筑波宇宙センター特別公開レポート

~空中発射や有人ロケットに関する展示も


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月17日(土)、筑波宇宙センター(茨城県つくば市)において、施設の一般公開イベントを開催した。筑波宇宙センターは、日本の有人宇宙施設「きぼう」の運用なども行なっている、JAXAの一大拠点だ。天候にも恵まれ、当日は10,581名もの人が施設を訪れた。

筑波宇宙センターといえば、やはりこのアングルが定番だ“特別公開”というだけあり、普段公開されていない施設も見ることができる

 今回の公開では、新しい展示はそれほど多くはなかった印象だが、所々で長い行列が見られるようになっており、来場者は着実に増えている様子。これは、日本人初の宇宙長期滞在を終えた若田光一宇宙飛行士の影響もあるかもしれない。

空中発射を目指すナゾ(?)の組織

 まず向かったのは、H-IIロケット実機の下にある展示コーナー。この場所には、JAXA有志によるグループ「並木エンヂニアリング」による展示が行なわれていた。

すっかり有志のコーナーとして定着したH-IIロケット下。晴れているときはいいが、雨が降ったらどうするんだろうという気がしないでもない展示は今回で3回目。1年前(左)、半年前(中央)、今回(右)と、プロジェクトの履歴が一目で分かるように展示されていたJAXAにも活動は認められつつあるようで、なんと今回は初めて電気の支給がっ! 担当者によると、次はぜひテントが欲しいとのこと

 このグループが目指しているのは、ロケットの空中発射。航空機でロケットを運び、上空で発射する方式で、発射点を自由に選べる、地上の天候に左右されにくい、上昇高度を少なくできる、母船の速度を初速として利用できる、打上げの地上設備が不要、などのメリットがある。海外では、米Orbital SciencesがPegasusロケットを実用化した例がある。

 同グループは、とりあえず小型のシステムを作ってみて、ノウハウを蓄積していくというアプローチを採用している。まだ空中発射そのものは実現していないが(モデルロケットをまず搭載したいが、これには法律上の問題があるとか)、これまでに、ラジコン飛行機を改造して双胴化、3号機まで開発を進めた。

 双胴のノウハウはなかったが、実際に作って飛ばしてみたところ、すごく安定していたという。今後は、ダミーロケットを搭載しての分離試験や、HMDを使った遠隔制御飛行などを実現していく予定。

京商製のラジコン飛行機を2セット使用。連結部分の翼は自作した。中央部分にロケットをつり下げるのに、双胴は都合がいいとのこと中央にはリモートカメラが搭載されている。今後、この場所にはロケットをぶら下げるため、カメラは翼の上側に移動ちなみにHMDを使った操縦系には、Jin Sato氏のジェイエス・ロボティクスが協力している

地球をリアルタイムで観測

 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)を紹介するコーナーでは、衛星からのリアルタイム中継を実施していた。だいちで撮影した映像を、データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)を介して、地上の地球観測センター(埼玉県比企郡鳩山町)に伝送。そこで処理された映像が、今度は超高速インターネット衛星「きずな」を使って、会場に配信される仕組み。

「だいち」からの映像。リアルタイムで見られるということがすごい。滑らかにスクロールしていたリアルタイムで見ることは、通常の運用では行なっていない(回線への負担も大きいので)中継時間は10~20分間ほど。10時半からの回では、ちょうど筑波の上空を通過したそうだ

 観測衛星からの画像というものは、“リアルタイムで見られる”という印象を持っていなかったので、実際に見てみるとちょっと驚く。Googleあたりが自前の衛星を上げて、このようなサービスを開始してくれたら面白いのではないだろうか。

音響体験にはH-IIBも登場

 「ロケット打上げ音響体験」は、ロケットの打上げ時の大音響を体験できるコーナー。特別公開では定番イベントなのだが、ここでは従来のH-IIAロケットに加えて、今年9月に初フライトを成功させたH-IIBロケットも早速登場していた。

まずはH-IIAロケット204型の音響体験。3kmほど離れた地点の音量が再現されているそしてH-IIBロケットの打上げ再現も。音量は、H-IIBの方が多少大きいとのこと

 ちなみに、H-IIBロケットでの最大音量は116dBとなっていた。筆者はもう何度も現地で打上げを見ているが、この音響体験は本当に良くできていると思う。実際に打上げを見に行く前に、まずは音響だけでも体験してみてはどうだろうか。

壮大なじゃんけん

 屋外では、技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)を使ったじゃんけん大会が開催されていた。きく8号を使って映像を中継し、画面を見ながらじゃんけんをするもの。対戦相手は、実際には隣に座っているのだが(しきいでお互いに見えないようになっている)、中継ラグが4秒ほどあるため、双方ともに相手が後出しのように見えて、ちょっと悔しいかも。

きく8号との通信用アンテナが2台並んでいる。映像を双方向に送る宇宙規模の技術の無駄遣い(※褒め言葉)のような気もするが、面白い

初開催のツアーが大人気

 今回初めて開催され、大人気だったのが「宇宙飛行士訓練設備ミニツアー」という体験イベント。午前と午後に各200名分の整理券を用意したが、受付開始時間(10:00/13:00)の30分以上前に定員を超える行列ができてしまい、受付を終了したほど。

 会場である宇宙飛行士養成棟は、新しい飛行士の選抜や、訓練などに利用される施設。だが、使われない期間も多いため、有効活用のために、現在はエイ・イー・エス( http://www.aes.co.jp/rikatsu/rikatsu_top.html )という民間企業により、訓練を体験できる一般向けのサービスが提供されている(期間は来年3月末まで)。今回のミニツアーは、このメニューを一部分だけ体験できるようにしたものだ。

エントランスの右側が宇宙飛行士養成棟で、左側が無重量環境試験棟閉鎖環境適応訓練設備。新しい飛行士の選抜にも使用された無重量環境試験設備。深さ10.5mの水槽で無重量環境を模擬する

 通常の料金は、模擬訓練1種類のコース(約1時間20分)が2,100円、2種類(約2時間5分)が2,625円、3種類(約2時間50分)が3,150円。たっぷり体験できて、値段もリーズナブルなので、今回を逃した人は、こちらの有料コースを試してみてはどうだろうか。

宇宙ロボットの展示は?

 宇宙ロボットの公開は、今回は少なめ。いつもだと実験室の公開があるのだが、以前にも紹介した「EVA(船外活動)支援ロボット」の開発が「佳境に入っている」(ブース説明者)ために、来場者を大勢入れられるような状態ではなくなってしまったそうだ。そのため、今回は別の場所にブースを設け、このロボットの試作機を紹介していた。

今回の展示はこれだけ。コントローラで操作できるようになっていたいつもだとこのような宇宙ロボット実験室を見ることができるのだが

 このロボットの最大の特徴は、その移動機構にある。テザー(ひも)を壁面のフックに引っかけ、長さや張力を制御することで、任意の場所に移動する方式。伸展式のロボットアームにより、テザーを自由に付けたり離したりできるので、広い範囲での移動が可能となっている。今のところ、数mm程度の精度で移動できそうな目処は立っているそうだ。

このような実験装置を2011年度に打上げる予定だ伸展アームを伸ばして、外部の観測なども行なう

 2011年度の宇宙ステーション補給機「HTV」(3号機)で打上げる予定。まずは技術の実証実験ということで、宇宙ステーション表面の移動は行なわず、ラック内のみでの実験となる。プロジェクトの最新状況については、コチラのブログ( http://blog.goo.ne.jp/rexj/ )を参照のこと。

有人へのロードマップ

 きぼうとHTVのエンジニアリングモデルについては、これまでと特に変わった様子は無かったが、この近くにあった展示パネルには注目。HTVを発展させた形での有人宇宙船について検討されているのだ。

きぼうとHTVのエンジニアリングモデルこんなパネルが。ロケットはH-IIBがベースに見えるミッションに応じたさまざまなバリエーションが検討

 これまで、JAXAでは有人ロケット・宇宙船について語ることは一種の“タブー”のような雰囲気すらあったが、最近では宇宙開発戦略本部による月探査の検討や、若田宇宙飛行士による積極的な発言など、風向きが変わりつつある。わざわざ「今後10年間は独自の有人活動を行なわない」などと書かれた6~7年前とは、状況は雲泥の差だ。

 もちろん、まだ論文レベルの研究であり、JAXAが正式に開発を表明したわけではないのだが、「やります」と言い出しやすい状況になってきているとは言えるだろう。

 この検討のベースになっているのはHTVだ。HTV自体は無人機であるが、空気が入った与圧部があり、有人仕様の冗長性も持っている。ただし、有人機にするためには、重要なコンポーネントの新規開発が必要。生命維持装置はそれほど難しくはないだろうが、緊急離脱システム、帰還モジュールなどは、ほぼゼロからの開発となる。

 この検討では、重量は現在のHTVとそれほど変わらない見込みだが、有人飛行では高度をもっと低くする必要があるため、H-IIBロケットでも能力が不足してしまう(ロスが大きいので、打上げ能力は2トン程度低下するそうだ)。この対応としては第2段の強化が考えられており、エンジンには「MB-XXが使えれば理想的」(説明員)とのことだ。

具体的な開発の流れも検討されているようだ数度のデモフライトのあと、ついに本番

フォトレポート

エコキャンペーンとのことで、徒歩・自転車・公共機関での来場者には記念品をプレゼント「ロケットツアー」受付の行列。技術者による説明を聞いたり、ロケットを背景に記念撮影をしたり「衛星カード」という企画も。全部で9種類あるので頑張って集めよう
「準天頂衛星初号機」は2010年度の打上げ予定。現在、愛称も募集中この衛星はちょっと変わった軌道をとる。日本上空に長く滞在するブルースーツを着て撮影できるコーナーも大人気で行列ができていた
これはお馴染みのロケットパン。3種類がある新製品のストラップ。早速H-IIBが登場していたもちろん第1段エンジンはクラスタ化
たまにこういう人もウロウロしているなぜかこの風船にも長い行列ができていたこの広い敷地ではGPSを使った宝探しゲームも


(大塚 実)

2009/10/27 17:57