JAXA、H-IIBロケットフェアリング分離試験を公開


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、8月12日、川崎重工業播磨工場で、H-IIBロケットのフェアリング分離試験を報道向けに公開した。フェアリングはロケットの先端に装着し、打ち上げる衛星を空気抵抗や空力加熱などから保護するカバー。H-IIBはこの9月に1号機を打ち上げる新型ロケットで、従来よりも大型のフェアリングを使用する。開発にあたっては、ほぼ実物と同等のモデルで2回の分離開頭試験を実施する。公開されたのは第2回目の試験。

 12日午前11時40分を予定していた試験は、計測機器回線のチェックに時間を要したために若干遅れた。午後0時16分、大きな爆発音と共にフェアリングは無事に分離した。

フェアリング分離試験の様子。直径5m、全長15mのフェアリング試験モデルが実際に飛行時と同様に分離し、試験設備のキャッチネットの上に落ちる【動画】フェアリング分離の様子。試験は正式には「フェアリング分離放てき試験」という

 H-IIBロケットは、現在の日本の主力ロケットH-IIAを、1) 第1段の直径を4mから5.2mに大型化する。2) 第1段エンジン「LE-7A」を1基から2基に増やす――などして打ち上げ能力を増強させたロケット。地球を数百kmの高度で周回する地球低軌道に16.5t、静止衛星の打ち上げに使われる静止トランスファー軌道に8tのペイロードを打ち上げる能力がある。H-IIAロケットでは、最大の能力を持つH-IIA204型は、それぞれ12tと5.8tだった。H-IIBはH-IIAの約1.4倍の打ち上げ能力を持つわけだ。

H-IIBロケットの概要。当日JAXAが配布した資料より

 H-IIBは、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給船「HTV」を打ち上げることを目的としている。今年9月のHTV技術実証機の打ち上げを皮切りに2015年度まで年1機のペースで、合計7機のHTVを打ち上げることが決まっている。また、将来的には三菱重工に民間移管されて、同社による商業打ち上げにも使用することとなる予定だ。

 直径4m、全長10mもあるHTVを打ち上げるためには、従来よりも大型のフェアリングが必要となる。このため、JAXAは、従来H-IIAロケットで使用してきた直径5m、全長12mの「5S型」フェアリングの全長を3m延長し、全長15mの「5S-H型」フェアリングを新たにHTV用に開発した。5S-H型は、打ち上げ直前まで、内部のHTVに現場作業者がアクセスするための直径1,300mmのアクセスドアを持つ。また、HTVの一部突起はフェアリング内部に収まり切らないので、フェアリングの上方5カ所に流線型のふくらみ(バルジ)を追加し、HTVを完全に覆って保護できるようにしてある。

H-IIAとH-IIBで使用できるフェアリングの種類。直径は4mと5mの2種類。衛星2機同時打ち上げ用フェアリングも各種用意されている。JAXA資料より

 今回の試験は、フェアリング開発の最終段階であると同時に、H-IIBロケット開発全体としても最後の試験となる。

 H-IIBの開発は、JAXAと三菱重工業が共同で行なっている。開発にあたっては、JAXAは様々な部位を開発するメーカーと直接の契約を結ばず、三菱重工が各メーカーと契約を行なう方式を採用している。しかし、フェアリングだけは、JAXAが川崎重工業と直接契約を結んで開発している。

 これはロケット開発に先行して1997年度に、JAXAの前身のひとつである旧宇宙開発事業団(NASDA)でフェアリングの開発が始まり、その後ロケット打ち上げ事故が相次いだ結果、しばらく開発が中断したと言う経緯があるため。その後H-IIBの開発をJAXA-三菱重工の共同で実施することが決まったが、フェアリング開発だけは混乱を避けるために、三菱重工→川崎重工ではなく、JAXA→川崎重工という契約形態で継続することになった。

川崎重工業播磨工場にあるフェアリング分離試験設備とその概要。H-IIロケット、H-IIAロケット、そして今回のH-IIBロケットのフェアリングがここで試験された

 H-IIBのフェアリングはH-IIAと同様に、2つに割れて二枚貝が開くように開く「クラムシェル型」という分離方式を採用している。2つに分かれるフェアリング同士とロケット本体とは、全部で558本のボルトで接合する。分離面には、火薬を詰めたステンレスパイプを配線してある。パイプは潰れた断面形状になっており、電気信号で火薬に着火すると、爆発した火薬から発生するガスの圧力で断面が丸く膨らむ。その時の圧力で接合面のボルトをすべて引きちぎり、分離する仕組みだ。この方式だと、火薬から発生したガスがステンレスパイプ内に留まるので、ガスがペイロードに付着して悪影響――例えば太陽電池面にガスが付着すると発電量が低下する――を及ぼすことを防げる。

 接合面には、ステンレスパイプを2本平行して走らせてあり、どちらかが着火しなかった場合ももう一方が着火すれば分離が正常に行なわれる仕組みとなっている。今年7月24日に行なった第1回試験では、ステンレスパイプを2本同時に着火して、正常動作時の分離を確認した。公開された第2回試験では、ステンレスパイプを1本のみ装着し、一方のパイプが不発に終わった状態を模擬、それでも確実に分離が行なえるかどうかを確認した。

試験当日、記者向けの説明を行なう、中村富久H-IIBプロジェクトマネージャー(右)と、有田誠同ファンクションマネージャー

 すでに実績のあるH-IIA用フェアリングを改修するだけなので、フェアリングの開発は当初簡単であろうと思われたが、実際に開発作業に入ると、打ち上げ時と同じ荷重をかける試験で一部が破損するなどのトラブルが発生した。「たった3mの全長延長なので、当初は大丈夫かと思ったが、打ち上げ時のH-IIBの加速度が、H-IIAよりも大きいことなどからトラブルが発生した」(有田誠・JAXA H-IIBプロジェクトチーム ファンクションマネージャー)。

 その結果、先行して実機打ち上げ用のフェアリングを製造して種子島に輸送し、並行して試験モデルで分離試験を行なうこととなった。すでに実機用フェアリングは種子島に輸送済みで、今回の試験結果が良好ならば、8月17日の週から組み立て作業に入る。

 今回の試験後、JAXAの中村富久H-IIBプロジェクトマネージャーは、「詳細は取得した衝撃や振動のデータを解析する必要があるが、見た限りでは成功です」とコメントした。H-IIBは、9月11日に予定される打ち上げに向けて、最後の関門を通過したことになる。

試験設備に収まった、フェアリング実験モデルフェアリングのマーキング。5S-H EPMというのは、5S-H型フェアリングの、エンジニアリング・プロトフライト・モデルの意味。ほぼ実機相当だが、塗装を施していない、バルジを装着していないなどの点で実機用フェアリングと異なるフェアリングを受け止める装置。ネットの上にはベルトが渡してあある。ベルトはブレーキ付きのドラムに巻き取られたワイヤに繋がっている。落ちてきたフェアリングは、まずベルトで受け止め。、ワイヤを繰り出しつつブレーキで落下の衝撃を吸収し、最後にネットに支えられて停止する
試験後、安全確認宣言が出ると、見守っていた関係者がと報道陣が、一斉にフェアリング前に集まった落ちたフェアリングを先頭から見る。人物との対比で巨大さが分かる


(松浦晋也)

2009/8/18 15:51