影木准子の海外ロボットニュース ダイジェスト

Reported by 影木准子

 2009年9月に米国を中心とした海外で話題になったロボットを紹介する。今月は軍事用ロボットの分野でニュースが目立った。

柵を飛び越える軍事用ロボット

Sandia研究所が開発したロボットは跳躍し、柵などを飛び越えることができる(写真提供:Sandia研究所)

 まず今月の一推しニュースは、Sandia National Laboratoriesが開発した跳躍する軍事用ロボット「Precision Urban Hopper」。四輪で移動するが、必要に応じて飛び跳ね、壁や柵などを飛び越えることができる。跳躍する様子は、YouTubeで見られる。

 Sandia研究所のニュースリリースによると、ロボット開発会社のBoston Dynamicsがこのロボットの実用化へ向けて、次世代機を開発する。靴箱大のロボットはGPSを使って自律移動し、1本足を使って最高7.5m以上まで飛び跳ねることが可能という。ロボットは戦中の都市環境における偵察や探索など軍事利用が主な狙いだが、警察業務やレスキュー・ロボット、惑星探査ロボットにも応用できるとしている。

 開発プロジェクトは米国防総省の国防高等研究計画庁(DARPA)の資金援助を受けており、Boston Dynamicsの出荷目標は2010年の終わり。ロボットの着陸時の衝撃力をいかに処理するかや、コンクリートやアスファルトなど異なった性質の地面から飛び上がる際の跳躍の高さ調節などが技術的課題として挙がっている。

 Boston Dynamicsといえば、150kg以上の荷物を運搬できる軍事用ロボットのBigDogの開発でよく知られる。

ロボット・ロデオ

 一般人や民間企業が米陸軍に対して、無人ロボット車の関連技術をお披露目できる「Robotics Rodeo(ロボット・ロデオ)」がロデオの本場、テキサス州で開かれた。陸軍の軍人や研究者などが、最先端の自律移動技術を世間から広く集め、軍に役立つものは積極的に取り入れようという試みだ。これは米軍が2015年までに、陸上軍事車両の3分の1を無人化するという目標を立てているためだ。

 写真はここここで見ることができる。ちなみに、米国籍を持つ者ならだれでも参加・見学可能だったが、日本のパスポートでは取材に行くことができなかった。

iRobotが米陸軍から大型受注

 引き続き、軍事用ロボットの話題。iRobotは米陸軍に対して2010年3月末までに、「PackBot 510 with FasTac Kit」を486台、納入する。合計3,530万ドル(約32億円)に相当する大型受注で、同社にとっては軍事用ロボットの販売契約1件当たりの金額で過去最高という。このロボットは爆弾探知や偵察などに利用されている。

 米陸軍は最終的に総額2億8,600万ドル(約257億円)に相当するロボットと部品、サービスを同社から購入する予定であり、今回の契約を含め、同社がこれまでに陸軍から受注した金額は1億2,500万ドル(約112億円)に達する。このところ軍事用ロボットの利用が拡大しており、戦地におけるロボットの活動について取材・執筆した本「Wired for War」が話題になっている。

教育用の新サイトも立ち上げ

 一方でiRobotは今月、ロボットを理系教育の発展に活用するための教育サイト「SPARK」を立ち上げた。小学校から大学まで、段階別にロボット教材や大会、教育現場でのロボット活用の実例などがまとめられている。パートナーのリストにはアザラシ型ロボット「パロ」の米販売会社も含まれている。

水中ロボットが「蒸発」し、10日後に見つかる

 一般紙の社会面で話題になったのがこのニュース。メキシコ湾で赤潮の調査をしていた自律型水中ロボットの「Waldo」が行方不明になり、研究者たちがほぼあきらめかけていた10日後、突如また姿を現した。ロボットは湾の底にじっと沈んでいたようだ。なぜ深くまで潜ったのか、どうしてまた浮上してくることになったのかも今のところ不明で、研究者らはこれから原因究明に努めたいと話している。

ロボットの遠隔操作技術の標準化

手術用ロボット「M7」(写真提供:SRI)

 日米独と英国、韓国の9つの研究機関が、医療用ロボットなどの遠隔操作の共同実験に取り組んだ。SRI Internationalワシントン大学バイオロボティクス研究所が共同開発した「Interoperable Telesurgical Protocol」と呼ばれる新しいインターネット・プロトコルを用い、世界各地から手術用ロボット「M7」の遠隔操作に成功した。ニュースリリースはここ

 SRIなどは、将来的にネットを通じた遠隔操作型のロボットがメーカーによらず互換性を保てるよう、今回のプロトコルを出発点に技術の標準化が進むことを期待している。

映画「Surrogates」(代理人)が封切り

 人間は家の中に引きこもり、代わりに分身となるロボットを外に送り出して遠隔操作することでさまざまな体験をするという未来社会を描いたSFスリラー「Surrogates」が封切りになった。ストーリーにはやや無理があるようで、「ばかげている」と酷評を受けているが、その一方で、ロボット技術が現実にどこまでそうした世界に近付いているかをまとめた記事も目立ち、話題を提供している。

日本のロボットで注目されたもの

 はじめ研究所の身長2mの「HAJIME ROBOT 33」が大きな話題に。ROBOTS DREAMSWIREDなどが取り上げた。

 慶応義塾大学の稲見昌彦教授研究室が開発した洗濯物折りたたみロボット「フォールディー」。ここここなどで報じられた。自動食器洗い機の食器の出し入れと並び、洗濯物の折りたたみは米国人が一般的に「面倒」と考えているタスクなので、こうしたロボットは注目されやすい。

 このほか、クマ型の介護支援ロボット「RIBA」とパナソニックの「ロボティックベッド」、KDDIが発表したロボット型携帯電話のコンセプトモデル「Polaris」も随所で話題を提供していた。



2009/9/30 20:35