産総研、ゼネラルロボティックスほか、介護予防体操ロボット「たいぞう」発表

~高齢者の参加意欲を向上。「チョロメテ」の後継機としても発売


 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)、ゼネラルロボティックス株式会社、茨城県立健康プラザ、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)は9月10日、リハビリ介護予防インストラクター補助ロボット「たいぞう」を発表し、デモンストレーションを行なった。

 「たいぞう」はストレッチボアのふわふわした外装に覆われたヒト型の小型ロボット。リハビリ体操の指導士(インストラクター)と一緒に体操することで、お年寄りに身体を鍛えてもらうためのロボット。身長70cm、重量は6.5kg。バッテリはリチウムポリマーを採用。自由度は26(脚部6×2、腕部5×2、腰2、首2)。ゼネラルロボティックス社が新規開発したサーボモーターモジュールを全身に採用した。体操ができるように肩にヨー軸、腰にピッチ・ヨー軸を備えており、椅子に座って行なう体操を中心に、約30種類の介護予防体操が実行可能。

 体操動作生成には産総研ヒューマノイド研究グループによる動作生成技術を活かした。実用時には体操指導士が簡単に動作生成できるユーザーインターフェイスを備える予定だという。また、赤外線リモコン/テンキーによる体操動作番号指示機能も実装する予定。音声認識による簡単なやりとりや体操動作の再生制御もできる。音声認識にはオープンソースで開発されている汎用音声認識エンジン「Julius」の記述文法音声認識機能を使い、RTコンポーネントとして実装されている対話制御エンジンSEAT/SATを採用し、文脈に応じて動的に認識モデルの切り替えを行なうことができる。OSはLinux 2.6.24。

 昨年夏からこれまでに5回程度、つくば市内の体操リハビリ指導士が普段指導しているグループホームや公民館などで実証実験を行なっているが、今後、試験をさらに行ない、2010年度を目処に短期リースでの事業化を狙う。コストダウンを構造をシンプルにした22軸モデルも開発中だという。

たいぞう。正面椅子に座った状態の側面背中。見えている黒い箱は制御用のPC
インストラクターと一緒に体操する。名前はomdr株式会社の美澤修氏が名付けたたいぞう頭部。FRP製でモーターには磁石でくっついている逆側の肩を触るような動作も可能
JSTイノベーションサテライト茨城 館長 後藤勝年氏

 JSTイノベーションサテライト茨城の地域イノベーション創出総合支援事業(育成研究)の支援を受けて開発されたロボットで、開発期間は3年間。同館長の後藤勝年氏は「我々にとっても、これは最初のプロジェクト。たいへん誇らしく思う」と述べた。産総研の比留川博久氏はロボットの概要を述べた。もともと「シルバーリハビリ体操」を考案した茨城県立健康プラザ管理者の大田仁史氏が、「ロボットを使えばより多くの人に体操をしてもらえるのではないか」という考えを持って各所に提案していたところから始まったプロジェクトだったという。

 介護のニーズは高く、ロボットへの期待も高い。いっぽう、技術的には非常に難しく、実用化にはまだまだ時間がかかる。5年、10年くらいの中期スパンでは、介護そのものというよりは「介護支援」をロボットで行なうことが実用的であると考えられる。これまでにも産総研では「パロ」のようなメンタルコミットロボットを開発しており、またさまざまな安否確認システムや移乗システムなどが開発されている。

 今回の「たいぞう」は、また視点を変えて、「介護支援」ではなく「介護予防」を目的としたロボットだ。体操することで身体の関節の可動範囲を維持・拡大し、筋肉を伸ばすことができれば、要介護の状態にはなりにくいのではないかという考え方である。介護予防効果を狙ったリハビリ体操を行なうことで、立つ・座る・歩くなどの日常動作が楽になるという。大田仁史氏によって身体部位に合わせておよそ300の体操がこれまでに考案されており、そのうち約30種類が現場では指導されている。茨城県ではボランティアの体操指導士を育成しており、これまでに2,700名のシルバーリハビリ体操指導士が誕生しているという。

産総研 知能システム研究部門 研究部門長 比留川博久氏開発背景産総研のヒューマノイド技術を使って体操動作を生成した
茨城県立健康プラザ 管理者 大田仁史氏

 介護予防体操の考案者で体操ロボットのアイデア提案者でもある茨城県立健康プラザ 管理者の大田氏は「あの愛くるしいロボットが、少し生意気な格好で体操をする。そうすればお年寄りはたいへん関心を持つだろう」と述べた。体操そのものに効果があることははっきりしているのだが、高齢者に継続してモチベーションを持ってもらうことはなかなか難しいのだという。まだこれからいろいろやってみないとわからない面もあるが「ロボットが体操をやる面白さは、関心を惹くには十分効果があると見ている」と述べた。

 実際にこれまでの実証実験やテスト公開においても、インストラクターが単独で体操をやろうと呼びかけるよりも、ロボットと一緒に体操をやることは、「人をひきつける力がある」。特に「子供につられて大人がやってくる」ことも多いそうで、太田氏は「ロボットの拙い動きのなかに面白さがある」と述べた。

 体操の細かい目的はあくまで人間のインストラクターが解説し、ロボットは、人集め、体操参加のモチベーション向上、そして介護予防体操の認知度向上のために使えるという考え方だ。今後については、「さらにやりとりができれば面白い。転倒予防体操のために立った状態での体操もできるようになれば」と期待を示した。実際のロボットのデモンストレーションをご覧頂きたい

【動画】「たいぞう」のデモ開始。まずは肩をリラックスさせる体操から【動画】背中の僧帽筋を伸ばす体操【動画】お腹と腰のまわりを伸ばす体操
【動画】足を上げる腸腰筋を鍛える体操【動画】最後は立ち上がって両手を上げて拍手をもらった【動画】椅子からの立ち上がりと着席動作
【動画】肩の体操【動画】腕と肩の体操

サーボモーターモジュール「GRSVM」と「HRP-2m Next」

ゼネラルロボティックス株式会社 技術営業課長 小神野東賢 氏

 今回、ゼネラルロボティックスと産総研では、新規にサーボモーターモジュール「GRSVM」を開発した。トルクは78.2kgf・cm。定格最大速度は0.24sec/60deg。通信方式はRS485。体操動作を生成するためにゆっくりとした低速動作においても滑らかな動きができるようにした。また軸剛性を重視し、片持ちではなく両持ち構造を採用した。関節角度を読むためのエンコーダーを搭載しており、デジタル入出力を2チャンネル、および12bitアナログ入力インターフェイスを持ち、モジュールに直接センサーを接続することができる。

 今後、外装を取り除き、脚部の軸配置を変更した「HRP-2m Next(仮称)」を、2006年に製品化してこれまで同社が販売していた「HRP-2m Choromet(チョロメテ)」の後継機種として今秋より販売を開始する(年内出荷予定)。価格帯は70万円~80万円を予定しているが、比留川氏は「たいぞう」の価格帯は、補助金を受けるためにもできれば50万円以下にしたいと述べた。

 ゼネラルロボティックスの小神野氏によれば、主に研究者が対象となる「HRP-2m Next」の商品化コンセプトは、「ハードウェア、ソフトウェアの両面でユーザによるカスタマイズを前提としたロボットハードウェアプラットフォーム」であるとのことだ。コントローラーなどもユーザーが自分が使いたいものを使えるようにしていくつもりとのこと。まずはロボット全体を販売し、その後要望に応じてサーボモーターモジュール単品を販売していく予定。ソフトウェアは、「HRP-2m Choromet」と同様にHRP-2と基本設計が同じ制御ソフトウェアを搭載。統合開発環境「OpenHRP3」でシミュレーションを実行するために必要なソフトウェアも付属する。

チョロメテの後継機種として販売される予定の「たいぞう」の外装なし版「HRP-2m Next」。60cm、5.8kg(バッテリ含む)正面。カメラモジュールなどを付けやすいように肩の上は平坦になっている一番のウリは高剛性のハードウェア
背面。この機体はSH4Aを搭載しているが自由にユーザーが選択可能バッテリ新規に開発したサーボモーターモジュール。両持ち構造を採用した。トルクは78.2kgf・cm。定格最大速度は0.24sec/60deg
ケーブルを通すための溝セレーションがないことも特徴の一つ【動画】「HRP-2m Next」の歩行動作
【動画】側面から【動画】バランス動作

今後の「たいぞう」

 今後は、体操の指導士が多数いる茨城県内での特別養護老人ホームやデイサービスなどから活用していきたいという。県外へは、「たいぞう」を直接的に広めるというよりは「たいぞう」と一緒に体操の指導士が指導を行なって、体操の認知度を上げるといった活動をしていきたいと太田氏は述べた。実際の現場では、体操は長いときには1時間くらい、休み休み行なっていくこともあれば、10分くらいのときもあるという。座って始める体操だけではなく、床で寝て行なう体操もあるそうだ。「介護予防は遅れている部分がある。だから『たいぞう』が活躍するのではないか」と期待を語った。「たいぞう」と共に介護予防体操が広がれば、そのぶん、将来の要介護者が減ることになる。

「たいぞう」と大田仁史氏開発者一同で記念撮影


(森山和道)

2009/9/10 22:54