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ロボットにお姫様抱っこしてもらってきました

〜介護支援ロボット『RIBA』体験記


 大学でロボットの研究をしている研究室に配属されたとき、そこには2本の腕を持ち、いかにも力持ちに見える大きなロボットがおりました。こいつなら私を抱え上げるくらい容易いのではないか? と思って先輩に「このロボットに、お姫様抱っこしてもらえますかねぇ?」と尋ねたら、「腕1本の可搬重量が10kg、2本だから20kg。君の体重が20kgだったら大丈夫だけど?」と言われて涙したのが9年前のこと。それ以来、ひ弱なロボットの現実を知って切なく思いつつ、「いつかはロボットにお姫様抱っこしてもらう」という密かな野望を胸に、ロボット業界で生きてまいりました。その野望がついに、現実になるときが来たのです! ああ、諦めないで研究者を続けていてよかった……。

 その夢をかなえてくれたのは、今年の夏に理研−東海ゴム人間共存ロボット連携センターから発表されたクマ型介護支援ロボット『RIBA(Robot for Interactive Body Assistance)』。記者会見の様子をレポート記事で見て、厳しい体重制限のない、この子にならばお姫様抱っこしてもらえる! と思った私。タイミング良く記者会見の翌月にロボット学会が開催されまして、その会場で関係の研究者の方に頼んでみたのです。

「私もRIBAに抱っこしてもらえませんかね?」
「これから小改良を行なうので、その後だったらいいですよ」

 これがまた予想外にもあっさりOK。いや世の中、何でも言ってみるものだなと思いました、はい。と言う訳で前置きが長くなりましたが、RIBAに抱っこしてもらうために、いそいそと理化学研究所の名古屋支所に出掛けてきたのです。(RIBAのスペックや基本的な性能は記者会見時のレポート記事をご参照ください)

私の身長が約160cm、RIBAの身長が140cm。写真での印象よりも実物の方が小柄に感じます。こんな小柄で本当に抱っこしてもらえるのか、やや不安に思ったのは内緒 広いRIBAの背中、こうしてみると意外とウエストが細いのですが、前後方向と左右方向に腰を曲げるための2自由度の機構が内部に入っています。背中中心の赤いボタンは非常停止スイッチ CADモデルをもとに3次元プリンターで作られたRIBAの内部構造模型
頭部・腰部・肩部と移動ベース部分の構造が断面で一目瞭然です 移動ベース部分はただのオムニホイールではなく、理研で開発された全方向移動車輪『ZENホイール』が採用されています

 愛知県名古屋市の外れにある理研の名古屋支所に到着後、すぐにRIBAとご対面かと思いきや、その前にもう一段階必要な手順があります。今回のお姫様抱っこはRIBAの介護動作の評価実験になるため、実験内容に関する説明を受け、きちんと説明を受けて内容を理解した上で自分の意思で実験に参加しますよ、という同意書にサインをします。

 特に個人情報の取り扱いや安全性確保が重要な昨今では、結構重要な手続きです。ちゃんと安全性や個人情報保護に関する配慮を行なった上で研究倫理委員会などの承認を得て実験を行なっていますということなのです。

 そうして実験の内容と安全性、プライバシーなどに関する説明を受けて同意書にサインをした後、隣の建物にある実験室へ移動して、ついにRIBAとの対面です。事前に調べたスペックによるとRIBAは身長140cm、体重180kg、数字から結構な迫力ボディを想像しておりましたが、実物は自分よりも顔の位置が下にあるせいか、意外と小柄に見えます。シロクマ(ホッキョクグマ)がイメージとのことですが、サイズ的にはシロクマやヒグマというよりはツキノワグマです。

記者会見時から小改良が施されたRIBA。当時の画像と比べてどこが改良されたか、わかりますか?

 しかし私も今まで、それはもうたくさんのロボットを見てきましたがこのRIBA、人間に近いサイズのロボットとしては一、二を争う可愛らしさです。無理に生物や人間に似せずにデフォルメされた結果、不気味の谷に陥ることもなく何かこう、うまく言えないのですが「こういうロボット」として、空間に存在している感じです。

 さてこのRIBA、記者会見の時点では4名の被験者による実験が行なわれていたのですが、その後も介護施設の職員の方など、さらに3名の被験者実験の結果を踏まえて改良が加えられました。外見にもその改良の結果が表れているのですが、どこかわかるでしょうか? 正解は『前腕の長さと形』。抱き上げられた際に腕が背中に当たって少し痛いという被験者の方からの意見を反映し、ほぼ円形だった腕の断面をやや偏平に変更し、背中に当たる面を増やすことで痛みを低減しています。それに加えて前腕の長さを少し短くすることで、抱き上げた際にちょうど被介護者の肩の辺りを手先で支えられるようになりました。

正解は『前腕の長さと形』。画像右が改良前、左が改良後の前腕部。腕の断面を円形からやや偏平にしたことで、抱っこされる際に被介護者の背中に加わる負担を軽減 ロボットの内部にはセンサー情報やモータ制御を行なう情報処理ボードが20枚以上配置されており、分散処理が行なわれている

 そうして、私を8人目の被験者として、抱き上げ実験が始まりました。まずは抱き上げ実験の一連の流れを実演にて説明してもらった後に、ついにそのときがやってきました……。ベッドに横たわる私に、研究者の方の操作に応じてしずしずと近づいてくるRIBA。横たわっているところにモータ音がだんだんと近づいてくるのが最初ちょっと怖かったのですが、それでも他のロボットと比べるとその静かさは驚異的です。ぜひムービーでその静かさを確認してみてください。

 この静かさを実現するために、モータに減速のために取り付けられている平歯車の加工精度を上げ、組み上げて回してみては駆動音を確認し、分解して歯車を削って調整しては再度組み上げて確認する……、という作業を繰り返したそうです。さらに腕に加わる荷重や腕の姿勢に応じて、駆動する必要のないモータの電源はオフにしているそう。この電源オフの状態でも関節角度を監視し、目標値から誤差が一定以上大きくなったら再度モータの電源をオンにして腕の姿勢を保っています。このようにオンオフを繰り返すことで駆動音を低減できるだけでなく、バッテリによる駆動時間の延長や熱を抑えるのにも効果を発揮しています。

【動画】RIBAによる抱き上げの様子。本来ならば介護者役が被介護者の頭部などを持ち上げるのですが、今回は健常者による実験ということで、私自身が身体を持ち上げたりしています 【動画】ベッドへの移乗。動作は予め設計されており、操作者がRIBAの腕の触覚センサーを通じてその動作を再生しています。また、ベッドや被介護者の位置などに応じたRIBAの位置姿勢の調整も、触覚センサーを介して行なえます

 さて、夢にまで見たロボットによるお姫様抱っこ、重量物の抱え上げなのでモータに負荷がかかって振動したり異音が発生したりするかと思っていたのですが、実際に抱っこされてしまうと振動もほとんど感じず、モータ音も気になりません。(恐らく)人間にお姫様抱っこされるよりもむしろロボットに抱っこされている方が、疲れや腕力不足で床に落とされる恐れもなく、負担をかけている気分にもならず、安心していられる気がします。特にRIBAの胸部に私の肩が接し、腕だけではなくRIBAの胴体全体で、肩・背中・膝とポイントを押さえて体重を支えられている感じです。改良が施された前腕の効果ですが、少なくとも背中に痛みを感じることはありませんでした。

 抱かれている間の不満を強いて言えば、頭と首のやり場がないこと。抱き上げの動画の1:04辺りで私がRIBAの胸に頭を預けようとしているのですが、それにはちょっとRIBAの胸板が薄いのです。抱き上げが完了した後も、RIBAの胸部にはまず私の肩が当たっているため、さらに頭も当てようとするとかなり首を横に倒さなくてはなりません。もう少ししっかり頭や首をRIBAに預けられると、安心感が出るのですが……。

 「頭部や首を支えられるように、RIBAの肩部分を盛り上げたりパットをつけたりすることも検討中なのですが、デザインとの兼ね合いもありまして……。他にも人間の介護者が抱き上げを行なう際には、腰を前に出してそこに乗っけるような感じで、腹部で抱き上げた人の体重を支えたりするのですが、それをRIBAで実現しようとすると下っ腹を出さないといけなくなるし」(理化学研究所 理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター 向井利春氏)

 メタボなRIBAは、確かにあまり可愛らしくないかも……。抱き上げられて見て改めて、そのデザインの重要性をひしひしと感じました。その瞳の奥には無機質なカメラしか入っていないのは重々承知の上なのですが、それでも抱っこされている間、何となくRIBAの顔を見つめてしまうのです。これまでの被験者の方からもこのデザインは評判がよく、RIBAそのものも肯定的に見てもらえるそうです。

【動画】抱き上げ・移乗の様子をRIBAの視点から 【動画】抱き上げ・移乗の様子を被介護者の視点から。抱き上げられてしまえば振動やモータ音がほとんど感じられないのがわかる。瞳の奥で光る青色LEDがちょっと気になってしまうが……

 ベッドからの抱き上げ・ベッドへの移乗だけでなく、車椅子からの抱き上げとベッドへの移乗実験も体験させてもらいました。ベッドからの抱き上げに比べて持ち上げの高低差があるため、モータが頑張っている感じが音で伝わってきて、持ち上げられている途中は少しどきどきします。しかし腕力不足ということはなく、完全に持ち上げられてしまえば、安定感は先ほどの実験と変わりはありません。しかし車椅子からの抱き上げ実験では、最初に車椅子に座る位置をかなり調整しました。被介護者の背中と車椅子の背もたれの間などの細い隙間に腕を差し込むのは難しいようで、動作の改良や人間の介護者によるサポートが必要となりそうです。

【動画】車椅子からの抱き上げとベッドへの移乗の様子。右肩を落として小首を傾げる初期姿勢が可愛らしいです 予め動作を生成し、操作者の触覚センサーを介した指示に応じてそれを再生。動作生成はPC上のGUIで作成・調整が可能

 ここまでのムービーからも見て取れますが、RIBAの操作は腕部分の触覚センサーを介して行なわれています。腕部分の触覚センサーによって、触られている場所と加えられている力の大きさを判別することが可能です。このセンサーは介護者が触っている間は記憶された動作を再生するスイッチとして使われるだけでなく、触られた場所やその方向に応じた動作を生成して被介護者の位置に合わせてRIBAの位置を微調整するのにも用いられます。

【動画】触覚センサーによって、触られた場所と力の大きさをリアルタイムで検出することが可能。PC画面上に赤い四角で表示されているのが触られている場所で、四角の大きさが力の大きさを表している 【動画】上腕を上から下に撫で下げると前進、下から上に撫で上げると後退する。その場回転や左右方向の運動も触覚センサーを介して指示が可能
【動画】実験用の人形『さくらさん』を抱き上げさせてもらいました。さくらさんの腕がRIBAの腕に挟まれ触覚センサーが反応してしまい、その場回転してしまいました……。

 「抱き上げられるだけじゃなくて、抱き上げる方もやってみますか?」

 実験用人形『さくらさん』に登場していただいて、RIBAの操縦体験もしてみましたが、これはなかなか、コツが必要そうです。研究者の方が操作するとすいすい動くRIBAですが、私からの触覚による指示には、なかなか言うことを聞いてくれません。危うくRIBAごと『さくらさん』に突撃しそうになってしまい、人間の被介護者じゃなくてよかったとひやひやする場面も。触覚を介した操作は直観的ですが、指示の出し方を覚えて自然にそれを使えるクマ使いになるには、操作への慣れや操縦者に合わせたセンサーのしきい値の調整などが必要そうです。操作系としてはあくまで触覚をメインに考えているそうですが、背中にタッチパネルなどを取りつけ、被介護者に合わせた動作の選択や身長・体重の入力なども可能にしたいといいます。

3次元プリンタで作られたRIBAのミニチュア模型。将来、RIBAが量産されたらこんな感じ?

 2006年に理研バイオミメティックコントロール研究センターとして発表された1号機『RI-MAN(Robot Interacting with Human)』に続く、お姫様抱っこを行なう理研の介護支援ロボットとしては2号機目となるRIBA。RIBA自体も可搬重量を上げたり、外装を変更したりという研究開発の途中ですが、理研−東海ゴム人間共存ロボット連携センターでは現在、3号機を設計中とのこと。まだ詳細は「秘密」とのことですが、RIBAの進化形となる介護支援ロボットとなるようです。今回、私はRIBAに「ロボットにお姫様抱っこしてもらう」という野望をかなえてもらいましたが、その更なる進化形が一体どんな形になって、誰のどんな夢をかなえてくれるのか、今から楽しみです。



(せとふみ)

2009/12/10 17:05

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