「ロボカップジャパンオープン2009大阪」レポート【1】
~家庭の中で、人とロボットの協動をシミュレーションする@HOMEリーグ編
5月8日(金)~10日(日)の3日間にわたり、京セラドーム大阪で「ロボカップジャパンオープン2009大阪」が開催された。主催はロボカップジャパンオープン2009大阪開催委員会、共催は社団法人日本ロボット学会、社団法人人工知能学会、社団法人計測自動制御学会システムインテグレーション部門。
「ロボカップ」は“2050年に人間の世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットのチームをつくる”という夢を掲げて、1998年にスタートしたランドマーク・プロジェクトだ。目標にチャレンジする過程で生み出された技術が、社会に還元され生活に活かされることを目的としている。その一環として、サッカー競技だけではなく、レスキューや未来の技術者を育てるジュニアチャレンジなど、いくつものリーグが誕生してきた。
本稿でレポートする@HOMEリーグは、一般家庭内でロボットと人がコミュニケーションをとり協調して活動することを想定した競技となっている。日常生活にロボットが登場した時、どのような課題が生まれるのか? 人と自律型ロボットが共存する可能性を探るリーグとして、2006年にブレーメン世界大会でスタートした。
会場となった京セラドーム大阪 | @HOMEリーグ出場者 |
●2チーム3台のロボットが出場
今年参加したのは、2007年世界大会で優勝した玉川大学、電気通信大学、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)による「Team eR@sers(イレーサーズ)」と、九州工業大学の「Ho-Ryu」の2チームだ。
@HOMEは1チーム2台のロボットが出場できる。「Team eR@sers」は、昨年活躍した「eR@ser」に加え、新たに「DiGORO」を製作した。
「eR@ser」は、昨年の機体に右腕と顔をつけてコミュニケーション能力をアップした。腕は人間と同じような動きができるように9自由度。会話に合わせて眉と口を動かし、人とコミュニケーションする時に表現の幅が広がった。頭部にCCDカメラとマイク、ボディ下部のスリットにLRF、超音波センサーを16個、下部にタッチセンサーを搭載している。コントローラーで「eR@ser」を誘導し、室内を2周するとSLAM技術でマップを作成できるという。
新ロボットの「DiGORO」は、電気通信大学が半年間かけて製作した。「Team eR@sers」のソフトを電通大が開発しているが、デバッグをシミュレーション上で行なうのが非効率なので、ハードがほしくなったそうだ。
バッテリ込で120kgと重いが、足まわりにセグウェイを利用しており軽快に移動する。両目はCCDカメラ、真ん中に赤外線距離センサーを搭載しカラー3Dで周囲の情報を認識している。ボディにLRFを2つ搭載し、1つはオンライン・SLAM用、もう1つは障害物検知に使用している。基本ソフトは「eR@ser」と共通だが、両手があるので機能がアップしている。画像、腕、音声、足まわりをそれぞれモジュール化し、サーバーで一括管理しているのが特徴。
チーム「Ho-Ryu」のロボット「あきら」は、足まわりにオムニホイールを使っているのが特徴。その場での旋回や平行移動など、狭い室内でもスムーズな移動ができる。2つのLRFを使って、3次元マップを作成。床を青、壁や障害物を赤で表示し、周囲を認識している。
5本指はグー・チョキ・パーができるくらいに器用だが、制御が難しく細かいものをつかむのはもう少し調整が必要だという。今は、両手でぬいぐるみなどを持ち上げることができる。
【動画】Ho-Ryuのロボット「あきら」。身長145cm、体重100kg。オムニホイールを用いているため、顔を正面に向けたままの横移動など、狭い空間での小回りが効く | 【動画】「あきら」の自己紹介。最後に手を振って挨拶をしている |
「あきら」のハンド。5指で繊細な動きが可能 | 大橋健氏(九州工業大学 情報工学研究院 生命情報工学研究系 准教授) |
●Team eR@sersの新ロボット「DiGORO」が大活躍
@HOMEの競技フィールド。奥がキッチンで、手前はリビングを模している |
@HOMEリーグのフィールドは、リビングとキッチンの2部屋を想定し、家具や観葉植物が置かれている。フィールドサイズは4×9m。リビングの右端が入り口で、応接セット、本棚とテレビが設置されている。観葉植物で区切られたキッチンにダイニングテーブル、カップボード、冷蔵庫がある。出口はキッチンの左端奥となる。
ロボットたちには、家具の配置を覚えぶつからないようにスムーズに移動し、日常生活に役立つ機能を正確に行なう技術が要求される。世界大会にはゴミを片付けたり、モノを探したりする10種類の競技があるが、ジャパンオープンではそのうちの6種類を実施した。1つめのイントロデュースは、既に動画で紹介した通りだ。
昨年実施した【Who's Who】や【Follow Me】の他、今年は【Walk&Talk】や【Fetch&Carry】というより難易度の高い競技に、新ロボットの「DiGORO」が高い音声認識と3次元画像認識技術を駆使して挑戦し大活躍をした。
【Walk&Talk】は、審査員が指定した室内の5カ所をロボットに教え、次にロボットに覚えた場所を順序を変えて案内してもらう競技。事前に登録したマップが使えないように、家具の配置を変更してから競技を実施する。周囲の音がうるさい中で、マイクを使わずにロボットに音声で指示を出したり場所を教えたり、リアルタイムでマップを作成したり複合的な技術を要求される。
「DiGORO」は、オペレーターに追従して室内を移動し、テレビ、テーブル、本棚、ソファ、植木の場所と名称を覚えた。その後、テーブル、テレビ、植木、ソファ、本棚と指示された順番で案内し、自律で出口から退出した。ミッションを完璧にクリアした「DiGORO」をメンバーが、ハイタッチで出迎えていた。
もう1つの新競技【Fetch&Carry】は、部屋の中に置かれているものをロボットにとってきてもらう種目だ。「DiGORO」は、テレビのところにあるペットボトルを指定された。ゆっくりではあるが確実にペットボトルを持ち上げていた。
【動画】【Fetch&Carry】。事前に作ったマップを参照し、テレビの横にあるペットボトルを発見した | 【動画】慎重にペットボトルを取り、人に渡してミッションを成功させた |
【Who's Who】は、室内にいる3人を探し名前を聞いて覚える競技だ。覚えた後に、ロボットは出口で待機し、退出する人に名前を呼びかけて挨拶をする。練習時には完璧に成功していたのだが、本番ではプランター脇にいる女性を見つけることができなかった。しかし、競技時間が残りわずかになると、探索を止めて見送りのフェーズに入るといったエラー処理が搭載されており、高得点を得た。
他にも、名前を尋ねても聞き取ることができない場合に備えて、ロボットがニックネームをつけて覚えるという処理や、室内を何周も回って3人目を探している時には、既に覚えた2人には話しかけずにいるなど、昨年度よりプログラムが進化している様子がうかがえた。
【動画】【Who's who】の練習風景。名前が聞き取れない時には、ニックネームをつけるという機転を利かせている | 【動画】人を見つけると近づいていって、自己紹介をし名前を尋ね、顔を覚える | 【動画】退室する人の名前を呼んで挨拶をする「DiGORO」 |
●Ho-Ryu「あきら」のチャレンジ
Ho-Ryuのロボット「あきら」は、ボディ前面に搭載した2つのLRFで周囲の3次元マップを作成できるのが特長。この機能を用いて、人の後を追従する【Follow Me】にチャレンジした。
昨年度の【Follow Me】は、マーカーの使用が許可されていたが、今年は、見知らぬ人をマーカーなしで追従することになり難易度が格段にアップした。これは、去年の世界大会でクリアしたチームが多かったためだという。
「あきら」に搭載したLRFが先導する人を捉えた後、ロボット本体をLRFの向きに合わせてから前進をするロジックを採用しているという。そのため、「あきら」が動く前に人が移動すると、センシングをやり直さなくてはならないため、なかなか前に進めない。ロボットの癖を知らない人が先導するのは、難しい様子だった。
【動画】【Follow Me】で、「あきら」が人を追従して移動する | 2つのLRFで3次元マップを作成し、障害物を検知しながら移動ができる | 【動画】「あきら」が作った3次元マップ。床を青、壁など高さのあるものを赤で描画する |
●今年は世界大会へ2チームが出場
「Team eR@sers」は、大会出場の約200チームの中で、もっともプログラミングが優れているロボットを製作したとして「人工知能学会賞」を受賞した。
今年のロボカップ2009世界大会は、6月29日~7月5日にオーストリアのグラーツで開催される。今年は両チームとも出場するというので、昨年に続く日本チームの活躍を期待したい。
2009/5/27 18:55