「レスコンシンポジウム2009」レポート
~「第10回レスキューロボットコンテスト」参加チーム募集開始
12月12日(土)、神戸市立青少年科学館において「レスコンシンポジウム2009」が開催された。主催は、レスキューロボットコンテスト実行委員会、兵庫県、神戸市、読売新聞大阪本社。
レスキューロボットコンテスト実行委員会は、「技術を学び 人と語らい 災害に強い世の中をつくる」という理念を掲げ、防災啓発活動を行なっている。防災や災害対応の啓発、創造性教育を目的とし、2000年から「レスキューロボットコンテスト(レスコン)」を毎年夏に開催してきた。
本シンポジウムは、防災啓発活動の一環として、レスコン参加者だけではなく、広く一般の方も対象に災害救助やロボットに関する話題を提供する場となっている。
レスコンシンポジウム2009 | レスキューロボットコンテスト実行委員会 実行委員長 土井 智晴氏 (大阪府立工業高等専門学校) | 神戸市立青少年科学館 |
●レスキュー活動の現場から、ロボットテクノロジーに期待すること
シンポジウムは、実行委員長の土井智晴氏によるレスコンシンポジウムの開催趣旨説明から始まった。
レスコンは、1995年1月17日の未明に発生した阪神淡路大震災がきっかけとなって発足した。レスコンを単なるロボットコンテストとして捉えるのではなく、実際の商品開発と同様に、レスキューロボットの開発にも救助の現場をよく知り、現場の苦労を緩和する、あるいは人にはできないことをテクノロジーで解決するアプローチを考えていく姿勢を持ってほしい。そのためにも、当時のレスキュー活動がどのような状態にあったのか、救助にあたった方達がどんな経験をされたのか、レスコンに参加する人たちに知って欲しいと土井氏は話した。
今回は、神戸市消防局水上消防署 特別高度救助隊 隊長の吉田氏を講師に招き、「阪神淡路大震災における消防の活動と神戸市消防局レスキュー隊の現在の取り組み」と題して貴重な体験談を伺った。
救助活動に当たっていた吉田氏は「家族がガレキの下敷きになっている。助けてくれ」と、あちこちで言われたが、その時は「声はしていますか?」と尋ね「聞こえない」と言われると、「後で、来るから」と約束して立ち去るしかなかったという。通常なら、声が聞こえなくても必ず救助活動をする。けれど、震災の時ばかりは人手も機材も何もかも足りなかった。気を失っている要救助者の位置を把握し、生存を確認できる手段がなかった。「本当は助かった命がたくさんあったという思いを今でも持っている」と吉田氏はいう。
そうした経験を踏まえ、レスキューロボットに期待する機能を吉田氏は以下のように述べた。震災初期の捜索は迅速かつ確実に行なうことが重要になる。短時間に広範囲を検索できるレーダーのような検索ロボットがあればよいと思う。また、ロボットが侵入するのであれば、人間よりも多くの情報量を収集できることが重要である。
要求者の位置が判れば、進入口をつくらなくてはならない。そのためには、不安定な場所で空気中に一酸化炭素や火花などを出さずに、短時間でコンクリート壁などを破壊できる小型ロボットが役に立つだろう。要救助者を搬送する時には、モニター機能が付いた救出用担架や保温毛布等があれば、迅速な搬送が可能になると、具体的な要望があった。
講演後、参加者達は、震災後に発足された神戸市水上消防署の特別高度救助隊「スーパーイーグルこうべ」に搭載されている救助資機材を見学した。高度資機材には、要救助者が発するかすかなノック信号や音声を聴取して位置を確認する「地中音響探知機」、熱源を判定する「熱画像直視装置」などがある。救助現場では、複数のセンサー類の情報を参考に要救助者の位置を特定し、迅速な救助活動を行なっているという。
続いてビー・エル・オートテック株式会社が、現在、研究開発が進められている最新型レスキューロボットとして「UMRS2009」を紹介した。UMRS2009には、ドアノブ開放マニピュレータが搭載され押しドアや引きドアの開放ができるようになった。UMRS2009は、3段式収納型マニピュレータの先端のハンドでノブを把持し回転させてドアラッチを解除する。そのタイミングに合わせてUMRS2009が前進し、ドアを押し開ける。また引きドアの場合は、ボディ前面に搭載した電動式吸着機構がドアを吸着把持し、UMRS2009が後進して開けることができる。
ドアノブ開放用マニピュレータを搭載したUMRS2009 | UMRS2009の操作画面 | ドアノブ開放用マニピュレータの機能と仕様 |
【動画】押しドア、引きドアに対応 | ドアノブ開放用マニピュレータを伸ばしたところ | 【動画】UMRS2009のデモンストレーション |
●第10回レスキューロボットコンテスト 開催要項
「第10回レスキューロボットコンテスト」は、阪神・淡路大震災から15年目の節目となる。神戸にて、2010年7月4日に競技会予選を、8月7日、8日に競技会本選を開催する。
次回のコンテストについて、委員会より開催要項の説明があった。大きな変更点として、「ビデオ審査の追加」「予選の実施」「家ガレキの改良」「路上ガレキの追加」「ダミヤンの提示」などがある。
今後のスケジュールとしては1月末の書類審査で30チームを採択。5月下旬にビデオ審査を行ない、7月の予選に出場する20チームが決定する。予選の上位12チームが、8月の本選に出場できる。また、予選で優秀な成績を残したチームは、2010年8月18~21日に台湾で開催される国際会議SICE2010に招待され、デモを行なう。
第10回レスキューロボットコンテスト 開催概要 | 審査の流れ | 機器貸与などについて |
参加申し込み手順 | 今後のスケジュール | 第10回大会の変更点 |
レスコンでは、ロボットに搭載する無線機器は、委員会が指定したレスコンボード(サンリツオートメイション株式会社が製造販売する遠隔操作IPシステム「TPIP」)に限定される。書類審査を通過した30チームには、従来のTPIP2セットと、新型のTPIP21セットが貸与される。
TPIP/TPIP2仕様比較表。TPIP2は外形が70%と小型化した | TPIP2は、入出力点数が拡大した | 外部通信インターフェイスも拡張 |
家ガレキは、マジックテープで固定された壁や屋根がついた。ロボットは壁を取り除いてダミヤン(要救助者役の人形)を救出することになる。また路上のガレキは、ワイヤで連結され両端に真鍮ガレキの重しがつけられる。従来のように、ロボットが押しのけられないため、乗り越えることになる。新たに倒れた柱を模したガレキが追加され、これも乗り越えなくてはならない。救出したダミヤンを優しく運ぶために、これらのガレキを乗り越えた時にダミヤンに振動を与えない工夫が必要となる。
前回から追加されたダミヤンの個体識別は、目の点滅パターン、発声パターン、マーカー、体重などの識別項目数に応じてポイントが追加されるようになる。
委員会からは、「現実のレスキュー現場では、何が起こるか分からない。コンテスト用のレスキューロボットではなく、現実の使用場面を想定したアイデアを出してほしい」と参加チームへ要望があった。
レスキューロボットの必要条件 | 新型家ガレキ。壁が取り外し可能となった | 路上ガレキに重しをつけ連結された「乗り越える」課題が追加 |
路上には、柱ガレキが倒れている | ダミヤンの個体識別は、識別項目数に応じてポイントがアップする | 書類審査のポイント |
2009/12/22 18:06