「ヴイストン Beautoロボコングランプリ大阪大会」レポート

~1対1のトーナメントバトルで栄冠に輝いたのは!?


大いににぎわった大阪大会の参加者で記念撮影

 8月29日にエンカフェ、ヴイストンの主催による、エンジニアアワード2009のロボット部門「ヴイストン Beautoロボコングランプリ大阪大会」が開催された。5000円台で購入できるヴイストン製の教材用の台車型ロボット「Beauto Chaser」を利用した、ライントレース系の競技大会だ。その模様をお届けする。

エンジニアアワードとは?

 エンジニアアワードは、株式会社エンカフェが立ち上げた、エンジニアのための技術コンテスト。SNSを活用したネットコラボレーション型という点が特徴で、エンジニアや理工学部系の学生が、社外や学外で技術交流し、そして大会などで技術力を競い合うことでスキルアップを図ることを目的としている。今年は5分野(現在、ロボット、電子工作、アイディアが発表済み)で実施する予定で、その中でトップを切って行なわれた(地区)大会が、ロボット部門の「ヴイストン Beautoロボコングランプリ大阪大会」というわけだ。

 このあと、9月6日に福岡大会、翌12日に東京大会と3週連続で地区大会が開催され、優勝者と3大会の2位の内で最も上位の成績の選手の計4名が全国大会(11月下旬~12月上旬)に参加でき、そのトーナメントを制すると、日本一の称号を得られるという次第になっている。

 また特徴的なのが、ネット参加が可能なこと。ネット参加というのは、インターネット経由で操作するわけではなく、機体を事務局に発送し、大会では事務局が代わりにセットして出走させるという参加方法のことだ。自律系競技なので、しっかりとコースにセットし、スイッチさえ入れれば、あとはロボットのハードとソフトの完成度の勝負となるので、製作者がその場にいなくても競技を行なえるというわけである。大会が近くで行なわれない北海道や東北、北陸、中国、四国などで参加したい場合は、その方法を採れるので、ぜひ検討してみてはいかがだろうか。

エンジニアアワードの公式サイトトップページ。無料で登録することで、SNSなどを利用できるようになるエンジニアワードを運営するエンカフェ代表取締役の吉弘辰明氏今大会の主催であるヴイストン代表取締役の大和信夫氏
同じオフィスビル内の会場のすぐ隣がヴイストンの新社屋。ヴイストン ティクノなど各種ロボットを展示ヴイストンも参加するTeam OSAKAのロボットたちも展示されている

ヴイストン Beautoロボコングランプリのルール

 今年3月に開催されたヴイストン主催の第5回ロボプロステーションチャレンジカップの2日目や、5月のRoboCup JAPAN OPEN 2009 OSAKAにおいて、ヴイストン主催のBeautoロボコン大会が開催されたが、今回はその時の経験を活かし、競技性をよりアップさせたのがポイントだ。

 これまでは、ひとりひとりが5分間の持ち時間の中でタイムアタックを行ない、失敗しても制限時間内なら何度でも繰り返せるという内容だった。一度でもゴールしていいタイムが出れば、一発逆転の優勝を狙えたというわけである。しかし今回は、トーナメントを組んで1対1で勝負し、より早くゴールした方が勝者というルールとなった。制限時間は1~2回戦は2分間、ベスト16(3回戦)以降は3分間。競技時間が減った上に、両車揃ってコースアウトしない限りは再スタートとならないため、やり直しのチャンスはグッと少なくなった。つまりは、安定確実性=完走率100%を求められる勝負となったのだ。

 実際、本誌でも記事を執筆し、関西のロボット競技会ではイジられ役(笑)として常に場を沸かせてくれるzenoさんなど、あと数cmというところでまさかのコースアウトをし、痛い目に遭っている。その時の対戦相手である教え子の学生さんの機体が、ゆっくりではあったが後から着実にゴールし、弟子に超えられてしまうという勝負もあったほどだ。とはいえ、さすがはzenoさん、ドラマチックな負けっぷりに会場が沸きに沸いたのだが、その模様はエンジニアアワード公式サイトのブログ内に動画がアップされているので、ぜひご覧いただきたい。何はともあれ、今回は速度よりもまずは確実性、というわけである。

 ロボットのレギュレーションは、CPUボードとしてヴイストン製「VS-WRC」シリーズ(Beauto ChaserのキットにVS-WRC003があり、単体ではWS-WRC004が1,995円で販売されている)を搭載することがまずひとつ。サイズとしては、水平に置いた状態で、直径220mmの円筒内に収まる必要があるが、高さの制限はない。前輪操舵などにモータを使用する場合は、マブチ製「FA-130モータ」を使用する必要がある。そして当然だが、何らかのセンサーを搭載して自律的にコースを走行可能で、いかなる種類のリモートコントロールも利用してはならない。

Beauto Chaserベースの機体の一例。キット付属の赤外線距離センサーは1個だが、多くの選手が増やしているかぶり物をしているのでわかりにくいが、これもBeauto Chaserベース。ナッキィーさんの「モグラッチィー」だ
関西二足歩行ロボット格闘技ライト級の強豪選手motoぶちょうさんの、オリジナル機体「プライマリZ」ナッキィーさんは、某6部作大作SF映画のマスコット的ロボットをモチーフにした機体でも出場

 今回は、選手がコースアウトした機体を慌てて取りに行こうとして踏んでしまう危険性を避けるため、コースをテーブル上に設置することとなった。複数のプラダンをテープでつなぎ合わせており、これまでのリノリウムほど平面的でなくなったのもある意味、特徴といえるだろう。リノリウムのコースはモータースポーツに例えればサーキットだが、今回のプラダンはラリーのオフロードといってもいいぐらい。車高をギリギリ低めにしてある機体だと、凹凸を乗り越えにくかったり、ギャップで姿勢を乱されたりと、ライントレース系の競技としては珍しい難コースとなっていた。

 ただし、コースレイアウトに関しては、よりシンプルで短いものとなった。そのかわり、コースは2カ所で交差しており、つまり対決時に衝突もあり得るようになっている。コースは便宜上、主審のいるサイドに近い側が外で、選手の整備用の机などがある側の方が内。コースレイアウトはどちらも同じで、スタート地点から反時計回りで進み、1コーナーは左→右のレーンチェンジのようなライン。その後すぐに第2ターンは左クランク(直角ターン)で、第3コーナーはRの大きな左へのカーブとなっている(クランクは90度のため、モータースポーツの慣例にならい、コーナーではなくターンと呼ばせていただく)。そして第4ターンの左クランクがあり、最終ターンは左→右→左のトリプルクランク。それをクリアすると、、すぐにスタート/ゴールラインだ。交差部分は、内コースで見ると、スタート/ゴールラインのすぐ目の前と第4ターンと最終ターンの間の2カ所。外コースで見ると、第2ターンをクリアしてすぐのところと、第3コーナーと第4ターンの間だ。ちなみに交差部分では、もちろん相手側のコースに誤って入ってしまう危険性がある。第1回大会の時とは桁違いにシンプルになっているとはいえ、また違う落とし穴が用意された形だ。

コースレイアウト全景。こちらから見た場合、右側(手前)のコースが外で、左側(奥)が内内コースのスタート/ゴールラインのすぐ前にある交差ポイントもうひとつの交差ポイント。内コースの場合、直後にプラダンのつなぎ目のビニールテープも待ち構える難所

思い思いの機体で23名が参加

 今回の参加者は23名。参加者は、関西在住の二足歩行ロボット格闘技大会の常連選手もいれば、前述したzenoさんと教え子の学生さんたち、さらには中高生など、幅広い年齢層が集まった。さすがに小学生はいなかったが、なかなかにぎやかな大会である(二足歩行ロボット格闘技の練習会のロボプロステーションも同時に開催されていたのもあった)。トーナメントはヴイストンの大会でお馴染みの、1回戦での敗退者の救済を考慮したスタイルで、敗者復活枠を用意。1回戦で負けても反対ブロックの1回戦の勝者と当たるという仕組みで、誰でも最低2回は勝負できる。参加選手は、以下の通り。今回は、選手名がオープンのサイト上などでは発表されていないようなので(エンジニアアワードのSNSでは出ているが)、機体名のみを紹介させていただく。

・1号
・SCYTHE
・sfida-b
・pioneer
・Robovie-XSF
・板次郎
・大和田号
・海賊船PEKO号
・風兎2009LT
・きの丸号
・グリーンレーサー
・軽トラ号剣
・こつこつ号
・ちびぴゅう太
・チャルア
・ひがも
・日の出
・ビュートリノ
・プライマリZ
・プレーリィー
・ボス
・モグラッチィー

 優勝候補は、第5回ロボプロチャレンジ時のBeautoロボコン大会をブッチギリのタイムで制した風兎2009LT。多くがBeauto Chaserをベースにした機体なのに対し、風兎2009LTはマイクロマウス大会にもそのまま出られそうな、オリジナルボディの機体だ。それにCPUボードのVS-WRCシリーズを搭載し、レギュレーションを満たしている。センサーは、前部バンパー部分に8つ搭載。機体の完成度だけでなく、行きすぎたらバックするといった仕組みや、安定度と速度のバランスの違いで6段階のモードが用意されているなど、プログラム面も完成度が高い。ただし、これまでの2回からほとんど変更していないそうで、今回のプラダン製の凹凸があるオフロード的なコースは想定していなかったと製作者の山口さんは語る。速さはそれなりに自信があるとしても、完走できるか否かの安定性の面で結構不安があるようだ。

トーナメント風兎2009LT。優勝候補筆頭だ勝負の様子

トーナメント準決勝~決勝レポート

 今回は、まだまだ初心者の参加者も多かったのと、やはりコースが厳しかったようで、スイスイとゴールにはたどり着けない機体も多かったが、徐々に選手が絞られていくと、好勝負が出てくるようになる。準決勝第1試合は、ビュートリノ対風兎2009LT。ビュートリノが内コースで、風兎2009LTが外コースだ。一度完走できたからといって、次も確実にゴールできるとは限らないのが今大会の特徴で、やはりプラダン製のコースはハプニングが起きやすい。何しろ、ここまでの闘いで敵なしと思われていた風兎2009LTですら、まさかのコースアウトを喫しており、その時は対戦相手もコースアウトをしたことで再スタートとなり、薄氷の勝利を得ている。まさに、絶対はないという状況だ。しかし、準決勝第1試合はビュートリノが風兎2009LTのコースに誤って入ってしまい、そこへ風兎2009LTが衝突し、風兎2009LTの勝利でて終了。本来はコースアウトしただけでは敗北とはならないのだが、この場合は接触(走行妨害)ということで、ビュートリノが即時敗北となってしまったというわけだ。

 準決勝第2試合は、高校生が製作した1号対pioneer。1号が内コースで、pioneerが外コースだ。1号は結構首を左右に振る幅が大きいのだが、速度そのものもかなりあり、着実に前進していく。pioneerが最初の交差点でコースアウトしてしまった中、1号は第4ターン、最終ターンとすべてきっちりとクリアしてゴール。決勝戦は風兎2009LT対1号となった。ちなみに1号は、14秒フラットをマークしている風兎2009LTほどではないものの、今大会の2番手タイムとなる19秒台をこれまでの闘いの中で出している。風兎2009LTが最も確実なモードで走っても理論上は上だとするが、今回ばかりは確実にゴールできるとは限らない。コースアウトはもちろん、クランクなどで少し引っかかったりすると、1号が先を行く可能性もあり、番狂わせがありそうな雰囲気も見えてきた。

【動画】準決勝第1試合ビュートリノ(内)対風兎2009LT(外)【動画】準決勝第2試合1号(内)対pioneer(外)

 決勝戦を前にビュートリノ対pioneerで行なわれたのが、3位決定戦。ビュートリノが内で、pioneerが外だ。pioneerは第1コーナー上でストップしてしまい、その間、ビュートリノは着実に逃げていく。準決勝では誤って外コースに入ってしまったが、今回はそのようなこともなくしっかりとゴールし、3位をゲットした。遅くても確実に進み、ゴールするということが重要なこの大会だが、それを実践して見せた1台がビュートリノだったといえよう。

 決勝戦は、風兎2009LT(内)対1号(外)。再三お伝えしたように、性能的に見たら風兎2009LTが上であることは間違いないのだが、やはり何事にも100%はないのが勝負事。車高がギリギリまで下げられている風兎2009LTとしては、ちょっとしたプラダンの凹凸で進行方向が狂ったり、亀の子状態になってストップしてしまったりする危険性があり、楽観できない状況だ。

 例えていうなら、ラリーに車高の低いフェラーリとかランボルギーニなどのスーパーカーで出ているのが風兎2009LTで、その心配のない1号は車高の高い4輪駆動車というところ。速いけどオフロードに適していない風兎2009LTと、風兎に2009LTと比べると速度は出ないがその次に速く、なおかつコース上で亀の子になったりするような心配はない1号というわけである。

 そしていよいよスタート。風兎2009LTは、確実性を重視して速度は最も低いが、ラインを最も安定してトレースするモードで勝負。1号の方は、実はここまで勝ち進むとは想定していなかったようで、これまで何も変更しないでここまで来ていることから、そのままで出走ということのようだ。勝負は、かなり拮抗した状態で、さすがに決勝戦だ。第3コーナー付近まではほとんど互角。第4ターンをクリアしたところで、風兎2009LTのリードが明確となる。風兎はストレートが速いようだ。しかし、実はこの先が難所。外コースとの交差点のあと、プラダンをつないでいるビニールテープがあり、この辺りが車高の低い風兎2009LTにとっては最もきつい場所なのだ。が、無事クリアし、最終ターンのトリプルクランクに突入。1号も食らいついてはいたが、風兎2009LTは確実にクリアし、スキを見せないままゴール。1号の方は、クランク途中で引っかかってコースアウトとなってしまった。それでも、この日一番の白熱した勝負だったのは間違いない。

【動画】3位決定戦。ビュートリノ(内)対pioneer(外)【動画】決勝戦。風兎2009LT(内)対1号(外)トーナメント結果

 この後、エキジビションで、風兎2009LTの最速モードが披露されることに。安定感を犠牲にして、とにかく速度が出るようにしてあるモードである。それが実際に走ってみたら、最も速いのは当然だが、これまでの風兎2009LTの勝負で使われたどのモードよりも安定感があるという具合。風兎2009LTは、1回戦14秒フラットを記録していたのだが、なんと11秒78をマーク。1号が19秒台をマークしたが、あとは速い機体でも20~25秒ほどなので、どれだけ早いタイムかわかるはず。これで走ればよかったのに! という話に当然なったのだが、もちろんわざと隠していたわけでも、空気を読んで接戦を演出したわけでもない。ルール上、コースの試走が認められていないため(全選手、自分の1回戦でもって初めて走れる)、安定性重視にせざるを得なかったのだ。何はともあれ、全国大会でも優勝候補といえそうだが、他地区ではさらに速い選手が出てくるという話もあり、この後も楽しみである。ちなみに、コースレイアウトは地区大会ごとに変わる可能性があり、当然、全国大会も今回とは違うものになるだろう。しかし、プラダンを利用したオフロードな感じのコースであることは間違いないようで、車高は高めの方が無難といえそうだ。

風兎2009LTの走る姿(決勝戦のゴール直後)風兎2000LTの底。センサーが8つある風兎2000LTの後ろ姿
【動画】超絶的な11秒78のタイム大阪大会を制した風兎2000LTの製作者山口さん入賞者+特別賞の4人と大和氏の5人でフォトセッション
参加選手の機体でフォトセッション

 そのほか、今回はベスト3のほかに特別賞も用意されたが、関西の二足歩行ロボット格闘技では常連選手の女子中学生ヴィーちゃんが受賞。これまでとは異なり、ちゃんとレギュレーションに合わせた小型の海賊船PEKO号で出走したのだが、一定の距離ごとに静止しては大砲の先端のLEDを明滅させ、自分の声を吹き込んだらしい発射音も鳴らし、砲撃パフォーマンスを行なうという凝りよう。しかし、速度がのってきたと思うと止まるため、タイム的には悪影響出まくり(笑)。ベスト16の勝負でも、止まらなければ勝てたのに、それで負けてしまった。ロボット格闘技仲間たちに「止まらなければ勝てるだろ(笑)!」とツッコミを入れられていたが、「海賊は船を止めて大砲を撃つのが正しい姿」なのだそうだ。そんな話、聞いたことがないのだが、彼女には彼女なりの海賊としてのポリシーがあるようなので(笑)、これ以上は追求しないことにする。何はともあれ、特別賞を取ったので、海賊船PEKO号をプチ特集。

海賊船PEKO号。先代はレギュレーション無視の超巨大船だったが、今回は小型化別角度から。左側は、海賊船に搭載しているボートということらしい砲撃しているところ。船首の砲塔が赤く光っている
砲塔のアップセンサーは前面に4つ。接続で間違えないよう、番号が貼ってある【動画】海賊船PEKO号が進んでは止まってズドーンと砲撃を繰り返す様子
ヴイストン主催の二足歩行ロボット格闘技の練習・交流会ロボプロステーションも同時開催された参加ロボットたち。発売間近のRobovie-nanoもバトルに参加したが、軽すぎてクラス分けが必要そう

 以上、エンジニアアワード2009ロボット部門ヴイストン Beautoロボコングランプリ大阪大会、いかがだっただろうか。大会に参加する人には、今ならBeauto Chaserの限定20台キャッシュバックキャンペーン(大会当日に全額バックしてくれ、5,985円が無料になる)が行なわれている。時間はあまりないが、東京大会には間に合うかも知れないので、ヴイストン ロボットセンター 東京秋葉原店で購入してみてはいかがだろうか? C言語を学ぶいい教材にもあるので、理工系の学生さんや、小中学生の内からエンジニアリングをお子さんに学ばせたいなんて親御さんにはオススメ。ぜひ参加してみてはいかがだろうか。



(デイビー日高)

2009/9/7 18:54