「第21回全日本ロボット相撲中国大会」レポート

~185台のロボット力士が、全国大会出場切符を目指して熱い戦い


 2009年10月18日(日)、広島県立広島工業高等学校において、第21回全日本ロボット相撲中国大会が開催された。今年は高校生の部33台(自立型14台、RC型19台)、全日本の部152台(自立型85台、RC型67台)と、昨年より11台多い185台が出場した。主催は、富士ソフト株式会社社団法人 全国工業高等学校長協会

 「全日本ロボット相撲大会」は1990年から、ロボット作りを通じて、ものづくりの楽しさを知ってもらうことを目的に開催し、今年で21回目を迎えた。これまでの参加者数は延べ10万人を越え、ロボット競技会としては国内最大規模の大会だ。毎年、夏から秋にかけて全国を9ブロックに分けて地区大会を行なう。地区大会開催地域の高校生を対象とした「高校生の部」と、参加資格に制限がない「全日本の部」があり、各部門に、コンピュータを搭載して戦う「自立型」と、オペレーターがラジコン操縦で戦う「ラジコン型」がある。それぞれが分かれてトーナメント戦で、自慢のロボットの強さを競う。

熱戦!! 第21回全日本ロボット相撲中国大会会場となった広島県立広島工業高等学校開会式風景

小さなロボット力士の力強い取り組み

 ロボット力士は、試合開始時のサイズは幅と奥行きが20cm以内、高さ無制限、重量は3kg以内と定められている。直径154cmの鉄板土俵の上で、3分間3本勝負で取り組みをする。1方のロボットが土俵から落ちた時に勝敗が決し、時間内に2本先取した方が勝者となる。

 ロボットの形状や性能で、高速知能型、パワー型、アーム型などに分類できる。近年は、アームの間にネットをつけ、相手を絡めとって身動きできなくさせるタイプも登場した。

 ロボットは磁石で土俵に吸着し、タイヤの接地圧をあげて大きな推進力とパワーを生み出している。全国大会レベルのロボットは、100kg以上ある成人男性が両手で踏ん張っても押し出されるくらいのパワーがあるという。本大会でも、全力で押し合うロボットが過負荷に耐えきれずモーターが焼けこげて煙を吐いたり、土俵から3m以上も弾き飛ばされたりする場面があった。見た目は小さいが、力強くスピードがあるロボット力士の戦いは間近で見ると、すごい迫力だ。

 互いに土俵に吸着しているため、パワーが均衡するとなかなか勝負がつかない。いかに相手ロボットの下に潜り込んで、車体を浮かせるかが勝敗の決め手となる。そのために参加者達が研究を重ねてきたのが、ロボット前面に取り付けられた鋭いブレードだ。

 ごく薄いブレードが相手ロボットの下に入り込めば、そのまま相手を土俵から引きはがして一気に押し出すことができる。10数年前にブレードが採用され始めた頃は、テレホンカードを加工して使っていた。試合が年々激しくなるにつれ、ブレードは固く鋭くなっていった。そうした技術の進化で、前述のような見応えのある激しい戦いが増えたのだ。その半面、ロボット同士の激突でブレードが飛散し、操縦者がケガをする事故もあった。そのため、現在は、競技者はゴーグル・手袋を着用し、安全に競技をすることが義務づけられている。また、ブレードが破損した場合は、その場で反則負けとなる。今大会でも、ブレードの破損は見受けられた。決勝戦や全国大会の切符を掛けたけた大事な試合で、ブレードが欠けたのが原因で勝敗が決するのは、厳しいように感じる。しかし、安全確保はロボットの製作・保守・運用に必須な技術であることを運営委員会は、競技を通じて伝えているのだと思う。結果に悔いを残さないためにも、参加者には安全性に留意してほしいと感じた。

試合開始時に幅と奥行きが20cm四方の枠に収まれば、試合中の変形は自由重量は3kg以内ラジコン型はロボットの性能とオペレータの操作技術で勝負が決まる
白い羽で相手のセンサーを惑わし、自分に有利なポジションで戦うアームにネットを貼ったロボット。相手を絡め獲って動けなくする2本先取で試合に勝っても、ブレードの破損で反則負けになることもある……

 全国大会は、高校の部は11月14日(土)パシフィコ横浜で「第17回高校生ロボット相撲全国大会」、全日本の部は12月20日(日)東京・国技館で「第21回全日本ロボット相撲全国大会」が開催される。激しいトーナメント戦を勝ち抜き、全国大会への切符を獲得したのは次の16台だ。

【全日本の部】・自立型
順位ロボット名チーム名
1位涼風Team-Q
2位水龍ITL
3位NORISKマルす同好会
4位シードライブ"瀬戸水軍”
5位桜3Team-Q
・ラジコン型
順位ロボット名チーム名
1位石鎚1愛媛県立東予高等学校機械部
2位魔法の剣R4福工大附属城東高校
3位刃蒼大阪電気通信大学
4位風刃Team-Q
5位魔女の鼻R6バルビゾンファミリー
【高校生の部】・自立型
順位ロボット名チーム名
1位修道館2号島根県立松江工業高等学校 1年
2位紅万作-技-広島県立宮島工業高等学校 3年
3位修道館1号島根県立松江工業高等学校 3年
・ラジコン型
順位ロボット名チーム名
1位まさか・・・山口県立宇部工業高等学校 3年
2位二千花山口県立宇部工業高等学校 3年
3位飛燕山口県立田布施工業高等学校 3年

 各部門の上位の取り組みを動画で紹介する。

社会人と学生が同じ土俵で戦う「全日本の部」

 全日本の部自律型で、決勝まで勝ち上がったのは、軽量高速型のITL(水龍)と、秒速3mの高速型の涼風(Team-Q)だった。1本目は両者が土俵中央で押し合う形となり仕切り直し。涼風が右側を回りこんで、ITLの斜め前方からとびかかり、押し出して1本先取。2本目も同じ戦法で勝利した。

 涼風を製作した内田雅治氏は、高校1年からロボット相撲をはじめ、今年で6年目になる。TMRシリーズには、過去3~4回対戦して全負だったそうだ。「TMR用対策を立てて挑み、初めて勝てたので嬉しい」と喜んだ。「これまでは全国大会ベスト16位が最高なので、この勢いで今年は優勝を目指したい」と全国大会への意気込みを語った。

 2位となった水龍(岸田由紀子氏/ITL)は、ここ数年全国大会で上位に入賞しているTMRの軽量高速型だ。パワードスピードのバランスがよく、土俵際での粘りも強い。TMRチームは今年も5台全国切符を獲得しているという。

 3位決定戦は、NORISK(マルす同好会)VS シードライブ(“瀬戸水軍”)。1-1で迎えた3本目。シードライブが土俵中央でNORISKを大きく跳ねとばしたが、NORISKは空中で一回転して白線上で磁石で張り付き、からくも土俵に留まった。シードライブは勢い余って白線から飛び出したため1本取られてしまい、NORISKが勝利した。

 全国大会の切符をかけた5位決定戦は、黒津崎X(国東) VS 桜3(Team-Q)。1本目で桜3が黒津崎Xを弾き飛ばした時に、黒津崎Xのブレードが剥がれ落ちた。黒津崎Xが反則を取られたため、桜3が勝利し5位に入賞した。

【動画】決勝戦 ITL(水龍) VS 涼風(Team-Q)の1本目。中央で膠着状態となり取り直し【動画】1本目の仕切り直し。 涼風が回りこんでITLを押し出した【動画】3位決定戦は、NORISK(マルす同好会)VS シードライブ("瀬戸水軍”)。迫力のある1戦だった
【動画】5位決定戦の1本目。黒津崎X(国東) VS 桜3(Team-Q)は黒津崎のプレートがはがれて勝敗が決まった【動画】準決勝第1試合、水龍(ITL) VS NORISK(マルす同好会)。水龍が押し出しで勝利【動画】準決勝第2試合。涼風(Team-Q) VS シードライブ("瀬戸水軍”)。2体ががっぷりと組み合う力相撲
自律型優勝の「涼風」(Team-Q)全国優勝した「涼風」製作者の内田 雅治氏(Team-Q)

 ラジコン型の決勝には、石鎚1(愛媛県立東予高等学校機械部)とアームの間に網を張った魔法の剣R4(福工大附属城東高校)が勝ち上がってきた。

 魔法の剣R4が機体コンセプトどおり石鎚1を網で絡め取り、動きを封じて攻めた。石鎚1が土俵際に追い込まれ、そのまま押しやられるかと思ったが、際どいところでアームをくぐり脱け、魔法の剣R4の後方に回り込み反撃した。石鎚1が1本先取したところで、魔法の剣R4のブレードが欠け勝敗が決定した。

 3位決定戦は、風刃(Team-Q) VS 刃蒼(大阪電気通信大学)。1本目は両者が一瞬ようすをうかがったあとに、土俵中央でがっぷり正面から押し合い、一歩の引かない取り組みとなった。刃蒼がすっと後退し、風刃が体制を整え直そうとしているところを後から攻めて場外へ落とした。2本目は立ち会いのフェイントから刃蒼が、一気に直進して素早く勝負を決めた。

【動画】決勝戦1本目。石鎚1(愛媛県立東予高等学校機械部) VS 魔法の剣R4(福工大附属城東高校)【動画】3位決定戦 風刃 (Team-Q) VS 刃蒼 (大阪電気通信大学)の1本目。緩急のある面白い試合だった【動画】3位決定戦の2本目。立ち会いのフェイント合戦が勝敗を決めた
【動画】準決勝第1試合 石鎚1(愛媛県立東予高等学校機械部) VS 風刃(Team-Q )の2本目。攻め込んできた風刃を石鎚1がパワーで押し出した【動画】準決勝第2試合 刃蒼(大阪電気通信大学) VS 魔法の剣R4(福工大附属城東高校 )の2本目。魔法の剣R4がアームを落としたタイミングで、刃蒼がサイドから攻め込みスピードを活かして追い落とした【動画】準決勝第2試合の3本目。正面に飛び込んできた刃蒼を魔法の剣R4が網で捕獲して押し出し
ラジコン型準優勝機。「魔法の剣R4」(福工大附属城東高校)全国大会出場者優勝した「石鎚1」製作者の永易 勇伍氏(愛媛県立東予高等学校機械部 3年)

 全日本の部のトーナメント結果はコチラ(公式サイト PDF)

高校生自律型

 高校生自立型は、島根県立松江工業高等学校の修道館2号が優勝、修道館1号が3位と活躍した。優勝した修道館2号(福島健司氏/島根県立松江工業高等学校)の製作者は1年生。「決勝戦が一番苦しかった」という。全国大会への意気込みを尋ねると、周囲にいたチームメンバーから「てっぺん! てっぺん!!」とコールが飛んだ。3位に入賞した修道館1号と一緒に、全国大会でも一暴れしてくれそうだ。

【動画】決勝戦 修道館2号(松江工)VS 紅万作-技-(宮島工)。修道館2号が敏捷に動いて1本先取【動画】2本目の取り直し。修道館2号が一気に攻め込んで優勝を決めた【動画】3位決定戦 三代目玄武丸(田布施工)VS 修道館1号(松江工)の1本目。軽量小型の修道館1号が、大きな三代目玄武丸を一撃で土俵の外へ吹き飛ばした
【動画】準決勝第2試合 紅万作-技-(宮島工) VS 修道館1号(松江工)。修道館1号が自ら土俵を割って敗退全国進出メンバー優勝した「修道館2号」製作者の福島 健司氏(島根県立松江工業高等学校 1年)

 ラジコン型は、山口県立宇部工業高等学校の「まさか…」と「二千花」の同校対決となった。真っ正面からぶつかりジリジリと押し合う力勝負で、「まさか…」が2本先取して優勝を決めた。

 まさか…の製作者、吉田諒氏(山口県立宇部工業高等学校)は高校3年生。高校生活最初で最後の全国切符だという。「全国では横綱を目指します!」と力強く答えた。

【動画】決勝戦 まさか…(宇部工)VS 二千花(宇部工)の1本目。互いに一歩も引かぬ力相撲をまさか…が制して優勝した【動画】3位決定戦 飛燕(田布施工)VS 締切り直前(江津工)の2本目。飛燕がアームの降りきらない締切り直前を押しやり勝利した【動画】準決勝第1試合 飛燕(田布施工)VS まさか…(宇部工)の1本目。スピードで攻めてくる飛燕をまさか…がどっしりと受け止める横綱相撲
【動画】準決勝第2試合 締切り直前(江津工)VS 二千花(宇部工)の2本目仕切り直し。二千花が締切り直前のアームに囲われながらも、細かい動きでブレードの角を付き押しやった全国大会進出メンバー優勝した「まさか…」製作者の吉田諒氏(山口県立宇部工業高等学校3年生)

 高校の部のトーナメント結果はコチラ(公式サイト pdf)



(三月兎)

2009/10/29 17:53