機械で閉じず人間中心で考える

~「パワーローダー」を作ったアクティブリンク株式会社

Reported by 森山和道

アクティブリンク開発の“パワーローダー”

 「パワーローダー」とは、1986年に公開されたヒット映画「エイリアン2(Aliens)」で主演女優のシガニー・ウィーバーが乗り込み、巨大な「エイリアンクイーン」と戦った二足歩行のパワードスーツ型作業機械である。映画のなかでは、普段は宇宙船のなかで現代のフォークリフトと人の間をつなぐような重作業を行なっていた。映画から20年あまり経ち、そのパワーローダーとほとんど同じコンセプトの機械が現実に現れた。パナソニック株式会社の社内ベンチャー、アクティブリンク株式会社による、その名も仮称「パワーローダー」である。正式には、名前はまだない。あくまで呼称である。

 乗り込んでサドルに座った人が、自分自身の身体運動によって、アームと脚部を操作する。目標は、床上に置かれた重量100kgの物体を軽々と高さ2mまで持ち上げ、思い通りの場所に運べるようにすること。「100kgの荷物を、人間の直感的な動作、『自分が100kgのものを扱っている』というイメージで運ぶことができるものを目指したロボット」だという。

 現状の自由度は、片腕6×2、足3×2。これだけでは歩行テスト実験しかできないので、とりあえず足首はもう1軸増やす予定だ。ボディはジュラルミンである。重量は200kg弱だという。見た目よりも軽い。中が中空の部材が使われているためだ。足平は前後に長い。バランスを保つためだ。横が細いのは左右に体を振って足を持ち上げるときに自分自身で足平をねじらないようにするため。なお脚部はまだあくまで仮の足だという。センサーは足も腕も6軸の力センサーのみだ。我々が訪問したときは制御用のコンピュータやバッテリは外部に出されていたが、将来は発電機も搭載し、バッテリ駆動で4時間~8時間程度動けるものにする予定だ。

 「アクティブリンク」は2003年6月に設立された。いま、6年目だ。資本金は1億8,000万円。99%をパナソニック株式会社が出資した社内ベンチャーである。「人と機械の新しい関係を創造する」ことを目標としたアクティブリンクの社名には2つの意味が込められている。まず1つ目は、ロボットの関節を意味する「リンク」。もう1つは、小さなベンチャー会社なので外部の人々と繋がる、そして人と機械、人と人とを繋いでいくという意味の「リンク」。それをアクティブに繋いでいく、ということで、アクティブリンクと名付けたのだという。資本金の1%を折半して出資した、代表取締役社長の藤本弘道(ふじもと・ひろみち)氏と、同じく代表取締役の城垣内剛(しろがうち・ごう)氏に、話を聞いた。

アクティブリンク株式会社 代表取締役社長 藤本弘道氏アクティブリンク株式会社 代表取締役 城垣内剛氏

 もともと2人は別の事業をやる予定だった。藤本氏はパワーアシスト機器のビジネス、城垣内氏のほうは半導体のソフトウェア設計関連のビジネス。2人はベンチャー希望者を対象にした研修中に同じ寮で暮らし、互いに事業計画を話し合っていた。ところが、2人そろって、プレゼンで駄目出しを食らった。

 藤本氏はもともとパワーアシスト機器のビジネスをやりたい、と考えていた。世の中から力を使う作業が減れば、知恵を使った仕事に回す時間が増える。また、高齢化社会では、力仕事を補助する機器のニーズは必ず高くなるはず、と単純に思っていたという。だがビジネスの可能性を模索し、ブラッシュアップしているなかで、だんだん、パワーアシスト機器そのものではなく、パワーアシスト機器用のセンサーを販売する会社でいこう、というビジネス計画になってしまったのだそうだ。「パワーアシスト技術が絶対に必要なら世の中の誰かが作るだろうと。それでセンサーだと。でも、まだ世の中にないものに対して部品を売るという、わけの分からない事業企画になってしまったんですよ。そうこうしているうちに、方向性を見失ってしまって、止めようかと思いました」(藤本氏)。

 いっぽう、城垣内氏のほうはどうだったか。「私のほうはシステムだったので、本来であれば作ってみれば良かったんですけどね。我が社は半導体の製造でダントツに強くはなかった。もちろん内部に供給するためにそれなりのクオリティのLSIは作っていました。ですが、特に価格面で勝負できるかというと、世界的に強いわけではない。またソフトウェアのシステムでも、ソフトウェアを開発するのが得意だというイメージはなかったわけです。そういう状況なのに『それで、あなたがやるとそれがなぜうまくいくわけ?』というロジックで話を返されると、『うーん、たしかにそうなんですよねと』なってしまったんです。『アイデアは面白いけど、他の大手が出るとひっくりかえされるじゃない? そういうところとどうやって勝負していくの?』と言われると言い返せない。確かに、そういわれるとそうなんですよね。そういうことを延々とやっていたんです」。

 つまりは煮詰まってしまったわけだ。当時、ちょうど桜の季節だったそうだ。2人は研修用の寮のあまり綺麗とは言えない風呂のなかで、桜の木を見ながらいろいろ話をしたという。必ずしも、まったくこの世にない新規なものを作りたいというわけではない。だがやはり、どうせなら新しい領域に入っていきたい。新しいカテゴリーのもの、今までの枠から外れたものをやりたい――。結局、2人でベンチャーをやることになった。

アクティブリンクの狙い

 アクティブリンクはロボット技術、メカトロニクス技術の会社だ。基本はパワーアシストで、パワーローダーのようにハイパワーを出すものと、リハビリのようにあまりパワーを出さずに人を助けるものの2種類を研究開発している。ただし「ロボット」という言葉には全くこだわっていない。むしろ「ロボット」いう名前は、実際にロボティクスが使われたときには使われなくなる言葉だと考えているという。最近よく聞く「RT(ロボット・テクノロジー)」という言葉も同様で、わざわざ使う必要はないと考えている。「一生懸命、『メカトロ』を『ロボット』と言い換えようとしている。『ロボットの定義ってなんですか』となって、ややこしいことになっている。『ロボット』という単語だけに変にこだわると、おかしくなるのかなと思ってます」(城垣内氏)。

 藤本氏はもっとクールだ。「使ってくれる人の役に立ち、欲しいと思ってくれるものを開発できたら、どうでもいいですね」。

 そんなアクティブリンクでは、最初から一貫してパワーアシストを市場/用途として狙っている。「力を助ける、ゼロにする。使用者が使う力をできるだけ少なくすることで世の中の役に立つものがあるんじゃないかと考えています」(城垣内氏)。たとえば分かりやすい例では、同社では、岐阜県関市のまこと工業株式会社向けに鍛造エアハンマー作業支援パワーアシスト機器を開発している。平成18~20年の、経済産業省基盤技術高度化支援事業の支援を受けて開発したものだ。

まこと工業株式会社向けに開発された鍛造エアハンマー作業支援パワーアシスト機器(提供:アクティブリンク)【動画】アシスト機器を操作する様子(提供:アクティブリンク)

 この機器では、ダイヤルを使って、作業者が自分好みの調節をある程度できるようにした。そうすることで作業者のアイデンティティも出てくるし、使いこなしも容易になるのだという。「若手の人はすぐに使いこなしてましたね。やっぱり人間が間に入ってくると違うんです。ロボットで閉じようとせずに人間が間に入ってくるといろんなことができるんです」(城垣内氏)。また、立命館大学理工学部金岡研究室とは「マンマシンシナジーエフェクター」の各種試作機(パワーフィンガー、パワーエフェクター、パワーペダル)を開発している。こちらは本誌の過去記事をご覧頂きたい。

 ただし具体的な、特定の作業機器のイメージはなかったし、今もないという。あくまで作業によって、何が必要か、それだけを考えている。リハビリ支援のパワーアシストスーツや、冒頭で紹介したパワーローダーも、遠くない将来に使えるものになっていくと考えているが、現状の姿のままではなく、現場現場でカスタマイズされるものになるという。ただし、ベースには共通の制御技術があり、人が操作するものであるという点もまた共通している。

 城垣内氏はこう語る。「パワー増幅器も人が操作するものです。機械単体で、制御がぐるぐると回るものではないんです。ですから逆に変な外乱が入りやすいものになっていますので、そういう状況でも使いやすい制御技術です。特にハイパワーなものは大きな力が出ますので、人間の意図とは違う動きをすると怪我をする可能性が高い。だから意図に沿った動きをするところが基本になってます」。同社ではこの技術をMDFFS(メカニカル・ダイレクト・フォース・フィードバック・システム)と呼んでいる。人間の意図に応じて忠実にメカを動かす。それが基本だ。

パワーローダー

 ブルドーザーやショベルカーに人間が乗り込んでハイパワーを出すのではなく「人間自身がハイパワーになった」感覚で操作できる機械。それを目指して「パワーローダー」は開発された。「自動車を引き合いに出すと、最近の自動車は電子制御されていて、パワーウインドウやパワステのような便利機能がいっぱいです。ですがそういうものはなくても自動車は動きますね。もともとの自動車はエンジンに車輪が4つ付いていて、ギアがチェンジして、ブレーキを踏めば止まり、ハンドルを切れば曲がる。我々は、そういう基本的なモノを作ろうとしているんです。まず基本機能を実現しないといけない。そう考えてこれ(パワーローダー)を作ってます」(城垣内氏)。

アクティブリンク「パワーローダー」。取材時は稼働状態ではなかったので、木製の台座に乗せられていたパワーローダーのボディ足首。今後、もう1軸追加して歩行テストを実施するという
アーム部分。現在25kg程度のものなら持ち運べているというアームのグリップグリップを手で握って操作する

 制御技術の詳細は非公開だ。現状では、センサーに力を与えると、コンピュータを通して各モーターに対してトルク配分ができて、25kg程度の重りを持ってもそれなりに動くところまでは確認した。「人間から受け取るのは力センサーだけです。力センサーから出た信号をPCが受けて、PCが各モーターにトルクを配分するんです。モーターの動作データはエンコーダーでPCに帰ってくるので、それはフィードバックできるようになってます。人間が指示した値に沿うように、力を出した方向に間違えずに動くようにコントロールする。それを真面目にやってます」

 人間がある力を出すと、きっちり数倍の力を出す、そんなイメージだという。だが人間の腕のリンクとロボットのリンクは異なるし、どの程度スムーズに動かすべきかも作業用途によって異なる。そもそも操作方法もまだ決めていないそうだ。「パワーアシストの場合は、単にセンサーから入った値を一定のトルクをかけて動かしても、なんとなく動いているように見えちゃうんです。制御しているなんてレベルじゃなくても、人間が直接、調節しちゃうんです。人間はけっこうすごいんです。逆運動学なんか機械が解かなくても、人間が頭のなかで勝手に計算して調節して動かしちゃうんです。それは、モノができてしまって使ってもらう段階では有り難いんですが、開発している段階では、それをユーザーがやってくれるものと思って作っていいのかどうか。それは難しいです」(城垣内氏)。

 手先位置の調節にしても、人間がまっすぐ動かしたら、ロボットのほうの腕もまっすぐ伸びるべきだと考えている。だが、手先の「真っ直ぐ」と、コントロール対象の「真っ直ぐ」が合わない場合がある。メカはリンクで繋がっているので、ロボットの手先を真っ直ぐ上下させて動かすと、コントロール側が動いてしまうことがあるからだ。その場合、どちらを取るべきか。人間の手に帰ってくる部分を真っ直ぐにするのか。だが人間は目で補正する。だから目で見ている部分を優先するべきなのか。「それは実際に使う現場でユーザーが使いやすいほうをとるしかないと思ってます。やってみるしかない。使い方や現場にも寄ると思うんです」。モード切り替えもあり得るという。2つのモードを入れておいて、状況や現場に応じて操作体系を変える、そんなやり方もある。

 泥臭い作業も必要になる。「基本的にはキネマティクスを解析して逆運動学を解くんですけど、それだけではない。人間の出す力を計算しても、誤差というか、計算で出せない部分はかなり残ってくるんです。そのパラメータ調整を、実物を合わせながらやっていかないといけないんです。各軸に対して与えるゲインもこまめに調整しないといけない。それらをやりきった上で、何かしら追加でソフトウェア制御が必要になれば、それも検討します。ですが今はまずは、そういうものを入れずに、本当にシンプルな状態でどこまでできるかということにトライすべきだと考えています。取りあえずはちゃんと作ると。まずは本当に必要なものが何なのか明確にしないといかんかなと思ってます」(城垣内氏)。

人とクレーンの間を繋ぐ

 どの程度のことまでできるようになるのだろうか。「いまの時点でどこまでというのを宣言するのは難しい」という。少なくとも「パワーエフェクタ」と同じことはできると考えているそうだ。だが、パワーエフェクタは地面にあるものを持ち上げることができない。そこで地面にあるものを持ち上げる、という目標が設定された。「ゼロから2mくらいの高さまで」という目標は、建設現場で活用することを想定しているからだ。

 「大きさも高さも、それより大きくなると、現状のリフトやクレーンを使ってやればいい話なんです。でも現場では、クレーンがやっている部分と、人がやっている部分とがあるんですよ。そこの間を埋めるような機械として考えているんです。2.5mくらいの身長で、100kgのものを持ち上げられる人間がもしいたら、クレーンと直接仕事ができるんじゃないか。人がそれだけのことができれば良いよね、というのが一つの発想だったんです」(藤本氏)

 確かに工事現場ではそんな風景をよく見かける。だが生身の人間ではクレーンで吊るした物体をちょっと支えるようなことはとてもできない。同じようなシチュエーションは荷捌きの現場でも存在するという。たとえばコンテナに荷物を入れたりするために「2mくらいの高さまでひょいと持ち上げられれば」というニーズはあるのだそうだ。

 「そこには、人と機械の間に『器用さ』が必要になるんです。人は優れた器用さを持っているんだけど『力』を持ってない。その『力』を助けるのがパワーローダーです。現状では汎用性がありそうな形になってますが、実際には、現場ごとの汎用性というものがあるのだろうと思っています。だから、ある程度は殺していくことになるでしょう。だから実際の『出口』になると姿が変わってくるでしょうね」(藤本氏)

 ただ現状の姿は、建設作業での現場での汎用性という意味では意外と近い形かもしれない、とも思っているそうだ。現状では、上半身を付けた状態では歩かせたことがない。上体をつけた状態での歩行実験はまだこれからだ。現状では転倒防止の機能などは全くないので、バランスは人が取らなければならない。城垣内氏によれば、乗り方にはコツがあるという。足をあげても体が揺れるだけで上がらない。実際には乗っている人間が、支持脚よりも外に飛び出すように体を振らないといけない。重心をぽーんと振ってやるわけだ。そうすると遊脚側の脚が自然と上がる。そこで、脚を前に出せばいいのだそうだ。かなり怖そうに感じる。だが「初めは怖いけど、実際に歩き出すとそうでもない」のだそうだ。

 ちなみにメカそのものは、こけたくらいでは壊れない構造になっているそうだ。移動方式は脚のほうが良いのだろうか。

 「足のほうが難しそうでしょう。タイヤは技術開発が進んでますから、現状で敢えてやる必要はないんです。それはこれからいろいろ試していくところです。ただ、車輪やクローラーという話も出てくるんですが、実際の現場では『踏み越える』のではなく、『ひょいと跨いでいってほしい』という話もあるんです。工場ならばもともとフラットですし通路にモノもないでしょうが、たとえば建設現場では、置いてあるものは踏まずに跨いで行けというところもある。そうなると車輪で動くにしても、例えば片輪ずつ持ち上げていくような機構は必要になります。それが技術的にものすごくハードルが高くて、入れるだけで価格が高くなってしまうようだと要らないよとなるわけですが、それが技術的に解決できていれば、市場の話も変わって来る。まずは機械としてできますよということを示したいと思ってるんです」(城垣内氏)

 市場規模はベンチャー企業としてある程度は想定している。だが現状では「数字を出しても意味がない」というのが率直なところだと笑う。「もちろんニーズに対して掛け算していけば数字は出てくるので、それは目論見には入れます。ですが現状でどこを狙っているかというと、たとえば鍛造の機器は、あれで800万円くらいの値段になるんです。そういった販売になってくると思うんです。つまり使っていただける現場、現場で、単機能のパワーアシスト機器を入れていくと。でも、数は出ない。数が出ないだけに大手もやってこないので、そこで回収していこうと思ってます」(藤本氏)。

 市場に出すためには安全性評価も必要になるが、個々の要素の安全性も見なければならないし、トータルでどうなのかも見ないといけない。最終的に製品にするときにはソフトウェアでの安全だけではなく、本質安全にする必要がある。例えば外部に置いたカメラやビジョン技術との連動など、ロボットだけではなく現場全体でどのように安全を担保するかというシステム設計も必要になってくる。

 実用化の時期としては、2015年頃と考えている。「そのときに実際の現場でちゃんと作業していたい。量産しているとまでは言わない。でも1台でもいいから、ちゃんと仕事していると。実証実験ではなく、本当の現場で使ってもらって、1つの仕事をしていると。実証実験だったら来年でも使えます。でもそれは実用化とは言えない。あくまで商品として使ってもらいたいんです。何十台も、ではなくてもいい。でもその1台を使うことでその現場では意味があるという形でもいいです。買って頂ける方が、ちゃんとこれには意味があると分かって買ってもらう。そうなると技術面だけではなく安全性の問題もクリアしなければなりません。ですから2015年くらいかなと考えています」

 現場としては取りあえず、土木建築、重作業を想定している。一方、「こういう取材でいろいろな方に紹介して頂くなかで、『こういうところで使えないのか』という話も出てくることを期待しているんです。そうすればもっと違う形やサイズもあるかもしれない」という。適用できる環境・条件を探しているそうだ。取りあえずはたとえばレスキューなど、やはり専門家が使うことを想定できる用途を考えているという。介護福祉現場ではサイズや安全性の要求が厳しくなるし、また1回のミスが命取りになる可能性もあるので、なかなか難しいと思われる。ただし、既存のベッドから車いすへの移乗機器など既存の機器を高度化したものにパワーローダーの技術を使うといった用途ならば考えられるという。その場合は見た目ではまず分からないだろうし、「ロボット」とも呼ばれないだろう。「『ロボット』は、マーケティングの名前としては優れていますが、技術の名前ではないと思いますから」(城垣内氏)。「『ロボット』は技術名ではなく、何かの総称です。『ロボットの定義ってなんですか』となると難しいですよね。議論しても意味がない」(藤本氏)。

機械中心ではなく、人間がメイン

 アクティブリンクでは、平成15~17年NEDO技術開発機構産業技術実用化補助事業の支援を受けて開発した要素技術を使って、オリエンタルシューズ株式会社と足関節保持力可変シューズなども開発している。最近は消費カロリーが上がったり、バランス能力が鍛えられるような靴も作り、その生体評価も同社で行なっている。ただシューズメーカーはラインで作るので、5,000足はニーズがないと作れないことが課題の一つだという。また最近では久留米大学医学部の志波(しば)直人氏らと、トレーニング機器の研究開発を行なっている。パワーアシストスーツのセンシング技術と電気的筋肉刺激(EMS:Electrical Muscle Stimulation)の技術を組み合わせたものだという。「マッチングがよかったものですから、事業化に向けていま検討させていただいているところです」(城垣内氏)。

 R&Dが事業の中心だが、同社では最近、人工筋肉を使った小学生向け教材「骨と筋肉の動き実験器AL」も作っている。骨の模型に人工筋肉をつけたもので、ケニス株式会社という教材会社から販売されている。もともと同社では研究用の人工筋肉そのものや、人工筋肉を使ったロボットアームも販売していた。その一端だ。だが教材用のために新規に低圧用の人工筋肉を開発した。

 藤本氏は「1,000セット程度なので、事業になるかというとならないんですけどね。最初、企画の話のときに『理系離れ』って言われたんです。『こういうもので子供も興味を持つんです』と言われると、断れなかった。それでベンチャーのくせに社会貢献と言ってしまった」と笑う。関係他社もそうやって説得して回ったそうだ。「みんな泣いていると思いますが、『理系離れを防ぐために必要なんです』といったら協力してくれました(笑)」。

 ちなみに同社の人工筋肉の編み方には、京都の伝統工芸師に協力してもらい、伝統の組紐のノウハウが入っているそうだ。その結果、今は人間の筋肉とかなり近い、35%の収縮率に近づくものを達成できるようになった。「耐荷重を上げると収縮率は下がってくるんですけど、編み方でだいぶ変わってきますね」。

オリエンタルシューズ株式会社と共同開発した足関節保持力可変シューズケニス株式会社から発売されている教材「骨と筋肉の動き実験器AL」

 今後はどのような方向で事業を考えているのだろうか。ずっと、ロボット、あるいは「人と機械の新しい技術の関係」を探っていくのだろうか。質問を投げると、城垣内氏はこう答えた。「その『関係』の範疇で事業はやっていきます。ですが、それがロボットと呼べるかというと、ロボットとは呼べないようなものも出てくると思います」。藤本氏がこう続ける。「そうなんですよね。うちのやり方は、ロボットや機械中心ではなくて、やっぱり人間がメインなんです。人間が何か機械を扱うと、その人が新しいことができるようになるとか、その人がさらに上のステージに進めるというものをやっているので、『ロボットを作る会社です』と言われると、ちょっとイメージが違う。相談の持ち込みは多いですけどね。『こんなのできるか』と。最初は『ロボットでなんとかできるんじゃないの』と言われるんですよ。そのたびにね、『我が社はパワーアシストをやりますけど、逆にこれは普通の機械で十分ですよ』と答えることが多いです」。

 実際、持ち込まれる仕事は多いそうだ。だが「事業になるような提案はこちらからやらないと、継続的なものは出てこない」。小さいニッチを拾っていけるところが小さな所帯の強みでもあるとも思っているという。「そこは正直言って、捨てることもできるんです。たとえば鍛造なんかも実際には日本中に売れたとしても10台くらいなんです。もともと現場が少ないですから。でも、敢えてそこをとることで、将来、大きなところに繋がると思っています」。

 機械だけで閉じない。人間を中心に考える。新しい「リンク」を必要に応じてダイナミックに組み合わせる。人と人が出会うと、両者の間に自然とこれまでになかった何かが生まれるように、これまで繋がっていなかったもの同士をつなげると、そこには新たな価値が生まれる。同社の未来に期待する。



2009/5/13 00:00