「第1回ロボスター in ATC」開催

~戦うだけがロボットじゃない! 個性的なロボットが次々登場


出場者の記念撮影

 7月18日(日)、大阪南港ATCにおいて、ホビーロボットパフォーマンスショー「ロボスター」が開催された。主催は、ロボットフォース。

 近年、二足歩行ロボットの市販キットが充実し、各地で競技会も実施されるようになってきた。人気のバトル競技以外にも、サッカーや障害物系競技、自律競技などさまざまな種目が行なわれている。ロボスターはそうした競技とは一線を画するイベントだ。

 主催者の岩気氏は、「ヒト型の二足歩行ロボットは、競技以外にも歌ったりて踊ったりパフォーマンスで楽しむこともできるのでは?」と考え、難しい事や細かなレギュレーションは抜きにして、単純に自分が作ったロボットを多くの人に自慢する場を設けたいと、ホビーロボットのパフォーマンスショーとしてロボスターを企画したという。イベントには大阪を中心に近隣都道府県から、11体のロボットがエントリー。当日は飛び入り参加もあり、道行く観客が足を止めてロボット達のパフォーマンスを楽しんだ。

老若男女多くの観客がロボット達のパフォーマンスを楽しんだ岩気裕司氏(ロボットフォース代表)楽し気なポスターでイベントをアピール

【ロボスター エントリーリスト】※公式サイト発表順

マノイさん(製作者:ざき氏)RB2000(製作者:澤和孝氏/日本遠隔制御株式会社)ギャオラス・G(製作者:おかべヤン氏/大同工業大学ロボット研究部)
タミやん(製作者:場坂氏)雛(製作者:mujaki氏)KUMACO(製作者:HM@みっちー氏/DreamDrive!!)
たぬたぬさん(製作者:ほり氏)SDかりんろぼ(製作者:まさゆき氏)アリス(製作者:仙人氏/大同大学ロボット工房)
AMATERAS(製作者:のむむ氏/こそこそ団)飛び入り参加のヨゴローザ(だうと氏)

動画サイトで人気の「雛」も登場

 当日は、エントリー紹介のように個性的なロボット達が集まった。その中で、ひときわ注目を集めていたのは、動画サイトで世界中からアクセスを集めている「雛」だった。製作者のmujaki氏が、雛に珈琲を煎れさせる動画をYouTubeやニコニコ動画にアップしたところ、またたくまに話題になりトータル130万アクセスを超え、つい先日はNHKでも取り上げられた。雛を見るために、富山や東京から来阪した観客もいた。

 残念ながら、ステージ上で珈琲を煎れることはできないが、動画を流して観客を楽しませた後、ダンスモーションを披露した。

 製作者のmujaki氏に公開した動画について伺った。約2分間分の動画撮影に3週間ほど費やしたそうだ。健気に可愛く動き回っている雛だが、実際は何度も転んで外装が割れたり、重いものを持たせて股関節のギアが掛けたりと、モーション製作より修理に手間取ったという。

 雛については、本誌はデビュー当時から存在に注目していた。可愛らしい外見はもちろんだが、素人離れした造作の雛がmujaki氏にとって、初製作のロボットだということに驚かされた。ロボットだけでなく、フィギュアを作った経験もなく、シリコンの扱いも初めてで手探りしながらの開発だったという。mujaki氏は「KHR-2HV改造機」と言っているが、その面影はどこにもない。デビュー当時は、かろうじて足裏がKHRのバスタブソールだったが(笑)。最新の雛は、ツインテールにアンテナを仕込み、ボディに納めるバッテリを小型化しウエスト13cmとスタイルも一段とよくなっていた。

 動画アップ後に、壊れやすい部分の補強目的で、サーボケースを再成形したそうだ。今後は、雛をバトルができるレベルに育てていきたいという。

動画サイトで話題の「珈琲を煎れさせてみた」をプロジェクターで紹介雛(製作者:mujaki氏)のダンス雛のボディは、デビュー時よりもかなり小さくなっていた。ウエスト13cm
表情もかなり変わった。ツインテールにアンテナが仕込まれている小悪魔っぽい尻尾は、電源コネクタ、通信コネクタ、ヒューズが入っている背中のラインもキレイなカーブ
肩先からAパーツ・Bパーツ・Bパーツ・Aパーツで構成されている手先にはバネが仕込んであり、モノを握ることができる雛とKUMACOのツーショット

 参加者の注目を集めたもう1体のロボットが、大同大学ロボット工房の仙人氏が製作したアリスだ。身長112cmのアリスは6歳児の洋服をそのまま着せることができる。それだけではなく、市販の21cmの靴を普通に履いて歩いている。

 アリスは女の子だが、今回は男装の麗人という設定で、タキシードで登場した。製作者の仙人氏は、「アリスに男装も似合うだろう」と思って着せたそうだ。実際よく似合っていたし、こういうパフォーマンスも有りだろう。しかし、初めてアリスの男装をみたロボットビルダー達は、微妙な反応を示していた。宝塚歌劇団ファンのほとんどが女性であるように、男装の麗人に萌えるのは男性より女性の方が比率が高い。ロボットビルダーにとっての萌えツボと男装はズレがあったのだろう。萌カテゴリーは分類が細かいので、万人にヒットさせるのは難しいようだ。

 仙人氏は、アリスをROBO-ONEのお手伝いロボットプロジェクト向けに開発していたという。今後はカメラを搭載し、自律で洗濯ものを畳んだり、冷蔵庫からジュースを持ってきてくれたりなどのタスクができるようにしたいそうだ。

アリス(製作者:仙人氏/大同大学ロボット工房)のパフォーマンス市販の子ども靴を普通に履いて歩行する休憩時間にPCを操作するアリス
アリスは普通に椅子に座ることができるサイズ運ぶ時は、お姫様抱っこ

 キャラクター性の強いロボットといえば、巫女さんロボットのAMATERASも印象が強い。AMATERASは、ロボットフォースのイベントでは毎回オープニングに安全祈願をしている。今回は、見事な神楽舞を披露した。この舞は、豊栄の舞を参照してAMATERAS用に再構築した振り付けだという。音楽も小物も舞とぴったり合っていて、厳かな雰囲気を醸し出していた。

ドールがベースになっている巫女さんロボットAMATERAS(製作者:のむむ氏/こそこそ団)AMATERASの神楽舞AMATERASの冠は奥様の手作り
神楽鈴は古道具屋で見つけたそうだ

 他にも元祖萌え系ロボットのたぬたぬさんが、女の子らしいポーズを決めたり、ぬいぐるみロボットのKUMACOが空を飛んだり、男の子が喜びそうなタミヤンがダンスを披露したりとそれぞれのロボットが自分の魅力をアピールした。

たぬたぬさん(製作者:ほり氏)。女の子らしい仕草で座ることができるKUMACO(製作者:HM@みっちー氏/DreamDrive!!)。パタパタと空を飛ぶのが可愛いタミやん(製作者:場坂氏)のダンス。男の子に人気がありそうだ
マノイさん(製作者:ざき氏)。蠅たたきの威力を示す真空切りを披露SDかりんろぼ(製作者:まさゆき氏)。可愛さをアピールするデモンストレーション人型ロボットのヨゴローザが恐竜に変形するパフォーマンス

人気投票第一位は、市販キットのRB2000

 ロボスターは競技会ではないため、審査員は居ないし評価基準もない。そこで今回は、一般来場者の方々による人気投票を行なった。これは単純に、好きなロボットに○をつけてもらうというものだ。3回ステージを行なったが、最後の回は投票用紙が足りなくなるほどの賑わいだった。

 回収65枚中22票を集めて堂々の1位に選ばれたのは、日本遠隔制御株式会社が発売する二足歩行ロボットキットのRB2000だった。オペレータの澤氏は、ノーマルRB2000の他、レーザーガンを操るBlaser仕様ロボ、余剰パーツで製作したタコロボ、そして大技の大車輪で観客を驚かせた。

Blaser仕様のRB2000。レザーガンを向けた方向に頭も連動して動くRB2000を改造して余ったパーツで製作したタコロボット。足は6本しかない観客を驚かせたRB2000の大車輪

 イベントの趣旨としては、ロボットの外装とパフォーマンスコンテストだったのだが、観客にはそうした条件を伝えずに、単純に気に入ったロボットを選んでもらっている。また、技術や美的な評価をする審査員もおいていないし、製作者同士の投票もしていない。

 RB2000はいかにもロボットらしい外見と高い運動性能、そして大車輪の大技で観客を魅了したのだろう。そもそも市販品に、一般のお客様が「これ、欲しいっ」と思う魅力があるのは必然だ。オペレータはその魅力を最大限にアピールするプロなのだから、この結果に不思議はない。

 そして2位は雛、3位にはAMATERASが続いた。3体に共通しているのは、生き生きと動いていた点だろう。雛はステージではあまり動かなかったが、動画で可愛らしさをいかんなく魅せたし、AMATERASもキャラクタに合った舞が美しかった。

 投票用紙には自由記述の項目はなかったのだが、感想を書いてくれた来場者もあったという。岩気氏によると、「雛ちゃんが可愛かった」「アマテラスが面白かった」「人形みたいなロボットが多くてかわいい」と、人形や女の子ロボットへのコメントばかりだったそうだ。

 ロボット製作者の視点で言えば、身長が高いアリスがあれだけ細い足首で子ども靴を履いて歩いたり、たぬたぬさんがお尻をぺったりついて座ったり、小さなKUMACOのボディに可動部が全て入り熱暴走もせずに動いているとか、技術的に「これは、すごい」という評価がでるだろう。技術的難易度を抜きにして、可愛い、好き、面白いという感覚だけで選んだ時のシビアさが如実に投票結果に表れたのは興味深い。

 岩気氏もイベントを終えて「技術的に高度だというだけでは、一般のお客様にはウケない。観客にロボットの魅力をアピールする時は、何をしているのかを分かりやすく伝えることが必要だと感じた」と述べた。今回出場したロボット達も、見せ方を変えれば順位は大きく変わったかもしれない。

 ホビーロボットだから、自分が楽しみ好きなものを作るのが最優先でOKだと思うし、それがコンテストの一番の目的でもある。その一方で、ロボットを作る側の思いと見る側の温度差を知ることができる点で、面白いイベントだった。

 残念ながらホビーとしての二足歩行ロボットの知名度は、まだまだ低い。市販キットがあることを知らない人も多いし、知っている人でも、テレビやニュースでバトルを見たことがあるという感じだろう。もっと自由に心の赴くままに楽しめるホビーロボットの世界があることを、ロボスターを通じて多くの人が知るところになれば、また新しいユーザー層が生まれてくるのではないだろうか。

 ロボットフォースでは、今後も観客動員が多いイベント内でロボスターを実施していくという。

人気投票で22票を獲得。1位になった澤和孝氏(日本遠隔制御株式会社)人気投票に参加した観客にはストラップをプレゼント空き時間にはロボット体験操縦も実施
飛び入りロボットの兎角(製作者:桃色兎氏)も子ども達に人気だった


(三月兎)

2009/7/23 18:49