神戸ロボット研究所が「kobe Robot Meeting 2009」を開催

~次世代ロボットビジネスと今後のロボット産業の展望


 3月17日(火)、神戸市産業振興センターにおいて、「kobe Robot Meeting 2009」が開催された。主催は財団法人新産業創造研究機構神戸ロボット研究所(NIRO)と神戸市。

 神戸市では、平成14年度から「神戸RT(ロボットテクノロジー)構想」を推進し、ものづくり技術の高度化と市内産業の振興に取り組んできた。平成20年度神戸RT事業開発補助制度に採択されたプロジェクトの進捗報告は既報の通りだ。本稿では、次世代ロボット市場化の実現について、近畿経済産業局 次世代産業課の伊藤恵美子氏と、国際レスキューシステム研究機構の石黒周氏のプレゼンテーションをレポートする。

●近畿の産業クラスター計画及び技術開発事業について

 最初に近畿経済産業局 次世代産業課の伊藤恵美子氏から、近畿経済産業局の全体的な方向性と取り組みについて報告があった。

伊藤恵美子氏(近畿経済産業局 次世代産業課)これまでの取り組み

 経済産業省は、ロボット技術開発をロボットの基盤要素開発をするシーズ側とRT導入のための先行用途開発をするニーズ側の両方の観点からとらえ、基盤技術から応用技術まで一環した開発プロジェクトを推進している。ものづくり分野の集大成として、これらの事業を継続することで技術力向上を図り、より国際競争力を高めることが目的。

 今年度もロボット産業政策研究会を実施し、ニーズがありそうな分野を絞り込んでいる。具体的には5年以内にロボット市場展開が期待できるものとして、高齢者移動支援や公共・商業施設内の移動や住環境内で活躍するロボットの方向性を検討しているという。伊藤氏は、「実用化に向け安全基準や国際標準化を意識した開発プロジェクトを推進し、いくつかの企業を集中的に支援することになるだろう」と述べた。

サービスロボットの市場展開の仮説と課題サービスロボット市場化に向けた対策生活支援ロボット実用化プロジェクト

 近畿では、神戸や大阪を中心に産学官それぞれが活発に活動しているが、市場が見えにくかったり単独で製品を開発し量産化するのが難しいという認識がある。またその一方で、パートナーをどう探したらいいのかという課題もある。そうした点を鑑み、伊藤氏が所属する産業クラスターではロボット分野を含めた有望産業の集積化を目指し、さまざまな関連機関と連携しながらネットワークを構築し異業種交流の場や新しいアイデアを生み出す機会を設けたり、後方支援などを展開している。

 産業クラスター計画は、第2期に入り新事業創出に向けて国内だけでなく海外の大手企業との連携も視野にいれ活発に展開しているという。伊藤氏は、「セミナーや技術開発事業に積極的にエントリーしていただき、ビジネスに役立ててほしい」と期待を述べた。

近畿における取り組み状況地域における現状と方向性経済産業省産業クラスター計画

 全国各地で特色を活かしたプロジェクトが推進している中で、関西においては「未来型情報家電」「ロボット」「高機能部材」「高効率エネルギー機器・装置」といったIT技術や新省エネ技術など、いろいろな企業の技術を参考にしながら展開していくそうだ。

全国の産業クラスター計画推進プロジェクト関西フロントランナープロジェクト

 伊藤氏は、企業向けの支援メニューとして「情報家電ビジネスパートナーズ(DCP:Digital Concept Partners)」と「関西フロントランナー大賞」を紹介した。

 「情報家電ビジネスパートナーズ」は、平成18年にスタートしたベンチャー・中小企業や大学の研究室などと大手IT企業をタイアップする仕組み。特長としては、2段階の提案受付を導入しており、1次マッチングでは、DCP事務局が提案者が希望する企業に書面を提出、企業側が興味を示せばヒアリング等の2次マッチングへと進む。書類提案の段階で詳細な技術まで公開することなく、双方にとって合理的なシステムとなっている。書類を受け取った企業が、提案者に必ず評価をフィードバッグする点が、ベンチャーにとってメリットと言える。現在は提案にかかる費用は無料。

 このDCPが対象としているのは、必ずしも情報家電に限っているわけではなく、ITやメカトロ分野の要素技術を含む賞品やサービスをイメージできるテーマであれば受け付けているそうだ。「当社の技術を使えば、このような製品ができる」といった具体的なイメージの提案を寄せて欲しいと、伊藤氏は述べた。

 どの企業も国際競争力を高めるために、世界トップレベルの要素技術を求めている。大手企業も自社技術だけではなく、いろいろな企業とのタイアップで新しい企画や製品を立ち上げたいという意識が高いので、要素技術を有しているところからの連絡が期待されているそうだ。

情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)DCPのクローズドマッチングについてDCP対象ジャンルについて
想定される提案のイメージDCPの相談・問い合わせ先

 もう1つの「関西フロントランナー大賞」は、ネオクラスター推奨共同体の会員企業の中から、将来有望と見込まれる製品やサービスを持つ企業を顕彰するもの。平成21年度の展開は今後サイトに公開されるので、「自社製品をPRする機会としてぜひ応募してほしい」という。その他にもさまざまな支援制度があり、ホームページで告知していくので積極的に活用して欲しいと締めくくった。

関西フロントランナー大賞平成20年度関西フロントランナー大賞 受賞企業過去の関西フロントランナー大賞 受賞企業
地域イノベーション創出研究開発事業戦略的基盤技術高度化支援事業組込みソフトウェアに係る技術における特定ものづくり基盤技術高度化指針

●ロボットビジネスと今後のロボット産業の展望

 続いて、国際レスキューシステム研究機構の理事を務める石黒周氏が、次世代ロボットビジネスの展望について講演をした。

 「次世代ロボット」の定義としてよくあるのは、「センシング・知能・制御系・駆動系の要素技術を統合した知能・機械システム」といったものだ。これに石黒氏は、「人に代わって、あるいは人と協働してベネフィットを提供するシステム」という定義を付け加える。つまり、人と協働するためにユーザーや周囲の環境を認識し解釈する機械やシステムが「次世代ロボットビジネス」というのだ。

石黒周氏(国際レスキューシステム研究機構 ソリューション部門リーダー)次世代ロボットの定義次世代ロボットビジネスとは?

 石黒氏は、次世代ロボットビジネスを“ロボットを販売する”という観点で捉えると、現時点では苦戦していると言わざるを得ないと指摘する。その点、神戸市は“ロボット”と言わずに“RT構想”と、ロボットを構成する技術でビジネスを起こそうとしているところに先進性があるという。

 もちろん、将来的にはロボットテクノロジーを組み込んだ製品がビジネスの中心になる時が来るだろう。しかし、それには時間も費用も非常にかかる。「まずは周辺に市場を作っていくべきだ」といい、センサーや情報処理のボード、駆動系などをユーザーの要望に応じてインテグレーションする人材やビジネスが期待されていると述べた。

 もう1つ「RTを組み込んだサービスを提供する事業も考えられる」という。その代表例として石黒氏があげたのがセコムだ。セコムの警備員を派遣して安全を守るというサービスを提供している。しかし全てを人が行なうわけではなく、40年前から機械警備という名称で、誰かが窓を開けたらセンターに連絡が行き警備員がやってくるという、人間と機械が協働でサービスを提供している。

 このようにロボットを作って売ることだけがロボットビジネスではないと、石黒氏はいつもいうそうだ。

次世代ロボットビジネスを検討する際の注意点ビジネス創出アプローチの相違点

 日本は、GDPの75%をサービスという無形の価値で生み出している。サービスという価値を生み出すのは「人」であるが、その「人」は2005年をピークにして減少しており、十数年後には少子高齢社会を迎える。当然、労働人口は減り、逆にサービスを受ける側がどんどん増えていくわけだ。そういう状況を解決するためには、労働生産性を上げるか、労働力を増やすしかない。当然の帰結として、「わざわざ“次世代ロボットビジネス”と断るまでもなく、近い将来、ロボット技術を使わざるをえない状況になることは間違いない」と石黒氏はいう。

 しかしながら、多くの人はロボットというと、機械に腕や脚がついているものをイメージしがちだ。サービスプロセスにロボットを導入する際も、その中の肉体労働部分に対して「ここならロボット化できる」という発想をついしてしまう。

 ところが、そういう作業は単価の低い労働力で賄われていることが多い。資本をかけて機械化するメリットがなければ、ビジネスとして成り立たないのは自明の理である。かつてITがビジネス化した時にも、「物流システムにITを導入することで、全体の効率が40%アップする」といった提案があって初めて顧客は納得した。そうした先例があるにもかかわらず「ここをロボット化しましょう」では、時代に逆行しているとしか言えないと、石黒氏は手厳しい。

 また、モノを作って商売する場合、形ができた途端に中国や韓国にそっくりの製品を作られてしまい価格競争では太刀打ちできないということがままある。エンドユーザーも、不況の影響もあるのか車からCDまで「レンタルでいい」という傾向が強くなっている。しかし、“経験”や“満足”という無形のモノに対してはお金を使う。単純にモノを売るというビジネスモデルに対してエンドユーザーの目が肥えてきている現代において、ビジネスを提案する側も工夫をしていく必要があると、石黒氏は語った。

 例として、ロボット教材ビジネスと教育サービスビジネスは、似ているようで根本が違うと紹介した。石黒氏がビジネスプランを書いたという「ロボット科学教育」というベンチャー企業は、ロボット教材は作らず“子ども達がロボットをつくる塾”というコンセプトをセールスポイントにしている。“ロボット”にどんな用途があるか? と考え“ロボット教材”としたのではなく、最初に「顧客価値」に主眼を置いているのだ。つまり「科学・理科の好きな子になり、受験も成功する」ということを前面に打ち出せば、親は必ずお金を出す。この価値を他社と差別化するために、「ロボットを使った理科の教室」というキャッチを使ったわけだ。

 このように顧客価値というのは、どうしても必要だからお金を払う価値があるというモノでなければならないと石黒氏はいう。

次世代ロボットビジネスのポイントロボット教材ではなく、ロボット教材を利用した教育ビジネスを考える

 また、「次世代ロボットの特徴を生かし、人間と融合したシステムをデザインすることが必要だ」という。単純に局所的な費用を換算したら、人件費よりも機械の方が高くつく。人がやるべきこと、機械がやるべきこと、人と機械が協働してやることというように全体をいかにうまく設計するかによって、価値が決定する。そのためにも、局所的な機能を代替するのではなく、プロセスを俯瞰して全体をリエンジニアリングして顧客価値を提供するという考え方が必要となる。

 例えば、シロアリ防除にロボットを導入することを考えた場合、「床下点検は狭くて汚くて大変だから、ロボットがやった方がいい」ということになりやすい。しかしながら、実際は熟練したスタッフならば、10平米くらいの床下は1分余りで検査を終えてしまうという。もしロボットに検査をさせたら、スピードでは到底叶わない。つまり簡単に労働力をロボットに置き換えようというだけでは、ビジネスにならないわけだ。

 しかし視点を広くもってビジネスフロー全体を俯瞰すれば、ロボットシステム導入によるメリットが見えてくる。新規顧客を開拓する営業は、200件回ってようやく1件が成約するという効率の悪い状態だという。これは、中には悪質な業者がいて、シロアリ防除サービスに不信感を持つ顧客も多いからだという。顧客が検査結果を信用しづらいのは、自分の目で床下の状況を確認できないことも原因の1つになっている。もし、ロボットを導入して、シロアリ被害の状況をリアルタイムでモニタで表示して見ることができれば、説得力が違う。200件に1件の成約率が、仮に10件になれば売り上げが10倍になる。そういうアプローチをすれば、経営者は興味を持つだろう。

 こうした顧客価値をロボットビジネスの提案の中に組み込めるかどうかが、非常に重要であると石黒氏は語気を強めた。

シロアリ駆除ロボット開発ではなく、プロセスを革新し新たなシロアリ駆除サービスを提供するシロアリ防除サービス業務フローを分析し、課題を抽出する技術員の業務フローにおける課題
アフターサービス員の業務フローにおける課題アサンテ社にとってロボット導入に対する期待

 既に述べたように労働力をロボットに代替するような機能提供では、コスト換算で人件費に負けてしまう。しかし、経験価値やプロフィットに貢献できるようなロボットシステムができれば、高付加価値が付き値段競争にとらわれなくなると石黒氏はいう。

 別に、最初から完全なロボットシステムを提供できなくても、まずはセンサーネットワークから入り、そこで蓄積したデータを元に顧客サービスを充実させていき、最終的に機械駆動部分が導入されるというように5年くらいのレンジでシステムをインテグレーションすることも考えられる。

顧客満足を叶えるパナソニック電工「快眠環境システム」の概要

 顧客へのサービスアップにロボットを導入した例として、パナソニックの「快眠環境システム」を紹介した。大阪ではニューオータニの快眠ルームに同システムが導入されていて、宿泊客が眠りに入ると徐々に電気が消え音楽も静かになる。夜中にふと目を覚ますと、足下の電気が自然に点灯しトイレに行きやすくなる。起床時間が近づくと、太陽が昇るように少しずつ部屋の中が明るくなり、自然な目覚めを促すという具合だ。システムとしては、ベッドの下にいれたセンサーパッドで心拍数や寝返りなどを検知し、AVシステムや蛍光灯を操作しているわけだ。このように、部屋全体をロボット化し「快眠を提供」という顧客価値を生み出した。

 センサーで眠りの状態を検知するというのは、広島大学の先生の研究成果でありパナソニック独自の技術というわけではない。センサーと家電製品を組み合わせれば、ベンチャー企業にだって実現できる。システム化のために、領域を越えて連携し顧客価値を提供することが重要だと石黒氏は述べた。

 石黒氏は、「次世代ロボットビジネスにおける事業者間連携は、従来のビジネスよりもはるかに複雑になる」と重ねて指摘した。直接の顧客としてサービスプロバイダが重要な存在となるが、その先にはエンドユーザーがいる。これまで述べたように当面の間、エンドユーザーには“モノ”ではなく、効率化されたサービスという無形の価値が提供されるだろう。そこでメーカーがサービスプロバイダに対して、モジュールと共通のプラットホームを提供し、サービスプロバイダが自分のサービスに合わせてモジュールを組み合わせてシステム化する。メーカーとサービスプロバイダとシステムインテグレーターが協働し、新しい価値作りをやっていくためには、連携が必要となる。「難しいだけに、うまく実現できれば他がそう簡単に真似ができない状態をつくり出すことができるだろう」と石黒氏は語った。

RTシステムを組み込んだ事業化における事業者間構造ロボット産業政策研究会におけるサービスロボットの分類
移動作業型ロボットの必要な機能と実現のための技術解決すべき重要課題


(三月兎)

2009/4/22 15:46