていた。3日連続で、朝は10時から夕方は17時までひたすら動き続けて競技大会をアピールしつつ、同時に大会参加者(今年は249チームがエントリーしている)へのエールを送っていた(と思われる)。
どなたからのプレゼントだったのかは名前まではうかがえなかったが、産学連携部門ということで「学」を表現すべく学生服を着たパンダと、普通の(?)パンダの2体のロボットのかわいさと奮闘ぶりをご覧あれ。
非常にかわいい。子供が大勢来るような展示会なら大変ブース前はにぎわうことだろう | 【動画】3日間で合計21時間連続可動のパンダくんたち。一生懸命アピールと参加者へのエールを送っていた |
●ロボット教示技術など
横浜国立大学は、残念ながら実機の展示はなかったのだが、複数の研究室が研究中の技術をパネルでもって解説した。ひとつが、大学院工学研究院システム 創成部門准教授の前田雄介氏の「ロボット教示技術」。非熟練者でもロボットに仕事を容易に教えられることを目指した技術だ。
3通りの方法が研究されており、1つ目は教示者がロボットの手先を持って実際に動かす(空間掃引)スタイル。初期位置と目標位置の間を最短で結ぶロボットの動作の教示を可能とする方法だ。もう1つが、人間が動作を実演してロボットに教示するスタイル。プロジェクタでランダムパターンを投影し、その場で教示者の動作をカメラで観測、三次元情報を獲得し、そこからロボットの動作に必要な情報を抽出するという具合だ。3つ目もカメラ画像を用いるスタイル。教示時のカメラ画像とロボットの動作との関係を学習させ、カメラ画像に基づいた教示再生(ビューペースト教示再生)を行うというスタイルだ。ロボットが学習することで、教示時と条件が多少変わっても対応可能という、ロバスト性が特徴だ。
大学院工学研究院知的構造 創成部門准教授の藤本康孝氏の研究は、「高バックドライバビリティを有するリニアアクチュエータ(スパイラルモータ)。ロボットへの利用のほか、クルマのパワステ、直線運動を行なうアクチュエータ、マシンツールなどとしている。固定子(雌ネジに相当)と可動子(雄ネジに相当)の両方が螺旋構造になっている直動モータだ。固定子の中を可動子が運動し、ネジの減速機構を電磁力で再現している仕組みである。ギアを用いないことから、摩擦などの影響を低減でき、高精度な位置決め、出力の制御を実現できる可能性があるという。また、小型化が望め、なおかつ通常のリニアモータに対して推力が大きいという特徴もある。
続いてもモータで、「回転直動2自由度モータ」。大学院工学研究院システム 創成部門准教授の佐藤恭一氏の研究だ。通常、回転と直動という独立したふたつの運動の実現は、回転型モータとリニアモータのふたつを組み合わせることで実現しているのだが、回転直動2自由度モータはそれをひとつのシステムで実現できるというもの。この方式のメリットは、駆動デバイスの小型化を望めるというわけだ。機構としては、電磁石で鉄を引きつける力によるトルクで回転するモータ(回転型SRM)に、軸方向のストロークを付加した2自由度を実現している。回転方向のトルクと直動方向の推力を独立して制御できるので、回転、直動、その両方の複合運動の駆動が可能。こちらも用途はメカトロニクス系ということで、ロボットもその範疇に入ると思われる。
ロボット教示技術に関する解説パネル | スパイラルモータに関する解説パネル | 回転直動2自由度モータに関する解説パネル |
●人間共存型ロボットのためのメカニカル安全装置
東海大学ブースでは、工学部機械工学科准教授の甲斐義弘氏による、「人間共存型ロボットのためのメカニカル安全装置」に関する解説パネルが展示された。こちらも残念ながら実機の類は展示がなかった。
生活の場や職場など、人の活動する空間にロボットが入っていこうとした際、現在問題になっていることのひとつが、安全性である。ホビーロボットですらサーボの出力が上がっているので、ヘタをするとケガしかねないわけだが、それが人間と仕事を行なえるサイズのロボットとなってくると、出力も半端じゃない。こうしたロボットが暴走した際は、人にとって非常に危険な機械になってしまうので、甲斐氏は暴走時の安全対策の重要性を掲げているというわけだ。
現状で考えられている安全対策技術としては、緊急停止ボタン、人と衝突しても人に痛みを与えない程度の出力しか発揮しないモータの使用、衝撃吸収材などによる衝撃緩和、監視用コンピュータなどでモータの電源を切るなどがある。しかし、それぞれ問題があり、万全というわけではない。
緊急停止ボタンは、ボタンを押せない限りはロボットが止まらないことが最大の欠点。低出力モータはケガをさせる心配はないが、ロボットが行なえる作業範囲が限定されてしまう。ロボットを衝撃吸収材で覆ってしまう方法は、ケガは減らせるかも知れないが、やはり質量を持った物体が人にぶつかるのはあまり得策ではない。監視用コンピュータが電源を切る方法も、モータフリーの場合だと慣性でロボットが人に衝突する危険性があるし、保持ブレーキ付きモータだと人がロボットに挟まれた場合に、逆にロボットの関節が固定してしまって救出が困難になるという点がある。
そこで甲斐氏が目をつけたのが、アームの関節に発生する速度を機械的に検知し、あらかじめ設定した速度に達すると、関節の軸を機構的にロックするという手法である。これだと、ロボットが暴走してもあらかじめ設定した速度以上で動き出せば即座に停止させられるというわけだ。
また、設定速度は自由に変えられるので、使用する状況などによって使い分けられる利便性もある。さらに安全策として、ロックする直前にロボットの電源を切ってしまうという方法も考案。そして甲斐氏が開発したロック機構だが、関節をロックしている方向とは逆方向に回すことでロックを解除でき、人がロボットと壁などの間に閉じこめられてしまってもすぐに救出できるというわけだ。ここが、今回開発した安全装置の最大のポイントとしている。
そして、安全装置は機械要素のみで構成されており、バッテリなどを使用しないため、バッテリ切れで安全装置が働かなかったという危険性がないように工夫されているという次第だ。
今後は、振動などを考慮した実際の環境に近い状況下での実験を行なって有効性を確認すると同時に、装置の最適化(小型化・軽量化など)を行なっていくとする。また、まだ実際にはロボットに搭載されていないので、この安全装置を搭載した小型ロボットを開発し、実験を行なうという。
人間共存型ロボットのためのメカニカル安全装置の解説パネル。研究背景・目的と安全装置の仕様 | 解説パネルその2。安全装置の構成とメカニズム | 解説パネルその3。安全装置の構成とメカニズムの続きと、実験・結果、まとめなど |
●ロボット以外の面白かった技術たち
最後は、ロボット以外の面白かった製品や技術を紹介しよう。独立行政法人情報通信研究機構が展示していたのが、布製電子タグやウェアラブルパッチアンテナ。柔らかいアンテナを利用した電子機器らしくない電子タグだ。布製マイクロストリップアンテナを利用しており、従来は電子タグを人体へ直接密着させることは難しかったのだが、それも容易に行なえるようになっている。高利得なので、動作可能距離に関してもなんの問題もない。パッチなら衣服や帽子などに幾らでも縫いつけられるので、将来的には、入院患者の体温などのデータの記録・履歴確認、子供の所在地の確認などに応用できるとしている。衣服に縫いつけられるのなら、衣替えの時期にどこにしまったかなんてこともなくなるのではないだろうか。
およそ電子機器には見えない布製電子タグとウェアラブルパッチアンテナ | このように曲げても問題ない(さすがにチップ部分も折るのはダメだが) | 【動画】でも、動作的にはなんの問題もない |
続いては、JKBのプレス技術を紹介。まずは先に下の画像を見てほしいのだが、これらは全部、これまでなら不可能とされていた順送プレスで実現した製品である。順送プレスとは、いちいち人が手で向きを変える必要のある単発プレスとは異なり、最後まで一気に製品ができてしまう機構のプレスのことである。これら、プレス製品としては常識破りのあり得ない製品たちは、すべてその順送プレスで作られた物で、まったく素人には想像のつかない企業秘密で成し遂げているのだ。
サンプルとして紹介されているプレス製品をもう少し解説すると、最初の円筒型の中にV字の羽根が見えるものは、そのV字の羽根があるため、従来の技術だと真円の精度を出すのが非常に困難だった。しかし、新技術では順送プレスで真円度を確保しつつ、V字羽根を設けることもできる。プレスとは高圧力で金属板を上から押さえつける機械というイメージしかないので、なぜ押しつけているのにこんなに円形でいてなおかつその内側にV字羽根があるのかハテナマークしか浮かばない。
次の超小型の製品は、従来なら板厚0.06mmの材料に抜き加工および高精度の曲げ加工をする必要があり、プレスでの加工はほぼ不可能、という小ささ。しかしこれまた順送プレスで、なおかつ寸法公差プラスマイナス10~50μmという超高精度を達成しており、にわかに信じられないほど。
最後は、直径8.5mmの円内に121個の穴が設けられているというもの。従来は高コストのエッチング加工で対応するしかなかったのだが、これまた新技術の場合は順送プレスでOK。低コスト化が実現したというわけだ。このほか、「ウソ」としか思えないようなプレスが可能だそうで、実に興味深かった。
真円の中のV字型の羽根。これが順送プレス製品? | 0.06mmの板から順送プレスを経て作られた製品。なんでそんな薄い板をプレスできるの? | 直径8.5mmの円内に121個の穴が開いた製品。どうしたらこんなにきれいに穴をいくつも開けられるの? |
最後は、災害時に水を確保するための装置として日本ベーシックが開発した、自転車型の「モバイルウォーター」および、普段は浄水器としても使える「シクロクリーン・プロミネント」を紹介したい。モバイルウォーターは、自転車のペダルを漕いで川やプール、家庭なら風呂の残り湯などから飲料水を作り出せる装置。ふたつのプレフィルタと重金属や臭いを除去するKDF活性炭フィルタ、細菌を通さない中空糸膜フィルタを搭載しており、安全な飲料水を毎分5リットル作り出すことが可能だ。
シクロクリーン・プロミネントは専用手動ポンプを接続することで、同じく飲料水を毎分3リットルのペースで作り出せる。ブースでは、実際にわざと汚した水から飲料水を作って訪問者に試飲してもらっており、記者も挑戦。飲んでみて、至って普通の水であった。すでに水事情のよくない開発途上国に出荷しており、現地で活躍しているという。防災のことを考えたら、我が家にも1台置いておきたい1台である。ちなみに、価格はモバイルウォーターが55万円から。シクロクリーン・プロミネントは4万9,350円(交換カートリッジは9,870円)。みなさんも、どうだろうか?
モバイルウォーター。自転車の推進とポンプはワンタッチで切り替えられるので、水源まで走っていける | シクロクリーン・プロミネント。普段は浄水器で、カートリッジはおよそ1年ごとに交換 | 左の汚れた水が、右のきれいな水に。飲んでみてなんの問題もなし |
以上、第22回先端技術見本市 テクノトランスファー in かわさき 2009、いかがだっただろうか。残念ながらパネルのみというロボットおよび関連技術もあったが、大学で研究されているロボットはとても面白いので、今度はぜひ直接取材できればと思う。
2009/7/16 15:34