「第3回ROBO-ONEサッカー」レポート

~優勝チームは「トリニティ」に


 2009年7月18日(土)~19日(日)、東京・お台場のパナソニックセンター東京にて、二足歩行ロボットによるサッカー競技会、ROBO-ONEサッカーの第3回大会が開催された。

パナソニックセンターの外壁にある大型ビジョンには大会の宣伝が流れていた会場の様子。ステージ上にリングはあるが、サッカー期間中は使用されていなかった

なんと21試合もあった一次予選

 今大会の参加チームは、登録順に「トリニティ」「エスプレッソパッチギ」「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」「RFCバンブー☆ブリッジ」「四川会」「関東支部」「RFC愛知」の7チーム。参加チームが少なかったこともあり、従来にはない、新しいシステムで行なわれた。

 まず、初日に全チーム総当りのリーグ戦(一次予選)を行なって、勝ち点制で順位を決定。この日の上位2チームが翌日の決勝に勝ち抜ける。決勝当日は残ったチームだけで再び総当たりのリーグ戦(二次予選)を行ない、そこからも2チームが決勝トーナメントに進む……というシステムである。予選の試合はすべて前後半なしの5分のみ。

 タイルカーペットを敷いた4.8m×3.0mのフィールドで、1チームは4機(予備機を1機登録可能)など、ルールの概要は昨年開催された第2回ROBO-ONEサッカーとほぼ変わっていない。ただし、今回はゴールキーパーの大きさについて、身長60cm以下かつ両手を広げたときに60cm以下でなければならない、というルールが追加された。

 7チーム総当たりとなる一次予選は、合計21試合。例によって筆者はRFCバンブー☆ブリッジのキーパーとして出場していたため、直接見られていない試合もあるが、控え室にはコートが映し出されているモニターがあったので、選手の立場でもほとんどの試合を見ることができた。

 オープニングゲームは「エスプレッソパッチギ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」。無線のトラブルで混乱する「エスプレッソパッチギ」を「RFCバンブー☆ブリッジ」が容赦なく責め立て、背番号1の“ATACO the STRIKER”がゴール前に持ち込んだボールを背番号3“宗0郎”が押し込んで先制。そのまま逃げ切り、大会最初の勝利をものにした。この“ATACO the STRIKER”は、3人チームのバンブーブリッジが今大会で招聘した助っ人で、KONDO CUPでは「スピード☆スターズ」のストライカーとして活躍している機体である。その本来所属するチームから1字借りて、今回は「RFCバンブー☆ブリッジ」と表記した。

 「RFCバンブー☆ブリッジ」はその後も順調に勝利を重ね、「四川会」と0-0、「トリニティ」と1-1で引き分けた他はすべて勝利。「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」戦では、実況から「大人げない」と文句をつけられながらも、得失点差の勝負になると見た予選初日の通過を目指し、容赦のない攻撃で4点を奪取。最終的に4勝2分・勝ち点14で堂々のトップ通過を果たした。

 一次予選の二位争いは3勝3分「トリニティ」と、4勝2敗「エスプレッソパッチギ」の争いとなった。勝敗成績では「エスプレッソパッチギ」の方が上なのだが、勝利・3点、引き分け・1点、負け0点が加算される勝ち点で見ると、両チームともに12点となるのだ。こうなると、得失点の差で順位が決まる。

 「エスプレッソパッチギ」は得点が9、失点が3で、得失点差は+6。一方のトリニティは失点1ながら得点が6で、得失点差は+5。「エスプレッソパッチギ」が一次予選通過という結果になった。直接対決では「トリニティ」が2-0と勝利していたものの、「四川会」戦と「RFC愛知」戦でのスコアレスドローが響いたといえるだろう。

【動画】「エスプレッソパッチギ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」。前夜の宴会の酒がまだ残っていた、とは「エスプレッソパッチギ」の杉浦氏弁。1-0で「RFCバンブー☆ブリッジ」の勝利【動画】「RFC愛知」対「トリニティ」。終始「トリニティ」が押し気味に進めるものの、「RFC愛知」の一丸となった守備が守りきる。0-0の引き分け【動画】「エスプレッソパッチギ」対「関東支部」。パスがつながるようになった「エスプレッソパッチギ」が攻めまくり、4-0で勝利
【動画】「関東支部」対「RFC愛知」。“ナガレテナイピンク”のキック力で先制した1点を守った「関東支部」が押されながらも1-0の勝利【動画】「四川会」対「トリニティ」。ROBO-ONE優勝者が同時に6人もいる豪華ななフィールド。意地のぶつかり合いはどちらも譲らず0-0【動画】「RFCバンブー☆ブリッジ」対「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」。4-0で「RFCバンブー☆ブリッジ」の勝利
【動画】「トリニティ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」。見事なスローインで1点先制された直後に同点とした“ATACO the STRIKER”のすごさが際立つ。1-1の引き分け【動画】「エスプレッソパッチギ」対「トリニティ」。この試合では足技の冴えを見せた「トリニティ」が2-0で勝利【動画】「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」対「RFC愛知」。平行リンク機構の機体が多く、キック力に不安があった「RFC愛知」だったが、2-0で快勝

二次予選

 二次予選は「関東支部」が棄権したため、4チームでのリーグ戦に。わずかの差で一次予選通過を逃した「トリニティ」は、昨日2-0で勝利していた「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」に対して4-0で勝利したほか、引き分けだった「四川会」に1-0、「RFC愛知」に2-0としっかり勝利。3勝で文句なしの二次予選通過を決めた。

 もう1枠は、「RFC愛知」と「四川会」の争いとなったが、「RFC愛知」が昨日2-0と勝利している「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」との再戦で0-0と引き分けてしまい、万事休す。1勝1分1敗の「四川会」が予選突破することになった。

【動画】「四川会」対「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」。1点目を決めるまでにだいぶ苦労した「四川会」。「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」も必死に守り、3点目は阻止【動画】「トリニティ」対「RFC愛知」。キーパーのBLUESを中心に「RFC愛知」は何度となくゴールを守るが、混戦の中から決められてしまう。2点目となった「トリニティ」クロムキッドのロングシュートは強烈だ【動画】「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」対「RFC愛知」。相手のシュートが正面に来る運も味方につけ、「静岡県立浜松工業高等学校知的制御研究部」が今大会初の引き分け

決勝トーナメント

 決勝トーナメントの組み合わせは、初日に抜けた「エスプレッソパッチギ」と「RFCバンブー☆ブリッジ」のどちらと対戦するかを、決勝当日に抜けた「トリニティ」と「四川会」が選ぶという形で行なわれた。じゃんけんに勝ったのは「四川会」で、選んだのは「エスプレッソパッチギ」。自動的に、「トリニティ」は「RFCバンブー☆ブリッジ」と準決勝を戦うことが決まった(今考えると、なぜ初日に勝ち抜いていたほうに選択権がなかったのか不思議である)。準決勝からは前後半各5分、コートチェンジありの戦いとなる。準決勝第1試合は、KONDO CUPでは何度となく対戦しているライバルチーム同士がぶつかった、「トリニティ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」戦(ちなみに、そのたびに「トリニティ」の勝利に終わっている)。

 開始30秒でガルーが先制ゴールを決めるが、「RFCバンブー☆ブリッジ」の☆、ATACO the STRIKERも黙ってはいない。伝家の宝刀ロングスローと素早い移動で攻守にわたって豊富な運動量を発揮。前半残り1分というところではロングスローからオウンゴールを誘い、同点にする。しかし、前半が終わろうかという残り5秒、クロムキッドがゴールを割って「トリニティ」が2-1と再びリードを奪う。

 後半開始直後、またもATACO the STRIKERがロングスロー。キーパーがこぼしたところに宗0郎が詰めて、再び同点。しかししかし、「トリニティ」の執念はこれで折れることはなく、直後にクロムキッドがミドルシュートを決めて、3-2と勝ち越す。もちろん「RFCバンブー☆ブリッジ」も諦めずに攻めるが、キャプテンのfighting-γが故障し、予備機ATACOで出撃。ゴールまであと数センチのところまで迫るが、体を張って守る「トリニティ」の壁を破るまでには至らず、タイムアップ。「RFCバンブー☆ブリッジ」の2大会連続決勝進出はならなかった。

 もう一方の「エスプレッソパッチギ」対「四川会」戦もまた、熱戦だった。この日これが緒戦となる「エスプレッソパッチギ」は、試合感覚をつかむまで時間がかかったのか、押され気味の展開になる。途中で脚部のギヤトラブルを抱えた機体が交代するなど、順調とは言えなかったが、ロングスローに代表される「四川会」の攻撃をしのぎきり、前半は0-0で折り返す。

 後半、ゴールスローを担当したstormwave lightがボールを持ったままゴールに倒れ込み、オウンゴールのようにも見えたが、レフェリーの判定はオンライン。それでも絶体絶命の危機なのだが、「エスプレッソパッチギ」はそこから押し返してしまう。残り1分となるところで、ハーフウェイラインからstormwave lightが放り込んだロングスローが、壁となっていた「四川会」のプレイヤーの間にすっぽりと入り、方向を変えてスルスルとゴールの中へ。これが決勝点となり、「四川会」は個々で敗退することになった。

【動画】「トリニティ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」前半【動画】「トリニティ」対「RFCバンブー☆ブリッジ」後半
【動画】「エスプレッソパッチギ」対「四川会」前半【動画】「エスプレッソパッチギ」対「四川会」後半

 3位決定戦の「四川会」対「RFCバンブー☆ブリッジ」は、準決勝で故障した「RFCバンブー☆ブリッジ」キャプテンのfighting-γが修理できず、予備機のATACOでスタート。攻撃力は落ちていたが、先手必勝とばかりに「RFCバンブー☆ブリッジ」が一気に「四川会」ゴールを割る。しかし、先制点はハンドの判定に幻に。お互いに決め手を欠いて0-0のまま前半を折り返したが、後半開始直後から「四川会」はカードが出るほどの前がかりで攻めに転じ、ロングスローから先制点を挙げる。

 ビハインドとなって攻め上がりたい「RFCバンブー☆ブリッジ」だったが、キーパーも接触プレーで右足首を故障。パワープレーに持ち込むこともできなくなってしまい、逆に2点目を決められ、ジ・エンド。3位は「四川会」に決まった。

 この日、二次予選からスタートだった「四川会」は、チームとして一番最初に会場に揃い、練習を繰り返していたというから、その気合いが結実した3位といえるだろう。

【動画】3位決定戦の「四川会」対「RFCバンブー☆ブリッジ」前半【動画】3位決定戦の「四川会」対「RFCバンブー☆ブリッジ」後半

 決勝戦「エスプレッソパッチギ」対「トリニティ」。両者ロングスローを得意とするチームということもあり、ラインアウトが即ゴールチャンスに変わる、緊張感漂う展開となった。1分半を過ぎたところで、フィールド中央付近での混戦の中、一瞬空いたシュートコースを見逃さなかった「トリニティ」のガルーがロングシュートをたたき込み、先制点を生む。

 前半をリードして折り返した「トリニティ」はウォルフラムが無線トラブルで一時アウトするなど、危ない時間帯もチームプレーでしのぎ、攻めと守りが一体化したようなプレーで「エスプレッソパッチギ」のカウンターの芽を摘み取っていく。残り時間わずかとなって「エスプレッソパッチギ」が猛攻を見せたが、これもボールを囲むようなディフェンスで守り切り、1-0で勝利。ROBO-ONEサッカー初優勝を果たした。

 KONDO CUPオープンクラスでは押しも押されぬチャンピオンチームとして君臨する「トリニティ」だが、第1回大会ではアスリート競技のような予選方式に戸惑ったか予選敗退、第2回では優勝したカイザーオールスターズに準決勝で敗れるなど、ROBO-ONEサッカーではもう一息の成績に終わっていた。今回はメンバーが毎回参加している大会が同じ日程で重なったうえ、エントリー後にキーパーの機体規格が変更されるということも手伝って、一時は棄権しようかとも考えたという。それでも参加したのは、これまでの悔しい思いがあったからだそうだ。それだけに「このタイトルを取れてとても嬉しいです」と答えていたメンバーの笑顔は、とても満足そうだった。

【動画】決勝戦「エスプレッソパッチギ」対「トリニティ」前半【動画】決勝戦「エスプレッソパッチギ」対「トリニティ」前半優勝チーム「トリニティ」
準優勝「エスプレッソパッチギ」3位「四川会」

参加者として、観客として見えたこと

 ライターとしての取材はもちろんだが、今大会「RFCバンブー☆ブリッジ」として参加したことで、二つほど気になる点があったことは挙げておきたい。

 まず、エントリー開始後にルールが変更になったこと。色々な意味で“柔軟性の高いROBO-ONE”であっても、エントリー開始後に後出しというのはあまりに無法だ。筆者はたまたまエントリー前だったが、ゴールキーパー担当だったので、あわててメジャーを持ち出して機体のサイズを計った。

 もし、遠方の参加者がエントリーして宿と交通手段を予約した後に、機体が規格から外れるように変更されたら、その参加者は当日までに機体を作り替える義務を負わされてしまうのだろうか? それともキャンセル料金を負担してもらえるのだろうか? それより、がっかりした“気持ち”は取り返しがつかないのではないだろうか。ルールが改良されていくのは競技が面白くなるための条件の一つではあるが、せめてエントリー開始後の変更は避けて欲しいと思う。

 また、会場で試合を見る側に立ってみると、「いつ、どんな試合がステージで行なわれているのか」が、筆者の見た限り掲示されていなかったように思う。

 会場にずっといれば、司会進行から「次は何時です」と聞くことはできるのだが、休憩中に会場に来た人がその情報を得られる掲示はなかった。観光地が点在するお台場で「じゃあ決勝を見に戻ってこよう」と思っても、決勝がいつ行なわれるのか表示されていない。これでは、観客は困ってしまう……いや、「わかんないからいいや」と去ってしまうだろう。

 リーグ表や簡単なルールが掲載されたリーフレットが配られていたのは参加者として、せっかく面白い試合を見せられるのだから、多くの人に見てもらいたいと思うのだが、そういった部分で観客を逃していたとすれば、とても残念だ。

中央が先日のKONDO CUPで猛威をふるった「トリニティ」のガーゴイル。ROBO-ONEサッカーを目標に調整していたにもかかわらず、道が絶たれることに(株)MANOI企画と、(株)ベストテクノロジーによる、デモ機に触れて遊ぶことのできるエリアも設けられていた今秋、第16回ROBO-ONEも開催される『ジャパン・ロボット・フェスティバル2009 in TOYAMA』の宣伝隊長、MANOI君もご挨拶
1日目にはロボットクリエーター高橋智隆氏が講演。ル・マンに挑戦する機体を観客に見せるサービスもあった


(梓みきお)

2009/7/31 18:03