「第11回マイコンカーラリー近畿地区大会」レポート
~15台のマシンが全国大会出場権を獲得
第11回マイコンカーラリー近畿地区大会 |
11月28日(土)、兵庫県立東播工業高等学校の体育館において、第11回マイコンカーラリー近畿地区大会が開催された。
同競技会は、1996年に北海道大会としてスタートした。第1回大会の参加台数は、わずか179台。その後、全国各地でマイコンカーラリーに取り組む高等学校が増え、今では全国12地区で3,000台を越える参加者がある。
近畿地区大会には、滋賀、和歌山、京都、大阪、兵庫から24校185台のマイコンカーが集まり、1月に開催される「ジャパンマイコンカーラリー2010 全国大会」の出場権を目指して、日頃の技術を競った。熱気溢れるレースを制して優勝したのは、Basic ClassがLION(藤原洸太君/兵庫:姫路工業高等学校)、Advanced Classはevolution(閑井健人君/兵庫:相生産業高等学校)だった。
開会式風景 | 前年度優勝校 兵庫県立相生産業高等学校より優勝旗返還 |
選手宣誓。閑井健人君(兵庫県立相生産業高等学校) | 会場となった兵庫県立東播工業高等学校 体育館 |
地区大会は、12月末まで順次開催される。公平を期すため、コース図や走行動画の公開は、1月以降にならないと許可されない。そのため本稿では、動画が掲載できないことをご了承いただきたい。
●マイコンカーラリーとは
マイコンカーラリーの最大の特徴は、ジャパンマイコンカーラリー実行委員会の支給する承認マイコンボード(ルネサステクノロジ製)の搭載が必須とされている点だ。機体のサイズは幅300mm、高さ150mmと規定があるが、全長や重量、材質には制限がない。独自に製作、プログラミングしたマシンで、規定のコースを周回し、タイムを競う。
マイコンカーラリーのコースは、黒地に白のラインが描かれている。コースは、直線、カーブ、90度クランク、傾斜、レーンチェンジなどの課題で構成された複雑なレイアウトだ。一見、インコースとアウトコースの2コースあるように見えるが、立体交差点でクロスした一筆書きのコースになっている。今年の近畿地区大会予選コースは、全長50.86mだった。
予選はイン・アウトをそれぞれ1回ずつ走行し速いほうを持ちタイムとする。まずは記録を出さなくてはならないので、どの参加者も1走目はペースを落として完走を目指す。勝負は、昼食後の第2走だ。昼休みの間にきっちりと調整し、いかに記録を縮めるかに決勝トーナメントの出場権がかかっている。
部門は、初めてマイコンカーに取り組んだ選手が参加できるBasic Classと、Advanced Classがある。Basic Classは上位16台、Advanced Classは32台が決勝トーナメントに進出だ。
ロボットの調整に余念がない参加者達 | センサー状態のチェックが重要 | テストコースで試走して最終チェックをしていた |
緊張した表情で車検を待つ参加者達 | 車検風景 | 立体交差をクリアする機構があることをチェックされる |
2台のマシンが、青と赤のゲートから半周ずれた状態でスタート | ゲートがオープンしたことを検知し、自動でスタートする | レーンチェンジは2007年に追加された難しい課題だ |
●初心者限定のBasic Class
Basic Classは、2008年のプレ大会から始まったばかりのクラスだ。競技会の歴史が長くなると、先輩から後輩へ技術が受け継がれ上位校が固定される傾向が出てくる。それでは、これからマイコンカーラリーに参入する学校の生徒達にとって、ハードルが高くなりすぎるため初心者用のクラスとして誕生した。
Basic Classのマシンは、モーターの数、センサーの種類などに制限がある。ハードを規定することで初心者が参加しやすくなり、プログラムやマシンの調整を丁寧にやることで上位の記録を狙える。
Basic Classは89台中、44台が予選コースを完走した。予選完走率は、49%。2回とも完走できたのはわずか19台だっだ。予選1位のLION(藤原洸太君/姫路工業高等学校)は、1走目の25秒62でトップに立ち、2回目で自らの記録を2秒近く縮めて今大会のBasic Classベストタイム賞を受賞した。
決勝は2台でゴールを競うトーナメント戦になる。相手より速くゴールに到達しなくてはならないが、スピードを上げてコースアウトしてしまっては元も子もない。対戦相手の予選タイムと自分のタイムを検討し、どのくらいで走れば相手より速く安定してゴールできるか作戦を立てなくてはならない。LIONは、トーナメントを危なげなく勝ち上がり優勝を決めた。
藤原洸太君は池野祐太君(共に1年生)と共同でマシンを製作したそうだ。マシンの製作で苦心したのは、「ボディを真っ直ぐに作ること」だという。加工精度がいいマシンを作ったことが、安定した走行の秘訣のようだ。プログラムは、レーンチェンジなどの難しいところは先輩に教わりながら、カーブを滑らかに走行できるよう調整に時間を掛けたという。カーブの走行にまだロスがあるので、全国大会までにはプログラムを見直して上位を目指したいと意気込みを語った。
優勝マシン「LION」。配線もタイヤに絡まないように注意している | 優勝した池野祐太君(左)と藤原洸太君(右)(共に姫路工業高等学校1年) | Basic Class 決勝トーナメント結果 |
●ベストタイムは、13秒台-Advanced Class
Advanced Classは、エンコーダーや速度センサー、傾斜センサーなどを搭載し、複雑な制御でコースをより速く走る工夫がされている。96台が出場し、完走したのは43台。完走率は44.7%で、そのうち2回とも完走できたのは15台だった。
ベストタイム賞を受賞した紀北Ver2(吹谷和俊君/和歌山:紀北工業高等学校)は、予選で13秒94を出している。Basic Classのベストが秒速2.15m、それにたいしてAdvanced Classは秒速3.7mだから、スピードは桁違いだ。
予選1位の紀北Ver2(吹谷和俊君/和歌山:紀北工業高等学校)は、決勝でevolution(閑井健人君/兵庫:相生産業高等学校)と対戦した。evolutionは、予選を14.80秒の記録で3位通過したマシンだ。
決勝戦のレースは、大方の予想どおり紀北Ver2がリードした。しかし、中間ゲートを越えたところで、紀北Ver2がコースアウト。自分の最速を確実に走ったevolutionが見事に優勝した。
実は、紀北Ver2は予選の第1走、そして準々決勝と準決勝でもコースアウトしている。トーナメントは基本的に1回の走行で勝敗が決定するが、両者がコースアウトした場合は、ゲートチェンジをして再走となる。紀北Ver2は、再走で勝ち星をあげてきたわけだ。その度重なるコースアウトのダメージで、センサーを搭載している基板が変形してしまった。MCRでは、決勝トーナメントの間は審査員席横に設けられたピットから出ることはできない。マシンの調整もその中で行なわなければならないのだ。吹谷君は、手加工で基板をできるだけ水平に戻して決勝戦に挑んだが、残念な結果になってしまった。
優勝した閑井健人君は、決勝戦の感想を「紀北Ver2の方が速かったので、完走していれば僕が負けていました」と率直に語った。スピードでは敵わないことが分かっていたので、自分の最高速の中で確実に完走できる速度で勝負に挑んだという。
閑井君は、トーナメントでは常に最高速で走るのではなく、対戦相手の予選タイムと自分のマシン性能を比較し、勝てる速度と完走できる安定した速度のバランスを見極める戦略が必要だという。実際、evolutionは決勝トーナメントの3回戦までは15秒台、準決勝からは14秒台とスピードを上げてきた。こうした冷静な試合運びが、勝因に繋がったのだろう。
evolutionは、アームの上空に赤外線センサーを搭載し、アーム先端のセンサーよりも前方の白線を常に監視している。この赤外線センサーのおかげで、カーブやクランクを事前に検知でき、適切なブレーキングでカーブを滑らかに走行しているそうだ。閑井君は、「今はデジタルセンサーを使っているので、全国大会までにアナログセンサーを搭載して、もっときれいにカーブを攻める走りをしたい」と豊富を語った。
evolution(閑井健人君/兵庫:相生産業高等学校) | 優勝した閑井健人君(相生産業高等学校3年) | Advanced Class 決勝トーナメント結果 |
決勝戦を見守る参加者達 | Advanced Classは設計が自由なため、戦車やキャラクタ外装をつけたマシンもあった |
●近畿地区大会からは、15名が全国大会へ出場
閉会式でマイコンカーラリー事務局長の大貫健二氏は、「Basic Classは優勝タイムを24秒台、Advanced Classは13秒台を想定していた」といい、両クラスともベストタイム賞が想定どおりだったことを評価した。マイコンカーラリーは、技術交流のため公式サイトで、上位マシンの技術を公開している。全国大会までに、研鑽を重ねよりスピードアップして欲しいと、選手達を激励した。
近畿地区大会から全国大会へ出場するのは以下のとおり。
Advanced Class 全国大会出場者 | Basic Class 全国大会出場者 | 団体優勝の紀北工業高等学校 |
順位 | マシン名 | オペレータ |
---|---|---|
優勝 | evolution | 閑井健人君/兵庫:相生産業高等学校 |
2位 ベストタイム賞 | 紀北Ver2 | 吹谷和俊君/和歌山:紀北工業高等学校 |
3位 | 紀北深淵 | 水林嵩彬君/和歌山:紀北工業高等学校 |
4位 | YASUSHI 13 | 原秀成君/大阪:今宮工科高等学校 |
8位 | Vincent | 岡本潤君/兵庫:姫路工業高等学校 |
8位 | 紀北疾風迅雷 | 山本基弘君/和歌山:紀北工業高等学校 |
8位 | 決まっていない | 今村陽介君/兵庫:市立神戸科学技術高等学校 |
8位 | 橋本ω | 中谷佳巨君/和歌山:橋本高等学校 |
特別賞 | カルメンシータ | 大田 航君/兵庫:村野工業高等学校 |
審査員枠 | Dream | 松田悠樹君/大阪:今宮工科高等学校 |
審査員枠 | j | 金地謙篤君/兵庫:姫路工業高等学校 |
審査員枠 | あおじる | 中川拓磨君/兵庫:相生産業高等学校 |
順位 | マシン名 | オペレータ |
---|---|---|
1位 ベストタイム | LION | 藤原洸太君/兵庫:姫路工業高等学校 |
2位 | 魚肉S | 石井直人君/兵庫:県立尼崎工業高等学校 |
審査員枠 | 金属戦隊 Blue | 村上大河君/兵庫:小野工業高等学校 |
2009/12/4 17:00