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日本工業大学、「教師」にもなる120cmのヒューマノイドロボット教材を導入

〜ゼットエムピー社と共同開発


 日本工業大学は12月19日、教材として身長120cmのヒューマノイドロボットを導入すると発表し、ロボットを報道陣に公開した。「教材」であると同時に、教師とかけあいをしたりすることで授業を活性化させる「教師」にもなるロボットというコンセプトで開発されたロボットで、本体は株式会社ゼットエムピーが製作した。コンセプトや外装デザインは学生から公募し、有限会社znug designの根津孝太氏がまとめた。

 身長126cm、幅45cm、奥行き30cm、重量は15kg。自由度は21(頭部3、腕3×2、脚6×2)。カメラ、加速度センサー、ジャイロ、赤外線センサー、測距センサー、焦電センサーなどを搭載。頭部には小型プロジェクタも載んでいる。バッテリはリチウムポリマーで駆動時間はおよそ一時間。無線LANを使って遠隔コントロールもできる。使用しているサーボやボードなどは非公開だが、市販のものを組み合わせて使用している。また「Microsoft Robotics Developer Studio」に対応しており、物理シミュレーションやソフトウェア開発と実機検証とを、シームレスに行なえる環境とした。名前はまだない。価格は1,200万円。また、外装がない研究用プラットフォーム「e-nuvo HUMANOID」もZMP単独の製品として発売される。こちらの価格は6,980,000円。

日本工業大学に納入されたロボット 正面 バストショット
頭部正面。この状態ではプロジェクタは未搭載 頭部側面 バンザイ
胴体中央には測距センサーなどを搭載 胴体背面には緊急停止ボタン 歩行ショット
脚部 脚部を後ろから 膝裏部分
【動画】ロボット登場、挨拶。

 納入されたロボットは今後、学生たちのソフトウェア、ハードウェア教材とするだけでなく、ロボットを外部の小学校や介護施設などに持ち込んでデモンストレーションすることで実社会とコミュニケーションするための教材としても、用いていく予定だという。訪問する施設なども学生たち自身に探させる予定だそうだ。以下、会見の内容やデモンストレーションをレポートする。

日本工業大学創造システム工学科 准教授 中里裕一氏

 会見ではまず日本工業大学創造システム工学科 学科主任の渡部修一教授が「このロボットを使って実物を触る教育をしていきたい」と述べた。ロボット導入のコンセプトや背景については、同准教授の中里裕一氏が解説した。日本工業大学は、2004年にゼットエムピー社の教材用二足歩行ロボット「e-nuvo」を35台導入し、その後、互いに改良を繰り返しながら使い続けてきた経緯がある。このロボットを教材として導入するにあたって日本工業大学では「ヒューマノイド・ロボット工房」をわざわざ作ったという。

 さて、ロボットを学ぶためには基礎的な物理や数学が必要になる。そして実際にロボットを触るのは、3年生から4年生になったあとだ。そのため、実物を触る前にその前の数学や物理で挫けてしまう学生もいるという。日本工業大学では、まずロボットや自動車の実物を見せたり体験させたりして、まず「感動を与え」、モチベーションを維持させ、基礎の重要性や意味を分からせるという教育カリキュラムを立てた。「e-novo」を使った実習も、1年生から1人に1台ずつの割合で体験させており、しかも入学者全員が必修科目で学習するものとして行なっているという。

 日本工業大学は「実工学」を標榜している。「実工学」とは、工学理論を現実社会に活用することだ。そのために「応用から基礎へ」というカリキュラムを考えてこれまで教育を行なってきたが、小型ロボットでは「実社会への応用」は学生にとってなかなかイメージしにくい。そのため、今回は「更なる応用へ」というコンセプトで、等身大サイズのロボットを教材として導入するというコンセプトを立てたのだという。二足歩行ロボットは、核となってさまざまな教科や実験へ導入が可能な教材だと中里氏は述べた。

 授業で実際に応用していくためには安全性も重要となる。そのため、まずは「Microsoft Robotics Developer Studio」でシミュレーションを行ない、小型機で確認をし、次に実際に大型機で検証するという形をとろうと考えているという。

 ロボット設計にあたっては、学生たちからデザイン案を公募でつのった。そのなかに、ロボットを「人間と関わるメディア」として捉えるコンセプト案があった。また会話でインタラクションでき、教師の補助をするような「教師型」というコンセプトや、教師と「かけあい漫才をする」というコンセプトも、同じく学生からの提案だったという。最近の学生は質問を出しても答えてくれないそうだが、ロボットが外したボケたような答えをすることで、授業が活性化するのではないかと述べた。

 日本工業大学では、片山茂友教授が人型ロボットの教育メディアとしての利用に関する研究や、障害者と福祉機器およびコンピュータとのヒューマンインターフェイスに関する研究を行なっており、ロボットは立体的にパフォーマンスを行なう表現豊かな新たなメディアとなる可能性を提案している。このコンセプトはそれをさらに実証していくものの一つとなりそうだ。

e-nuvoを35台導入して授業に活用 応用から基礎へをコンセプトにした教育カリキュラム 二足歩行ロボットを使って実社会に使える学習を行なって行く
シミュレーターを活用 デザイン案は学生から公募した ヒューマノイドをメディアとしても活用していく

 ロボットそのものについては共同開発企業として会見に出席した株式会社ゼットエムピー取締役の西村明浩氏が解説した。今回の特徴は「Microsoft Robotics Developer Studio」を採用し、物理シミュレータを使ってシミュレーションが行なえること。ロボットは12個の剛体を21自由度のジョイントで結合しているものとして表現されており、それぞれの形とジョイント部分の座標軸が表示され、外界と相互作用したときの力がベクトルで表示される。これらの機能を使うことで、ロボットの力学的な挙動や制御がシミュレーションでき、機械工学の基本である物理・力学学習に有効だと述べた。

株式会社ゼットエムピー取締役 西村明浩氏 ロボットの基本仕様 「Microsoft Robotics Developer Studio」を採用したことは教育にも有効とアピール
有限会社znug design 根津孝太氏

 学生デザインをベースにロボットのデザインをまとめた有限会社znug design(ツナグデザイン)のデザイナー・ビジョンクリエーター根津孝太氏は「さまざまなレベルで学生たちのアイデアを参考にさせてもらった」と語った。designとは「de・sign」であり、「技術・機能」をカタチに成すものだと述べた。今回のロボットは、人とのコミュニケーションが機能だ。それをデザインするにわたって、まずは未熟さや妖精のような表現はどうかと考えたり、あるいはミステリアスな雰囲気を醸し出させ、逆に見ている人間が気になるようなデザイン、積極的な感情移入を引き出すようなことができないかなとも考えたという。ただ最終的には、結局、ロボットであることを意思表示するデザインとしたそうだ。

 また「教材ロボット」なのでメンテナンス性を重視し、部位ごとに独立した外装パーツを採用した。一つ一つはバラバラなパーツだが、大きな流れができているようなデザインを目指したという。各部は強度を確保しながら軽量化し、発注者である中里氏らの要望を反映させて車のようなつややかな面を表現するために3次曲面を多用した。

 今後は、オリジナルの学生提案にもあった「紙製外装」などにもチャレンジしたいと語り、根津氏自身も布を使った、だが洋服ではないような外装ができないかとアイデアをめぐらせているという。布を使うことで、ロボットの身振り手振りを大きく見せるような外装をイメージしているそうだ。

 ロボット自身を「メディア」として捉え、プロジェクターを使って「教師役」をしたりするコンセプトを実際に提案した学生は、機械工学科4年の山田健輔氏。スケッチなども含めて山田氏はかなり具体的な企画案を提出し、一人図抜けていたと中里氏は評価していた。なお山田氏自身はできあがったロボットを見て「かっこいいですね」と感想を語ってくれた。

機械工学科4年の山田健輔氏のコンセプト 初期スケッチ、コンセプトの一部

 ロボットの外装パーツの製作は、原田車両設計株式会社が行なった。普段はクルマ関連業務を行なっており、ロボットは初めてだったという同社 代表取締役の原田久光氏は、実際の工夫について解説した。頭部は一体整形で脱着が比較的簡単で、しかも外れにくいような工夫が為されている。またボルト締結部など肉厚すぎるところは肉抜きを行なって軽量化した。いっぽう、太ももカバーなどはベルトも使って、動きに合わせて柔軟にしなやかに動けるようにしてある。通常は金型を使って製作するが、今回はワンオフであり、また複雑な形状で型抜きできない構造になっているので、パーツ製作は粉体造形機を使って行なったという。

原田車両設計株式会社 代表取締役 原田久光氏 外装部品の構造
マイクロソフト株式会社最高技術責任者 加治佐俊一氏

 マイクロソフト株式会社最高技術責任者の加治佐俊一氏も記者会見には出席。パソコンの歴史を振り返り、教育・娯楽、趣味、研究開発、商用化という段階を経て普及したと述べた。ロボット市場も似ているのではないかと語り、だが普及はこれからであり、将来、各段階が繋がってくることに対して期待を示した。今回のようなロボット教材を通して人材がたくさん出てくることを期待し、「2010年代には大きく実用化・普及が進んでいって、日本の元気を盛り立てていって欲しい」と語った。

「Microsoft Robotics Developer Studio(MRDS)」の特徴については、同社の公式サイトや、これまでの本誌の記事をご覧頂きたい。「並行協調実行環境(CCR)」、「分散システムサービス(DSS)」を特徴とし、物理シミュレーションが行なえ、モジュールを繋いでいくことで開発ができるビジュアルプログラミング言語を採用している開発環境である。またサンプルなども豊富である。

Microsoft Robotics Developer Studioの特徴
会見出席者一同で記念撮影

 このあと、実際にロボットを使った授業を模擬した、「模擬授業」なども行なわれた。学生たちは温かい目でロボットと中里准教授のかけあいを見ており、教室のエンリッチメントにはたしかに貢献しそうだ。今回、ゼットエムピー社に発注するに至った理由は、もっともさまざまな希望に対して対応してくれたからだという。また今後、ゼットエムピー社でのインターンシップなども実施される予定があるそうだ。

 ロボット本体は時間不足だったのか、モーターの同期やセンサーのゲイン調整などにまだ課題があるように見受けられるいっぽう、ペイロードなどには、まだ余裕があるようだ。今後、ロボットの調整そのものも学生たち自身が実習で行なうことになる。特に大学外に持ち出すことも検討するとなると、高いレベルでの安定性が求められる。そのような実社会での課題を一つ一つこなしていくことで、若い学生達が成長して行くのだろう。まだ名前のないロボットが、次世代を開くきっかけとなる教材となることを期待したい。日本工業大学では、今後、オリジナルの大型ヒューマノイドを開発する予定もあるとのことだ。

模擬授業の様子。中里准教授とかけあいし、学生たちの笑いをとった
【動画】模擬授業の様子を動画で


(森山和道)

2009/12/21 20:33

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