「第1回宇宙エレベーター技術競技会」レポート

~150mをクライマーで踏破! 最終ゴールは宇宙空間!?


エレベーターガールの「上へ参りまぁす」のポーズを全員で取って記念撮影

 8月8日(土)、9日(日)の2日間に渡り、「第1回宇宙エレベーター技術競技会」が、「Climb me to the moon」をスローガンに、千葉県船橋市の日本大学二和校地で開催された。主催は、一般社団法人宇宙エレベーター協会と日本大学理工学部。共催が神奈川大学だ。国内大学の研究室や有志チーム、個人など7チームに加え、ドイツからはミュンヘン工科大学も参加。その模様をお届けする。

宇宙エレベーターと宇宙エレベーター協会について

 まずは宇宙エレベーターについて、簡単ながら説明させていただく。別名、軌道エレベーターとも呼ばれ、ひと言でいってしまえば、宇宙と地上をつなぐ長大なエレベーターである。どれだけの長さを有するかというと、最も低い(短い)ものでも約5万km、最も高い(長い)ものになると約15万kmにも達するのだ。こんな長さは、我々の生活とはまったくの無縁の宇宙スケールなのでなかなか実感できないのだが、地球の直径が約1万3,000km、地球と月の平均距離が約38万kmといった辺りから、少しは想像していただけるだろう。一般に約100kmから上の領域が宇宙と呼ばれていることから、宇宙エレベーターの大部分が宇宙に存在する。国際宇宙ステーションですら、地上から約400kmの高さの低軌道を周回しているので、宇宙エレベーターの最上階がどれだけの高さかということがなんとなく理解していただけるのではないだろうか。

 宇宙へ行くならロケットで十分と思われる方もいるかも知れないが、宇宙エレベーターは環境問題的に非常に優れている点がある。一度完成してしまえば、ロケットのように(使用する燃料によるが)有害物質を大気中にばらまいてしまうことはないし、オゾン層に穴を開けることもない。ロケットのように発進時に大きなGが搭乗者にかからないため、体力のない子供やお年寄りでも宇宙へより行きやすくなる。しかも、非常に安価で上昇下降を行なえるので、我々のような一般人でも手が届くような料金で宇宙へ行けるようになるという。

 また、惑星探査機などの打ち上げも非常に手間いらずとなるという。地球の自転による遠心力で放り出すだけで十分な速度を得られるので、宇宙エレベーターの屋上部分に発進スペースを設け、そこで組み立てて適切な方位で放り出して上げれば済むというわけだ。そのほか、太陽光発電を行なって地上に送電するとか、ロケットのように爆発する危険性がないため核廃棄物などの有害物質を宇宙空間に廃棄するための運搬も安全に行なえるなど、今後も人類が宇宙へ進出していくのであれば、メリットは非常に大きいのである。

 その建設方法だが、宇宙エレベーターというぐらいなので、既存の超高層ビルのように地上から建設していくように思われるだろうが、少々異なる。考え方としては、高度約3万6,000kmの軌道に位置する静止衛星からケーブルを垂らしていくのだ。静止衛星は24時間で地球を1周し、地上から見た場合は天の1点に位置しているように見える。そんな静止衛星から、ケーブルを地上へ向けて垂らすと同時に、同じ長さのケーブルを反対方向にも延ばす。こうすることで重力と遠心力が拮抗するので、それを繰り返し、いつしか静止衛星は落下しないまま地上と結ばれるというわけだ。静止衛星を中心とするのなら、約7万2,000kmの高さということになるのだが、縦に長大な人工衛星とも見られるのである。もっとも、垂らす分と同じ長さのケーブルをきっちり上方に延ばす必要はなく、それに見合った重りをつけるだけでも成り立つ。静止衛星と地上を直接ケーブルで結ぶという話であれば、実はそれほど複雑な技術を必要とせずに実現できるのである。

 ただし、実現するためにクリアしなければならない問題点もないわけではない。宇宙エレベーターのアイディアは19世紀まで遡るといわれるが、長らく「夢物語」とされてきた理由が、静止軌道からつり下げても切断してしまわないだけの引っ張り強度を有する物質がなかったことだ。しかし、それを可能にする物質が1991年になって日本人科学者によって発見された。いわゆる、炭素の形態のひとつである「カーボンナノチューブ」(CNT)である。引っ張り強度的に見てCNTなら問題ないとされており、あとはCNTを大量に生産する方法を開発するという点に移ってきているという。

 科学者によっては、今すぐにでも開発を始められるという人もいるほどだが、地球のどこにでも建設できるというわけではないため、技術面以外の問題も生じてくる。赤道上でなければならないので、そうなると建設できるような財力と技術力を持った国家は領土を有していないため、建設地を巡る利害や政治における対立などが生じやすい。

 公海上にステーションを建設するという方法もあるが、それはそれでさらに技術的な面や費用面などが増すことだろう。さらには、これだけ大規模な建造物なので、テロの攻撃対象にされる可能性もあるだろうし、環境保護団体の抗議の矢面にも立たされたりするだろう。技術面以外の課題も多いのだ。

 さらに、静止衛星との衝突はないわけだが、それ以外の人工衛星とは衝突する可能性があるため、それをどう回避するか、さらにスペースデブリとの衝突や大気圏内での酸素原子によるCNTの劣化、また頼みの綱のCNTが最近になってアスベストのように発ガン性物質である可能性が指摘されているなど、まだまだ解決しなければならない問題や心配な点はいくつもある。しかし、それらを解決すれば、2030年代には実現可能とする科学者もおり、決して研究論文や「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」のようなSF系の物語の中だけの話ではなくなってきているのだ。

 そうした宇宙エレベーターの研究は米国が盛んで、宇宙エレベーターの技術競技大会が以前より開催されている。NASAが総額400万ドルの支援を行ない、ボーイング社など巨大企業もスポンサーとなり、2005年から2010年までの6年間に渡り、年に1~2回のペースで宇宙エレベーターの技術協議会を実施しているのだ。

 2007年10月に開催された時には、日本人チームも挑戦。そして、その時のメンバーを中心とした有志が2008年4月に結成したのが、日本の宇宙エレベーター協会というわけだ。会長(代表理事)を株式会社PTKデータ代表取締役の大野修一氏が、副会長を日本大学理工学部精密機械工学科教授の青木義男氏が務める。

 同年6月には初のワークショップを開催し、日本大学の研究チームなども加わり、研究発表を実施。7月には米国で開催された国際会議に初めて日本人(5名)を送り込み、宇宙エレベーターに応用できる日本の技術や日本文化での位置づけなどを発表した。11月にはその国際会議の日本版として第1回日本宇宙エレベーター会議を実施。そして、今回、遂に第1回宇宙エレベーター技術競技会を開催したというわけだ。

 なお、同大会は、米国以外では初めて民間ベースで開催された宇宙エレベーターの技術競技会である。ちなみに米国大会は、クライマーのメカニズムよりも、電磁波を用いた外部からのエネルギー供給に重点が置かれているという。日本は大野氏らの意向で、ルールや仕様は2007年の米国大会をベースにしているが、もっとメカニカルな部分にフォーカスしている。

宇宙エレベーター協会会長の大野修一氏。とても熱いハートの持ち主同協会副会長で、日本大学理工学部精密機械工学科教授の青木義男氏

150mの高さをクライマーが上昇する競技

 今回の内容は、幅50mm、厚さ1.5mmのテザー(合成繊維製ベルト)をヘリウムバルーンからつり下げて150mの高さに浮かべ、そのテザーをバッテリ駆動の自律型(無線操縦型もあった)ロボットのクライマー(昇降機)が昇り、その150m到達のタイムを競うというもの。目的としては、クライマーの性能技術の比較や検証を行ない、今後の開発の基礎となる各種基礎データを収集することである。クライマーのレギュレーションは、バッテリが直流12V以内で、重量10kg以内、寸法は縦横高さが各最大1m以内というもの。安全が最重要課題で、特に降下時は安全な速度であることを重視して競技は実施された。ちなみに、クライマー本体や部品などが落下する恐れがあるため、クライマーのスタート地点からバルーンの真下付近では取材陣もヘルメット着用である。

ほぼ真下から見た150mの高さに浮かぶバルーンテザーに取り付けられたクライマー
150mのゴール地点に達したクライマー。暴走時にロボットを止めるためのバンパークライマーを取り付ける神奈川大学工学部のメンバー。参加者も運営スタッフも取材陣も全員ヘルメット着用

 150mの高さというのは意外と高く、会場からかなり離れた地点でもバルーンが上がっているのが見え、真下から見ると結構エビ反る姿勢のため、首や腰が痛くなる具合。かといってあまり離れすぎると、バルーンは見えてもクライマーが望遠レンズを使っても撮影しづらくなってしまう。会場は野球のグラウンドで外野に近い位置にクライマーをテザーに取り付けるための作業台などが設置されていた。

最寄り駅の新京成電鉄二和向台駅から10分ぐらい(行程の約半分ほど)歩いたところでバルーンを撮影作業台。ここでクライマーをテザーに取り付ける。スタンバイしているのはミュンヘン工科大学チーム会場となったのは日本大学二和校地の一角。バルーンを上げたのは野球場のグラウンド

 参加したチームは以下の通りで、神奈川大学工学部江上研究室のみが2台でエントリーした。

【所属・チーム名/クライマー名】
・神奈川大学工学部江上研究室/KSC-I
・神奈川大学工学部江上研究室/KSC-II
・静岡大学工学部山極研究室/うなぎのぼり
・チーム奥澤(個人)/momonGa。
・名古屋大学工学部有志チーム/名大SE
・日本大学理工学部羽多野研究室/Sakurana.
・日本大学理工学部青木研究室/日大青木研
・ミュンヘン工科大学有志チーム/ミュンヘン工科大学

 初日はあまりコンディションもよくなく、またクライマーの調整が済んでいないチームも多かったため、実際にタイム計測にトライしたのは2台のみで、4台がテスト、そして2台が調整中でテストを行なわずに終了となった。取材したのは2日目で、この日は、午前中は風も弱めでコンディションがよく、名古屋大学と静岡大学の2チームを除き、6台がタイム計測を行なった。競技の採点システムは、もちろんタイムが最重要視されるが、機構的な工夫や、審査員長の日本大学の青木氏の前でのプレゼンテーションなども考慮された形だ。また順位だけでなく、各部門賞も設けられている。

 8チームの中で、ダントツのトップタイムをマークしたのが、ミュンヘン工科大学。150mを52秒で昇り切った。また、本体にビデオカメラを搭載して撮影したライブ映像を無線LANでピットのPCで流すなど、機能面でもさまざまな取り組みがされているのが特徴である。そうした面を考慮し、総合優勝、スピードクライマー賞(掛け値なしの速さがポイント)、多機能クライマー賞の3部門を獲得した。

 ちなみに52秒というタイムは、バッテリを使用したクライマー競技において、世界最速記録だそうである。しかも、レギュレーションの直流12Vに合わせてのタイムなので、本来の14.8Vであればさらにスピードが出ることが判明。午後になってテストとして披露し、この時は風があったために120mほどの高さにしたのだが、30秒を切るタイムで昇ってしまうという驚異的な記録を出した。さらに、なんと余裕を持たせた速度だったそうで、フルスロットルにすればさらにタイムを縮められるということであったが、残念ながら雨が降ってきたために中止となってしまった。ぜひ、来年も参加し、その強烈なタイムを披露してほしい。

 表彰式のコメントでは、同大学は2005年からクライマーの開発を行なっており、1年目の時は5cm程度のレゴ製のクライマーしかまだできていなかったそうである。それが、日本のチームが開発を初めて1年以内(実際には長くても数カ月から半年)ということだったことから、非常に技術が高く驚いたとコメントしていた。ちなみに、同大学のクライマーのスペックは、縦270mm×横200mm×高さ670mmという縦長のタイプ。重量は6kgだ。バッテリは前述したように本来は14.8Vとなっている。素材はカーボンとアルミニウムを使っているそうだ。

ミュンヘン工科大学のクライマー。暫定ながら世界最速記録を樹立ミュンヘン工科大学のクライマーの中央のメカ部分。黒い箱はカメラ
ミュンヘン工科大学のメンバー。右端の方は会長の大野氏【動画】バッテリ14.8V仕様で120mを30秒切るタイムで駆け上がった様子

 日本チームで最速だったのが、日本大学理工学部羽多野研究室の「Sakurana.」。レスキューロボットコンテストやロボカップレスキュー、つくばチャレンジなどに参加している学生のチームだ。ちなみにSakurana.の名は、漢字では「桜菜」と書き、同研究室でロボットコンテストに参加する際の伝統の名称なのだそうだ。今回は2日目に3分3秒を記録し、総合準優勝とグッドサーキット(回路)賞を受章した。

 特徴のひとつが、移動ロボット系で用いられることの多い独立二輪方式を採用していること。それにより、左右の駆動輪に回転差をつけて駆動することで、任意の軌道を走行することができるようになっている。機体を支える仕組みは、駆動輪に生じる摩擦力によって行なう。その摩擦力は、駆動輪と受動(保持)輪の挟み込む力を変化させることによって、調整することが可能なようになっている。

 さらに、ネジを用いた調整機構を搭載しており、ネジは容易に取り外せるため、テザーの端以外の場所でもクライマーを容易に取り付けられるようになっている。サーキット賞は、モータの制御や電源管理などの回路を自作したことが重視され(自作はハンダ付けのちょっとしたミスが影響を与えるなど、非常に難しいことから)、受章した。なお、外見はクルマのカウルを被っている。

Sakurana.。日大2チームの内、1チームが準優勝、日本チームではトップとなり、主催の面目躍如閉会式でメンバーがグッドサーキット賞の賞状をもらったところ

 総合3位を獲得したのは、3分16秒を記録した神奈川大学工学部江上研究室の「KSC-I」。名称のKSCは、Kanagawa University Space Climberの略で、その1号機というわけだ。日本勢の中では開発期間が最も長く、半年近くあったそうで、開発をひとりで担当した学生の守屋さんによれば、その点は有利だったという。

 サイズは縦304mm×横190mm×高さ170mmで、重量は4.1kg。DCサーボモータを2個搭載し、2個の能動輪と1個の受動輪でローラ部を構成。受動輪をバネの力で押しつけて挟み込むことで発生する摩擦力を用いてテザーを昇降する仕組みだ。そのため、テザーの多少の凹凸を吸収可能。ネジの締め付け次第でテザーのテンションの調節も可能となっている。

 駆動機構は、モータからの出力をギアヘッドとプーリ(これの歯車を変えるだけで、用意に回転数を変更可能)で減速し、タイミングベルトを介して伝達する仕組みだ。また、テザーへの機体の着脱は、受動輪を外すことで容易に行なえるようになっている。防塵、防護、メンテナンス性を考慮し、モータドライバ、プロポ受信機(同機はプロポで2個のモータを駆動している)、加速度センサーなどの重要な部分はアルミボックスに収納している形だ。

 安全対策として、ズレを防止するテザーガイドを4カ所に設け、ローラ部以外の3カ所でもガイドを押さえることで、テザーからの落下を防止している。応力解析を行なうことで、十分な強度を確保しつつ軽量化を達成したそうだ。なお、KSC-IIと連なって昇っていくシーンをKSC-IIの紹介のところで掲載しているので、ぜひ見ていただきたい。

KSC-I。基本ひとりで開発したそうであるテザーに取り付けられているKSC-Iテザーを降りてきたKSC-I

 順位の発表は3位までで、それ以外は部門賞を獲得したクライマーが複数あった。グッドメカニズム賞を受賞したのが、審査員長である青木氏の愛弟子となる学生さんたち7名が開発した日本大学理工学部青木研究室のクライマー(クライマー名は日大青木研として登録されていた)。タイムは、4分38秒。サイズは縦350mm×横220mm×高さ300mmで、重量は6kg。3DCADで設計し、特徴はインホイールモータとすることで、コンパクト化を実現していること。また、モータは2種類から、ローラ部のアタッチメントは3種類から選択でき、パーツの違いから来る性能差などもデータ収集したそうである。

 アタッチメントはテザーを押さえつける受動輪の数が変えられており、大型の1輪型から小型の3輪型までがあり、能動輪と併せてテザーとの接触面積が変化するため、随分と上昇速度に差が出ることが判明したようだ。

 一見すると、小型の3輪型がテザーのたるみなどに強いため、着実に上っていくような気がするが、それ以上に接触面積が増えることのデメリットの方が大きく、接触面積の少ない1輪の方がいいタイムが出たという。そのほか、ブレーキ機構も備えており、任意の高さでの停止が容易。さらに、テザーからの脱落防止用ガイドなど、安全面にも配慮がなされている。なお、研究室ではテザー方式のほかに、ロープ方式の昇降装置も研究しているそうだ。

 受賞理由は、メカニズム賞に関する重要な12のチェック項目の内、ブレーキを使って積極的に速度や位置の制御をしていることなどにより、最もチェック数が多かったからである。

日大青木研。グッドメカニズム賞を受賞した受動輪のアタッチメントを外して、能動輪がむき出しになったところ

 未来デザイン賞を受賞したのが、神奈川大学工学部江上研究室の「KSC-II」。タイムは3分27秒を記録した。こちらは2名体制で開発。しかし、実質ゴールデンウィーク明けからのスタートだったそうで、突貫工事となり苦労したようだ。

 本体サイズは縦190mm×横185mm×245mmで、重量は3.1kgと今回の中では軽量な部類に入る。モータには安価で入手もしやすいラジコン用のHPI Racing製X-95を使用している。モータドライバやバッテリをボックス内に収納し、余剰スペースを作り荷物を収納可能にしてある点などが評価されたようだ。

 ローラの配置は、対面式とし、テザーのテンションの違いによる影響を低減。またギアを変更するだけで、回転数とトルクの調節を行なえるように設計してある。誰から見ても「これはユニークだ」という理由で、同賞を受賞した。ちなみに、2日目にはKSC-IとKSC-IIが前後に連なって昇るテストも実施。なかなか面白い図だったので、ムービーで紹介させていただく。

KSC-II。ボックスに収められているのが特徴【動画】KSC-IとKSC-IIが連なって上昇していく様子

 そのほか、残念ながら上位入賞や部門賞の受賞は逃してしまったが、がんばっていた機体も紹介したい。唯一個人で参加したのが、チーム奥澤の「momonGa。」だ。二足歩行ロボットの格闘競技会の参加経験もあるという社会人の奥澤さんが、青春と生活費を犠牲にして(軽い気持ちで参加したら、大変なことになったという)、不景気の波に翻弄されながら四畳半で作り上げた魂の入った1台である。

 名称には、ムササビよりも高所を好むモモンガのように「より高みを目指す」という意味合いが込められている。設計には3D CADを用いて毎日夜な夜なで作業し、製作はベッドの横に工作機械を備え付けてやはり夜な夜なの作業。加工音を怪しまれないよう、洗濯機をフル稼働させてごまかし、実験は早朝の公園のジャングルジムでテザーを張って行なったそうである。警官に職務質問されたらどうしようとハラハラドキドキしながらだったそうだ。

 本体サイズは縦300mm×横500mm×高さ160mm、重量は4.6kg。ツカサ電工製85Rモータを4個搭載している。機体の機構的な工夫・特徴は、まずテザーの横ズレ防止機構。産業用のクラウンローラを採用することで、安定して保持できるようにした。テザーガイドは回転式にしてあり、確実にガイドして安定した昇降を実現するという。さらに受動輪をバネ加圧式とすることで、テザーの保持の確実性を高めている。

 また、ブレッドボードを設置してあり、各種機器の追加も可能だ。初日に6分52秒を記録したが、モータが壊れてしまい、大急ぎで自宅に帰って修理、2日目には予備のモータ(マクソン製で、より高価)で挑み、5分56秒とタイムを短縮することに成功している。

momonGa。の正式な姿。ただし、空力的影響を受けるので、翼状のパーツは取り外して挑戦となったトライ直前のmomonGa。の様子【動画】たったひとりで製作してもここまでやれるということで、momonGa。のトライを紹介

 また、「うなぎのぼり」でエントリーした静岡大学工学部山極研究室は会場にピット入りして必死の最終調整を行なっていたが、結局、2日目の午後になっても完成せず、残念ながら棄権となった。うなぎのぼりチームは7人体制。本体サイズは縦680mm×横250mm×高さ345mmで、重量は5.2kg。モータは1個で、フレームはアルミ製。ぜひ来年の第2回は、登り切ってほしい。

うなぎのぼり。今回はタイムを計測できなかったので、次回はぜひうなぎのぼりを別角度から。分解して収納する直前に撮影させてもらったため、パーツがバラされている

 同様に棄権となってしまったのが、名古屋大学工学部有志チーム。会場のピットにも来られず、日大の施設を拝借して徹夜で作業を進めていたようだが、残念ながら「名大SE」は会場入りすることは叶わなかった。静岡大学ともども、今年で卒業の人もいるかも知れないが、残る学生さんたちはぜひ第2回で今回のリベンジを果たしてほしい。

 大会が終わって最後に授賞式も兼ねた閉会式では、会長の大野氏がやっとここまでたどり着けたことに感極まり、男泣き。一時は誰も参加してもらえないのではないかと心配もあったらしいが、8チームが参加してくれたこと、挑戦できなかったチームもあるが、6チームがケガもなく無事150mまで到達できたことを喜び、また負担をかけたとして運営スタッフにも感謝の意を表していた。

 そして、「2009年にこれだけの大会を開催したということを胸を張って世界中にいえると思う」と、熱くコメント。ここまでの長い道のりを感じさせる男泣きであった。また審査員長の青木氏は、第1回なので滞りなく追われればそれで十分と思っていたが、ここから暫定世界一の記録が計測されたということは非常に大きなことだとした。まさに寝不足するのに値する素晴らしい大会だったと語った。そして、ぜひ来年に向かってチャレンジしてほしいと結んだ。

ミュンヘン工科大学の代表の生徒が総合優勝のトロフィーを掲げる今後の発展を祈願して、最後はちょっとレアな五本締め

 以上、第1回宇宙エレベーター技術競技会の模様、いかがだっただろうか。気象条件に非常に左右されるため、なかなか実施が難しい技術競技会なので、今回は無事実施できたことを喜びたい。なお、毎回上昇距離を2倍に引き上げるそうで、それだと第4回には早くも1kmを突破する計算になる。そのまま倍でいくとすると、第7回には成層圏が間近の9.6km(我々のいるさまざまな気象現象が起きる対流圏の高度はおよそ10km)、第11回には150kmを超えて遂に宇宙の領域に到達する。

 さすがにそれらの遥か手前でバルーンの限界高度が来てしまうだろうと思ったのだが、株式会社気球製作所の生産技術部部長の石川氏にお話をうかがったところ、バルーンが破裂しないようにすれば、わずかでも大気圧がある高度なら時間はかかっても必ず上がっていくという。

 ロープをつけてバルーンを地上に固定する形でなら1kmぐらいの高さまでなら気象観測などで実際に行なわれているそうで、ロープなしでただ上昇させるだけなら、同社では35kmぐらいまでは上げたことがあるという。宇宙の領域に入る100kmでもまだまだ大気圧は実際にはあるので、理論上は到達できるらしい。

 とはいっても、さすがにその高度になると、破裂しないように作ることも大変だろうし、地上とつないで固定するのも大変なことだろう。風の問題も大きいだろうし、何よりもそこまでクライマーが昇降するのにどれだけの時間がかかるのかといった点も大きな問題だ。しかし、高度100kmだろうと実験できる可能性があるというだけでも心躍るというもので、今後が非常に楽しみである。

 何はともあれ、今回得られたデータがどれだけ実際の宇宙エレベーターの昇降機構に寄与できるのかはもちろんわからないが、非常に重要な一歩だったのではないだろうか。将来、実際に宇宙エレベーターが建設された時に、日本の技術が活かされる時は、この大会で得られたデータやノウハウが活かされるかもしれない。前述したように米国ではNASAが総額400万ドルの支援をしているというので、日本もぜひJAXA、さらには今後すべての宇宙関係機関が統一されるという日本版NASAの話が政治の場で出てきているが、そうした国の宇宙開発機関に支援してもらって、多くのチームが参加できるような体制を整えてもらいたい。


(デイビー日高)

2009/8/24 19:41