通りすがりのロボットウォッチャー

力持ちロボットに抱かれて

Reported by 米田 裕

 今年の春に、物心ついてから初めてちょっと入院をした。

 病気の痛みがあれば動きたくないし、手術のときに麻酔をされると、それが局所的でも、あっという間に身体の動作が不自由になった。

 とくに手術の前後は、麻酔によって身体の感覚がない時間がある。そんなときの移動は他人に頼るしかない。

 ベッドからストレッチャーに乗せられ、手術台の上へと移動する際には、全て看護師さんたちの手を煩わせることになった。

 僕は身長187cm、体重85kgとけっこうな大きさと重さがある。移動時には看護師さん3人がかりでの作業だ。

 すんましぇーんと、申し訳ない気分でいっぱいになるが、身体を動かせないのだから仕方がない。自分がただのお荷物という気分だった。

 見ていると「これは腰を痛めるわなぁ」と思う。看護師さんたちの職業病に腰痛が多いのも納得してしまう。かといって、自分が本当の荷物のようにフォークリフトみたいなもので運ばれるのもいやなものだ。

 そんな状況があるからか、人間を持ち運べるロボットを介護用にしたらどうよと考えるのだろう。それらはロボットを開発していくための原動力となっている。

柔らかくて力持ちなロボット

 そうした介護支援ロボットの「RIBA」は、独立行政法人理化学研究所と東海ゴム工業株式会社による連携研究センターの「理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター(RTC)」で開発された。

 理化学研究所にはもともと「RI-MAN」という介護支援のコンセプトロボットがあり、全身をシリコン素材で覆われた姿だった。

 なぜか頭のてっぺんにはモヒカンのような造形物があり、立方体のような頭部には目や鼻、口がポツンとついていて、大きめな耳もあり、なかなか愛らしい顔つきをしていた。

 「RI-MAN」自体には脚部はなく、車輪で動く台車部に上半身がついているという形だった。発表当時は18kgほどの人形を抱きかかえている写真が公開されたが、なんとも愛嬌があり「気は優しくて力持ち」というロボットのイメージを強力に印象づけた。

 その「RI-MAN」の進化形が「RIBA」ということになる。同じような構造だが、「RIBA」はシロクマをイメージしたデザインとなった。

 ロボットらしさが少し薄れ、大きな店頭マスコットといった感じだが、「RIBA」はロボット単体で何かをするというより、人間の補助をするためのものだ。なのでペット風味というか、子分テイストというか、人間と人型ロボットというぶつかりあうものではなく、動物がモチーフとなったのだろう。

 個人的には「RI-MAN」のデザインも捨てがたいと思う。シロクマだと遊園地の遊具のようで、おっさんとしては抱かれるのが恥ずかしい。ただしこれは好みの問題だから「メイドさん型がいい」だの「ヨン様のような」とか、「犬だ」「猫だ」と無限にリクエストが出てきそうだ。

 「RIBA」の全身は、発泡ウレタンやシリコン素材で覆われていて柔らかいそうだ。腕や胴は人と直に接するのだから、柔らかい方がいいに決まっている。

 写真を見て気になったのは、肩の関節部と手首の関節部に表面素材を切り抜いた段差があるところだろうか。

 内部の機械部にはカバーがついているが、段差があると物を挟み込んでしまう可能性も増える。表面素材は一体化していた方がいいと思えるが、そこらへんの安全性は考えられているのだろう。

抱き上げ仕事の手助けツールとして

 この「RIBA」は、人に代わって作業をするためのものだ。ベッドに寝ていて動けない人を抱き上げることが主な仕事となるようだ。

 現在のところ、61kgの人を持ち上げたことがあるそうだが、設計では120kgぐらいは支えられるはずだとのこと。それなら僕の体重でも大丈夫だ。

 だが、人を持ち上げるときに、持ち上げられる側が少しでも身体を動かしてサポートしてくれる場合と、まったく脱力している場合とでは難易度が違うように思えるが、そこんところはどうなのだろう?

 力が入らず、ぐにゃぐにゃとなる身体は双碗で持ち上げるよりも、何か板のようなものを身体の下に入れて持ち上げる方がいいのかもしれない。

 「RIBA」は人を持ち上げるために、ベースとなる台車部はわりと大きく、全高も140cmあり、その重量はバッテリ込みで180kgあるという。これは室内で動くものとしては、けっこう重たいものだ。

 病院のような固い床では大丈夫だろうが、畳の上では重みで動きづらいかもしれない。

 病院といった場所で、人の補助をするロボットを連れて歩くというのは、土木現場ならユンボ、倉庫ならフォークリフトを使うのと同じ感覚だ。

 人と機械という組み合わせになり、スペース的に狭い場所では、せせこましい感じになりそうだ。病院でも大部屋では、ベッドの間隔がわりと狭いとこもあり、そのベッドの間へ人とロボットが入ってくるのは窮屈になる場合もあるだろう。

 人といっしょに使う補助ツールということになると、比較したくなるのは、外骨格型アシストスーツだ。

 これなら、人に装着することで、ほぼ人の入りこめる空間があれば作業ができることになる。

 考えてみれば、人間て、そのバランス能力によるものか、物を持ち上げても接地面は小さい。足の大きさなんて20~30cmぐらいだし。

 そのままの動作の範囲で、力だけをアシストしてくれれば、小回りはきくと思う。

 補助ロボットを連れて行くか、自分に装着するパワードスーツか、どちらがいいのか看護師さんたちも悩むかねぇ。

人工皮膚を持ったロボットはできる?

 現在のロボットは身体の関節部分にモーターがあり、それらを固い軸でつないである。

 そうしたモデルでないと二足歩行の計算と制御もむずかしいのだろう。

 モーターを使っていると排熱の問題などがあり、柔らかい素材で身体全体を覆ってしまうのはむずかしいように思える。柔らかい素材に排気口を開けておいても、変形してふさがってしまう可能性があるからだ。

 そこで、固い外装に、吸気や排気の穴があいているものがロボットの外観となっている。

 こないだテレビの映画劇場で『アイ・ロボット』を放映していたが、映画に出てくるロボットは半透明の樹脂製のボディと金属の腕や脚を持っていた。

 実際に街中にロボットが共存する時代になったとして、あのような姿のロボットが作られるとは思わない。あれは映画としての演出ありきの姿だろう。

 人と共存するロボットは、やはり人に怪我をさせないということが重要になってくると思う。レスキューや工事現場で使うのでなければ、柔らかい外装が欲しいところだ。

 ボディにゴムのような素材を使うという場合、人工皮膚といったものは研究されているのだろうか?

 人の皮膚に近い素材というのは、なかなかむずかしそうだ。

 ロボットにシリコンやゴムのような素材で皮膚を作っても、何回も折り曲げている部分では、そこが疲労して裂けたり、ヒビが入りそうだ。

 人の場合、皮膚はそこにずっとあるものではなく、細胞の寿命により古い細胞と新しい細胞が入れ替わっている。だから、いつまでもヒビわれないわけだが、老化をして細胞の分裂が限度に近くなってくるとシワという形で疲労部分が見えてくる。

 ハッキリとは憶えてないが、その昔に読んだ平井和正氏原作・桑田次郎氏マンガの『8マン』では、生みの親の谷博士が、8マンの人工皮膚をメンテナンスで張り替えるという描写があったと思う。

 高速で走るために、脚部の皮膚が痛んでしまうのだ。そのために、大きな円筒形の水槽のようなところへ8マンを浸けて、皮膚を作っていたと思う。

 そのときに内部の構造が見えて、子供ながらにカッコいいなーと見ていた。体内にある内部構造をリアルに描けるか描けないかで、ロボットマンガの現実感は決まるのだ。

 そういえば「鉄腕アトム」も人工皮膚をまとっていたはずだっけ。

 いつの間にか、子供のアイドルであるロボットは鋼鉄の塊というか、金属(超合金というのもあったね)の外骨格を持つ甲冑のようになっていったが、もともとは人のように皮膚を持つ存在として考えられていたようだ。

 物語に登場する最初のロボットは、ほとんど人に近い人工生命体だったのが、20世紀末の機械文明時代になり、その時代でのリアリティを求めていった結果が金属外骨格型ロボットになっていったと思える。

 つきつめれば、人の外観に近づいていく柔らかい皮膚を持ったロボットは、未来形ではなく、本当は先祖返りな姿なのかもしれない。

 そして、数十年後、そうした柔らかくて力持ちなロボットに抱きかかえてもらい、人生の終着点を迎える日が僕にもやってくるのだろう。そのとき、まだ固い身体のロボットだったらいやだと思う。


米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員




2009/9/25 15:54