小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンに異常

~地球への帰還に黄信号、使用できるスラスタが1基に


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月9日、2010年6月の帰還を目指して火星付近を航行中の小惑星探査機「はやぶさ」において、イオンエンジンの異常が見つかったことを明らかにした。同探査機は4基あるスラスタのうち、すでに2基が止まっていた。残る2基での帰還を計画していたが、そのうちの1基に問題が起きたことで、予定通り帰還できなくなる恐れが出てきた。

小惑星探査機「はやぶさ」のタッチダウン想像図イオンエンジンはスラスタA~Dの4基を装備(提供:JAXA)

 小惑星探査機「はやぶさ」は、M-Vロケット5号機によって、2003年5月9日に打上げられた。JAXAが宇宙関連3機関の統合により発足したのは同年10月なので、「はやぶさ」は宇宙科学研究所(ISAS)時代の最後の探査機である。当初、2007年6月に地球へ帰還する予定だったが、小惑星「イトカワ」へのタッチダウンに成功したあと発生した燃料漏れなどのトラブルにより、帰還を3年間延期していた。

「はやぶさ」のイオンエンジンには、A~Dの4つのスラスタが搭載されている。今回、問題が起きたのはスラスタDで、中和器の劣化により電圧が上昇、安全装置が作動して自動停止したことが確認された。復旧を試みたが、今のところ再起動できていない。

 スラスタAは、動作不安定等があったために、打上げ直後に運用を停止。3基のスラスタでイトカワに到着したが、帰路、今回と同様の問題により、2007年4月にはスラスタBの運用も休止した。スラスタCは稼働するものの、こちらも中和器の電圧は高い傾向にある。

 現在の第2期軌道変換では、スラスタCとDの2基による噴射で地球へ帰還する予定だった。これが1基となると、加速が足りなくなる恐れがある。スラスタCのみで帰還する場合、噴射時間を長くとる必要があるので、再突入への難易度も上がる。早めに加速を終わらせて、地球からなるべく遠いうちに軌道修正する方が確実だからだ。ギリギリまで加速してからの軌道修正にはリスクが伴う。

 一方、今回の帰還は諦め、新しい軌道を計算することも考えられるが、すでにエンジンの耐久年数を超えて運転しており、再度の延期によって、スラスタCまで止まってしまうことも十分あり得る。現在、JAXAでは対策を検討しているところだが、どのような方針であっても、リスクを覚悟する判断が必要となるだろう。検討結果がまとまり次第、改めて報告するということなので、それを待ちたい。

 また、以前からお伝えしている後継機「はやぶさ2」についても、厳しい状況が続いているようだ。

 「はやぶさ2」は、ターゲットとする小惑星との位置関係により、2014年に打上げる必要がある。そのため、来年度より本格的に開発を始めないと間に合わないのだが、先日発表された概算要求では、「はやぶさ2」の予算は計上されていなかった。JAXAは独立行政法人であるため、独自の判断で予算を配分することも原則的には可能だが、旗色が悪くなっていることは確かだ。

 これまで、「はやぶさ」によって、数多くの科学的知見が得られたのは事実だ。小惑星探査に関しては、日本は世界でもトップクラスと言っていい。「はやぶさ」によって実証されるサンプルリターン技術も、今後の宇宙開発にとって、発展が期待されるものだ。技術も意義もあるのに、お金の問題だけで断念せざるを得ないとすれば、何とももったいない。そう思うのは筆者だけだろうか?

 折しも、日本では政権交代が起こり、予算の付け方が大きく変わろうとしている。予算の削減ばかりに目が行きがちだが、本来の目的は、必要な場所にこそ増やすことであるはずだ。前原誠司・宇宙開発担当相を始めとする政治の判断にも注目したい。



(大塚 実)

2009/11/10 14:54