これが現代の巨大海上建造物だ! 羽田空港「D滑走路」見学会レポート

~「歩いてD滑走路島へ」参加


D滑走路島の埋立工区から連絡誘導路(北側)を臨む

 国土交通省 関東地方整備局 東京空港整備事務所は、11月10日、「歩いてD滑走路島へ」と題した羽田空港に建設中の「D滑走路」のプレス向け見学会を行なった。「D滑走路」とは羽田空港の南端に現在建設中の4番目の滑走路である。滑走路の長さは2,500m、幅は60m(空港島の全長は3,120m)。羽田の年間の発着能力を現在の約30万回から約41万回に増強することを目標にしている。

 まずは地図をご覧頂きたい。羽田空港は多摩川河口域にある。そして羽田空港と約620mの「連絡誘導路」で結ばれた「D滑走路」は、多摩川の河口をそのまま延長した「河口法線」を横切る形となっている。多摩川の通水性は確保しなければならないが、反対側に寄せてしまうと今度は東京港第一航路をふさぐことになってしまう。そこで「D滑走路」では両者を両立させるために多摩川河口法線内部となる一部は桟橋(1,100m)、そしてそれ以外の部分は埋め立て工法をとった(2,020m)、ハイブリッド構造となっている。さらに興味がある方は、「東京国際空港(羽田空港)再拡張事業の概要」パンフレットをダウンロードしてお読み頂きたい。

D滑走路の概要羽田空港の概要。右側が南側D滑走路の概要をもう一度

 2000年に計画開始、2008年3月末に現場着工された「D滑走路島」では2010年10月の滑走路供用開始を目指し、24時間365日の昼夜連続施工で工事が進められている。今年9月29日には滑走路島の埋立部と桟橋部を繋ぐ「渡り桁」第一号の架設が行なわれた。「渡り桁」は、長さ15m、幅員1.5mの「プレキャストコンクリート桁(PC桁)」で、273本架設される。羽田空港と桟橋部とは、北側に設置された「場周(じょうしゅう)道路」で既に繋がれていたため、これによって羽田空港から桟橋部分・埋め立て部分への陸上からのアクセスが可能になった。これまでは船舶を使って重機、資材を全て運んでいたそうなので、これは大きな進展だ。

 今回我々が参加したイベント「歩いてD滑走路島へ」は、この陸路を「場周道路」から「連絡誘導路」、そして「桟橋部」と「埋め立て工区」を繋ぐ「渡り桁」を経由して「埋め立て工区」部分まで歩きながら、工事の進捗状況を見学するというもの。完成してしまったあとは飛行機が通り、飛び立って行く場所なので、当前のことながら歩くことは全く不可能だ。飛行機が通る人工地盤の上を歩ける滅多にない機会なので参加させてもらった。

 なお最初にお断りしておくが、ロボットには何の関係もない。「巨大海上建造物」と聞くとアニメーション作品「機動警察パトレイバー」に登場した「方舟」を連想する方々もいるだろう。「パトレイバー」では双腕を持った大型歩行作業ロボット「レイバー」で建造作業が行なわれていたが、残念ながら現実の21世紀にはそのようなロボットは存在していないし、当日は重機の類もほとんど動いていなかった。これは「渡り桁」架設は航空制限のため夜間施工となっているためだ。というわけで、「大人の社会科見学」気分で、現実の巨大工事の様子をのぞいてみよう。

見学開始

 集合場所は羽田空港南端にある「D滑走路展望台」。プレハブ3F建で屋上も上がれるここは普段は一般公開もされており、工事の概要の展示パネルや、屋上から工事の様子を見学することが可能だ。公開から2年2カ月で、のべ4万人が訪問したという。我々が訪問した当日は残念ながらガスっていて、今ひとつだったが、夕方は美しいかもしれない。なお、ここに行き着くには羽田空港ターミナルから徒歩だとおよそ30分程度かかる。

 見学する工事現場は海上にある。まずはここでヘルメットとライフジャケットを着用し、簡単に本日の見学の順番を聞いたあと、マイクロバスで「場周道路」の入り口まで移動した。

「D滑走路展望台」。プレハブ3F建3Fには概要図のパネルや展望用の小型望遠鏡などが設置されている現在地と示されているのが「D滑走路展望台」
屋上からD滑走路島を臨む現空港とD滑走路を繋ぐ連絡誘導路橋方向。コンクリートを打設している様子程度ならここからでも見える
着陸していく飛行機の様子を見る事ができる本日の見学概要を伺う取材陣【動画】マイクロバスで連絡誘導路まで移動

 北側の「場周道路」からやはり北側の「連結誘導路」まで移動する。幅10.8mの「場周道路」は重機や資材搬入など管理用途に使われる道である。現在の羽田とD滑走路の間をつなぐ連絡誘導路は、要するに飛行機の道路だ。将来はこの上を飛行機が移動して、D滑走路まで向かうのだ。現空港との接続部では通常の山砂ではなく、軽量の盛り土を使い、土圧(どあつ)を軽減している。また地盤改良によって変形を抑止しているそうだ。きょろきょろとあちこちに見える重機や、また海上に浮かぶ船を見ながら、どんどん移動して行く。

左が「場周道路」、右側が「連絡誘導路」場周道路上を歩く建設中の連絡誘導路
現空港接続部。コンクリートを打設中働く男たち軽量の盛り土を使用

 とにかく時間がないということで、どんどん見学ツアーは進んで行く。写真を撮りながら慌ててついて行くのだが、日常サイズに比べて全てが大きく、そのせいで自分のスケール感が狂っていることをだんだん実感し始めた。たとえば、「せいぜい10m程度かなあ?」と思っていた船が実はずっと大きいことに気づいて、あれっと驚いたりするのだ。

どんどん進んで行くたとえばこの船。遠目ではもっと小さい船かと思っていた。とにかく全てが大きいのだ
後ろを振り返るといまの羽田空港での発着の様子が見えた北側の場周道路(右)と連結誘導路(左)。【動画】場周道路上を歩く

 さらに移動し、場周道路を真ん中まで歩いたところで、連絡誘導路に入り、建設途上の南側の連絡誘導路を見る。連絡誘導路は海中に打ち込まれた杭の上に「ジャケット」と呼ばれるユニット化された橋脚構造物を載せ、その上にコンクリート製の床板(しょうばん)を載せた構造になっている。連絡誘導路のジャケット一つの重さは約700t。

 滑走路の桟橋部も基本的には同じで、海底下70mまで打ち込んだ杭の上に「ジャケット」を載せて作られている。桟橋部のジャケット一つの標準の大きさは長さ65m×幅45m×高さ35mで、重量は1600tf。総数198基が設置される予定だ。据え付け状況は随時こちらのWebサイトで更新されている。ジャケット本体は耐海水性ステンレス鋼ライニング。鋼桁下面はチタン製カバープレートで覆われ、内部を除湿することで腐食を防ぐのだそうだ。もちろん、航空機の繰り返し通行による疲労に耐えられるように設計されている。設計上は100年保つという。

連絡誘導路南側はまだ建設途上。ジャケットは耐海水性ステンレス鋼ライニング製連絡誘導路の構造
チタンを外板に使ったカバープレート。100年保つという

 一通り説明を受けたあと、再び連絡誘導路から場周道路に移り、そのD滑走路側の出口まで移動する。ここは連絡誘導路とD滑走路の接点なので、全体が見える。というわけでしばし、全景を撮影する。連絡誘導路部のD滑走路近くは橋梁区間と呼ばれ、船舶が航行できるようになっている。後でここの下を我々も実際にくぐることができた。

 ジャケットの上にはPCa桁が載せられる。「プレキャストコンクリート桁(PCa桁)」とは、あらかじめ工場で製作されたコンクリート桁のことである。PCa桁の総数は約10,700枚。緊張した鋼線で補強されており、決められた形に整形されたコンクリートを現地に運び込み、間をつないでいく。また滑走路の着陸部分には、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いた「UFC床板(しょうばん)」と呼ばれるものも使われている。こちらは鋼繊維を混入して補強したコンクリート製の床板だ。コンクリート桁上は舗装され、飛行機が通過するようになる。

再び場周道路上を移動場周道路のD滑走路側出口に到着D滑走路島方向
コンクリートの床板が敷き詰められている間がつながれている繋がれる前の状態
床板一つ一つに番号が打たれているPC床板の構造UFCの特徴
【動画】全体を見渡す【動画】埋め立て工事の様子も見える

 さらにD滑走路島上の桟橋部分を、埋め立て部と桟橋部の接合部に向けて移動して行く。そしてちょうど接合部の「渡り桁」のPC床板上で、また再び概要説明を聞く。実際にその場で「いま皆さんが立っている部分が接合部です」と説明されていたときは、全くピンと来ていなかったのだが、実際にちょっと離れてその部分を見てみると、なるほど接合部分だということが良く分かった。

【動画】埋め立て部と桟橋部の接合部に向けて移動して行くコンクリート床板が載せられる前の状態の部分も当たり前だが下は海だ
接合部分ここで埋め立て部分(左)と桟橋部分(右)が繋がれる埋め立て部と桟橋部の接続部分の構造
PCa床板説明を聞いたのはこの写真の青い部分PCa床板の構造。PCa床板とUFC床板の使い分けはこの写真の右上図を参照
渡り桁からは連絡誘導路も良く見える連絡誘導路のジャケット少し離れてみると、なるほど埋め立て部分と桟橋部分の接合部であることが分かる

 接合部を少し離れ、埋め立て部分を見学する。埋立部の橋は、円柱スリットを使った消波護岸となっている。これによって暴風時の揚圧力、付近の小型船舶への影響を低減できるという。

 埋め立てには「管中混合固化処理土」と呼ばれる軽量の盛り土が使われている。現地で掘り出した土と発泡ビーズや気泡などと固化剤を混ぜた材料で、これによって地盤沈下を低減し、土圧(どあつ)を軽減できるとのことだ。ある範囲内で任意の軽量性、強度、流動性を与えることができるという。海上には、本日は動いていないとのことだったが「SGM(軽量混合処理土)製造船」が停泊していた。この船のバックホウで土をさらい、船上でそのまま土砂を軽量混合処理土に加工することができる。遠くには50t級のダンプが走り回っている様子が見えた。

円形スリットを使った消波護岸埋め立て部分。灰色の部分が管中混合固化処理土SGM施行部分
埋め立て部分の海底地形軽量盛り土を採用、土圧を低減管中混合固化処理土のサンプル
SGM製造船「開揚」。「龍神II」と「開揚」の2隻が使われているSGM製造船の仕組み土はパイプで移送される
50t級のダンプが所狭しと走り回っていた重機が林立する現場
多数の重機が作業中埋め立て地側から見えるターミナル付近の様子

 せめて滑走路上を端から端まで横断してみたかったが、残念ながら見学はここでひととおり終了。帰路は船を使うとのことで、埋め立て工区を船であとにした。船は今回徒歩で移動した場周道路、連絡誘導路の下を通過し、実際に耐海水性ステンレス鋼でできた「ジャケット」を、近くで見る事ができた。

帰路は船で船の桟橋から埋め立て部分と連絡誘導路を見る【動画】埋め立て工区をあとにする
【動画】連絡誘導路の下を通る。耐海水性ステンレス鋼のジャケットの下面はチタン製プレートで覆われている連絡誘導路を下から見たところまだ建設中の基部
滑走路の桟橋側。当然のことながら向こう側が見える現羽田空港側に戻って来た下船
ありがとうございました!

 今後は、接続部護岸近傍の桟橋部ジャケットの据付、桟橋部と接続する「渡り桁」の架設、そして「伸縮装置」を設置する工事を行なっていくとのこと。なお、東京国際空港第二ターミナルビル5階に、この工事の展示コーナーがある。現場の進捗状況は、随時こちらの「現場日記」で更新されている。これまでの工事状況の動画映像も見る事ができる。工事そのもののパンフレットは、羽田再拡張D滑走路建設工事共同企業体のサイトでダウンロードできるので、さらに興味がある人はご覧頂きたい。



(森山和道)

2009/11/11 22:27