三鷹光器と国立天文台、太陽を追尾する「太陽光集光実験装置」を開発

~これぞリアルソーラーシステム? 太陽熱発電システムの実現を目指す


 宇宙観測機器の設計製造会社である三鷹光器株式会社と国立天文台は8月17日、「太陽光集光実験装置」を開発したと発表し、記者会見を行なった。太陽観測用望遠鏡の技術を応用したもので、太陽を自動で追尾し、太陽光を受熱部に導く。この熱を使って蒸気エンジンを動かしたり、蓄熱して利用することを目指す。

 今回、第一期として「蒸気発生実験装置」と「ビームダウン方式太陽光集光装置」の2種類の実験装置を設計製作。国立天文台三鷹キャンパス内で太陽光集光能力と追尾精度について当初の数値目標を達成し、発電性能においても基礎データを得ることができたとして発表したもの。

ヘリオスタット。太陽を追尾する一次ミラーの集合体。焦点距離は30m背面から。ミラーの材質はガラス。総面積は18.06平方m駆動にはチェーンが使われている
正面の棒の先端が、真ん中のミラーからの反射光を受ける光電センサー部。全体をガイドする光電センサー部。北極-南極軸と東西軸用の1つのセンサーがある駆動モーター部
【動画】国立天文台三鷹キャンパス内の実験スペースの様子【動画】太陽を追尾して動く様子。解説しているのは三鷹光器株式会社代表取締役の中村勝重氏【動画】人力でも軽く動かせる
国立天文台副台長 太陽天体プラズマ研究部教授 櫻井隆氏。専門は太陽物理学

 会見で国立天文台副台長で太陽天体プラズマ研究部教授の櫻井隆氏はまず、なぜ国立天文台が実用性を重視した研究に参画しているのかについて解説した。

 天体観測においては常に問題となるものの一つに、電源があるという。天文台は電力インフラが整備されていない山の上などに設置されることが多いからだ。観測機器を動かすにしても電源が必要となること、それが今回の研究に協力した理由の一つだという。また、今回のような太陽熱利用発電は世界各国で研究開発が行なわれているが、意外と太陽観測の技術が使われていないこと、それもまた国立天文台が協力した理由の一つだと述べた。

 たとえば海外の同様の設備には赤道儀が使われておらず、複雑な制御を必要とするものが多い。今回の装置は機構に従来の太陽観測装置と同様の仕組みを取り入れ、小型のモーターと光電センサーを使った。まだエンジニアリング段階のため発電効率のコスト計算などは行なっていないが、比較的安価に、過酷な環境でも安定して使えるものとなっているという。

 今回、具体的には追尾精度±1分、蒸気発生装置(ボイラ、ベーンエンジン、発電機)の出力は300W/3A/3,000回転を達成した。またビームダウンミラーと光濃縮装置(Clustered Mirror Concentrator : CMC)を使用した別のシステムではアルミニウムを溶かすことにも成功した(アルミニウムの融点は660度)。20分ほど焦点を絞り続けることで最高温度は906度を観測した。今後は、第2期の開発実験として集光装置の小型化や分散化、発電装置の性能向上を目指す。将来は、海水から塩を作り出し、水を精製し淡水化したり、触媒に高圧蒸気をかけて水素を取り出したり、高温を使った廃棄物処理、原油に頼らないビニールハウスの温水暖房等々、さまざまな応用が考えられるとしている。

こちらはビームダウン式の集光装置稼働時の構造。ヘリオスタットをで集めた光をビームダウンミラーで受熱部に集め、さらにCMCで絞る最高温度で906度を記録。炉を工夫すれば実際には千度以上上げられるという
クラスター型ミラーの光濃縮装置(CMC)。直径40cmミラーで集められた光をさらに大ざっぱに4倍程度絞る。来年は150cmのCMCを製作予定CMCで集光した太陽熱で溶融した金属
アルミの部材(左)も溶けた(右)
三鷹光器株式会社代表取締役 中村勝重氏

 三鷹光器株式会社代表取締役の中村勝重氏は、最終的には二酸化炭素を一切出さない太陽電力を作り出して天文台の電力としたいと述べた。三鷹光器は、今年で創立43年目を迎える観測機器の設計製造会社。天体望遠鏡は夏の暑いときでも冬の寒いときでもドームを開けて観測を行なわなければならない。いっぽう天体望遠鏡はミクロン精度でなめらかに動くように制御されている。このような精密機器を安定して動かす技術がすべての基本にあるという。

 三鷹光器はオゾンホールの発見や、ブラックホールの観測、太陽コロナの観測などに貢献する機器を開発・製作してきた。また人工衛星のスターセンサー、スタートラッカーなどのほか、温度差の厳しい環境で用いる太陽観測用気球望遠鏡も開発しており、この太陽観測用気球望遠鏡の仕組みが、今回の機器の原理に繋がったと述べた。

 太陽熱を利用した発電は主に海外で進められている。同社では集光ミラーの表面形状(粗さと歪み)を、やはり同社が開発した非接触三次元測定装置で測定した。するとミラーの精度が粗いことが分かったため、まだ外国製にこれからでも追いつけるのではないかと考えたのだという。なおこの測定装置はレーザー光とマイクロレンズアレイとを制御することで、1nmから130mmまでをダイレクトに測定できる世界で唯一の機械だという。

 海外では1基で120平方mの大きさのヘリオスタット群を数値制御で動かしており、駆動系にもコストがかかっている。いっぽう今回、三鷹光器が作ったものは焦点距離30mで直径50cm、反射率90%のミラーを小型機で32枚、大型機で92枚組み合わせた小型ヘリオスタットで、コンピュータ制御は使っていない。太陽電池パネルを使った光電センサーに光があたっているかいないかでモーターが回転し、向きを制御する簡単な仕組みとなっている。

海外の太陽熱発電施設のヘリオスタット海外のモデルとの比較太陽像を比較すると、今回のモデルのほうがくっきりしていることが分かる
ミラー形状測定の様子表面形状を正確に測定することで高い集光率を実現できたという今回の太陽光集光システムの原理に繋がった太陽観測用気球望遠鏡

 今後は、ミラー4枚からなる小型のシステムを作成し、それをたくさん並べる方式を検討していく。そのほうが運用コストも低く、運搬も容易で安全面でもベター、大量生産にも向いているという。またミラーの材質を改良したり、表面をコーティングすることで反射率はさらにあげることができるそうで、中村氏は「いまある技術で環境問題をなんとかしたい。そこで提案するのがこのシステムだ」と述べた。特に離島や島国でのエネルギー源として使えるものにしていきたいという。直近の太陽熱利用用途としてはハウス栽培への利用を考えているという。太陽熱を使うことができれば、原油価格高騰に関係なく暖房することができるからだ。そのほか、安定して電力供給するための蒸気発生装置用の長寿命カーボン製蒸気エンジンの開発や、実証用太陽熱利用発電・海水淡水化装置を作ることを目指し、ビームダウン方式太陽光集光装置も改良していき、実用化を目指す。

右がミラーを92枚使った大型のヘリオスタット、左がミラーを32枚使った小型ヘリオスタット小型ヘリオスタット小型ヘリオスタットの背面。大型がチェーンを使っていたのに対してこちらはタイミングベルト
駆動モーター小型ヘリオスタットの光電センサーとして用いられていた太陽電池開発中の小型の新型ヘリオスタット
将来の活用イメージ

(森山和道)

2009/8/18 00:12