和歌山市立子ども科学館にて「ロボカップジュニア講習会」

~ロボカップ世界大会へに向けて、最初の1歩


 8月29日、和歌山市子ども科学館において、「ロボカップジュニア講習会」が開催された。小学1年生から中学生まで15名が、初めてのロボットプログラミングに挑戦した。

 ロボカップは「2050年までに、人間のサッカー世界チャンピオンチームに勝つロボットチームを作る」という目標を掲げている。そのためには、40年後に夢を実現するRoboCupの担い手を育成する必要がある。そこで小学生~高校生を対象としたロボカップジュニア部門が設けられている。年々、競技人口が増えており、今年5月に大阪で開催された「ロボカップ2009 ジャパンオープン」の出場権を得るために、全国30都道府県の地区予選に3,000名のジュニアが出場した。

 和歌山市では、ロボカップに参加しているジュニアの数は多くない。そのため、これまでは地区大会を大阪市や堺市と合同で開催してきた。和歌山市でも、もっとロボカップジュニアの活動を広げようと、今回初めての講習会が実現した。

ロボカップジュニア講習会和歌山市立子ども科学館第1回和歌山ロボカップジュニア講習会 参加者達

初めてのプログラミングで、レスキューやサッカーの基礎プログラムまで完成

 教材には株式会社ダイセン電子工業の「TJ3 up」が使用された。ロボカップジュニア参加者の多くがロボットのベースとして用いているTop junior 3 シリーズの講習会用キットだ。

 TJ3は、自律型ロボット製作キットでタッチセンサー、ラインセンサー、ボールセンサーが搭載されている。TJ3用のプログラミングソフト「C-Style」を使いマウス操作だけで、複雑なプログラミングができる。TJ3の共同開発者である井上伸治氏(大阪市立天満中学校 教諭)が講師となり、軽妙な大阪弁で1日楽しくロボットのプログラミングを指導した。

株式会社ダイセン電子工業の自律型ロボット製作キット「TJ3 up」前面にタッチセンサーとボールセンサーを搭載底部のラインセンサーで床面をセンシングする
ラインセンサーの発光部を携帯カメラで写し、赤外線がでていることを確認C-Styleのプログラミング画面。ブロックで直感的にプログラムを作成できる井上伸治氏(大阪市立天満中学校 教諭)

 まず「C-Style」の使い方を覚えるために、ロボットが1秒間だけ前進するプログラムを作成した。PCで組んだプログラムをロボットにダウンロードし、実際にTJ3を動かすと子ども達の表情が俄然いきいきとし出した。

 このプログラムをベースにして、レスキューチャレンジの基礎となるプログラムを作り上げていった。そのために昼休みまでの1時間で、A3用紙に描かれたトラックをラインに沿って走行するプログラムを作成した。これには、右回りと左回りのトレースを1つのプログラムで対応しなくてはならないという条件がつけられた。ラインセンサー1つで、左右それぞれの回転に対応するためにはコツがある。子ども達は、見本ロボットの動きを観察し、大阪地区のスタッフや競技参加者のサポートを受けながら、自分で考えてプログラムを組んでいた。

レスキューチャレンジのフィールド初めてのライントレース。トラックを1周したいのにカーブで旋回してしまう……
周回できるようになったけれど、逆回りがうまくできない……右回りも左周りも同じプログラムで実現できる

 昼食後は、トレースプログラムに“銀色の要救助者を発見したら、ロボットを停止させLEDを2秒間点滅してから、再スタート”という条件が加わった。子ども達は少しずつプログラムを膨らませていき、レスキューチャレンジの基本プログラムを完成させた。

子ども一人一人にサポートがついて、きめ細かな講習を行なった要救助者を発見したら、LEDを点滅させて、再びライントレースをする。ハズなのだけど……初めてのレスキューチャレンジ。ラインをトレースし、銀色の要救助者を発見したらLEDを点滅させゴールを目指す

 次の課題はサッカーチャレンジ。最初に全国でもトップレベルの大阪ジュニアのメンバーが、デモゲームを披露した。ここまで速い動きや力強いシュートは、講習会で使われているノーマルキットでは実現できないが、基本のサッカープログラムは作成できる。

サッカーチャレンジのフィールド。大阪ノードのメンバーがデモ用にロボットを持参した大阪ノードジュニアによるサッカーチャレンジのデモンストレーションデモンストレーションを披露した大阪ノードメンバー

 サッカーというとまずボールをキックすることを考えるが、基本になるのは「壁にぶつかったら方向転換する」動作だという。それができたら、「赤外線を発するボールを見つけたら追いかける」プログラムを追加する。子どもたちは1つのプログラムができるたびに、フィールドにロボットを持って行って動作を確認し、他の子と自分のロボットの動きを比べて修正していた。

 これだけでもロボットはサッカーらしい動きをするが、ゴールの方向を見分けなければ、オウンゴールで失点してしまう。これを回避するためにラインセンサーでフィールドのグラデーションをチェックして、自陣ゴールに近づき過ぎた時には、誤ってシュートしないよう対策プログラムも作成した。

 講座のスタート時は、先生の言うとおりにプログラムを書いていた子ども達も、最後の頃には「ぼくのロボットのセンサーがフィールド上でホントに取得している値を知りたい」と、自分からチェックに行くなど積極的なところを見せていた。

 最後に2対2のサッカーゲームを行なう時になると、チームを組んだ隣の席の子と互いのプログラムをチェックしあい、作戦を練っている子もいた。いざゲームを始めると、ロボットがちゃんとボールを追いかけて動きまわったり、シュートを決めたりする様子に喜んでいた。

サッカーは、壁にぶつかったら方向転換をするプログラムから作り始める赤外線を発するボールを追いかけるプログラムのテストフィールド上でラインセンサーの値をチェックを始める子供たち
2対2のサッカーゲームに備えて、作戦会議中初めてのサッカーチャレンジゲーム。キーパー役のロボットは、オウンゴールを避けるため、ゴール方向には前進していないことに注目

ロボカップジュニアで次世代技術者育成

山下真氏(ロボカップジュニア和歌山ノード代表)

 講習会を企画した山下真氏(ロボカップジュニア和歌山ノード代表)がロボカップを知ったのは、2004年に大阪で開催されたジャパンオープンだったという。ロボット競技に興味をもった息子さんと一緒に観戦したそうだ。

 その後、息子さんがロボカップジュニアの出場を目指したが、地元では情報を得られず苦労したという。大阪の日本橋にある株式会社ダイセン電子工業が、ほぼ毎週土曜日にロボカップジュニア向けの講習会を開催していることを知り、ここでロボットの作り方やプログラミングを覚え、大会に出場できるようになった。

 前述のとおりサッカーは2台1チームで試合を行なう。周囲にロボット仲間がいない場合は1人で申込みをして、会場で同じように単独参加している競技者とチームを組んで、競技に出場できる。山下君もそうやって2年間出場してきたという。今年は、同じ学校でロボットに興味のある友達ができ、一緒に参加するようになって喜んでいるそうだ。

 このように山下氏は、保護者の立場でロボカップジュニアに係わってきた。技術者である山下氏は、常日頃から、「これからの技術者は、単に技術に秀でているだけではなく、コミュニケーション能力やプレゼンテーション力を持たなければ、通用しない」という意識を持っていたそうだ。

 ロボカップジュニアは、競技会を目指してチームを組んで準備するというプロジェクト志向がベースにあり、また大会出場の際には、ペーパープレゼンの提出が義務づけられている。ジャパンオープンや世界大会では、ロボット製作時の工夫点やプログラムの独自性についての、インタビュー審査もある。

 このようなロボカップジュニアの次世代技術者育成の理念に共感し、単に親子で参加するだけではなくもっと広くに競技を普及させたいという思いが募ったそうだ。今後は、和歌山大学と連携し、和歌山でロボカップジュニアの選手を育成すべく基盤を整えていくという。

 株式会社ダイセン電子工業 代表取締役社長の蝉正敏氏も、和歌山でのロボカップジュニア育成普及を応援したいと、大阪地区で活躍するジュニアや指導者と一緒に講習会のサポートに当たっていた。同社で行なわれているロボット講習会は、ジュニアだけではなく、学校や塾の教材にロボットを活用したいという指導者にも門戸を開いているという。関心のある方は、同社まで問い合わせいただきたい。

蝉正敏氏(株式会社ダイセン電子工業 代表取締役社長)講習会をサポートしたロボカップジュニア大阪ノードスタッフ


(三月兎)

2009/9/3 15:21