第30回 全日本マイクロマウス大会【マイクロマウスクラシック競技編】

~世界7カ国から参加した自立型知能ロボットが1/1,000秒を競う


第30回 全日本マイクロマウス大会 マイクロマウスクラシック競技

 11月22日~23日、茨城県つくば市のつくばカピオにおいて、第30回全日本マイクロマウス大会が開催された。主催は財団法人ニューテクノロジー振興財団。

 マイクロマウス競技とは、小型の自立型知能ロボット(このロボットをマイクロマウス、または単にマウスと呼ぶ)が、迷路のスタート地点から中央に設けられたゴールまでの最短経路を見つけ、走破するタイムを競う競技だ。1980年に第1回目が開催され、今年で30回目を迎える世界で最も歴史ある自立型知能ロボットの競技会だ。今年は、米国、英国、イラン、台湾、韓国、シンガポールからも参加者があり、自作ロボットの賢さとスピードを競った。

開会式風景会場では、「マイクロマウス30年史」が配布された会場となったつくばカピオ

従来のマイクロマウス競技が、「マイクロマウスクラシック競技」と改称

 マイクロマウス競技の基本ルールとレギュレーションは、過去29年間変わらなかった。迷路は1区画が180mmの16×16区画で構成され、その中を走るロボットの規格は、縦横250mm以内と定められている。これは、第1回大会から変化がない。30年前には、個人が上記サイズのロボットを製作すること自体が、技術的チャレンジだった。

 現在では、小型の電子部品やセンサー類が個人でも入手可能となり、マイクロマウスの小型化が進んだ。そこで2007年の第28回大会で、マイクロマウス委員会は競技会の技術アップを図るために、従来の迷路を1/2サイズにスケールダウンしたハーフサイズマウス競技の告知をした。

 昨年、第29回大会でハーフサイズのプレ競技を開催。今年から正式競技としてスタートした。委員会は、「マイクロマウス競技の名称は、最も小さいロボットの規格にふさわしい」と、従来のマイクロマウス競技と呼ばれていた部門を今年から「マイクロマウスクラシック競技」と改称した。今後はハーフサイズマウス競技をマイクロマウス競技と呼称するが、当面は混乱を避けるため「マイクロマウス(ハーフサイズ)競技」と表記される。

 マイクロマウスクラシック競技は、初心者を対象としたフレッシュマンクラスと、エキスパートクラスがある。両クラスとも、迷路の左隅からスタートし、中央に設けられた4区画分のゴールをめざす。持ち時間はフレッシュマンとエキスパートの予選が7分、エキスパート決勝は5分となる。持ち時間内で5回の走行ができ、もっとも短いタイムをそのマイクロマウスの成績とする。

受付風景緊張感が漂う選手控え室風景車検。30年前は、この枠ぎりぎりサイズのマイクロマウスが出場していた
テストコースで最終調整をする参加者達にゃおん(劉時延氏/日本電子専門学校)は、かつて主流だった上壁式センサのマイクロマウスで出場

 今年はフレッシュマンクラスに103台、エキスパートクラスには73台のエントリーがあった。

 フレッシュマンで優勝したのは、法政大学電気研究会の杉山大輔氏が製作した「すぎやまうす」。今年の2月からマイクロマウスの製作を始めたそうだ。ハードは研究会のベーシックマウスを参考にし、プログラムは自分で工夫したという。第1回目の走行で理想的な最短経路を発見できず、3回探索を繰りかえしたそうだ。結果、満足できる記録で優勝を決めることができたという。

 優勝した杉山氏を始め、今年フレッシュマンクラスでゴールした参加者は、次回からエキスパートクラスに出場し、世界最速のマイクロマウスを目指す。

 本稿では、そのエキスパートクラス決勝に焦点をあててレポートする。

フレッシュマンクラス優勝の杉山大輔氏(法政大学 電気研究会)すぎやまうす(杉山大輔氏/法政大学 電気研究会)【図1】フレッシュマンクラスの迷路。赤が52歩15折、青は52歩17折

若手参加者が健闘したエキスパートクラス決勝

 図2の迷路は、今大会のエキスパートクラス予選のものだ。赤と青のライン以外にも、ゴールに到達する経路は複数あり、必ずしも最短距離が最速経路とは限らない。製作者のコンセプトにより、直線が得意なマウス、階段状のコースをスラロームするマウス、斜め走行するマウスなどがあり、選択するルートが違うためだ。

 図3がエキスパートクラス決勝の迷路となる。赤が69歩25折で直線走行の得意なマウスが好むコース、青は59歩49折で斜め走行を得意とするマウスが好むコースと言える。赤ラインを高速走行すれば、最短タイムが出るのでは? と期待したが、こちらを選択するマウスは少なかった。両側に櫛歯状の壁がある区域が長いコースは、センシングが難しく車体の姿勢保持が困難になるそうだ。

 決勝戦には、27台のマイクロマウスが出場。迷路を探索し、ゴールまで到達したのは23台。そのうちスピードを上げてタイムを競う第2走行に成功したのは14台だった。このことからも、細い迷路を高速で走り抜ける制御の難しさが分かる。

 優勝したのは、Rush(Soh Yi Lang氏/Nanyang Polytechnic)だった。探索走行でゴールに到達するまでに1分1秒019かけた。そして、第2走行でいきなり5秒17を出して暫定1位となり観客を驚かせた。その後4回目の走行で5秒05と自己記録を更新した。

【図2】エキスパートクラス予選迷路。赤が58歩31折、青は60歩43折【図3】エキスパートクラス決勝迷路。赤が69歩25折、青は59歩49折優勝したRush(Soh Yi Lang氏/Nanyang Polytechnic)
【動画】優勝したRush(Soh Yi Lang氏/Nanyang Polytechnic)の探索走行【動画】Rushの第2走行。5:170で首位に躍り出た【動画】4回目の走行で5:050に記録を縮め優勝した

 2位はさくらねずみ3(佐倉俊祐氏/東京理科大学 Mice)で、記録は5秒525だった。佐倉氏は、マイクロマウスは2年目。昨年のフレッシュマンクラスで優勝し、今年がエキスパートクラス初挑戦で、日本人1位の快挙を成し遂げた。

 マイクロマウスは、ホームページやブログで公開されている情報を収集し、DCモータを使ってシンプルな構成で製作したという。プログラムも、複雑な経路選択は組み込まず最短歩数のルートを走っているという。佐倉氏は東北支部大会でシード権を得て、決勝に進出しているため、予選は走っていない。今回の成績は金曜日の試走会に参加し、ロボットの最終調整に時間を掛けたおかげだという。来年は、「オリジナル要素を盛り込んでいきたい」と語った。

2位のさくらねずみ3(佐倉俊祐氏/東京理科大学Mice)【動画】さくらねずみ3の探索走行【動画】さくらねずみ3の4回目の走行。2回目の走行を1秒以上縮めた5秒525を出した

 予選3位のBR8SW(Yin Hsiang Ting氏/Nanyang Polytechnic)は、第1走目は探索に失敗、2回目に51秒574でゴールに到達した。タイムを狙う走行も、2回失敗。成功した1回で5秒804を記録し3位に入賞した。

3位のBR8SW(Yin Hsiang Ting氏/Nanyang Polytechnic)【動画】BR8SWの探索走行【動画】BR8SWは西回りで5秒804を出した。第2走行は4回目に1回だけ成功している

 今回は予選1、2位のマウスが決勝で第2走行ができなかった。会場の照明条件が厳しく、ギリギリの調整をしているマウスほどセンサーの範囲に遊びが少ないため、苦戦したようだ。予選2位のMin6.2(Ng Beng Kiat氏/Ngee Ann Polytechnic)は、探索走行でゴールしたものの全面探索に失敗した。Min6.2は、探索走行中も探査済みの経路は斜め走行している。探索スピードを上げるための走行だが、マウスの性能に自信がなければできない戦略だ。これが仇となり、斜め走行中に壁にぶつかってしまった。3回走行したが、全面探索を終えることができなかった。

 予選1位の加藤氏も、原因不明のトラブルで探索走行ができないまま持ち時間が終了した。入賞したマウスや印象に残ったマウスを写真と動画で紹介する。

 中島史敬氏は、決勝では雪風・改にマッピーを乗せて走った。マッピーは、第2回全日本マイクロマウス大会(1981年)に出場したキャラクタロボットだ。その後、1983年にナムコ(現・バンダイナムコゲームス)が、アーケードゲームとして発売した。2006年の第27回全日本マイクロマウス大会には、会場にマッピーが展示されていた。

【動画】予選2位のMin6.2(Ng Beng Kiat氏/Ngee Ann Polytechnic)の滑らかな探索走行。決勝では、ゴール後の全面探索中に壁にぶつかってしまった【動画】予選1位のTetra(加藤雄資氏/名古屋工業大学)。決勝は探索走行に失敗。観客から思わず落胆の声が上がった【動画】5位入賞の虹孔雀(宇都宮正和氏)。壁にぶつかりながらも姿勢を制御してゴールに到達
【動画】こじままうす5(小島宏一氏/京大機械研究会)が探索賞を受賞した雪風・改(中島史敬氏)は、決勝の時にマッピーを乗せていた。バンダイナムコ賞を受賞【動画】雪風・改は、ちゃんと音楽を奏で、光る尻尾を振りながら迷路内を走り回った。記録は8秒858で6位入賞
MITEE Mouse12(David Otten氏)。全日本大会に22回出場しているOtten氏。前後同型のマウスで、袋小路はスイッチバックで探索スピードを上げている特別賞を受賞したカゲトラ(竹本裕太氏/東京理科大学Mice)。過去2~3年分の迷路データを分析し、迷路製作者の志向を研究したそうだ

速くより賢く進化を続けるマイクロマウス

 表彰式では、上位入賞者とともに、長いマイクロマウス競技会の普及と啓蒙に貢献された参加者に感謝状を進呈した。表彰されたのは、David Otten氏(Massachusetts Institute of Technology)、Ng Beng Kiat氏(Ngee Ann Polytechnic)、井谷優氏(日本システムデザイン株式会社)の3名。Otten氏は全日本マイクロマウス大会に22回出場、斜め走行(1988年~)や吸引マウス(2005年)など、常に先進的な技術にチャレンジしてきた。今年も、前後同型のマウスで面白い探索を見せていた。

 Ng Beng Kiat氏は、学生を引き連れ11回来日。この数年は常に優勝を狙える位置についている。井谷優氏は、第5回目から約20回競技会に出場し、最多優勝を獲得している。昨年からハーフマウスに専念しているため、今回はクラシック競技に出場していない。マイクロマウスを通じて得た技術を、社会に還元していることも評価された。

優勝したSoh Yi Lang氏(Nanyang Polytechnic)2位の佐倉俊祐氏(東京理科大学Mice)左から油田信一教授、Ng Beng Kiat氏、David Otten氏、井谷優氏

 委員会では、ハーフサイズのマイクロマウスを検討した際、2年間の移行期間を設けて2010年からは、ハーフサイズのみで競技会を実施することも考えたそうだ。しかし、多くの参加者から「このサイズだからできるチャレンジは、まだまだある」という意見が寄せられ、クラシックマウスとして存続させた経緯がある。

 実際、今大会のフレッシュマンクラスのエントリーは昨年よりも増えていた。基本ルールが変わらないマイクロマウス競技は、キャリアがある参加者が有利であるが、今年は若手の活躍が目立っている。30年間、多くの参加者がチャレンジを続けてきたマイクロマウスクラシック競技は、今後もより速くより賢く進化を続けるだろう。

【第30回 全日本マイクロマウス大会 マイクロマウスクラシック競技受賞者】
順位/賞ロボット名製作者
優勝Rush(Soh Yi Lang氏/Nanyang Polytechnic)
2位さくらねずみ3(佐倉俊祐氏/東京理科大学  Mice)
3位BR8SW(Yin Hsiang Ting氏/Nanyang Polytechnic)
4位Excel-7(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education)
5位虹孔雀(宇都宮正和氏/個人)
6位、バンダイナムコ賞雪風・改(中島史敬氏/個人)
探索賞こじまうす5(小島宏一氏/京大機械研究会)
ニューテクノロジー賞Tetra(加藤雄資氏/名古屋工業大学)
特別賞Li-Ho(Lin, Kuo-En氏/Lunghwa University of Science and Technology)
特別賞チンチラ(大久保祐人氏/電気通信大学ロボメカ工房)
特別賞カゲトラ(竹本裕太氏/東京理科大学Mice)
特別賞KG2(Roh Chang Hyun氏/KOREA)


(三月兎)

2009/12/3 17:58