「第24回マイクロマウス中部地区初級者大会」レポート


 9月6日(日)、名古屋工学院専門学校において、第24回マイクロマウス中部地区初級者大会が開催された。この大会を皮切りに、今年もマイクロマウスシーズンがスタートする。

 マイクロマウスは、マイコンやセンサーが内蔵された自律型ロボットが、迷路を探索しゴールまで辿り着く最短時間を競う競技だ。国内では、1980年に第1回全日本大会が行なわれた歴史のあるロボット競技である。

 全国各地に支部会があり、全日本大会以外に地区予選や学生大会が開催されている。中でも中部地区支部は活動が活発で、地区大会に先駆けて初級者大会を開催し、参加者の裾野を広げている。

 現在のマイクロマウス大会では、マイクロマウスから派生した複数の競技が行なわれる。中部地区初級者大会は、迷路を走破する「マイクロマウス」、迷路の外周を走る「支部会サーキット」、ライントレース形式の「ロボトレース競技」、直線8mのスピードを競う「ロボスプリント」の4種目を実施した。

マイクロマウス競技ロボスプリント競技ロボトレース競技
中部初級者大会 審査員名古屋工学院専門学校で開催

迷路を探索しゴールを目指す「マイクロマウス競技」

 マイクロマウス競技は、持ち時間7分間に5回の走行ができる。今回は初級者大会のため、競技中のバッテリ交換もOKのルールが適用された。初級者の定義は、製作者が初心者か、マウスが新規設計機体であることとなっている。

 マイクロマウス競技はフィールドが広いため、自宅はもちろん学校などの施設でも、十分なテスト環境を構築するのが難しい。そのため、競技会にはエキスパートクラスの実力者もオープン参加している。ただし、上位の記録を出しても入賞とはならない。

 大会コースは、昨年度開催された第29回全日本大会フレッシュマンクラスのコースだ。迷路内の“29”を“24”に変えているのが洒落ていた。

 マイクロマウス競技の見どころは、マウスが迷路内を探索しながらゴールを目指す第1走行と、最短経路をフルスピードで走りゴールする第2走行の2つがある。ちなみに、走行は5回まで行なわれるが、探索走行終了後のタイムアタックを第2走行と呼ぶ。

 今大会の最高記録は、オープン参加のXT-1(加藤雄資氏)が4回目に出した5秒147だった。ゴールした瞬間、客席から感嘆のため息がもれた。XT-1の探索走行と、タイムアタックの動画を掲載するので、マウスの走り方の違いに注目してほしい。

 虹孔雀(宇都宮正和氏:オープン参加)は、探索走行から3回目の走行までオートスタートで走った。こうしたチャレンジを行なうと、全国大会で技術的評価が高くなる。

 初級者として優勝したのは、太田航佑氏(名古屋工学院専門学校)の星影で、記録は7秒162。太田氏は、卒業制作としてマウスを製作したという。名古屋工学院専門学校からは、3台が出場し、いずれも上位の成績を出した。

【動画】星影(太田航佑氏)の3回目の走行。記録は7"162星影(太田航佑氏)は、探索した経路から最短経路を表示するモニタには、デバッグ用のデータも表示できる
【動画】デコイ(大野俊介氏)4回目の走行。記録は7"308デコイ(大野俊介氏)マイクロマウス競技入賞者
【動画】オープン参加のXT-1(加藤雄資氏)探索走行。ゴールに16"274で到達した後も探索を継続している【動画】参考記録。XT-1(加藤雄資氏)の4回目の走行。記録は5"147第24回マイクロマウス中部地区初級者大会のコース。青印は、全国大会と違う部分
ロボット名操作者1回目2回目3回目4回目5回目
デコイ大野俊介38'4668'05110'3817'3087'355
T・D・S藤原匡志40'15013'5988'7778'7578'253
星影太田航佑42'56416'6857'1627'167R
エンドレス号柳田大輝RRRR-
リコイルMK-II若林昭徳1'22'888RR1'04'775R
XT-1加藤雄資16"2747"831R5"147R
虹孔雀宇都宮正和19"7717"2697"4306"1076"104
蜜柑星二井勇磨RRRRR
サイドブレーキ(仮称)浅岡宏光RRRRR

直線スピードとコーナリング技術を競う「支部会サーキット」

 マイクロマウス迷路の外周を2周走行するスピードを競うのが、支部会サーキットだ。直線の高速走行と、コーナーを曲がるためブレーキングのタイミングなどスピードの調整が重要なポイントになる。

 マウスは左右の壁を検知して、常に通路内の中央を走るように姿勢制御している。直線16区画間分の距離を、高速走行しながら姿勢制御するのはかなり難しい。入賞したマシンの動画を見ても、2周目では最終の直線で車体の揺れ方が1周目よりも激しくなっているのもわかる。9台中6台しかゴールしていないことからも、競技の奥深さがうかがえるだろう。

 XT-1(加藤雄資氏)が7秒537のダントツの記録を出した。昨年度の中部地区大会における支部会サーキットでは、バキュームタイプのマウスが7秒839で優勝していることを考えると、驚異的なスピードだ。XT-1はオープン参加のため、大会記録としては、星影(太田航佑氏)の9秒202が優勝タイムとなった。

【動画】オープン参加のため参考記録。XT-1(加藤雄資氏)の7秒537【動画】優勝の星影(太田航佑氏)の9秒202
ロボット名操作者1回目2回目3回目4回目5回目6回目
エンドレス号柳田大輝RRRRR 
リコイルMK-II若林昭徳47"980RRR- 
星影太田航佑9"7849"3969"2859"2029"363(R9"193)
T・D・S藤原匡志13"23812"45412"5361253812"578 
デコイ大野俊介R13"22610"52110"50410"5151S10"503
虹孔雀宇都宮正和10"200R9"27891688"772
XT-1加藤雄資9"210R7"537RR 
サイドブレーキ(仮称)浅岡宏光RRRRRR
蜜柑星二井勇磨RRRRRR

直線最速ロボットをトーナメントで決める「ロボスプリント」

 ロボスプリントは、幅45cm、直線8mのコースをゴールまで速く走るタイムを競う。コース上には中央に白いラインが描かれているが、ロボットがスタートするエリアにはラインがない。オペレータがスタートボタンを押した後、ロボットは自律でコースまで進み、ラインを発見後、ゴールまで全力疾走する。ゴール後は1mのエリア内で停止しなければならない。コースアウトやオーバーランは失格となる。

 ロボスプリント用のキットがスマッツから発売されており、キットによるワンメイクの部と、一般の部に分かれてトーナメント戦で実施した。2台のロボットが左右対称のコースを走行し、3本勝負で2本先取した方が勝ち上がる。

 ルールを聞くと簡単なように思うが、実際に出場したロボットたちもラインを見つけられずにリタイアしたり、白線上をふらふらしてコースアウトしたりと苦戦。出場したロボットのうち、半数以上は一度もゴールに到達できなかった。走行中にラインを検出してスピードを上げて走るのは、姿勢制御がかなり難しいようだ。

 リタイヤが多い中で一般の部第1回戦第4レースのMS-09T(紫田氏)VS ハネル(清水氏)は、いいレース展開だった。1本目をMS-09が勝利。2本目は、MS-09が直線に入ることが出来ずにリタイアして、ハネルが勝利。1-1で迎えた3本目、先に直線レーンに出たMS-09がそのままリードを守って2-0で勝ち上がった。ハネルが1回戦で脱落したのは、非常に残念だった。

 決勝に駒を進めたのは、仮定R(川上氏)とMS-09T(柴田氏)。レースは仮定Rが1本目を5秒85で先取、二本目は少しタイムを落として6秒11だったが、MS-09Tが6秒95のため、2-0で優勝を決めた。

 3位決定戦は、F2(新留氏) VS 空歩W(落合氏)。1本目はF2が先取。2本目F2がコースアウトし、空歩Wにチャンスが生まれたがゴール後にコースアウトしてしまった。3本目、両者ゴールしたが、わずかな差でF2が勝利した。

【動画】スプリント決勝。仮定R(川上氏)とMS-09T(柴田氏)【動画】3位決定戦、F2(新留氏) VS 空歩W(落合氏)の2走目【動画】3位決定戦の3走目
【動画】1回戦第4レースのMS-09T(紫田氏)VS ハネル(清水氏)。いいマシンが1回戦でつぶし合いになってしまった一般の部、トーナメント結果ロボスプリント一般の部 入賞者

 ワンメイクの部には、5台が出場。優勝した藤原氏のF・H・Tは、機体もプログラムもノーマルのままだったという。今後は、自分でコードを書いて動作をもっと安定させ、速く走れるようにしたいと語っていた。

【動画】ワンメイクの部、3位決定戦。けむし(太田氏)VS はじめの一歩(千葉氏)【動画】決勝戦。F・H・T(藤原氏)VS ボルト(廣田氏)
ワンメイクの部、トーナメント結果。ロボスプリントワンメイクの部 入賞者

ラインを先読みしてしてコースを走る「ロボトレース」

 最後にロボトレース競技が行なわれた。コースは直線とカーブによって構成されている。持ち時間の3分間内に、3回の走行が可能で、最も短いタイムが記録となる。ロボットのサイズは、幅25cm、長さ25cm、高さ20cm以内と定められている。今回は初心者ルールで、ゴール後停止がなくてもOKとなっていた。競技には、ロボスプリントの一般部門に出たロボットも含み13台が参加し、11台が完走した。

 ロボトレースは、単に正確に速くトレースするのではなく自律性も求められている。コースの屈曲率が変化する場所には、マーカーが設けられており、ロボットは最初の走行でこのマーカーを記憶し、直線やカーブでスピードを調整してより速くゴールを目指すのだ。また、機体の一部がラインに掛かっていれば、コースアウトにはならないというルールを最大限に活かし、緩やかなS字カーブは最短経路で走り抜けるなど高等な技術が要求されている。

 今大会でも空歩W(落合佑哉氏)は、車輪にエンコーダーを搭載していた。マーカーを覚えて、S字カーブをショートカットできるようにプログラムを調整しているという。残念ながら今回は第2走行がリタイアだったが、中部大会での活躍が楽しみだ。

 優勝は仮定R(川上文敬氏)で、走る毎にタイムを縮め3回目に17秒949を出した。川上氏は、去年の中部地区大会にエントリーしたが事情があって棄権した。今回、公式戦で初ゴールできたことを喜んでいた。まだプログラムが未熟なので、もっと作りこんで来月の中部大会を目指したいと意欲をみせた。

【動画】仮定R(川上文敬氏)の3走目。記録は17"949【動画】博光丸(杉田和洋氏)の2走目。記録は23"118【動画】MS-09T(柴田成儀氏)の1走目。記録は22"376
ロボトレース 入賞者
ロボット名操作者1回目2回目3回目
仮定R川上文敬18"31018"08117"949
CERL31伊藤文彰51"33551"097R
Morris澤田洋介47"18445"98246"944
隣隣と康康鳥居克真37"877R36"569
バドワイザー仲野良佑RRR
ハネル清水俊介RRR
CERL32菱田広幸26"985RR
カメ阿智波雄也RR37"613
Ne岡部大輔36"868R37"376
空歩W落合佑哉25"466RR
博光丸杉田和洋25"86423"118R
小山 司RR27"937
MS-09T柴田成儀22"376R23"221

各地区大会・全日本大会、出場者募集中!

 往々にしてロボット競技会の出場者は、「大会前日に完成した」という人が多い。中部地区初級者大会は、そうした初心者のマイルストーンの役割も果たしている。今大会の経験をフィードバックし、10月25日に開催される中部地区大会に活かしてほしいと委員会からコメントがあった。

 今年もいよいよマイクロマウスのシーズンに突入した。本誌でも毎年、地区大会や全日本大会のレポートを送っているが、マイクロマウスのスピード感や1000分1秒を競う息詰まる緊張感を言葉や動画で伝えるのは難しい。

 今月末~11月上旬にかけて各地で開催される地区大会では、全日本大会の出場権を目指したロボットたちが集まる。ぜひ、会場に足を運びマイクロマウス競技の奥深い面白さを肌で感じてほしい。

【地区大会スケジュール】
第27回マイクロマウス東日本地区大会
2009年9月27日(日)
会 場:科学技術館(東京都千代田区北の丸公園) (予定)

第22回マイクロマウス東北地区大会
開催日:2009年10月12日(祝・月)
会 場:置賜地域地場産業振興センター

第19回マイクロマウス九州地区大会
開催日:2009年10月18日(日)
会 場:熊本電波工業高等専門学校 くぬぎ会館

第28回マイクロマウス中部地区大会
開催日:2009年10月25日(日)
会 場:名古屋工学院専門学校

第24回全日本学生マイクロマウス大会
開催日:2009年11月3日(祝・火) (予定)
会 場:芝浦工業大学豊洲校舎

第28回マイクロマウス北陸信越地区大会
開催日:未定
会 場:未定

 全日本大会は、11月22日(日)~23日(月)につくばカピオで開催される。



(三月兎)

2009/9/25 17:35