国立科学博物館、「発見! 体験! 先端研究@上野の山シリーズ 大学サイエンスフェスタ」開催

~12月20日まで全3ステージにわたるイベント


STAGE-1でロボット系の展示が最も多かった東京農工大学

 東京上野の国立科学博物館で、「発見! 体験! 先端研究@上野の山シリーズ 大学サイエンスフェスタ」を開催中だ。年内に3ステージに分けて開催され、合計10の大学の理工系学科が技術や開発中のシステム、産学連携で開発した製品などを展示するという内容だ。11月8日まで開催されたステージ1は、秋田大学、東京農工大学、福井大学、立命館大学の4校。すべてではないが、各研究室の教授や准教授、研究室所属の学生たちがブースに詰めており、研究者からの貴重な話を直接聞くことも可能だ。ロボット系、バーチャルリアリティ(VR)系、宇宙開発系などさまざまな展示が行なわれる。

テーマは「地の知、ひとの知、そらの知」-宇宙関連やVR系を出展した秋田大学

秋田大学ブースの正面。ロケットが何台も展示されている

 同大学のブースは大きく3つのコーナーに分けられており、宇宙開発の「若人の宙への挑戦」、VR技術の「人を知るための技術」、鉱物資源の「鉱物資源とレアメタル」となっている。この中から、若人の宙への挑戦と人を知るための技術の2コーナーを紹介しよう。

 まずは若人の宙への挑戦から。秋田県は、1955年に故・糸川英夫博士が同県道川海岸でペンシルロケットを打ち上げたことから、日本の近代ロケットの発祥地として知られている。秋田大学では学生宇宙プロジェクトとして、ロケットや人工衛星の開発を学生たちが自らの手で行なっている。同プロジェクトで開発されているロケットの特徴は、ハイブリッドエンジンを採用していること。液体酸化剤として亜酸化窒素を、固体燃料(燃焼剤)としてABS樹脂を利用しており、液体燃料エンジンより簡単な構造で、なおかつ固体燃料エンジンより安全とされている。今回は、同ロケットのカットモデルや、同ロケットの回収のためのパラシュートの分離放出機構などを展示し、解説していた。ちなみに、ハイブリッドロケットのスペックは以下の通り。

・機体全長:2,000mm
・機体直径:110mm
・機体全重量:7kg
・機体材質:GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)、アルミなど
・動力:ハイブリッドロケットエンジン(酸化剤として亜酸化窒素を、固体燃料としてABS樹脂を使用)
・到達高度:300~400m

ハイブリッドエンジンを搭載したロケットのカットモデル。学生たちが開発を行なっているハイブリッドロケットの説明イラストパラシュートの分離放出機構。2008年に開発した学生が特許を取得したそうだ

 また、同大学のブースの正面には、4~5mの高さはあろうかというランチャーにセットされたロケットを中心に、複数のロケットを展示。さらに、秋田大学の大学生たちが開発した缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星型自律制御ロボット)で挑戦しているアメリカの競技会「ARLISS」(A Rocket Launch for International Student Satellites)の様子なども紹介されていた。

自律制御ロボットの缶サット。空中での姿勢を詳細に測定し、姿勢データの取得に成功した缶サットのカットモデル

 また、工学資源学部附属ものづくり創造工学センターでは、高校生を対象にした理工系の競技会や養成講座を行なっており、それらの紹介や募集も実施。秋田県能代市では毎夏に「能代宇宙イベント」を開催しており、その中で行なわれている競技会が「宇宙甲子園」だ。同競技会には、模擬人工衛星型自律制御ロボットの製作・運用を行なう「缶サット甲子園」と、モデルロケットの製作・打ち上げを行なう「ロケット甲子園」の2部門がある。今年は、前者は12校が参加して、佐賀県立武雄高等学校が優勝。後者は4校5チームが参加し、群馬県立桐生高等学校第1チームが優勝している。

 一方の養成講座の方は、大学生の指導で高校生がモデルロケットの製作と打ち上げを行なう「ロケットガール(&ボーイ)養成講座」(公式サイトはものづくり創造工学センター内)だ。こちらは東京工業大学和歌山大学と連携して行なわれており、今月23日まで秋田、東京、和歌山の3会場で各15名ずつを募集中だ。一昨年まではロケットガールということで、女子高校生のみが対象だったが、現在は男子高校生もOKなので、興味のある高校生は男女問わずぜひ保護者の方に相談してみよう。

宇宙甲子園の様子ロケットガール&ボーイの募集のパネル

 続いてはVR関連の「人を知るための技術」。大きく3つに分かれた展示となっており、「磁気式手指用モーションキャプチャ装置」、同工学資源部情報工学科教授の玉本英夫氏の研究室からの「民俗芸能の踊りの伝承技術」「歩行環境シミュレータ わたりジョーズ君」の3点だ。

 磁気式手指用モーションキャプチャ装置は、同大学工学資源部電気電子工学科教授の鈴木雅史氏の研究室で研究されている磁気を用いた手指用モーションキャプチャシステム。手指用のものとしては、光ファイバ式、光学式、機械式などもあるが、それらではピアニストや経験豊富な外科医師、熟練技術者、野球の投手などの手指の動きを3次元的に計測しようとすると難しく、磁気式を開発するに至ったという。

 同システムの開発の責任者のひとりである准教授の水戸部一孝氏によれば、磁気式の優れている点は、まず光学式のようにマーカが死角に入った時は測定できないといった問題がないこと。また、細かい動きにも関わらず3次元的な位置計測を高精度で行なえる点もある。また、最近のレシーバは小型化が進んでいるので、今回のように指に多数つけても手の動きを妨げる心配はないという。

 弱点としては、周囲に金属があると磁気なので精度が落ちてしまうという点とレシーバとセンサーの距離があまり開いてしまうと計測できなくなってしまうという点。そのため、今回はデモ用のモーションキャプチャグローブなどを置くテーブルを木製にするなど、対処したそうである。スペックは以下の通り。なお、最も普及している光ファイバ式の既存の製品だと角度分解能が0.5度で、22箇所の角度しか計測できないということで、かなり高性能であることがわかるはずだ。

・位置精度:0.76mm
・角度精度:0.15度
・位置分解能:0.0038mm
・角度分解能:0.0012度
・測定角度:16箇所×3自由度=48角度
・測定位置:16箇所×3成分(X、Y、Z)
・サンプリング周波数:240Hz/レシーバ
同時計測可能数:32レシーバ(片手16レシーバ×2)×6自由度

磁気式手指用モーションキャプチャ装置。片手だけで16個のレシーバが備えられている手のひら側。こちら側にはレシーバはない
拘束されるようなイメージだが、意外と動かし易いグローブと連動したVR空間内の手を動かすと、文字が書けるというデモ。「デイビー」と書いてみた

 そして、同工学資源部情報工学科教授の玉本英夫氏の研究室からの出展が、「民俗芸能の踊りの伝承技術」。磁気式手指用モーションキャプチャ装置の磁気方式を利用した全身用のモーションセンサーを利用し、伝統芸能の舞踊などの全身の3次元的な動作の記録を行なっている。また、伝承にも重きを置いており、動作を3次元アニメーションとしてあらゆる方向から手本として閲覧できたりする仕組みも開発中だ。今すぐは継承できる人がいない伝統芸能でもすべての動作を記録しておき、後に継承したいという人が現れた時に、手本としてあらゆる角度から動作を見られるようなソフト一式も作成している。デモが披露されていたソフトとしては、舞踊の動作アニメを作る「モーション(舞踊)コンポーザ」や動作に対して解説を入れられる「舞踊解説作成ソフト」などがあった。

わかりづらいが、身につけるモーションキャプチャ一式この箱が全身の磁気を計測するセンサー「モーションコンポーザ」、別名「舞踊コンポーザの」の画面
「舞踊解説作成ソフト」の画面舞踊の師匠と生徒など、2種類の動作を比較することも簡単

 同エリアの最後は、歩行環境シミュレータのわたりジョーズ君。鈴木研究室とナノテクノロジーも扱う秋田県のものづくり系企業エーピーアイ株式会社が共同開発したものだ。近年、お年寄りの道路横断中の交通事故が多いことから、それを防ぐため、お年寄りに体験してもらうことを主目的に開発されたシミュレータである。3面の大型スクリーンを使用して実際の景観に近い広い視野を再現しているのが特徴。また、女性が使うカチューシャのような形をした磁気式のモーションキャプチャシステムを頭に装備することで、被験者の頭部の動きを3次元の6軸データとして記録する仕組みになっている(どれだけ左右の安全確認をしたかがわかる仕組み)。また、足下はトレッドミルになっており、歩くとそのままの速度で画面内の視点も変化(横断を行なう)というわけだ。通常の1人称視点モードのほか、ドライバー視点や俯瞰視点などもあり、また時間帯も日中、夕方、夜間と3段階に切り替えられる。現在、大分県、香川県、京都府の警察本部に導入済みだそうだ。

わたりジョーズ君。3画面をつないだ広い視野と、インターフェイスとしてトレッドミルを使うのが特徴頭にカチューシャ型のモーションキャプチャシステムを備えてから体験することになる【動画】実際に使用している様子
通常視点のキャプチャー画面。これが大型3面モニターに投影されるこれはドライバー視点でなおかつ夕方の設定こちらは夜間。1人称視点だが、郊外ということでかなり暗い
俯瞰視点。トラックが過ぎて、歩行者が横断をスタート

テーマは「100年先から見てみようII」-10以上のテーマで出展した東京農工大学

東京農工大学ブース。全日本学生フォーミュラ大会の参加マシンが目立っていた

 テクノロジーと自然の両面を扱っているのが特徴の東京農工大学。今回は、中央展示と8つのテーマに分けて出展した。中央展示では3分野の展示と特別コーナー、8つのテーマは、バイオ、エコ、メカトロニクス、ナノ、インフォメーションの5つのテクノロジーと、大気と植物の力、大地と微生物の力、人のくらしと動物の力となっている。

 中央展示では、3つの分野の製作物を披露。顔としてブース正面に飾られていたのが、毎年9月に開催されている全日本学生フォーミュラ大会に出場するために同大学の学生が結成しているチーム「TUAT Formula」で製作した小型のフォーミュラマシンだ。

 そしてその後ろに展示されていたのが、同大学のロボット研究会「R.U.R」のロボットたち。がレスキューロボットコンテストの2009年大会(過去の記事はこちらこちら)に参加した「搬送ロボット」と「救助ロボット」、NHK大学ロボットコンテストの2008年大会に参加した「手動機」、マイクロマウス大会などに出場するために製作したロボットたち。さらにその後ろは、同大学工学部機械システム工学科教授の永井正夫氏と、特認准教授のラクシンチヤラーンサク・ポンサトーン氏の両研究室が「ぶつからない超小型電気自動車」として研究開発中の実験車両(トヨタ車体)製超小型電気自動車「コムス」ベース)もあった。車間距離制御、前方障害物自動回避システム、交差点自動停止・自動発進システムなどが研究されている。

全日本学生フォーミュラの参加マシン。チームTUAT Formulaは2009年度大会では63チーム28位を記録した2009年度レスキューロボットコンテスト参加の「搬送ロボット」同じく2009年度レスキューロボットコンテストに参加した「救助ロボット」
2008年NHK大学ロボットコンテスト出場の「手動機」マイクロマウス参加機体トヨタ車体製超小型電気自動車「コムス」をベースにした

 8つのテーマの中で、ロボット系が展示されていたのはもちろんメカトロニクスコーナー。同大学工学部機械システム工学科教授の遠山茂樹氏の研究室で開発中の、農作業用のアシストスーツ「農業パワースーツ」がそれだ(残念ながらこの日は展示のみ)。ご存じの通り、日本の食糧自給率は40%と低いことから、さらなる農業の効率化が求められる一方、農業従事者の高齢化の問題などもある。それなら大型機械を導入すればいいかというと、そのメリットを活かせるのは大規模な農場や一部の作物に限られており、小規模農場や斜面耕地、ハウス内の隘路などでは使用するのが難しいという状況だ。同研究室で開発している農業パワースーツは、そうした大型機械に向かない農地で農業従事者のアシストをすべく、人が装着可能な農作業補助用の外骨格型ウェアラブルアグリロボットである。

 農作業は、一定の姿勢を長時間維持し続ける必要があったり、かがむのと立ち上がるのを繰り返したりするなど、足腰に負担のかかることが多く、ヒザ痛や腰痛などを患う人が絶えない状況となっている。そこで同スーツでは、そうした農作業の動作の解析を行ない、そのデータをベースにして身体アシストを行なう仕組みとなっている。

 また、関節の駆動には超音波モータを採用。超音波モータは構造が単純で小型、低速高トルク、高応答性、自己保持性などがポイントだ。モータは肩、ヒジ、腰、ヒザの関節に取り付けられており、20kg以上の物を持ち上げられる。あらかじめ動作をプログラミングしておくことで単調な繰り返し動作を行なえたり、音声指示によってプログラムされた動作を実行したりすることも可能だ。

 バッテリと制御部は背面腰部に搭載されており、バッテリは1回の充電で約8時間の連続動作が可能だ。足までフレームがあるので、スーツ自体の約26kgという重量はもちろん装着者にはかからない設計で、それどころか身体を支えてくれるので中腰の姿勢なども楽になるというわけだ。2012年の実用化を目標に開発されており、その際は重量を10kg未満にすべく軽量化を進めている。

農業パワースーツ。農業以外にも、中腰などつらい姿勢を必要とされる作業には利用できそうだ腰部および大腿部。この後ろ辺りにバッテリや制御部がある肩とヒジのモータ。手首にはモータはないが、支えられるようにプレートがある

 それからメカ系でインパクトがあったのが、大地と微生物の力コーナーの「リアルタイム土壌センサ」。農学部地域生態システム学科教授の澁澤栄氏の生産環境システム学研究室で開発中のセンサーシステムだ。いつ、どこで、誰が、何をどのように栽培したのかがすぐわかるように、ほ場(水田・畑・果樹園など)や生産者にID番号を付与し、土の成分、栽培する農産物の品種や使用する肥料、農薬の散布日時・量・回数など、さまざまな情報を記録し、農産物の生育過程の多様な情報を確認できるようにするというわけだ。耕耘機の後部に装着して使用し、土中に一定の深さでトンネルを掘る仕組みで、その掘られた土に光を当ててカメラで撮影し、測定結果と位置情報を合わせてほ場の地図を作る仕組みである。

リアルタイム土壌センサ。トラクターなどの後ろに連結して使用する仕組みだリアルタイム土壌センサを別角度からリアルタイム土壌センサの説明パネル。土の情報を光で測定する仕組みや、成分別の地図などが見られる

 そのほか面白かったのが、バイオテクノロジーのコーナーの、生命工学科教授の朝倉哲郎氏の研究室で行なわれている「絹を使った再生医療材料の開発」だ。自分自身の細胞の再生力を利用してケガや病気で悪くなったり失ったりした器官を元の状態に戻そうという再生医療に、絹を再生しようとする細胞の足がかりとして利用、またはそのまま代替えとして活用しようという研究である。

 同じ再生医療でも、ES細胞や万能細胞を使って器官を再生する技術とは別ものだ。絹は糸の状態だけでなく、スポンジやフィルム、チューブなどさまざまな形態を取れるのが特徴だそうで、再生医療の材料として使い勝手がいいという。

 まだ実用レベルではないそうだが、今回紹介されていた器官の1つが、絹のスポンジ製の耳の軟骨。これを耳に移植することで、軟骨細胞の足場となり、耳軟骨再生を促すとしている。もうひとつが、絹製の人工血管。現在はポリエステル製の人工血管が使われているが、細い血管だと血液が詰まってしまう危険性があるため、大動脈など太さのある部位でしか使えない。一方で絹製の人工血管は、直径が1.5~4mmと細径の血管としての利用が期待されており、足の先や心臓の動脈などに使えるよう研究が重ねられている。そのほか、絹から作成したフィルムの透明性が非常に高いことを利用し、その上に角膜上皮細胞を培養して重層化するという技術も紹介されていた。

左上が絹スポンジ、右上が絹フィルム、左下が絹水溶液、右下が絹ゲル。色つきはトランスジェニック絹左側は、絹軟骨用スポンジと鋳型。右の細い管が、絹製の人工血管。太い人工血管はポリエステル製だ

テーマは「エネルギーのヒミツ探検隊」-福井大学

 福井大学は、第1会場だけでは収まらず、第2会場まで使って展示を行なっていたが特徴。テーマの通りにエネルギーをメインの題材としており、ロボット的な展示はないものの、宇宙関連や太陽電池、原子力など科学技術系の展示が多数あった。第1会場が3部屋、第2会場を1部屋として計4部屋でエネルギーに関してのテーマを分けて解説していた。部屋は、まず物理学的エネルギーの基本となる保存則(実際には生産など保存というイメージではない内容)でまとめた「ヘンシン恐竜の洞窟」、エネルギーを使用すると質が悪くなる原因を追う「ヒートザウルスの洞窟」、省エネ技術を紹介する「ショーエネ恐竜の洞窟」、そして第2会場では膨大な物理的エネルギーが本当に必要なのかどうかを考えるための「ハッピー恐竜の洞窟」となっている。

福井大学のブース入口第2会場では、福井県立恐竜博物館に設置されているのと同じ「恐竜博士の座るダイノベンチ」がある

 ヘンシン恐竜の洞窟では、多種多様なエネルギーを生み出すための技術や利用方法、保存方法などを紹介。部屋に入ってすぐのコーナーは、JAXAとの共同開発が行なわれている、宇宙エネルギー利用システム(太陽光発電衛星)「SSPS」(Space Solar Power System)。地上3万6,000kmの静止軌道に建設された宇宙プラントと、地上・海上プラントで構成されるシステムだ。

 軌道上で集光してレーザーまたはマイクロ波で地上にエネルギーを伝送、地上・海上プラントで受光したレーザーまたは受電したマイクロ波で、燃料電池の燃料となる水素を製造するのに活用する計画だ。排熱がほかの発電システムより少なく、温室効果ガスの排出もほとんどないのが特徴である(レーザー光やマイクロ波は鳥などの生物や飛行機などへの危険はないレベルで使用される)。福井大学ではレーザータイプを研究中だ。

 開発スケジュールは、2020年頃までに宇宙実証装置の開発を終え、2030年頃に商用化運転の開始を予定している。実現のための最大の課題は、打ち上げ費用などがあるためにコストが高いこと。既存の発電システムや水素製造システムと競争しうるような低コストにするには、電力を売る場合の発電コストで8円/kWh、水素製造の場合で20円/Nm3(立方メートル)程度にする必要があり、輸送コストの低減、システムの高効率化・軽量化などが今後の重要な課題となるとしている。

SSPSのモデル。宇宙空間では地上の5~10倍の日照条件なので、発電量がそれだけ増えるH-IIAロケットのモデル。SSPSの輸送コストを下げるには、現在の化学燃焼方式のままでは難しいという話も

 それから非常に勉強になったのが、太陽光発電の太陽電池(ソーラーパネル)のコーナー。太陽電池がLED(発光ダイオード)やレーザーダイオード、フォトダイオードなどと仲間で、太陽電池に逆に電流を流すと発光するところも見せてもらった。また、送信にレーザーダイオード、受光に太陽電池を使うことで、2台のラジカセをつないだ光無線通信のデモも実施。片方のラジカセで再生したCDのサウンドをラインアウトしてレーザーダイオードでもってレーザー光に変換して発振、もう片方のラジカセとつながった太陽電池で受光すると、受光した光エネルギーの強弱をそのままサウンドに変換してCDの音楽を再生するという。太陽電池は発電するだけが取り柄じゃないのである。

 さらに、通常の単一接合方式では発電に利用できる太陽光は約40%なのだが、3種類の素材を重ね合わせて約70%の太陽光を利用できるようにした三接合タンデム構造方式の太陽電池も展示されていた(電池に接続して発光させていた太陽電池が実は三接合タンデム構造方式のもの)。また、災害時などでノートPCを起動する程度の発電を行なえるよう、小型のキャリングケースサイズの太陽光発電システムも展示。ケースを開くと両面にレンズがいっぱいに張ってあり、実はこれが工夫。虫眼鏡の要領で太陽光を収束させ、太陽電池の面積を小さくすることで価格を下げているのである。レンズと太陽電池では圧倒的にレンズの方が安上がりというわけだ。

太陽光発電の太陽電池のコーナーで展示されていた、三接合タンデム構造方式のパネルパネルに電池から電流を流すと、赤く発光する。太陽電池は発光ダイオードでもあった光無線通信の発振側。CDの音楽をレーザーダイオードでレーザーに変換して発振
太陽電池上にレーザー光の赤いポイントが見えるが、これが受光部。光無線通信にも使えるというわけだ【動画】実際に光無線通信を介してのサウンドキャリングケース型の非常時用の太陽光発電システム

 さらに興味深かったのが、体内でのエネルギー変換ということで、近赤外光分光法(NIRS:Near‐Infrared (Rays)Spectroscopy)を用いた、脳活動計測装置も展示。今回は、実際に製品化されている装置で、スペクトラテックの光イメージング脳機能測定装置「OEG-16」が利用されていた。

 仕組みとしては、ニューロンの活動が最も盛んな大脳外周の大脳皮質の表面に近い部分の血管に近赤外線を毛髪や頭皮、頭蓋骨越しに透過させ、およそ1万分の1程度の弱さになるそうだが、反射波を測定することでヘモグロビンの色の違い(動脈として酸素を含んでいるか、静脈として酸素を含んでいないか)を測定するというものだ。

 光の強さが変化するのを計測するわけだが、変化したということはヘモグロビンの光の吸収具合の変化を意味し、つまりそれは酸素を運んでいるヘモグロビンと運び終わったヘモグロビンの量が変化したことを示す。

 ニューロンはほかの細胞のように栄養を蓄えられないことから、活動するために常にブドウ糖を取り込んでおり、それをエネルギーに変換するのに酸素を消費する。活発な神経活動が起きれば酸素の消費量が増えるというわけで、つまりはヘモグロビンの反射光の変化の具合から神経活動がどれだけ変化しているか、活発か否かということがわかるのである。

 近赤外光は脳の奥深くまでは届かないが、大脳皮質は脳の表層にあるので、深い谷のようになっているシワの底の方まではさすがに無理な場合もあるそうだが、大部分の大脳皮質表面の活動をチェックできるそうである。NIRS法は、従来の脳機能計測法に比べると簡便でいて身体拘束も少ないことから(OEG-16も頭部に装着する計測器具は幅広のヘッドバンド程度)、動きを伴った計測や子どもを対象にした研究などに特に適しているという。

スペクトラテックの光イメージング脳機能測定装置「OEG-16」の計測用のヘッドバンドヘッドバンドの裏側の近赤外線の発振部と受光部。わかりにくいが、赤い点が中央にある方が発振部来場した小学生に体験してもらい、暗算してもらった際のデータ(顔写真は別人)。7~10の位置が暗算(記憶)に関係していると予想されるそうだ

 ヒートザウルスの部屋では、トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑などを扱う学問)やヒートパイプなどを紹介。トライボロジーでは、自動車のブレーキのモデルを利用して摩擦についての説明を実施。ブレーキは運動エネルギーを熱エネルギーに変換することで減速を行なうわけだが、どれだけブレーキが発熱するかというのを小型の実験用のシステムを使って体験できる。我々の生活から摩擦や摩耗、潤滑などは絶対に切っても切れないわけで、低摩擦化が省エネルギーに貢献し、耐摩耗性を上げることは省資源に貢献するということで、現代社会において非常に重要な要素であることを教えてもらえるのだ。

 ヒートパイプのコーナーで扱っていたのが、機械物にはついて回る熱処理の問題。近年のPC用のCPUの発熱量なども大変なもので、いろいろと工夫されているわけだが、冷却するための手法として、「ウィック式」や「自励振動式」などのヒートパイプが解説されていた。また、ポンプなしでも泡の力だけで液体が循環して熱輸送を行なう様子も披露。福井大学と財団法人若狭湾エネルギー研究センターで共同開発中の「BACH」(バッハ:Bubble-Actuated Circulating Heat pipe)を実際に使用してその様子を見せていた。

ブレーキのモデル。これでブレーキの摩擦を体感可能モニター上で温度を確認可能。通常は室温程度だが、ブレーキをかけると、一気に温度が2~3倍に跳ね上がるヒートパイプ「BACH」。オブジェとしても使えそう

 また、第2会場のハッピー恐竜の洞窟では、原子力も扱っていた。放射線の軌跡を肉眼でも見られるようにした霧箱(ラド製「B-112」)がなかなか見応えがある。

 アルコールを蒸発させて霧箱内を過飽和状態にし、冷却することでアルコールの霧を発生。その中に放射性物質(もちろん人体に影響がないレベル)を置いたり、放射性物質の入ったガスを注入したりすると、α線(ヘリウムの原子核が飛ぶ現象)やβ線(高速の電子が飛ぶ現象)の軌跡が無数に発生し、線香花火のような感じになるというわけだ。

 ちなみに、α線は太く直線的で、β線は細く縮れた髪の毛のように見えるそうである(γ線は電磁波なので、直接の飛跡は見られない)。また、第2会場では、マイクロフローラという透明な密閉容器内で無菌的に栽培する観葉植物の手作りも体験できた。

霧箱内にアルコールの霧を発生させ、そこに放射性物質を置くと、α線やβ線の飛跡が見られる【動画】放射性物質の入ったガスを入れると、きれいにα線とβ線の飛跡が広がっていく
マイクロフローラの手作りコーナー。修学旅行の学生たちが結構楽しんで体験していたマイクロフローラのサンプル。一番右は「デンドロビューム・グレグラス」で、名前に反応した人がいるはず

テーマは「テクノロジーふしぎたんけん」-水中ロボットなどを紹介した立命館大学

立命館大学ブースの入口

 立命館大学は、さまざまな分野のテクノロジーの紹介を行なうと同時に、産学連携で開発して実際に発売している製品の展示を行なった。ジャンルは多岐に渡り、ロボット、VR、モーションキャプチャ、バイオ燃料などなど多数。

 ロボット系では、実機の展示は残念ながらなかったのだが、ビデオを使って水中ロボットを紹介していた。琵琶湖で湖底ゴミの回収も含め、泥のサンプリングなど環境調査を実施している「多自由度双腕を有する水中ロボットシステム」だ。

 水中におけるエネルギー資源開発や環境調査を目的とし、小型でいて人間と同じように器用な動作の可能な機体の実現を目指しているそうである。それにより双腕の先端にはハンド(対向する二指で構成)があり、把持機能を備えている。パネルの説明によれば、プールでの試験で古タイヤからコップまで大小さまざまな物品の回収に成功したという。なお、同ロボットは、立命館大学のほか、東海大学大日本スクリーン製造の産学連携で開発中である。システム概要は、以下の通りだ。

・本体全長:700mm
・本体幅:200mm
・全空中重量:55kg
・アーム単腕の全長:600mm
・アーム単腕の自由度:5(指の開閉を含めて)
・本体位置姿勢の自由度:6
・本体制御:スラスタ制御+浮心移動
・操縦システム:マスタスレーブ(10自由度)
・環境認識:カメラによる映像

水中ロボットの動作をビデオ映像で紹介していた水中ロボットの解説パネル

 また、立命館大学付属の小学校にはロボティクス科が存在し、その紹介も行なわれていた。小学校だからこそ可能な、学ぶことの楽しさとできることの喜びを、民間企業との産学連携により授業カリキュラムをデザインし、ロボティクスというサイエンスを重視したものづくり体験を学習できるようにしている。

 1~4年まで年間30時間、力・構造、電気・回路、プログラミング・制御、デザイン、社会倫理の5つで構成されたロボティクス科カリキュラムに取り組むそうで、かなり本格的だ。教材としては、定番の「レゴマインドストームNXT」や、マサチューセッツ工科大学メディアラボ製「クリケット」、パーソナルコンピュータという概念(ダイナブック)を考案したアラン・ケイ氏が開発したオープンソースのオーサリングツール「クイーク」などを利用している。さらに、立命館大学や神戸大学、日本科学未来館からの出講もあるそうだ。

 その上、同小学校では宇宙関連の教育も実施中。2008年11月15日に打ち上げられて約8カ月半国際宇宙ステーションの日本実験棟きぼうで保管され、今年7月31日に若田光一飛行士と共に地上に帰ってきた「おもちゃかぼちゃの種」を栽培したりしている。なんともうらやましい環境だ。そのほか付属高校では、秋田大学のところで紹介した缶サット甲子園やロケット甲子園にも出場している。

小学校ロボティクス学科で2年生が製作した作品(左と中央)。右は宇宙帰りのかぼちゃの種ロケット甲子園で高校生たちが打ち上げたロケットのレプリカ「Rits2009」(3号機)
缶サット甲子園で打ち上げた缶サット(2号機)。右は缶サットに搭載したビデオカメラ缶サットキャリア。この中に缶サットを収納して打ち上げ、上空で缶サットを分離する

 またセンサテクノロジーを応用した、広範囲でのロボット系の一種といえそうなのが、同大学と三洋電機が共同開発した、「快適・快眠ふとん」だ。湿度を40~45%、温度を約32度という理想的な環境に一晩中保ち続ける仕組みである。布団の下には立命館大学で開発したシート型呼吸センサーがあり、その上で寝ころんで呼吸をすると胸の動きにより小さな圧力が計測される仕組みで、その圧力の変化でもって呼吸の状態を推測する。また、規則的な呼吸なら眠りが深く、乱れた不規則な呼吸なら眠りが浅いということと、同時に温度センサーからの情報も合わせて、送風機から空気を送り込んで湿度と温度をコントロールするという。温度コントロールシステム技術は三洋電機のものだそうだ。

 同じく三洋電機と共同開発を行なったのが、エクササイズマシンの「e-jog」。歩行動作を機械がアシストするので、ステップに足を載せて左右交互にステップを繰り返すだけで運動ができるというマシンだ。特徴は、脈拍センサーが利用者の負担を感じ取り、歩行速度(ステップの動作速度)を自動で調節してくれるところ。仕組みは、運動中のエネルギー消費量を手元のセンサーで計測し、同時に耳たぶを挟む形で取り付けるセンサーで脈拍を計測。それにより、実際の運動時のエネルギー消費量と脈拍の関係が明確になることから、運動強度を推定して歩行速度を調整するというわけである。利用した感想は、自分の体重でステップを踏み込んでいるのとは明らかに異なり、アシストが入っているというか、抵抗があるのがわかる感じだった。

「快適・快眠ふとん」。冬はありがたそうだが、朝、ふとんから抜け出せなくなる可能性高し(笑)エクササイズマシン「e-jog」。ロボットテクノロジー度が高め

 それから、同大学が運営している京都市内をバーチャルに表現してウォークスルーできるサイト「バーチャル京都」や、白内障にかかっている方でも本物に近い色に見える「カラーリカバリーシステム」(立命館大学情報理工学部知能情報学科教授の篠田博之氏、吉忠マネキンクロイ電機の共同開発)、電池を使わずに電磁誘導で光らせられるヨーヨー、各種錯視体験なども面白かったので紹介しておきたい。

京都が拠点の立命館大学が運営する「バーチャル京都」。四条橋から絹手通大和橋方面を見た景観バーチャル京都は昭和初期や平安時代の景観も見られるのが特徴。これは平安時代の景観で、朱雀門
カラーリカバリーシステム。白内障に近い視野を体験できるメガネで見たところ、確かに見やすい感じ電磁誘導式の発光ヨーヨー。回転差で発電している時は赤く、放電のみの時は緑で、黄色は中間状態

 以上で、発見! 体験! 先端研究@上野の山シリーズ 大学サイエンスフェスタSTAGE-1のレポートは終了。このあと、STAGE-2が今月20日から29日まで、静岡大学「光が拓く未来社会」、京都工芸繊維大学「エコの未来をデザインが拓く」、>熊本大学

 最後のSTAGE-3は、12月11日から20日までだ。北海道大学「北海道大学が拓く最先端科学」、新潟大学「みずから学ぶ環境」、同志社大学「22世紀を創る同志社サイエンス」の3校が出展する。この中では、同志社大学が、レスキューロボットや人造義手(ロボットハンド)などを披露する予定だ。


(デイビー日高)

2009/11/9 19:38