小惑星探査機「はやぶさ」が地球への帰還を再開

~問題のあるスラスタ2つを組み合わせて“復活”


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月19日、緊急に記者会見を開催し、トラブルが発生した小惑星探査機「はやぶさ」について、状況を説明した。JAXAは今月9日、「はやぶさ」のイオンエンジンに異常が発生したことを明らかにしており、対応が注目されていた。

小惑星探査機「はやぶさ」の1/10スケールモデル川口淳一郎プロジェクトマネージャ國中均教授はイオンエンジンの開発者である

 JAXA側の出席者は、月・惑星探査プログラムグループの川口淳一郎プログラムディレクタ(はやぶさプロジェクトマネージャ)と、イオンエンジン担当の國中均教授(はやぶさサブマネージャ)。

 小惑星イトカワでの調査を終えた「はやぶさ」は、2007年4月~10月に第1期軌道変換を実施、2009年2月より第2期軌道変換を行なっているところだった。2010年3月までイオンエンジンによる加速を行ない、同6月に地球へ帰還する予定だったが、11月4日に異常が発生。動作中のスラスタDが自動停止になっているのが発見された。これは、中和器の電圧が上限の50Vに達したためだという。

 「はやぶさ」の特徴の1つであるイオンエンジンは、推進剤のキセノンをマイクロ波でプラズマ化、それを高速に加速してイオンビームとして放出することで、推力を得ている。そのままだと「はやぶさ」本体がどんどんマイナスに帯電してしまうため、中和するために電子を放出しているのが中和器だ。この中和器は、経年劣化により電圧が上昇する傾向がある。

 「はやぶさ」には、A~Dの4つのスラスタが搭載されていたが、スラスタAは推力が安定しなかったため、打上げ後すぐに運用を中止した。往路はB~Dの3台で問題なかったが、帰路、スラスタBに今回と同様の中和器の電圧上昇があり、使用を中止。スラスタC/Dの2台体制で帰還を目指していた。スラスタCは現在でも稼働可能だが、電圧が上昇する傾向が見られており、不安がある。

 帰還までに必要な軌道変換量(ΔV)は、トータルで2,200m/sだ。これまでの運用ですでに2,000m/sは実施しており、残りの200m/s強を稼ぐことができれば、予定通り2010年6月に帰還できる。ここで、スラスタが定格(8mN)通りの推力を出せるのであれば、1台でも帰還は可能なのだが、直近では5mNしか出ておらず、2台による運転が必要となっていた。

 スラスタA/B/Dは、それぞれ起動できなくなっていることが分かった。しかし調査の結果、スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合わせることで、1台のスラスタとして作動することを確認。これまでに、6.5mNの推力で1週間連続運転できているという。新しく作成した軌道計画では、この推力を維持できれば、2010年6月の帰還が可能になる。

別々のスラスタの中和器とイオン源を組み合わせるA/Bの組み合わせのほか、いくつか候補は考えられるこのまま運転していけば、2010年6月に帰還できる

 この方法の問題として、消費する推進剤と電力がともに2倍となってしまうが、推進剤の残りは十分あり、電力も太陽に近づいているので問題ないとのこと。またイオン源と中和器が本来よりも離れているため、イオンビームがわずかに偏るという問題も起きているが、±5度の角度で動作できるジンバルによって修正可能なレベルだという。

 スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合わせるには、スラスタBで分離した電子を、スラスタAにバイパスしてやる必要がある。本来、別のスラスタの中和器を使う必要などないので、ハードウェア的に不可能であってもおかしくないのだが、このアクロバティックな方法を可能にしたのは、トラブルを想定し、ダイオードによる回路を追加していたからだ。スラスタAがほぼ“新品”のまま残っていたのも結果としてラッキーだった。

 今後は、前述の通り、スラスタA/Bのクロス方式にって、地球への帰還を目指す。このまま問題がなければ予定通り到着できる見込みだが、さらなる故障に見舞われた場合には、「(3年間延期の)2013年帰還もあり得る」(川口プロマネ)とのこと。しかし、「いろいろ対策案は考えている」(同)とのことで、まだまだ「はやぶさ」の冒険は続きそうだ。

 また後継機「はやぶさ2」について、前回の記事でも触れたが、取り巻く状況はさらに厳しくなっている。その後、開催された行政刷新会議のワーキンググループ(いわゆる「事業仕分け」)において、JAXAの2012年度以降打上げの衛星について、1割の予算縮減を求める評価が出てしまったのだ。概算要求にすら入っていなかった「はやぶさ2」にとっては、だめ押しと言っていい。

 しかし、この事業仕分けについては、法的な強制力はなく、財務省との折衝の中で、これが覆される可能性は残っている。しかも、文部科学省は事業仕分けの対象となった所管事業について、国民に広く意見を求める姿勢を見せている( http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm )。まずは意見を出すことが重要だろう。賛成にしろ反対にしろ、国に対して、積極的に声を出してもらいたいと思う。



(大塚 実)

2009/11/20 00:23