「ロボスプリント狭山大会2009」レポート

~決勝は小学生対決! 裾野の広がりを感じさせる第3回大会に


ロボスプリントは、自動車型自律ロボット版ドラッグレースという雰囲気の競技だ

 全国のマイクロマウス大会で併催されることの多い、小学生から参加できる自律型の自動車型ロボットを用いた競技会ロボスプリント。埼玉県狭山市の狭山市立博物館では、毎年ロボスプリントの大会が単独で行なわれており、今年も8日に「ロボスプリント狭山大会2009(第3回ロボスプリント狭山市立博物館大会)」が開催された。その模様をお届けする。

ロボスプリントは自動車型ロボットによるライントレース系ドラッグレース

 ロボスプリントは、後輪2輪駆動の自動車型(実際には4輪ではなく、後ろ2輪しかない)の自律型ロボットによるスプリント競技で、全長8m、全幅45cmのレーンをふたつ用い、2台同時に走ってどちらが速くゴールできるかで勝負する内容だ(3本勝負の2本先取で勝利)。

 ただし、ただ速ければいいというわけではなく、ゴールラインから1m以内のブレーキング(ゴール)エリア内で停止しないと、どれだけタイムが速くても抹消となる。また、スタートはレーンの左右にあるスタートエリアから行なわれるため、黒地のレーン中央のホワイトラインをうまく検出してそれに沿って進行方向を制御できないと、コースアウトが待つ。もちろん、スタート後はゴールかコースアウトするまで一切触ってはならないルールだ。

 センサーによるライン検出の要素、ゴールエリアできっちりと止まる制御の要素、それらをきっちり実行できるプログラミング技術、さらにそのプログラムの通りにしっかりと動作するハンダ付けも含めた本体の製作技術などが必要とされ、3,990円(スマッツより発売中)のロボットキットながら非常に奥の深いのがロボスプリントというわけだ。

ロボスプリントの機体。前輪はなく、センサーアームの下に支柱が1本あり、それが支える形だゴール側から見たコース。左がAコースで、右がBコーススタートエリアは、Aコースは進行方向右側、Bコースは左側に出っ張っている部分
ゴール。ゴールライン後方の1mのエリアがブレーキンギエリアで、ここで止まる必要がある走るロボスプリント2台で競う様子は、まさにロボット版ドラッグレース

 キットは非常にシンプルな構成で、全長185mm×全幅88mm×全高50mm。重量は150gで、車輪径は30mm、モータを2個搭載する。床面反射式光センサーをボディ先端に搭載し、そのボディはプリント基板となっている。制御はPICによるモータ制御、制御電源は昇圧回路で5V(基本は単3電池1本)となっている。レギュレーションとして、電源・電源回路の変更と車体の改造・装飾、組み込まれたソフトの変更は許されているが、センサー回路、制御回路(マイコン)、モータ駆動回路の変更は禁止されている。大まかにできることといったら、電池の使用本数と電池ボックスの搭載位置の変更、本体先端の2本の角のようにあるセンサーアームの角度の調整、といった辺り。しかし、150gに対して電池1本でもウェイトレシオに影響してくるため、どこにどう電池ボックスを設置するかで加減速やコントロールがかなり変わってくるというわけだ。

この機体は電池ボックスを後輪の車軸上に横置きこの機体は、電池ボックス縦置き。トラクションを稼ぐためと思われるが、100円玉が張られている
この機体の電池ボックスは横置きだが、前方に後輪より前方にある電池は単3が1本だが、コードを太くしてあるのがこの機体の特徴

 狭山市では、県立狭山工業高等学校がロボスプリントに力を入れており、実験大会を経て2007年から狭山市立博物館とのコラボレーションで本大会をスタート(会場は狭山市立博物館で、会場セッティング、タイム計測や記録管理などは狭山工生が担当)。今年で3年目を迎えた。近所の小中学生やOBら大学生も参加しており、今回審査員として参加したロボスプリントの提唱者である明星大学情報学部情報学科教授の飯島純一氏によれば、「狭山市は日本で最もロボスプリントの盛んな地域」なのだそうだ。なお審査員は3名おり、狭山市立博物館館長の高橋光昭氏、狭山工教頭の田村逸雄氏が飯島氏とともに務めた。

狭山市立博物館ロボスプリント競技の提案者の明星大学情報学部情報学科教授の飯島純一氏

予選では驚異のタイム4秒台が飛び出す

 今回は28名がエントリー。まず午前中に予選が行なわれ、ひとり最大で3回まで計測を行ない、最速タイムで予選順位が決定され、上位16名が決勝進出となる。この日、「龍神丸Ver2」がトップタイムをマーク。2回目に出した4秒44で、2位に1秒2の差を付けた、ぶっちぎりのタイムであった。通常、ブレーキングを行なうことを考慮したら、速くても5秒台、無難なところで6秒台なのだが、オーバーランせずに4秒台というのは尋常ではないタイムとお伝えしておく。ちなみに、昨年のベストタイムが5秒58だったので、わずか8mのレーンで1秒以上縮めるというのがどれだけ尋常でないかがおわかりいただけるだろう。ベスト16の予選タイムは以下のとおり。なお未成年も多いため、製作者の名前は割愛させていただく。また、同タイムの場合の順位は2番目のタイムを参考にして行なっている。

【予選順位およびタイム】   1位:龍神丸Ver2/4秒44   2位:ジョン/5秒65   3位:SOKO/5秒90   4位:韋駄天/6秒12   5位:black birdもどき/6秒19   6位:子2私作/6秒29※   7位:相原1号/6秒30   8位:空牙/6秒31   9位:佐々木一号/6秒41  10位:空ジロー/6秒41  11位:子1/6秒73※  12位:二階屋/6秒86  13位:お米/6秒94  14位:スーパーファルコン2号/6秒94  15位:ファントロンmini/7秒08  16位:エメラルド/7秒15  ※子2私作の2は正確には丸数字の2、子1も同様に丸数字の1

 ちなみに、龍神丸Ver2を製作したのは大学生の村石さん。数々のライントレース競技に参加しているそうで、この日も大学の同好会のメンバーと一緒に参加した形だ。村石さんの好意で、龍神丸Ver2の速さの秘密を教えてもらえたので、それをお伝えしよう。まず直進安定性と駆動輪の駆動力の伝達ロスの少なさがポイントのひとつ。どういうことかというと、ロボスプリントのキットは普通に組み立てると、1mm動くか動かないかのほんのわずかなのだが、車軸が左右にガタつく遊びがあるのだ。このわずかな遊びすらなくすように工夫をして、ガッチリと固めることで駆動力の伝達ロスを極力抑え込むと同時に、ガタつきによる進行方向のブレもなくし、直進安定性を高めているというわけだ。加速力がいいということは、同時にブレーキの制動力も上がるというわけで、結果的に秒速約1.8m/s=時速約6.5km/h(2位のジョンが秒速約1.4m/s=時速約5.1km/h)という高い平均速度からでもきっちり止まれるのである。

 これに加えて、白線検出の手法にライントレース競技の考え方を採用しており、その点もポイント。大多数の参加者が、角度の差こそあれ、センサーアームは平行から左右に開いている状態(内向きのものもないわけではない)で、白線を常時トレースする設計ではない。車体が斜め方向に向かった際に、左右どちらかのセンサーが白線を検出したら、正しい方向に進行方向を修整するという具合で、意外とジグザグに走っている。当然ジグザグになればなるほど、走行距離が延びることになり、タイムがかかってしまうわけだ。

 しかし、龍神丸Ver2の場合は、センサーアームを可能な限り中央に寄せる形で閉じており、白線をトレースしているのである。白線からはみ出そうになったらすぐさま修整するという具合で、仮に走行ラインがジグザグになってしまったとしても、従来の方法よりもブレ幅がずっと少なくなるので、それだけタイムがよくなるというわけだ。

 さらに、単3電池2本を直列につないで使用しており、パワーもアップさせているという次第だ。車軸の遊びをなくして直進安定性を高めるだけでも、タイム短縮の効果が出てくると思うし、白線検出ではなく白線トレースという考え方にすればさらにタイムを縮められるはずなので、ロボスプリントに挑戦している人は、一度試してみてはいかがだろうか。ただし、どう車軸の遊びをなくすかといった具体的なところは、ぜひ自分で工夫してみてほしい。

龍神丸Ver2。単3電池2本用の電池ボックス、内側に完全に閉じたセンサーアームなどが外見的な特徴センサーアームアップ。検出するのではなく、トレースするという考え方で完全に内側に閉じている
駆動輪にも秘密が。車軸の遊びがなくなるようにし、伝達ロスが極力ない仕組みになっている疾走する龍神丸Ver.2。予選で記録した4秒台は驚異的なタイムといえる

準決勝

 今年は裾野が広がっているようで、昨年までは狭山工の生徒たちが決勝進出者の半数近くを占めている状態だったが、今年はかなり小学生から大学生までバラエティに富み、さらには今後ロボスプリントの教材としての活用などを検討している学校の先生なども参加していた。

 準決勝からまず伝えると、第1試合はSOKO 対 エメラルド。SOKOは1回戦でスーパーファルコン号を下し、準々決勝で空ジローとの先生対決を制して準決勝に進出。一方、エメラルドは小学生の女の子が製作者。1回戦で予選2位のジョンを下し、準々決勝では女性対決となった相原1号との勝負に勝って進出だ。エメラルドは予選16位通過だったことから考えると、決勝までの休憩時間に大幅な修正を施せたようだ。

 勝負は、SOKOが2本とも速度は上なのだが、ブレーキングエリアで止まりきれずにオーバーラン。準決勝ということで速度重視にしたようだが、ブレーキングポイントをもっと手前に設定しないとならないようだった。逆にエメラルドは7秒台の予選とそれほど変わらないタイムだったが、きっちり止まって2本先取で勝利している。

 第2試合は、子1 対 空牙。子1の製作者は昨年も参加していた小学生の男の子で、空牙は唯一ベスト4に残った狭山工生。子1は1回戦でファントロンminiを、準々決勝では龍神丸Ver.2の不戦敗で準決勝進出。一方の空牙は、1回戦で子1のお兄ちゃんの子2私作を下し(子2私作はトラブルがあったらしい)、準々決勝ではBlack birdもどきを下しての進出だ。

 狭山工生は、ロボスプリントの生みの親のひとりで、育ての親でもある狭山工電子機械科の畠山先生の指導を受けており、ロボスプリントのエリート集団ともいうべき生徒たちだが、今年はその狭山工生ですら簡単には勝てないほどレベルが上がってきているといえよう(昨年は、1、2、4位を狭山工生が占めた)。畠山先生によると、「高校生になると知識が豊富なので、逆に高いレベルを狙いすぎて失敗してしまうということも結構あるんですよね。小学生たちの方が純粋に作っているので、意外とそれの方が確実に残ったりします」ということらしい。

 勝負は、1本目は子1が5秒91、空牙は6秒21で子1の勝利。2本目は会場の沸く接戦となり、子1が6秒35、空牙が6秒75。子1が2本先取で、決勝戦は小学生対決となった。

決勝トーナメント【動画】準決勝第1試合SOKO対エメラルドの1本目
【動画】準決勝第1試合2本目【動画】準決勝第2試合子1対空牙の2本目

3位決定戦&決勝

 決勝戦に先立ち、準決勝敗退のSOKO 対 空牙による3位決定戦が行なわれた。自身が教鞭を執る学校に帰ってから生徒に結果を誇るためにも3位以内をキープしたいSOKOと、主催者の意地で狭山工生として何としても同じく3位以内を死守したい空牙という、譲れない対決である。

 1本目は、セッティングを変更してそれが裏目に出たのか、白線検出に失敗して、スタート直後にコースアウト。一方、空牙は順調に進んでいくが、最高速重視にしていたのか、まさかのオーバーラン。両者アウトとなった。続いて2本目。今度はSOKOも直進し、先にゴール。が、準決勝に続いてオーバーラン。空牙は2本目直前の微調整が利いたのか、なんとかストップ。1本を先取した。しかし、ここで司会者が混乱してしまい、誰も助け船を出さなかったので、つい記者が2本勝負と勘違いして、「1本目が両者アウトで、2本目は空牙がタイムを出したので、空牙が勝ちじゃないですか?」と思いっきり誤った助け船を出してしまい、それでそのまま3位が決定してしまった。選手のお二方、関係者の皆様、すみませんでしたm(_)m。最初に畠山先生が、「かなりアバウトで、ノンビリとしたところもある大会ですので……(笑)」ということを話していたのだが、まさか自分がそれをやってしまうとは。SOKOが3本目に勝利して1-1のイーブンに持ち込んで延長戦で逆転、という展開もありえたわけである。それを、いきなり空牙の勝利に終わらせてしまったわけだが、誰も何もいわなかったのは、これでOKということなのだろうか? 来年取材する時は、もう口を出さないようにします。なにはともあれ、3位は空牙に決定。

SOKO。スピードはあるが、減速がポイントか空牙。センサーアームが延長されているのが大きな特徴
【動画】3位決定戦SOKO対空牙の1本目【動画】3位決定戦2本目

 そしていよいよ決勝戦のエメラルド 対 子1。なんと小学生対決である。しかも、エメラルドの製作者は女の子。リラックスした感じで、楽しそうに決勝戦に臨んでいる。将来はぜひロボット開発者やエンジニアになってもらって、女性ならではの感性で新風を巻き起こしてもらいたい。

 一方、子1の製作者の男の子は、龍神丸Ver.2が棄権しなかったら絶対にそこで終わっていたと思っていたようだし、空牙にも勝てる自信がなかったそうで、まさかの決勝戦ということで、少々プレッシャーを感じている模様。しかも、エメラルドが単3電池1本+単5電池2本という電源強化型であることから、その点でも手強いと感じているらしい。

 しかし、本人の思いとは異なり、予選から決勝までのこれまでのタイムを比較すると、子1の方が6秒台をマークした数が断然多く、冷静な目で見れば子1の方が速さは上だろう。また、ロボスプリントはカウントダウンしてスタートの合図と同時にスイッチを押してスタートさせるのだが、このスタートのさせ方次第でタイムが結構変わってしまう。子1の男の子の方が、スタートダッシュも速いようである。

 というわけで、まずは1本目。予想通り、スタートのボタンを押すタイミングが子1の方が速く、途中の速度も上。子1が6秒02、エメラルドが7秒51と大差をつけての勝利となった。2本目はレーンチェンジ(1本目はジャンケンで勝った方が好きなレーンを選べ、2本目はチェンジ、3本目がある場合は再びチェンジして1本目と同じになる)して、スタート。今度は、両者ともにスタートの合図とほぼ同時に手を離し、好勝負の予感。しかし、中間速度は子1の方が上で、先にゴール。減速もきっちり行ない、ブレーキングエリアで停止。タイムは、子1が6秒56、エメラルドが7秒02という結果となった。これにより2本先取した子1が勝利で、ロボスプリント狭山大会2009の1位の座を手に入れたのである。子1の製作者の男の子は、優勝に対するコメントとして、照れながらも「嬉しいです」とした。

トーナメントの左ブロックを勝ち上がってきたエメラルド。単5電池2本追加の電源強化がポイント疾走するエメラルドトーナメントの右ブロックを勝ち上がってきた子1。輪ゴムで車体のブレを抑えているということだ
疾走する子1【動画】決勝エメラルド 対 子1の1本目【動画】決勝戦の2本目
トーナメントの結果

 以上、ロボスプリント狭山大会2009のレポート、いかがだっただろうか。優勝と準優勝は小学生だし、他校の先生が自ら実践するために参加しているなど、ロボスプリントという競技が少しずつ広がっているのを感じた大会であった。ロボスプリントは、非常に安価ながら競技という目的意識を持って制御技術を学べる素材としてうってつけなので、ものづくりの題材としてぜひ教育関係の方々には注目してもらいたいと思う。記者も来年は、取材しながら参加してみようかと思う次第であった。


(デイビー日高)

2009/8/19 18:40